●いまさらながらHDDレコーダー 自宅で使っていた据え置き形の8mmビデオデッキの調子がおかしくなった。この8mmデッキは、メディアが小さいのと、BSチューナーが入っているので、録画用および、カムコーダーの再生用として使っていたのだが、完全に動かなくなる前に買い換えることにした。すでに10年近く使っている機種で、前回修理したときに、こんど壊れたら修理は無理でしょうと言われていたのである。 しかし据え置き形8mmビデオデッキは、絶滅に近い状態。ということでDVDレコーダやハイブリッドレコーダを物色し、購入したのがNECのAX300(PK-AX300H。仕様については製品情報を参照のこと)である。AX300は、HDDに記録した番組をDVD-R/RAMに記録することもできるし、PC側で動画ファイルとして扱うことも可能である。 8mmビデオデッキの置き換えなので、当然いままで撮り溜めた子どもの運動会などの8mmビデオをメディア変換したい。このときに、いきなりDVDにしか焼けないというのはちょっと困る。AX300は、HDDに記録した内容を簡単に取り出せるという条件を満たしていた数少ない機種の1つだった。 AX300の問題は、その価格。他社の機種が10万を切る中、12万円近くするHDDレコーダを買うのにはためらいがあった。ところがヨドバシカメラの通販サイトを見るとなんと10万円ちょっとまで値段が落ちているではないか。しかも在庫僅少との表示が。思わず購入ボタンをプチッと押し、数日後には我が家のAVラックにAX300が収まった。 それまでこの手の機械は、簡単に録画できるビデオレコーダだと思っていた。だから、あまりテレビを見ない筆者はそれほど興味がなかったのである。しかし、ひと月ほど使ってみて、その認識を改めた次第。というのはほかでもない、HDDの威力である。 ●家電もついにHDD 筆者が最初にコンピュータを触ったときには、外部記憶装置はオーディオカセットだった。これに音声信号でプログラムなどを記録していたのである。これは大変だった。ちゃんとしたデジタル記録メディアではないため、エラーが多く、何回泣いたことか。しかも、せいぜい記録できるのはプログラム。ここにデータを記録して、それを読み込んで処理しようなどと考えるなら、テープの巻き戻しは人間がやらねばならなかった。 その後FDDが出てきたとき、なんて便利なんだろうと感激した。なにせエラーがないのである。実際は多少あるのだが、カセットテープに比べるとないも同然である。さらに1つのメディアに複数のファイルを入れてもダイレクトに取り出すことができる。 しかしそれも、プログラムやデータが増えてくると、メディアが大量になり、面倒なものになった。結局、現在そうであるように、大容量のHDDに落ち着いたが、これも始めて触ったときには、もはやFDDには戻れないと感じた。なぜなら、必要なものがすべてそこにあるからである。 家庭用のAV機器も結局同じような経過をたどったわけだ。つまり、テープからディスクへ、そしてHDDである。
で、このAX300だが、使ってみて一番感動したのは、メディアを交換する必要がないことだ。それは、録画のときにも感じることだが、再生するときにもこんなに手軽なものはないのである。メニューから録画した番組を選ぶだけ。いや、再生にこそメリットがあるのだ。 お子さんのいる方はわかるとおもうが、子どもは同じビデオをしつこいぐらいくり返し見る。おかげで「お母さん、オバケ屋敷好き?」と「となりのトトロ」のほとんどのセリフを覚えてしまった。それが1本ぐらいならいいが、やれ人魚姫だ、バンビだ、白雪姫だと何本もある。そのたびに、レーザーディスクやビデオテープなどのメディアを切り替えて再生していた。それが、いまやリモコンでメニュー一発である。 自分がいままでに購入したセルビデオやレーザーディスクを録画しておけば、いつでも好きなときにすぐに再生できる。どうせ、これらのメディアもそうそう先は長くない、いずれは他のメディアに乗り換えさせる必要がある。おまけにAX300はネットワーク経由でPCからの再生もサポートしている。リビングでなくとも、仕事部屋や他の部屋でもPCがあれば再生ができるのだ。 筆者はいままで気に入った映画などをセルビデオやレーザーディスクで集めてきた。それはとりもなおさず、何回も見たいからである。だがこれらのメディアは、再生時にはプレーヤーにメディアをセットしなければならず、DVDのようにPCで簡単に再生というわけにはいかない。もちろん、DVDで再販売されたものは徐々には入手しているが、中にはなかなかDVD化されないタイトルも少なくない。こうしたタイトルをAX300に取り込んでおけば、いつでも好きなときに見ることができるわけだ。 HDDの良さは、「その中にコンテンツがすべてある」という気軽さである。一度その中へ取り込めば、次からはメニューで選ぶだけで再生ができる。これは、いままでのテープやディスクメディアの必要なメディアをセットするというものとは、質的に違う操作感覚なのだ。HDD内蔵の携帯音楽プレーヤーをお持ちの方はわかると思うが、自分のすべてのコンテンツがそこにあり、いつでも好きなときに利用できるのである。 ●タイムシフト+EPGで、Smart TV? もうひとつの驚きは、AX300のタイムシフト機能とEPGである。かつて、マイクロソフトがPCでのテレビ視聴を推奨していたころ、「Smart TV」といったコンセプトが流行ったが、タイムシフトとEPGが加わったテレビは、Smart TVといっていいかもしれない。 AX300は、録画していないときには、何の設定もいらずに常に受信しているチャンネルを録画し続ける。だから、いつでも巻き戻すことが可能である。 テレビを見ている最中に、ちょっとした用事でその前を離れても、戻ってきて巻き戻して見ればいい。聞き落としたり、見落としたと感じたら、巻き戻して見ることができる。 うちの女房などは、筆者がテレビを見て笑っていると、「何? 今なんだったの?」とよく聞いてくる。いちいち説明するのが面倒なので、「何でもない」と言うと、「何でもないのに笑うはずがない」と怒ってしまう。しかし、おかしかった冗談などを説明することほどつまらないこともない。だがAX300は、そんな夫婦のちょっとした危機も、巻き戻しで解決してくれるのである。 このタイムシフト機能は、AX300内部の録画したコンテンツを再生している最中でも生きていて、チューナーからの映像を録画し続けている。テレビを見ている最中に子どもが急に“「となりのトトロ」を見たい”とか言いだしても、90分以内なら大丈夫(タイムシフトの最大値が90分)。いままでは「夜ビデオを見ると宇宙人に内臓を盗まれる」と子どもに説教していたが、もうその必要もない。 今までテレビは、リモコンでチャンネルを次々変えていくか、新聞のテレビ欄を見て、チャンネルを指定するかしか選局の方法がなかった。しかし、EPGは、番組名を見て、それを選べる。EPGやタイムシフト機能のあるテレビもあるようだが、普通のテレビにAX300をつなぐだけでSmartTVが出来上がる。テレビはどんなものでもいいのである。 チャンネルを次々と変えていきながら番組を選ぶのは、番組の断片を見て内容を判断することである。片平なぎさや船越英一郎が出ていれば「火曜サスペンス」だなと判断するわけで、出ている人や場面でチャンネルを選択していた。CM中だと放送が再開するまではどんな番組だかかわらない。それでクルクルとチャンネルを変えていたわけだ。あとは、時計などを見て、この番組はもう終わりだろうとか、まだ先が長いといった判断をしていた。 しかし、現在放送中の番組名や次に放送される番組名が出るEPGは、チャンネル選択方法をまるっきり変えてくれた。しかも番組によっては、あらすじや出演者なども表示される。今は特に見たい番組はないが、チャンネルはこのままにして次の番組を見ようとか、もう面白そうな番組がないので、録画した番組でも見るかといった判断ができる。 EPGには、現在3種類ほど方式がある。インターネット接続を前提にした東芝独自のもの(DEPG)、テレビ朝日系のADAMS-EPG、TBS系のデータ放送を使い全国で利用可能なG Guideである。AX300は、テレビ朝日のADAMS-EPGに対応しており、1週間分の番組表を記憶している。ADAMS-EPGは、番組データの精度が高く、内容はほぼ新聞のテレビ欄と同じ。というのは新聞などに番組表データを提供している日刊編集センターからデータを入手しているからだ(ちなみにG Guideは、TVガイド誌を発行している東京ニュース通信社からのデータを利用している)。 AX300は指定したキーワードで選択した番組を自動録画できるのだが、EPGのデータ精度は、番組検索やキーワード録画に影響する。しかも番組情報は、刻々と変化している。報道番組などは、1週間前は単に番組名しかないが、前日までにはメインとなる内容や特集コーナーなど内容を表すサブタイトルが付くようになる。だから「食べ放題」なんてキーワードで番組を探す場合、放送日が近くなって、夕方の報道番組の特集が「食べ放題」だったなんてことがあるのだ。 AX300は、EPG受信をサーバーモード(PC側からアクセスは可能だが、タイムシフトを止めたスタンバイ状態)でのみ行なう。チューナーが1つしかなく、電源オンの間は常に選択中のチャンネルをタイムシフトしているためだ。なので、寝る前などに電源を切り忘れるとEPG受信を逃すことがある。だが、PCでADAMS-EPG+を使って番組データをダウンロードし、これをAX300に転送することも可能だ。ただし、このPCからの番組データの転送は、手動操作になってしまう。純粋にPCソフト側の問題なので、できれば自動受信、自動転送にしてほしいところ。 AX300には、指定した条件を満たす番組だけを表示する「おまかせ番組表」という機能があり、さらにその結果選択された番組を自動録画することもできる。 その選択条件は、キーワードのAND、OR条件指定、NOT条件の指定が可能だ。たとえば、「(寿司 or ラーメン)and 食べ放題 and Not 中止」という指定が可能だ。最後の「and Not 中止」は、スポーツ番組が中止になったときに放送予定の番組を除外するためのもの。指定は、表形式になっており、各欄内の指定はOR条件、枠同士はAND条件となる。さらに、曜日やチャンネル、番組ジャンル(ジャンル指定がされていないという指定もできる)も指定できる。 なお、キーワードは、AX300に登録されているものを使い、リモコンからの文字入力は行なえない。しかし、PCからキーワードの追加削除ができる。
●メディアコンバートの日々
タイムシフトやHDDレコーディング、DVD作成といった基本機能は、おそらく他社のDVDレコーダーとかHDDレコーダーでも同じだと思う。しかし、AX300のメリットは、ネットワークを介して、PCから再生が可能という点だ。つまり、見るだけなら、複数コンテンツの同時再生(付属のSmart-Visionは2台までのPCにインストール可能)が可能である。もちろん、PC経由という点で、PCユーザーに限られるが、逆にいうと、筆者のようにPC中心の生活をしているならAX300のようにネットワーク経由での再生をサポートした機種のほうが便利なのだ。 じゃ、PCで録画すれば? という意見もあるが、PCで録画した番組をリビングのテレビで見るためには、それなりの機器が必要だ。AX300は、リビングに設置してネットワークにつなげるだけでPCからの視聴が可能になるのだ。 しかもタイマー録画に対する安定感は、PCよりも高い。筆者もTVチューナーカードを使った録画をやっていた。録画専用マシンを用意してもPCがスタンバイから復帰しなかったとか、エラーダイアログが出たまま止まっていたので録画が開始されなかったなんてことがあった。また、2カ所からの同時再生もシステム状態によっては映像がとぎれることがある。AX300は、CPUにVIAのEden、OSにMonta VistaのLinuxを使っていて中身はPCそのものであるが、専用機であるため、仕様で可能とされたことはきっちりとできる。ここがPCとは違うところだ。 大容量のHDDこそ、これからの記録装置に必要なデバイスである。どんなにディスクメディアががんばっても、HDDのbit単価には追いつけないだろうし、単体でHDDを越える記録メディアが出るとは思えない。PCでHDDを使ったユーザーがもうFDDのみのマシンに戻れないように、家庭用の録画装置は、もはやディスクのみの機器に戻ることはないだろう。 次世代のDVDとしてBlu-rayだHD-DVDだと騒いでいるが、これらは普及したとしても、HDDレコーダーのバックアップ用メディア以上にはなれないと思う。かつては、画質、音質がAV機器の殺し文句になったが、その時代はもう終わりだ。もう誰も画質だけでメディアを乗り換えることはないだろう。これからは、大容量HDDが可能にするコンテンツの集中管理だ。そういう意味では、AX300の300GBでも容量がちょっと心配である。AX300は、背面にUSB端子が用意されている(カバーで隠してある)。なんとか増設用HDDをサポートしてほしいところ。 手持ちのコンテンツをすべて大容量のHDDに記録させてしまえば、もうメディアを交換する必要はなく、いつでも好きなときにコンテンツを再生できる。それで筆者は、手持ちのセルビデオやレーザーディスクを毎晩のようにAX300に入れている。操作はビデオキャプチャカードを使うよりもラクだし、リビングにあるのでPCのそばまでソースメディアを再生するためのビデオやLDプレーヤを持っていかずに済む。しかも、ソースとなる映画などの収録時間を指定して録画ができるため、コピー終了後に機器を止めなくてもいいのだ。AX300では、録画中にサーバーモードへの移行もできるので、セットしたらあとは放っておけばいい。 いまのところ不満なのは、AX300はチューナーが1つしかないので、タイムシフト機能と録画を並行して行なえないこと。AX300が録画している間は、ただのテレビになってしまう。最近ではアニメオタクとして有名なライターG氏は、AX20とAX300を所有しているというが、その気持ちわからないでもない。 □製品情報 (2004年9月13日) [Reported by 塩田紳二]
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