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ミッキーの野望、プーの憂鬱



(c)Disney

 夢を売る商売といえば、すぐに思いつくのが遊園地だ。けれどもそれは、ディズニーランドの例をひくまでもなく、コンテンツビジネスの一形態に過ぎない。コンテンツというカタチのないものを、いかにカタチにしてカネに変えるか。それが夢を売るという商いだった。

●コンテンツポータビリティ

 ディズニーとYahoo! JAPANがモバイルインターネットサービスの共同展開で合意、その第1弾として、モバイル向けオリジナルコンテンツ「Disney Collection on Yahoo!モバイル」の公開を開始した。

 Yahoo! JAPANは、いわゆるiMENUなどの携帯電話事業者の公式メニューには含まれていない。携帯向けのポータルは用意されているが、そのURLは、co.jpドメインのものであって、オフィシャルなものではなく、公式メニューからはたどれない。ディズニーも同様だ。つまり、いわゆる勝手サイトの1つである。両者ともに、相当の知名度を持つブランドなので、放っておいてもユーザーは集まるという判断もあるのだろう。

 この発表会の席上で、ヤフー株式会社代表取締役、井上雅博氏は、これまでのYahoo! がパソコンと同じサービスを携帯用にも提供することにこだわってきたとし、それが第1フェイズだとすれば、今回の発表は第2フェイズに入るものだとアピールした。そのキーワードはコンテンツポータビリティだという。

 同社は携帯電話事業者が定額パケット制を導入したことによって、今後、携帯電話からのインターネットアクセスが急増すると予測している。その一方で、電話事業者を変えても電話番号が変わらないナンバーポータビリティが、ようやく近い将来の実現を約束されたにもかかわらず、コンテンツやメールアドレスなどに、まったくポータビリティがないことに言及、音声通信が減ってデータ通信が増えてきている現状で、これではおかしいと指摘した。

 コンテンツをキャリアから独立させ、電話会社が変わっても、コミュニケーションからコンテンツまで、すべてを1つの契約で済ませることができるようにするべきだ、というのが同社のもくろみだ。これまでは、キャリアの施策に依存せざるをえなかったコンテンツプロバイダーが、このモデルを採用することで、自社コンテンツの充実を図れる。今回のディズニーとの取り組みは、その第1弾であるというわけだ。

●メディアリテラシーが事業を加速する

 Yahoo! の調査によれば、同サービスのユーザーは、圧倒的に20~30代の男性が多いそうだ。今回のディズニーコンテンツで女性ユーザーの拡大を誘うというのが同社の狙いだが、ターゲットはパソコンと携帯電話をシームレスに使いこなすメディアリテラシーの高いユーザーであり、彼ら(彼女たち)は、お目当てのコンテンツにパソコン、携帯の両方から取り組むので事業が加速するのだという。

 実際、勝手サイトのアクセスは伸びる一方で、そのことは、パソコンと携帯の両方を持ち、やりたいことや場所に応じてデバイスを使い分けるユビキタス時代のユーセージモデルの特徴だ。

 有料課金コンテンツは、携帯電話の方が進んでいるのは事実だが、それは、少額決済収納代行などのシステムによるものであって、電子ウォレットのような同等以上の仕掛けを作ればプラットフォームに依存しないコンテンツを提供できるようになる。

 たとえば、携帯の待ち受け画面を選ぶのにしたって、大きな画面で比較検討できるパソコンの方が便利なわけで、だからこそ、連動する強みは十分にあるわけだ。携帯オンリーのユーザーは若年層が多く、パソコン併用のユーザーの方が、メディアリテラシーのみならず、コンテンツ購買力が高そうだという皮算用もある。

●デジタル化によるメディアからの自立

 デジタル化は、コンテンツからメディアのしがらみを取り払った。デジタル化で失ったものは少なくないが、得たものも大きい。メディアからの自立は、その1つだ。

 CDやDVDといったカタチのあるメディアで流通させるしかなかった音楽や映像を、そのデータだけで供給できるようになったことは、ある意味革命といってもいい。映画館に出かけるしかなかった映画も、自宅で寝ころんで見ることができるようになった。映画館は自宅では得られない大音響やスクリーンを提供する特別な場所を提供するものとなり、純粋なコンテンツビジネスではなくなった。

 けれども、デジタル化の恩恵は、それをぼくらが100%享受できる状況にはなってはいない。本当なら、ネットワークが十分に高速であれば、コンテンツなんて、どこにあったってかまわないのだ。むしろ、手元に置かずにすむほうがありがたい。手元になければ、バックアップの心配もないし、デバイスが変わっても、自分のモノとして楽しめる。

 もっとも、ここで自分のモノというのは、楽しむ権利であって、コンテンツそのものの所有権ではないのはいうまでもない。そのことを消費者に隠匿してビジネスをしてきたコンテンツプロバイダーは、今、そのツケを払っている。

 明日からでもできそうなことが、なかなか現実のものにならないのは、コンテンツプロバイダーの姿勢やビジネスモデルが、状況の変化に追いつけていないからだ。いったんカタチになったビジネスを壊すには、相当な勇気が必要だ。

●コンテンツと共同体

 かつて、音楽評論家の相倉久人氏は『ポップス化とは音楽の中で共同体が崩れていくこと』(ニューミュージック・マガジン'77年8月号)の中で、音楽の発展を、次のような3つの段階にモデル化してみせた。

(1)基底文化としての音楽
 日常的な行事や祭式と結びついて生まれることが多く、たいてい歌と踊りを伴っている。共同体の共有財産。

(2)2次文化としての音楽
 共有物であるという概念が破られ、芸術家と聴衆とのあいだに分化が見られるようになる。いわゆるコンサート形式の確立はこの段階。いわば疑似共同体。

(3)3次文化としての音楽
 レコード、マイク、ラジオといったメディアの出現によって疑似共同体すら分解。レコードファンはまさにリスナー(聴き手)ではあっても、オーディエンス(聴衆)ではない。送り手の個人化に続き、聴き手もまた個人化した。

 コンテンツの発展は、まさに、この音楽に当てはめることができ、今は、その4次文化が形成される段階にあるのだろう。ただ、音楽が3次文化となってもコンサートに出かけ、時には、仲間とカラオケを楽しむように、これらの(n+1)次文化は、あくまでも追加であって、推移ではない。

 ミッキーやプーのキャラクターが空想上のものであって、カタチなど最初からないことを、頭の中ではわかっていながらも、ディズニーランドに出かけて、着ぐるみといっしょに記念撮影するのは、その追体験だ。

 デジタル化されたコンテンツにしかできないことは、それこそ山のようにあるのに、それを生かし切れない状況は、いったいいつまで続くのか。どうせ一蓮托生の共同体になるなら、キャリアではなく、コンテンツと心中したい。

 もっとも、今回のYahoo!+ディズニーの試みも、ドコモがYahoo! になっただけで、財布の預け先が変わっただけのことだと思えば元も子もないか。


□Disney Collection on Yahoo!モバイルのホームページ
http://dcolle.mobile.yahoo.co.jp/

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(2004年12月3日)

[Reported by 山田祥平]

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