元麻布春男の週刊PCホットライン

CEATECで感じたPCと家電の温度差




 10月5日から開催された今年のCEATECは、初日の雨そして最終日の台風と、天候に恵まれなかったこともあって、入場者数(182,490人、主催者発表)が昨年(191,528人)を下回った。

 実際、初日の展示会フロアを歩いていて、ずいぶん人が少ないなと感じたのだが、昨年のPSXのような目玉が今年はなかったことを考え合わせると、止むを得ないようにも思う。今年の目玉を1つ挙げるとすれば、東芝とキヤノンによるSEDで、いつも長蛇の列ができていた。が、これも照明を落とした「ブース」(体験コーナーと呼ぶ)に来場者を隔離してから見せる、という演出上の都合を割り引いて考える必要がある。筆者個人は、主にPC関係のキーノートに出席し、その内容を極力私情をまじえず伝えることに徹したつもりだ。ここでは封印してきた「私情」を述べてみることにしたい。

●PCと家電の温度差

 電子産業全般を扱うCEATECにおいて、PCあるいはIT関連の占める割合は必ずしも高くはない。特に主役である日本企業の多くは家電メーカーであり、家電製品が主力である。実際、今年のCEATECの主役は大画面薄型TVだった。PC・IT関連で大きな焦点となっていたのは、デジタルホーム、あるいはデジタルリビングというコンセプトだ。要は、家電(CE)とPCを同じネットワーク上で接続し、コンテンツを相互利用できるようにしましょう、という話である。家電系メーカーが出揃うCEATECで、世界的な競争力を維持している日本のメーカーに、米国を中心としたIT/PCベンダがアプローチする、という図式だと考えれば分かりやすい。Intelのルイス・バーンズ副社長、Microsoftの古川享副社長とも、キーノートではコンシューマー製品向けのアプローチをテーマとしていた。

 だが、このデジタルホームというテーマ、どうも話がかみ合わないように感じられてならない。それは、家電メーカーがネットワークの中心にTVやDVDレコーダーという家電製品を据え、IntelやMicrosoftがPCを中核に考える、という単純なすれ違いだけではない。話がかみ合わないように感じる1つの理由は、CEATECのような表舞台で話題になるのが「技術」であるのに対し、現実世界で焦点になっているのが「政治」や「ビジネス」であるからかもしれない。それを象徴するのがDRM(デジタル著作権管理)だ。

●主戦場となっているDRM技術

 上述したCEとPCの相互接続性の確保を目指し活動している業界団体に、DLNA(Digital Living Network Alliance)というものがある。以前はDHWG(Digital Home Working Group)と呼ばれていた団体が改称したもので、Intel、Microsoftはもちろん、HP、Nokia、Panasonic、Philips、Samsung、SONYなどそうそうたる顔ぶれが並ぶ(図1)。このDLNAが相互接続のためのガイドラインとして、Home Netorked Device Interoperability Guidelines V1.0を刊行している。

図1:DLNAの概要(IDF 2004 Fall) 図2:DLNA Interoperablity Guidelines 1.0とNMPR V2.0の関係(同)

 このDLNAにおける活動と平行してIntelは別途Intel Netorked Media Product Requirements(NMPR、ニッパーと呼ぶらしい)と呼ばれる規格をまとめている。その最新版であるNMPR V2.0とDLNA Interoperability Guidelines V1.0の関係が図2だ。ここで最も注目されるのは、DRM(図2のPremium Contentの部分)がDLNAのガイドラインには含まれていない、ということである。それに、そもそもなぜIntelは規格(DLNA)の上にさらに別の規格(NMPR)を重ねるような不自然なことをしなければならないのだろうか。

 それは現在このDRMが、各社の囲い込み戦略の主戦場となっているからだ。ソニーならOpenMG、MicrosoftではWindows Media DRMといった具合に、自社で独自のDRM技術を持つところが少なくない。今年の春、米国でRealNetowrksがAppleに公開を求め、拒否されたのもApple独自のDRM技術である(その後RealNetwokrsは、独自にAppleのDRMを解析したと述べるなどして、さらに論議をかもしだした)。

 今年のWinHECでは、Microsoftはロイヤリティ料を公開してまで(もちろんこれはMicrosoftが「値段」に自信がある証拠なのだが)、Windows Media DRMの採用を呼びかけるほど、各社の競争が激しい分野だ(図3)。言い換えれば、DLNAでDRM技術の一本化を図ろうとすれば、DLNA自身が空中分解してしまう可能性すらある。

 現在Intelが推奨するDRM技術であるDTCP(元々IEEE 1394向けに開発されたもの。DTCP-IPはそれをIPネットワークにマップしたものと考えられる)は、もともとIntelと家電メーカーの5社(いわゆる5C。日立、松下、ソニー、東芝、Intel)で開発したものであり、オープンスタンダードといえるものだが、それでもDLNAの標準に含めることが難しいことを図2が示している。

図3:WinHEC 2004で公開されたWindows Media DRMのライセンス料。MicrosoftのCODECとセットにすると割安な上、年間支払い額に上限が設定される 図4:IntelのNMPRに賛同する主要なメーカーのリスト

 図4はIntelのNMPRに賛同する主要なメーカーのリストだが、ここに図1のプロモーターメンバーは1社も見当たらない。DLNAには家電メーカーが多く含まれているのに対し、NMPRに賛同しているのはIntelと付き合いの深いPC/IT関連企業ばかりだ(中には両方手がけるメーカーも含まれているが)。

 もう1つ見方を変えると、DLNAに名を連ねるメーカーは、図4のメーカーよりはるかに規模の大きなところ、すなわち体力のあるところが多い。体力のある大企業イコール、自前でDRM技術を開発しマーケティングできるポテンシャルを持った会社、ということでもある。

 もちろん、すべてのコンテンツベンダ、すべての家電メーカーが自社のDRM技術を持っているわけではない。持っていても市場での競争に敗れたところから、DRM技術の相互提携が生まれたり、オープンスタンダードなDRMに賛同するところが増えていくだろう。だが、それには長い時間がかかる。

●PC側のDRMソフトも鍵

 DTCP-IPの抱える大きな問題の1つは、誰がDTCP-IPに対応したソフトウェアをユーザーの手元に届けるか、ということだ。AV機器側は家電メーカーが内蔵させるに違いないが、それだけでは家電とPCの相互接続にはならない。必ずPC側で動作するソフトウェアが必要になる。

 すでに述べたようにMicrosoftは自社のDRMを推進するのが現時点での立場であり、Windowsが標準でDTCP-IPに対応するとは考えられない。つまりDTCP-IP対応ソフトウェアの配布について、Microsoftの手を借りること(Windows UpdateやService Packに入れてもらうこと)は限りなく可能性が低い。そんなことをしたら誰がWindows Media DRMにロイヤリティを払うだろう(念のために確認しておくが、DRMのロイヤリティは、ユーザーが直接負担するものではない。ロイヤリティを払うのは図3のMicrosoftの事例で明らかなように機器メーカーであり、場合によってはコンテンツベンダである)。

 Intelは確かにPC業界に対し大きな影響力を持つが、エンドユーザー製品をラインナップしていないため、実際に届ける術を持たない。DTCP-IPに賛同する家電メーカーがAV機器にPC用のCD-ROMを添付する、という手はアリだが、果たしてA社のプレーヤーに付いてきたDTCP-IPソフトと、B社のAVサーバーの相互接続性をA社で検証し保証できるだろうか。1台のPCに同じようなDTCP-IPソフトが、A社製、B社製、C社製と重複してインストールされる事態はぜひ避けて欲しいのだが。

 結局、こうした問題は純粋な技術の問題ではなく、政治の問題であり、ビジネスの問題である。別に筆者はこうした問題について、Intelに介入して欲しいと思っているわけではないし、果たして家電業界まで含めて解決できるだけの政治力があるのかどうかも分からない。ただ、現在最も深刻な問題が政治とカネの問題だと思うと、Intelが説く技術の話が遠いものに聞こえてしまうというだけのことである。

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CEATEC JAPAN 2004レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/link/ceatec.htm

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(2004年10月14日)

[Reported by 元麻布春男]


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