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アイ・オーのNDAS採用ネットワークHDDを試す



サイドにアルミパネルを用いた本機。放熱性が高いためか、冷却ファンを必要としない

 Ethernetで共有するストレージを個人が利用するというアイデアは、ほんの数年前なら考えられなかったことかもしれない。だが当初は10万円を切ったことが話題になったこの種のデバイスも今や2万円台から入手可能となり、個人が利用する外部ストレージの1ジャンルを確立しつつある。それどころか、同じネットワーク接続型のストレージというジャンルで、毛色の違った製品も登場し始めている。

 ここで紹介するアイ・オー・データ機器のHDH-ULシリーズも、そんな製品の1つ。既存の製品より低価格化と高性能化が図られているという。HDH-ULシリーズには容量のバリエーションとして、120GB、160GB、250GBの3種類があり、後日300GBモデルも追加されることになっている。今回試用したのは、この中の250GBモデル(HDH-UL250)だ。

 HDH-UL250の最大の特徴は、Ethernet経由で接続するHDDでありながら、プロトコルとしてTCP/IPを使わず、Ximeta社のNDAS(Network Direct Attached Storage)と呼ばれる技術を用いた点にある。NDASを用いたHDD製品としては、本家Ximeta社の製品がすでに販売されていたのだが、若干価格が高めなこともあって、広く認知されてきたとは言いがたい。HDH-ULシリーズは一般的な(TCP/IPを用いた)ネットワークドライブより低めの価格設定がなされており、いわば仕切りなおしといったところだ。

●TCP/IPを使用しない「NDASテクノロジー」

 NDASには、TCP/IPを使わないことにより、汎用性の高い標準プロトコルのオーバーヘッドが省略できるという性能上のメリットがあるほか、HDDがネットワークドライブではなくローカルドライブに見える、というメリットがある。ローカルドライブに見えるということは、ごみ箱が使えるほか、本機が備えるUSB 2.0ポート(本機にはEthernetポートのほか、USB 2.0ポートがあり、両方を同時に利用することはできないものの、どちらか片方を使ってPCと接続することができる)で接続しても、再フォーマットが要らない。また、TCP/IPを処理しなくてよいということは、TCP/IPベースの製品より安価なプロセッサが使える可能性があり、製品価格を低く設定できるというメリットも考えられる。

【11月29日追記】上記の「ごみ箱」利用に関して、特定の環境で不具合が発生する可能性があることが明らかになった。ごみ箱内のデータ復元ができなくなるなどの不具合が発生するもので、同社では製品のQ&Aにて対処方法を提示している。

 その一方で、独自技術を用いたことによるデメリットとして、付属ユーティリティのサポートするOS(Windows Me/2000/XP)以外では利用できない、ということが挙げられる。これはMacintoshやLinuxといった他のOSが混在する環境で利用できないというだけでなく、将来のWindowsについても、ユーティリティの対応を待たねばならない可能性が生じる、ということにほかならない。また、Windowsがサポートする標準プロトコルではないため、Windows XP SP2ではWindowsファイヤーウォールの例外設定を付属ユーティリティに対して行なう必要もある。もちろん、TCP/IPに対応したほかの機器(ネットワーク対応型のDVDプレイヤー等)から本機の上のファイルにアクセスすることも今のところできない。

 加えて、ローカルドライブに見えるということは、ファイルの共有についてWindowsが提供する標準的な機能を利用できないということでもある。そのため、本機を用いたファイル共有では、Windows Meにおいては単一のマシンのみがリード/ライト可能(他のマシンはリードのみ可)で、Windows 2000/XPにおいても同一ファイルを複数ユーザーが同時に更新することがないよう、ユーザーが配慮せねばならない。したがって、ネットワークストレージとして簡単に声をかけられない場所にいるユーザーとのファイル共有は、事実上難しいように思われる。基本的には書き換えるユーザーは1人で、ほかのユーザーは参照するのみ、といった利用形態向き(あるいいは完全な個人の利用向け)の製品だ。筐体に冷却ファンがない点も個人や家庭向けといえるだろう。

 このHDH-ULシリーズの使い方だが、Ethernetポートに接続する点では通常のネットワーク接続型HDDと同じ。ただし上述した通り、ネットワークに接続したからといって、ただちにドライブとして利用することはできない。必ず付属のCD-ROMから専用ユーティリティをインストールせねばならない。インストールそのものは簡単で特に迷う部分はないが、最後に本体背面に記されたIDとKEYの両方を入力する必要がある。KEYを入力しないと、書き込みのできない(リードオンリーの)ドライブとしてのみの利用となる。この設定が終われば、HDH-ULはローカルドライブとして登録され、利用することが可能になる。

インストールの最後に待ち受けるレジスト作業。ID、KEYとも本体背面に記されており、リードとライトの両方を行なうにはKEYの入力が必須 レジストされたドライブは、ネットワークドライブではなくローカルディスクとして認識される。この画面ではFドライブが本機

●ファイルコピーはTCP/IPより高速

テスト環境
CPUPentium 4 550(3.40GHz)
マザーボードIntel D925XCV
メモリPC2-4300 512MB×2
ビデオカードNVIDIA GeForce 6800 GT
LANオンボードGigabit Ethernet
HDDHGST Deskstar 7K250 80GB
822MB MPEG-2ファイルのコピー
ドライブ接続形態所要時間
HDH-UL250ネットワーク1分34秒
HDH-UL250USB 2.035秒
HDH-UL250TCP/IP経由のUSB 2.01分56秒
 
参考:HD-120LANネットワーク2分47秒

MaxtorのMaxLine Plus IIが用いられた本機の内部

 HDH-ULの性能だが、いつものように、キャプチャしたMPEG-2ファイルのコピーで簡単に調べてみた。テストマシン上にある822MB(842,043KB)のファイルをまずEthernet経由でコピーしたところ、所要時間は1分34秒ほど。筆者が常用している(つまりは新品の状態ではないので、必ずしも公平な比較ではないが)バッファローのHD-120LANでは同じコピーが2分47秒ほどかかったことを考えれば、確かに高速だ。

 試用したHDH-UL250に使われていたドライブは、Maxtorの7,200rpmのドライブ(MaxLine Plus II)で、HD-120LANの5,400rpmのドライブより高速なものであることは間違いないが、プロトコルオーバーヘッドがなくなった効果も含まれているハズだ。メーカーによると、ここで行なったような1つの大きなファイルをコピーするより、小さなファイルを大量にコピーする方がさらに高速であるとのことなので、もう少し性能的には期待できるかもしれない。

 次にHDH-UL250をUSB 2.0経由で接続して、同じテストを行なってみた。するとコピーに要した時間はわずか35秒。やはり圧倒的に速い。そこで、今度はテストマシンにUSB 2.0接続したままの状態で、HDH-UL250をWindows標準の共有を使ってネットワーク上に公開し、そこに対して仕事マシンから同じ822MBのファイルをコピーしてみた。このテストにはTCP/IPのものも含め様々なオーバーヘッドが含まれているわけだが、これに要した時間は1分56秒で、やはりNDASのモードよりは速度が低下している。

●長所/短所の見極めが重要

 というわけで、本製品が標準プロトコルであるTCP/IPではなく、独自のソフトウェアサポートによって高速化を図っていることは確かめられた。また価格についても、ある程度割安に設定されていることも間違いない。残念ながら本稿執筆時点では、250GBモデルであるHDH-UL250が量販店の店頭になかったため、160GBモデルでの比較となるのだが、アイ・オー・データ機器製の標準的なネットワーク対応ドライブ(HDL-160U)の価格が30,800円であるのに対し、HDH-UL160の価格は27,800円と3,000円ほど安価だ。

 もちろんUSB 2.0専用の外付けドライブ(HDH-U160およびHDA-IU160M)の価格は16,800円と1万円以上安い。ネットワーク上の適当なPCにUSB 2.0ドライブを接続した上でWindowsの共有を利用することが、外付けHDDをネットワーク共有するもっとも安上がりな方法であることは間違いない。しかし、この場合ホストPCが起動していることが必要という条件が加わる。単体でネットワークハブに接続可能な本機と同列に扱うことはできない。

 本機を選ぶ場合は、冒頭でも触れた標準プロトコルを利用しないことによるデメリットと、価格の安さと性能の高さというメリットを、慎重に検討する必要があるだろう。個人で利用するにはデメリットはそれほど大きくないが、この場合は共有型ドライブではないUSB 2.0の外付けドライブでは足りないのかを考える必要がある。SOHO等の場合は、共有に制約がある本機は利用しにくいと思うが、この弱点を逆手にとって、ネットワーク上の限定された数人だけで共有するファイルを置く、という用途には使えるかもしれない。特定の数人以外には、ドライブの存在さえ見えない点が望ましいと感じるユーザーもいることだろう。また、ファイルを書き込む時は高速なUSB 2.0で直結し、更新をしない閲覧目的のみでネットワーク公開する、という使い方も考えられる。いずれにしても、本機の長所と短所をよく見極めることが重要だ。

□アイ・オー・データ機器のホームページ
http://www.iodata.jp/
□製品情報
http://www.iodata.jp/prod/storage/hdd/2004/hdh-ul/
□関連記事
【8月23日】アイ・オー、USB Hub搭載の外付けHDD
~NDAS採用の高速転送ネットワークHDDも
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0823/iodata.htm

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(2004年9月27日)

[Text by 元麻布春男]


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