第263回
Microsoftが、MCEとWMPで立ち上げを目指すネット配信サービス


メディアセンターの画面。MCE2004に対して、最近使った機能にアイコンから素早くアクセスできるなどの改善点もあるが、基本的な機能は大きく変化していない
 米国時間の10月12日、日本でシステムビルダー向けOEM版、パーツバンドル用DSP版が先行発売されていたWindows XP Media Center Edition 2005(MCE2005)が正式発表された。これに伴い、MCE2005に対応したさまざまなネットサービスや対応ハードウェアも多数発表されている。

 日本ではあまりなじみのないMedia Center Editionだけに、MCE2005の表面的な機能だけでも新鮮に感じる読者もいるだろう。もちろん、前バージョンから改良されている点も多いが、米国で8月末に行なわれた記者向けワークショップでの説明によると、MCE2005でもっとも力が入っているのはネットワーク機能とAV品質の向上の2点だという。

 ネットワーク機能ではMCE2005自身がサーバーとなり、またクライアントとしても動作する。AV品質向上の面では、DVI/HDMI接続したプロジェクタやフラットパネルディスプレイでの動画品質向上にいくつかの工夫が盛り込まれた。

 今回の記事ではまず、ネットワーク機能にフォーカスを当てて紹介することにしたい。

●10月20日に新サービスを発表する日本語版MCE2005

 前バージョンのMCE2004を詳しく知らないユーザーが多いためあまり目立っていないが、MCE2005の表面的な機能はさほど進化していない。放送パターンを自動的に認識して予約が実行されるシリーズ予約や、キーワードを指定しての自動録画、常時タイムシフト機能、自動録画機能を活かす豊富な番組データなどは、MCE2004でも利用可能だった。単に日本で販売されている製品が少ないため、知られていなかっただけである。

 もちろん、ダブルチューナ対応やDVDスライドショー作成など便利になっている部分も多いが、正常進化の範疇と言えるだろう。ちなみに米国版では目玉機能として、デジタルハイビジョンチューナへの対応が挙げられ、2つのアナログチューナとひとつのデジタルチューナで計3系統のチューナを1台のMCE2005マシンで扱えるが、日本ではサポートされていない。

 これはデジタル放送の規格が日本と米国では異なるためだ。MCE2005がサポートしているのは、米国で採用されているATSC方式のみだ。日本ではPCでデジタル放送を扱うための良い方法が全く見えない状況だが、海の向こうでは解決に近付いている。本サイトでも元麻布氏が再三指摘しているように、B-CASカードとコピーワンスの問題を解決しなければ、このまま日本のPCはデジタル放送対応で取り残されていくばかりだろう。

 話がそれたが、MCE2005はMCE2004の(表面的には)正常進化版である。しかし、Microsoftはこの時期、OEM専用(つまり自社では販売しない)であるにも関わらず、MCE2005のアピールに積極的だ。日本ではDSP版提供により、自作ユーザーに広めることができるかも?という色気があるから、というのが理由になるだろう。

 しかしワールドワイドで見ると、Windows Media Player 10と共にインターネットを通じたコンテンツ配信の基盤として、MCE2005を普及させたいという意図が見えてくる。すでに発表されているように、MicrosoftはMSN Musicという音楽配信事業を開始し、そのクライアント機能をWMP10に組み込んでいる。また、MSN Musicへのアクセス用プラグインはMCE2005にも用意されており、メディアセンターの中からリモコンで快適にアクセスできる。

 日本ではまだ、(今更という感はあるものの)MCE2005とWMP10の正式発表は行なわれていない。その理由はMSN Musicなど、MCE2005とWMP10に対応したネットワークサービスの詳細が決まっていないためだ。

 両者とも日本語版の発表は、現時点において10月20日の発表が予定されており、その時点で音楽配信、映画配信、ネットラジオ、ネット経由の写真出力といったサービスが開始される見込みだ。メーカー製マシンは現時点で富士通が対応機を発表済みだが、デルも11月後半をめどに対応機の発売を予定している。

 音楽配信はMSN Musicをはじめ複数、映画配信に関してはCinemaNowの日本語版サービスをトランスコスモス系のCODEが行なう見込みだ。20日時点では、現在、サービスインを目指して動いている全てのサービスを発表できないとしているが、年内をめどに次々にサービスを立ち上げる予定である。

 いずれもMCE2005とWMP10、それぞれに適したユーザーインターフェイスを持つサービスとして開始される。ユーザーは、リモコンを用いた10フィートユーザーインターフェイスとデスクトップで使うWMP10の、いずれかを用いて同じサービスを利用可能になる。

 現時点で日本での価格体系は明らかではないが、音楽配信に関しては「驚きもないが失望もない」と関係者が話していることから、現行のMicrosoft DRMを用いたExcite Musicなどと同等の価格設定になりそうだ(個人的には“失望もない”ならば、米国での1曲99セントに近い価格設定、たとえば150円程度を希望したいところだが)。

●10フィートUIに溶け込む各サービス

 さて、すでにMCE2005を利用しているユーザーは、お試しに米国で行なわれているサービスにアクセスすることも可能だ。コントロールパネルの[地域と言語のオプション]アプレットで、[標準と形式]および[場所]を米国に設定後、メディアセンターを起動するとメインメニューの[メディア オンライン]に現時点で利用可能なMCE2005向けサービスの一覧が表示される。

米国で提供されている各サービスの画面
地域と言語のオプションで米国を選ぶと、米国版のサービスを閲覧可能。そのうち無料で利用可能なコンテンツの多くは日本からも利用できる MSN Musicのメディアセンター向け画面。テレビ上でリモコン操作がしやすいように工夫されている 楽曲の購入をメディアセンター上からも行うことができる。アルバム単位、あるいは曲ごとの購入が可能
MSN Musicで提供されているインターネットラジオは、曲名やジャケットなどもきちんと表示された AOL Music On Demandの画面。様々なミュージックアーティストのプロモーションビデオが500KbpsのWMV9で無償配信されている ロイターは動画、テキストをミックスさせたインタラクティブなニュースコンテンツを配信
日本でのサービス開始も予定されているCinemaNow。最高700Kbps程度のSDコンテンツがおよそ1500本用意されている 一部のコンテンツには“トレーラー”、いわゆる予告編が無償公開されており、日本からでも楽しむことが可能だ CinemaNowコンテンツの利用料金はコンテンツごとに条件が異なる。このコンテンツの場合、4ドル99セントで支払い後48時間は自由に見ることが可能なレンタル形式での販売
Kodakはネット上での画像シェアサービスのOfotoをMCE2005向けに提供。MCEユーザー同士で写真を共有したり、気に入った写真のプリントをオーダーできる こちらはNapster。Napsterの利用もMCE2005用のプラグインを通じてメディアセンター上から行える

 ただし、Live365.comやMSN Music、Napsterなどが提供している無料ネットラジオチャンネル(無料チャンネルは配信ビットレートが低い)、AOLが提供するミュージックビデオ配信(米国との間でコンスタントに500Kbpsの帯域が必要なため、日本からのアクセスはややキツイ)、ロイターのニュース配信サービスなどはそのまま利用可能だが、有料サービスへの加入、有料コンテンツの購入を行なうには米国の住所が登録されたクレジットカードが必要になる。

ネットラジオ局を一度登録すれば、地域と言語のオプションを日本に戻しても、メインメニューの[ラジオ]から即座にアクセスできる
 ちなみに気に入ったネットラジオチャンネルはメインメニューの[ラジオ]の下に登録しておけるが、一度登録してしまうと地域と言語のオプションを日本に戻しても、そのままメニューから利用できる。日本でのサービスが開始されるまでは、これらを利用してもいいかもしれない。

 各サービスのMCE2005との統合度はまちまちで、たとえばLive365.comのネットラジオでは演奏中の曲名やジャケット写真などが表示されないが、MSN Musicのネットラジオではいずれもメディアセンター内に表示される。やはりMicrosoft自身が行なっているサービスの統合度は高く、たとえば放送中の音楽を購入するボタンをクリックすれば、メディアセンター内でアルバムごと、あるいは1曲ごとのダウンロード購入が可能になっている。

 ただ、統合度はまちまちながら、いずれも10フィートUIにうまく溶け込んだサービスに仕上がっておりMCE2005の魅力を高めている。音楽や映画などのエンターテイメントだけでなく、ニュース配信や写真データの出力といった実用的なアプリケーションにまで拡げている点は注目したい。インターネットとMCE2005を用いたサービスで、双方向CATVライクなサービスを行なおうとしていることがよくわかるだろう。

 もっとも、日本においては常に“同様のサービスが国内でも提供されれば”という但し書きを加えなければならない。たとえば、CD録音時のタイトル入力に関してはWMPおよびMCE向けのサービスはすでに行なわれて久しいが、ジャケット写真に関しては未だにサービスされておらず、MCE2005のユーザーインターフェイスにも影響を与えている。

 どんなにOSとしてのインフラを整えてみても、国内向けサービスの提供が中途半端ではユーザーはガッカリするだけだ。意図して注目度を盛り上げたのであれば、それに見合うだけのサービスの提供が期待される。

●MCXで広がる(か?)MCEの世界

 MCE2005はネットワークサービスのクライアントとしての機能に加え、他デバイスに対するサーバー機能も有している。すでに今年1月のInternational Cosumer Electronics Showで発表されているMedia Center Extention(MCX)のサポートだ。MCXはネットワーク経由でメディアセンターと同様の機能を利用可能にするWindows CEベースの端末だが、そのサーバーにはMCE2005が必要となる(MCE2004では利用できない)。

 MCXの利用感は、ちょうどリモートデスクトップを用いてメディアセンターを利用しているような感覚だ(ただしメディアセンター自身はDirectXアプリケーションのため、リモートデスクトップ経由で利用できない)。MCE2005上で動作するメディアセンターのように、3D機能を利用したグラフィカルな演出は行なわれないが、ハイビジョン映像が扱えない以外、機能的な差異はほとんどない。

 動画や音楽がそのまま扱えるのはもちろん、家電端末では表示やサムネイル表示に時間がかかりがちな多画素のデジタルカメラ画像も、PC側で処理が行なわれてからMCXに送信されるため、PCのプロセッサパワーを利用した良好なレスポンスの操作が行なえる。

Xbox用のMCXソフトを動作させたところ。ここではコンポジットビデオでテレビに接続しているが、コンポーネント接続時にはプログレッシブでの表示も可能 米APEX AudioのMedia Connect端末OMINIA。価格は199ドル程度とか。ただし日本での発売予定はない
LinksysブランドのMCX。802.11a/gデュアルバンドに対応する TATUNGブランド(台湾の大同)のMCXを展示していたDell。日本ではMCE2005搭載PCを10月後半に発売する見込みだが、MCXに関しては未定

 米国でのワークショップには、Dell、HP、Linksysなどが自社ブランドのMCXを展示(ただしいずれも台湾 大同からのOEMでデザインは共通。LAN専用モデルと無線LAN/有線LAN兼用モデルがある)されていたが、いずれも日本での発売予定は現時点ではないようだ。米国での価格は有線LANモデルで250ドル前後になる見込み。また、XboxをMCXとして利用するためのパッケージソフトも北米では発売されるが、こちらも日本での発売は未定だ。

 このあたりは店頭販売されているデスクトップPCの大部分がMCEに切り替わっている米国と、対応製品がほとんど存在しない日本市場の違いと言える。米国店頭市場ではHPはもちろん、ソニーもデスクトップPCはMCEとなっている。しかし日本では、各社が独自のユーザーインターフェイスをWindows XP上に実装し、リモコン用のユーザーインターフェイスを構築している。

 米国で展示されていたMCXを見ると、映像のコンポーネント出力(480P)、音声の光デジタルアウトなどにも対応しており、メディアセンターの提供する機能を質を落とさずホームネットワーク全体に拡げるのに有効だろう。大手ベンダーが発売しない場合でも、秋葉原に台湾ブランドのMCXが登場すると予想される。

 なお、MicrosoftはWindowsにDLNAに準拠したメディアサーバーの機能を付加するMicrosoft Media Connectも発表済みだが、Media ConnectはMCE2005との直接的な関係はなく、別途、Windows XPの機能を拡張するダウンロードモジュールとして提供される予定だ。

【お詫びと訂正】初出時に、編集部のミスにより誤ったキャプションが記載されておりました。お詫びして訂正させていただきます。

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【10月13日】Microsoft、「Windows XP MCE 2005」正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1013/ms.htm

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(2004年10月13日)

[Text by 本田雅一]


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