9月21日、ATIが「RADEON X700シリーズ」を発表した。製品名からも分かるとおり、ハイエンド向けの「RADEON X800シリーズ」の下のクラス、つまりメインストリーム向けに位置付けられるビデオカードだ。今回、同シリーズのラインナップに含まれるRADEON X700 Pro搭載カードを借用することができたので、そのレポートをお届けしたい。 ●X800の正当な廉価モデルというべき仕様
RADEON X700シリーズは、PCI Express x16インターフェイスを持つGPUで、メインストリームに位置付けられる製品である。これまで、このクラスには「RADEON X600シリーズ」が投入されていたが、X700は大幅に機能強化が図られた仕様となっている。 まず3Dパフォーマンスに影響するであろう仕様は表1のとおり。注目はメモリ帯域幅の増加と、ピクセルパイプライン数およびバーテックスシェーダユニットの増加だ。メモリインターフェイスのバス幅こそ128bitに制限されるが、動作クロックが大幅に上昇した。また、X600ではDDR SDRAMが使用されていたが、X700ではGDDR3を採用した。 ピクセルパイプラインとバーテックスシェーダユニットについては、X600に対してそれぞれ2倍/3倍へと増加。上位モデルのX800 XTに対しては、ピクセルパイプラインは半分、バーテックスシェーダユニットは同数を搭載。直接のライバルとなるGeForce 6600シリーズに対して、ピクセルパイプラインは同数だが、バーテックスシェーダユニットのは倍となるので、アドバンテージを持っていると言える。 【お詫びと訂正】初出時に、RADEON X700のピクセルパイプライン数を誤っておりました。正しくは表1にある通りとなります。お詫びして訂正いたします。 このほか、RADEON X800シリーズで実装されている機能の数々が利用できるようになっているのも大きな特徴である。命令数が最大で1,536命令へと拡張されたピクセルシェーダエンジン「SMARTSHADER HD」や、アンチエイリアス機能の「SMOOTHVISION HD」。法線マップを圧縮することで高クオリティなバンプマッピングを実現できる「3Dc」などである。 X800で搭載された動画機能「VIDEOSHADER HD」も実装されている。この機能はMPEG-1/2/4のエンコード/デコード、WMV9/10のデコードの各アクセラレーション、ビデオ再生時のデインタレースやノイズリダクションなどが行なえる。また、最大で1,920×1,080pに対応するHDTV出力機能も備えている。 このように、従来のX600が旧世代のRADEON 9600をPCI Express向けにリファインしたのに留まるのみだったのに対し、X700はX800のメモリインターフェイスやパイプラインを絞った新世代の製品へと進化しているわけだ。 ちなみに、今回はATIからRADEON X700 Pro(256MB)の評価カードを借用している(写真1)。カード自体は同社らしい赤い基板を利用したものとなっているが、クーラーはこれまでにはなかったタイプのものである(写真2)。負荷によって回転数が可変するタイプであるが、小型ファンということもあり低回転時でも騒音は大きめに感じられる。ちなみにカード末端部には、電源コネクタのものと思われるパターンが見られるが、PCI Express x16インターフェイスから供給できる電力の75Wで問題なく動作する。 このほか、メモリはSAMSUNG製のGDDR3メモリを搭載(写真3)。ブラケット部はDVI、ビデオ出力、D-Sub15ピンと一般的な配列になっている(写真4)
【表1】メインストリーム向けPCI Express用ビデオカード比較
●1ランク上のGeForce 6600 GTと一長一短の傾向 それでは、ベンチマークでX700 Proのパフォーマンスをチェックしていくことにしたい。今回比較対象として用意したのは、同じATIのX800 XTを搭載する「ASUSTeK Extreme AX800XT/2DT」(写真5)と、X600 XTを搭載する「ASUSTeK Extreme AX600XT/HTVD」(写真6)。そして、NVIDIAのGeForce 6600 GTのリファレンスカード(写真7)の3種類である。 なお、今回のテストのRADEON 3製品の環境では、X700 Proの評価カードに添付されてきたX700対応ドライバのベータ版を使用しているが、3DMark03とAquaMark3が動作しない現象が発生した。Futuramarkは、3DMark03でX800使用時にトラブルが発生するとして、動作させるためのHotfixをリリースしているが、このHotfixを適用しても正常動作できなかった。 ドライバがベータ版であるため、正式リリースまでの改善を期待したいところだが、この現象のため、今回のテストからは両ベンチマーク、および本連載のビデオカードのレポートでは毎回取り上げている3DMark03のImageQualityテストを割愛しているので、ご了承いただきたい。
それでは、順にベンチマーク結果を見ていくことにしよう。まずは、8月に発売された「DOOM3」のdemo1のFPSである(グラフ1)。さすがに今回のテストで唯一のハイエンドビデオカードであるX800 XTが頭ひとつ抜け出した格好になっている。 メインストリーム向け同士で比較すると、GeForce 6600 GTが圧倒的な成績といっていいだろう。もっともDOOM3ははGeForce6シリーズに最適化されているといわれており、この成績になるのは致し方ない面もある。 X600 XTとX700 Proの比較であれば、低解像度で約1.6倍、高解像度にフィルタを適用すると約2.4倍ものFPSを出しており、大きな性能向上が見て取れる。しかしながら、1,024×768ドットにおける平均FPSが44.1FPSというのは現実的にはもう一歩の結果であり、DOOM3をそれなりのクオリティで楽しもうと思うには力不足の感がある。 ちなみに、RADEON 3製品の結果を見ると、異方性フィルタリングを適用した場合の性能低下が非常に低い。この特性は気に留めておきたい。
今回は前述のとおり3DMark03とAquaMark3のテストが実行できていないため、DirectX 9ベースのテストは以上である。ここからはDirectX 8.1ベースのテストを見ていくことになる。 まずは、「3DMark2001 SecondEdition」の結果だ(グラフ2)。ここでは面白い傾向が見て取れる。1,024×768/1,280×1,024ドットの解像度で、フィルタを適用しない状態ではX700 Proがまずまずの性能を見せるものの、フィルタを適用するにつれGeForce 6600 GTが逆転するという結果になっている。この結果は、X700 Proに比べGeForce 6600 GTのメモリ帯域幅が大きいためと想像され、とくに疑問はない。 問題は1,600×1,200ドットの場合だけ、フィルタ適用時にGeForce 6600 GTよりX700 Proが良い成績を上げている点だ。この解像度だけに見られる傾向であり、明確な答えは見出せていないので推測となるが、1つにはドライバがこうした特性を持っているという可能性は考えられる。 また、バーテックスシェーダユニットの数も影響したかも知れない。というのも、DirectX 9世代のビデオカードはバーテックスシェーダがDirectX 8のハードウェアT&Lをエミュレートするので、極端に負荷が高い状態でX700 Proのバーテックスシェーダユニットの多さが活きてきた、という可能性もありそうだ。
続いては「FINAL FANTASY Official Benchmark 2」の結果を見てみよう(グラフ3)。このテストは全体的にX700 Proが好成績を修めており、GeForce 6600 GTを全項目で上回っている。さらに、低解像度ならX800 XTに迫る状態で、CPU側がボトルネックになるほどである。X600 XTとの比較でも、とくにHighモードで大きな性能向上が見られ、このゲームを楽しむには、良いビデオカードと言えそうである。
最後に「Unreal Tournament 2003」および「Unreal Tournament 2004」の結果を見ておきたい。まずはUnreal Tournament 2003のFlybyの結果である(グラフ4)。このテストにおけるX700 ProとGeForce 6600 GTの傾向も、3DMark2001 Second Editionで見られたもの同じである。すなわち、X700 Proは1,024×768/1,280×1,024ドットではフィルタ非適用時に、1,600×1,200ドットではフィルタ適用時に健闘する、というものである。理由は先に述べた推測のどちらかであろうが、DirectX 8ベースの描画でCPUがボトルネックにならない場合は、こうした傾向が見られるようだ。
残るテストはUnreal Tournament 2003のBotmatch(グラフ5)と、Unreal Tournament 2004のBotmatch(グラフ6~10)である。ここでは低解像度やフィルタ適用が少ない場合にはCPU側がボトルネックとなり、解像度が上がったりフィルタを適用することで3D描画の負荷が上がるとビデオカード側がボトルネックになるわけだが、そのラインを見ることでビデオカードの性能が見えてくる。 分かりやすいのはグラフ9だ。X700 Proは1,024×768ドットの全テストと1,280×960ドットのフィルタ非適用時の結果がほぼ均一である。これはCPU側がボトルネックになっているため、CPUが同一である以上、大きな性能差が現れていないことになる。これ以上の解像度やフィルタ適用となると、ビデオカードの性能が表れて結果が徐々に下がりはじめる。 一方GeForce 6600 GTは、メモリ帯域幅の大きさが活きて1,280×960ドットの4xAA適用時や1,600×1,200ドットのフィルタ非適用時にも踏ん張りを見せている。ほかのテストも性能低下のラインの位置は違うが、傾向は似ており、Unreal Tournamentのパフォーマンスに関しては、GeForce 6600 GTが一歩リードといった印象だ。 X700 ProとX600の比較では、最大で2倍程度の差がついている個所が散見される。またX600 XTではCPUがボトルネックになっているのは1,024×768ドットのフィルタ非適用時だけであり、それ以降は解像度やフィルタを高めることで大きな性能低下が見られる。つまり、X600 XTからX700 Proに乗り換えたならば、より高クオリティな画質を同じパフォーマンスで楽しめるようになる、というメリットがあるわけだ。 ●すぐに効果を体感できるX700シリーズ 以上のとおり、RADEON X700 Proをテストしてきた。X800 XTとの差は歴然であるが、もちろん価格も抑えられている。ATIから提示されている搭載ビデオカードの参考価格は、X700 XT(128MBモデル)が199ドル、X700 Pro(256MBモデル)が199ドル、X700(128MBモデル)が149ドルとされている。 今回試用したビデオカードは199ドルということで、日本で発売された場合は25,000円弱といったところだろうか。これは3万円弱で発売されるGeForce 6600 GTより若干安い程度。 今回のテスト結果では、トータルではX700 Proも健闘しているが、GeForce 6600GTがやや優勢といった気配。X700 XTであればもう一歩上の性能を発揮できることになる。あとは主な利用アプリケーションの推奨に合わせるべきだろう。例えば、DOOM3ならばGeForce6シリーズ、(未発売ではあるが)Half-Life2ならRADEON X700を、といった具合だ。ただ、こうしたアプリケーションは負荷が高く、できればハイエンド向けのビデオカードを選びたいところだ。 となると、妥当なターゲットは既存のDirectX 8ベースのゲームとなるわけだが、ここでは大きな効果を期待していいと思う。X700の登場でX600 XTの販売価格も低下すると思われ、ここに魅力を感じる人もいるだろう。しかしながら、今回のテストでも明らかなとおり、X700 ProはX600 XTに対し、既存の多くのDirectX 8ベースの3Dゲームなどで大きな性能向上が見て取れる。X600 XTでは実用的でない解像度やフィルタなども、X700シリーズならば普通に遊べるのである。 その意味では、従来のメインストリーム以下のビデオカードからの乗り換えで、即効的な速度向上を体感できるだろう。加えて、ビデオ再生時の画質向上化機能や、エンコード/デコード機能をハードウェア処理できる点など付加価値を考えても、今から選ぶなら新世代のメインストリーム向けビデオカードを選ぶことで、高い満足度を得られるだろう。 □関連記事 (2004年9月30日) [Text by 多和田新也]
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