元麻布春男の週刊PCホットライン

FreescaleがDS-UWBのデモを公開




●日本法人がラボを公開

 12月2日、フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン株式会社は、プレス向けに同社東京ラボの見学会を開催した。Freescale Semiconductorは、今年の4月にMotorolaから半導体事業が分離独立して設立された会社。7月にNYSE(ニューヨーク証券取引所)に株式を上場した。本稿執筆時点では、筆頭株主は親会社であったMotorolaだが、すでにMotorolaは所有株式すべてを放出する方針を明らかにしており、Freescale Semiconductorは法律上も、財務上も、Motorolaとは完全に独立した半導体会社となる見込みだ。

 古くからのPCのユーザーにとってFreescale Semiconductor(旧Motorola)の半導体製品といえば、6800に始まるCISC系プロセッサや88000シリーズのRISCプロセッサ、あるいはPower PCなど、PCやワークステーション向けのプロセッサであり、かつてのIntelのライバルというイメージが強いかもしれない。が、現在のFreescaleが注力するのは、ネットワーク機器、携帯電話に代表されるモバイル機器、自動車、そして家電製品の4つの分野における組込用のプロセッサだ。

 確かに、今でもPower PCはFreescaleにとって重要な製品には違いないが、主力は組込用途といっていい。バッファローのNASに使われているのは同社の組込用Power PCプロセッサだ。また、ARMコアをベースにしたi.MXシリーズのアプリケーションプロセッサは、ソニー製のPDAであるCLIEの下位モデル(TJシリーズ)に使われている。さらにこのi.MXシリーズのプロセッサを用いて、Microsoftのポータブル・メディアセンター向けのリファレンスデザインも用意されている。この日の見学会では組込み用の32bit RISCコアであるColdFireを用いたSCF5250チップを用いたポータブルHDDプレイヤーのリファレンスデザイン(MP3/WMA/Ogg Vorbis/AACといった音声CODECの再生に加え、MPEG-4ビデオやJPEG静止画の表示が可能)のデモも行なわれた。また家電製品(コンシューマー製品)ということでは、アイボの関節に使われているモーターの制御用にもFreescale製のチップ(SmarTMOS)が用いられている。

 自動車の分野では、LIN(Local Interconnect Network)と呼ばれる自動車業界の標準LANに準拠した製品、さらには無線でタイヤの空気圧を自動的にモニタするシステム、あるいは電子制御式のブレーキなどがデモされた。電子制御式のブレーキは、ソフトウェアの追加だけでABS機能を追加するなど、付加価値を高めることができるという。また、空気圧のモニタはボタン電池1個で10年の寿命を実現する省電力設計となっている(タイヤ内部の電池交換はできないため)。自動車は、産業としてわが国のメーカーの競争力が高い分野だけに、Freescaleの日本法人としても力が入っている分野のようだ。

 同様に、携帯電話も重点分野の1つであり、特に3Gに対応した基地局用の半導体では高いシェアを誇るという。携帯電話のUIを簡単に作るツールなども目をひいたが、親会社であったMotorolaが世界でトップ3に入る携帯電話メーカーであることを考えれば、それも意外な話ではない。

ColdFireコアのSCF5250チップによるポータブルHDDプレーヤーのリファレンスデザイン。独自OSで動作する 米国本社の社長兼COOであるスコット・アンダーソン氏。日本モトローラに勤務した経験も持つ フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの高橋恒雄社長。インテルの通信事業本部長を務めた経歴を持つ

●2つの規格が競うUWB

 しかし、なんと言っても注目されたのは、近距離向けの無線ネットワーク規格UWB(Ultra Wide Band)に関する取り組みだ。現在UWBは、IEEEにおける標準をめぐって、IEEE 802.15.3aタスクグループにおいて、IntelとTIを中心としたMB-OFDM(Multi Band OFDM)陣営と、Motorola/Freescaleを中心としたDS-UWB(Direct Sequence UWB)陣営が激しい競争を繰り広げている。MB-OFDM陣営には、上記2社だけでなくHP、ソニー、松下といったPCの利用者になじみの深い会社が名を連ねており、わが国での知名度、あるいはメディアへの露出という点ではリードしている印象が強い。

 IEEEでの標準化をめぐる投票でも、標準化に必要な75%には到達しなかったものの、一時は70%前後の得票を得るなど、標準に近いとも思われた。が、今年の7月の投票ではDS-UWB陣営の巻き返しがあり、得票率はわずかなマージンだが逆転したとされている。これについてMB-OFDM陣営は休暇などによる欠席者が多かったせい、としているが、DS-UWB陣営は中国の企業や大学を味方につけており、簡単には決着が着きそうにない。

 そこで両陣営とも、製品化による実績作りを行ない、IEEEでの標準化を有利に運ぼうという戦略に転じているのだが、ここで一歩先を行なっているのがFreescaleである。同社のXS110が、本格的なUWB対応チップセットとして、今年の8月にFCCによる認可を初めて取得した。これにより、米国において同チップセットを用いたUWB製品を製造・販売することが可能になった。ただし、日本国内での利用には無線局免許が必要だ。

 XS110は、名前の通り最大110MbpsのデータレートをサポートしたDS-UWB方式のUWBチップセットだ。0.18μm CMOSプロセスによるベースバンドチップとMACチップ、そしてシリコンゲルマニム技術を用いたRFチップの3チップで構成されており、3.1GHzから5.1GHzの帯域を利用する。この日の見学会では、1対の送受信機を用いて、4~5m離れたところに20MbpsのHDビデオストリーム2本を同時送信し、2台のHD受像機に表示する、というデモを行なった。IDF等でMB-OFDM方式によるUWBのデモを見たこともあるが、それに比べて表示している映像等が実用レベルに近いこと、送受信機の大きさが格段に小さいことが目をひいた。

 同社によると、2005年にはまずベースバンドチップとMACチップを90nm CMOSプロセスへ微細化し、1Gbpsのデータレートを目指すという。さらに年末にはRFチップまで含めた1チップ化(と同時にこれは完全CMOS化でもある)を行ない、家電製品等に組み込めるレベルのものを出荷したいとしている。これがスケジュール通りに実現すれば、DS-UWB陣営は大きく先行することになるが、MB-OFDM陣営も黙っていはいないだろう。来年3月のIDFで大きな進捗が見られるのか、注目される。いずれにせよ2005年には、標準化の動向にかかわらず、米国では製品化の動きが見られるだろう。

DS-UWB方式のデモに用いられた送信機。3本見えるアンテナは、2本のダイバーシティアンテナと、1本が計測器用 4~5m離れた部屋の端に設置された受信機。出力はIEEE 1394で取り出される 3.1GHz~5.1GHzを利用したDS-UWBのスペクトラム

□フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンのホームページ
http://www.freescale.co.jp/
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【10月27日】【元麻布】Motorolaから独立したFreescaleの技術セミナー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1027/hot343.htm
【8月9日】【笠原】高速なワイヤレスPANを実現するワイヤレスUSB
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【2003年4月16日】【元麻布】次世代の超高速無線通信技術UWB
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0416/hot257.htm

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(2004年12月6日)

[Reported by 元麻布春男]


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