●無線LANでつなぐ 筆者は、かつて、家中にEthernetケーブルを配線していたが「掃除がしにくい」、「見た目がかっこわるいので友達を呼べない」と家族からの評判が悪く、リビングは無線LANで接続することにした。たまたまリビングで使っていたのがノートPCだったので、無線LANカードを使ってネットワークに接続していた。 そこにやってきたのがNECのホームAVサーバー「AX300」である。AX300は、Ethernetインターフェースは持っているものの、無線LANまではさすがに内蔵してない。しかも、5月のE3の取材時に、ライターG氏にそそのかされ、米国版Xboxまで購入してしまった(XboxはEthernetが標準装備である)。 このような場合には、いわゆるメディアコンバーターと呼ばれるEthernetを無線LANに変換する機器を使うというのが普通の選択である。しかしメディアコンバーターは、Ethernetノード1つにつき1つ必要で、2つも買うのはかなり痛い出費である。 市販のアクセスポイントの中には、アクセスポイント間接続ができるものものあるが、これは、特殊な仕様で、基本的には同じメーカー同士、場合によっては同一機種同士でしか接続ができない。ところが世の中にはいろいろな機器があるもので、NECの「WL54TE」はメディアコンバーターと同じくEthernet側と無線LAN側を接続する機器だが、2つ以上のEthernet機器を同時に接続できるのだ。さらにIEEE 802.11a/b/g対応である(ただし802.11b/gと802.11aのどちらかを選択)。まさに、Ethernetコネクタは持っているが無線LANは利用できないデジタル家電を接続するための機器なのである。 メディアコンバーターとは、Ethernetと無線LANをつなぐ働きをする。アクセスポイントと違ってネットワークの制御は行なわないし、無線LANアダプタと違って接続はEthernetで行あう。比較的簡単な処理でEthernetフレームと無線LANフレームを相互変換しているだけなので、1つのEthernetノードしか接続できないのである。 WL54TEは、メディアコンバーターではなく「無線LANローカルルーター」とでも言うべきものだ。NECでは「Ethernetボックス」と呼んでいる。ブロードバンドルータが、ADSLモデム側とLAN側でルーティングを行なうように、無線LAN側とLAN側でルーティングを行なうわけだ。本体には2つのEthernetコネクタしかないが、外部にHubをつなぐことで、3つ以上のEthernet機器を接続できる。しかも通信相手は普通のアクセスポイントでよく、相手方に特殊な機器を要求しない。 というわけで、これを使ってAX300やXboxを自宅のネットワークに接続することにした。 ●問題が1つ 最初はWL54TEを、もともと設置してある無線LANルータ(LinkSys WRT54G/P-JP V2)にIEEE 802.11gで接続していた。しかし、802.11gでは転送速度は十分なものの、他のノードが通信を始めると映像再生に影響が出てしまう。AX300に記録した番組をPCで見ていると、一瞬画像が止まったり、音がとぎれたりしてしまう。 これを解決するには、WL54TEを5GHz帯を使う802.11aで動作させ、その他のノートPCなどは、いままでどおり2.4GHz帯を使う802.11b/gで接続すればいいはず。802.11gと802.11aは周波数帯が違い、お互いの通信が干渉しないため、画像が止まるようなことはなくなるはずである。 となると必要なのは、802.11aに対応したアクセスポイント。だが802.11a単独のアクセスポイントは適当なものがなく、802.11a/b/g対応のものを物色した。とりあえず、良さそうだったのが同じくNECの「WL5400AP」である。これは、かつては802.11a/b/g対応の無線LANカードとのセットしか販売されていなかったのだが、今年春ぐらいにアクセスポイント単体の製品が登場して少し値段が安くなった。 また、AtherosチップのSuperA/Gという高速通信機能にも対応している(ファームウェアのバージョンアップが必要)。WL54TEも、バージョンアップでSuperA/Gに対応ということになったので、この際NECでまとめてみることにした。 帯域を分けたため、ビデオの視聴という点では効果はあった。他のノートPCなどで無線LANを使っても、AX300からの映像は止まらない。2カ所からの同時視聴でも特に問題はなく、帯域的にも十分なようだ。 最近では、802.11a/b/gのトリプルワイヤレス対応の機器も増えてきた。自宅のネットワークをスッキリさせ、さらに映像も楽しみたいのなら、802.11aでAV系のみ接続するというのは有効な手段といえるだろう。
●SuperA/Gの効果は? せっかく両方をNEC製にしてSuperA/Gを使ったのだから、その効果がどれぐらいあるか測定してみた。その結果が表1である。結果からいうと、絶大とはいいがたいが、SuperA/Gの効果はたしかにある。 テストは、WL54TEに接続したPC(ThinkPad T20)から、Windows XP付属のFTPプログラムを使って、WL5400AP側にあるFTPサーバー(Windows Server 2003のFTPサービス)をアクセスした。ファイルの種類を替え、ダウンロードとアップロードの2方向の転送を試してみた。ファイルは、LZHで圧縮したデータ、MPEG-2、PDF、テキストの3種をほぼ同じぐらいのファイルサイズでテストし、さらに大きなMPEG-4データも加えてみた。 SuperA/Gは、バーストモードと呼ばれる転送方法を採用し、通常よりもデータの通信効率を高めてある。これは無線フレーム間にあるギャップ(無通信時間)を短縮することで、単位時間内の転送フレーム数を増やすもの。さらにデータ圧縮を使って転送データを小さくする。このため転送速度は、ファイルの形式によっても違ってくる。PDFファイルは、テキストとバイナリファイルの中間形式としてテストに加えてみた。
WL5400AP側の設定には、「SuperA/G(圧縮あり)」、「SuperA/G(圧縮なし)」、「SuperA/Gなし」の3つの選択肢がある。SuperA/Gの設定は、WL5400AP側でのみ行なえばよく、WL54TEの動作はアクセスポイント側に従うため、特にSuperA/Gに対する設定項目はない。 SuperA/Gの圧縮ありを選択すると、テキストファイルの転送レートは、30Mbpsに達する。しかし、逆にMPEG-2やMPEG-4、LZH圧縮ファイルなどについては、転送レートが圧縮なしの場合よりも落ちてしまっている。映像データのようなすでに圧縮されたデータを中心に転送するには、圧縮なしとしたほうがよさそうだ。 ただ、悪くなっているとはいえSuperA/Gなしの場合と同程度の転送速度は確保されている。なので、テキスト系データのやりとり(たとえばWWWブラウザとか)の比率も結構あるなら、圧縮ありのままでもいいかもしれない。 このテストは実際の設置環境で行なった。WL5400APとWL54TEの間の距離は7~8mほど。アクセスポイントからは相手が直接見えず、間に壁などがある。また昼間、家人がWL54TEの周りをうろうろしていても、特に影響は感じなかった(もっとも、ベンチマークは家人が寝静まった夜中に行なったが……)。 なお、AX300内の画像データを2カ所から視聴するのは、SuperA/Gをオフにしても十分行なえた。AX300の画像視聴という導入の目的には必ずしも必要なかった機能だが、高いレートが出るとなんとなく気分がいいもの。ついでにリビングに置いたノートPCも、WL54TE経由で接続することにした。 WL54TE、WL5400APともに、ヨドバシカメラの通販で13,400円(税込、還元ポイントは別)で入手した。ともに、他社の802.11a/b/g対応のアクセスポイントやメディアコンバーターと比較してもそれほど高い値段ではない。 合わせて26,800円で、無線LANを使った高速LAN間接続が可能なら、そこそこのコストパフォーマンスと言えるだろう。 【お詫びと訂正】初出時に他社からはIEEE 802.11a/b/g対応のコンバータは出ていないという記述がありましたが、アイ・オー・データ機器より「WN-AG/C」が発売されております。お詫びして訂正させていただきます。
□製品情報(WL54TE) (2004年9月21日) [Reported by 塩田紳二]
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