8月31日、第12回国際学生対抗手作りバーチャルリアリティコンテスト(International collegiate Virtual Reality Contest, IVRC 2004)の予選大会が、お台場の日本科学未来館で開かれた。IVRCは'93年から開催されているVRやロボット技術を使ったインタラクティブ作品コンテスト。 参加者は基本的に学生で、1人または複数のチームでの参加となる。今年度からフランスのチームを招待することから「国際」が冠された。 31日は東京予選大会で、第1次書類審査や第2次プレゼンテーションをくぐりぬけた10企画が実演展示を行なった。 今回は、この10作品をレビューしていこう。VRというと大がかりなものが多いが、IVRC 2004の各作品は規定によって2m×2mの大きさに収められており、それほど大がかりなものはない。 まずは「こびと」。東京工業大学の学生による「mikan」チームの作品。 テーブルの上を箱が勝手に動いている。それをディスプレイ越しに見ると、その箱を押しているこびとが見える、という作品。 実際には箱は下に設置された磁石で動いている。箱の位置は上に設置したカメラで認識する。カメラによる認識を妨げないように注意しつつ、箱をゆっくり動かすと、こびとが押されたり、箱の位置を変えることでこびととインタラクションできる。 本来はTablet PCなどを使って、虫眼鏡のようにPC(ディスプレイ)を重ねると、裸眼では見えない風景が見える、というようにしたかったという。 こびと(=バーチャル世界)とのインタラクションのときに、力によるフォースフィードバックなどがあれば、もっと面白い作品になりそうだ。 「magikareidoscope」は、東京工芸大学の「百色眼鏡」チームによる作品。スクリーンにはバラバラな映像が投影されているのだが、それをmagikareidoscopeを通して見ると、正しい形で見ることができるという作品。つまり万華鏡の逆、逆さ万華鏡である。万華鏡は外の様子を中の鏡で反射させてバラバラにして、その映像を楽しむものだが、これはその逆というわけだ。 万華鏡の面白さは、グルグルと筒を回すと画像がくるくる変わる点にある。この場合、筒を回すわけにはいかないが、せめて外に投影された画像そのものをぐるぐる回すといった、インタラクション性がもう少し欲しかった。 「寒中模索」は電気通信大学「調布ぶらざぁず」チームによるインタラクティブ作品。3次元位置を感知するグローブをつけ、腕を動かす、VRといえばお馴染みの体裁の作品だ。空気を吹き付けて冷覚を再現して、ヴァーチャルなオブジェクトの形を感じさせることを試みた。圧覚や触覚を使わず、冷覚を利用したかったのだという。 ペルチェ素子を使った手法なども試した結果、空気を使うことにしたそうだが、なかなか冷気で形を感じることは難しいようだ。普通の状態でも冷凍庫の中に手を突っ込んでも何かそこにあるものの形を知ることは難しい。やはりマルチモダリティのほうが自然なのかもしれない。 「スー☆ハー彡」。奈良先端科学技術大学院大学「チャチャイ」チームによる作品。 体に一切器具をつけずに深呼吸の「スーハー」を測ることで、「深呼吸の爽快感」を失うことなく、ゲームすることを狙った作品。HMDをつけて息を吸うと目の前に提示された星空が吸い込まれていき、吐くと満天の星空が生まれる、というものだったが、今回は残念ながら動かず、体験はできなかった。呼吸はイスにつけられたセンサーで測る。実はもともとのイメージは映画「グリーンマイル」での奇跡のシーンから。 「シャウト! カーリング」。奈良先端科学技術大学院大学の「ジョンガリ」チームによる。声でカーリングをやろうというもの。マイクで音量、音程を計り、カーリングストーンならぬ「サウンドストーン」を飛ばす。サウンドストーンの速度やパワーは音量や音程によって決まる。 まずはじめに、手を叩いて目標を決める。当然、輪の中心に近ければ高得点である。声を出すとストーンが飛んでいく。これで1ターン終了で、これを2人で交互に繰り返す。相手の石に自分の石をあてると、外に飛び出させることができる。面白いのは、相手の石と不協和な音程だと、より遠くに敵の石をとばせるところ。また、自分の石と和音になっている音を出すと、ボーナスポイントがつく。 お互い手を叩いてわーわー言うことになるので、そのままゲームセンターか家庭内のゲーム機でもやれそうなゲームである。ただ、デモのような短い時間のものとしては若干ルールが複雑か。 「トントン」。北陸先端科学技術大学院大学による「宮田部屋」チームの作品。紙相撲を大きなコントローラーの上にのってやる、という体感ゲーム。前後左右のコントローラーの上にのり、相撲取りを操作する。たとえば前に大きく倒すと、相手を押し出していくことができる。 体感ゲームらしく直感的で簡単。逆にコツが分かるとちょっと簡単すぎる点がやや問題かも。紙相撲をシミュレートするのであれば、相手の動きに伴う振動が、こちらのコントローラーに反映されると面白いかもしれない。
「不思議な家」は電気通信大学の「森の民」チームによる。物語のなかに出てくるような家のなかを覗くと、中に小さな家があり、その窓を覗くと、さらにまた家が……というものを狙った。 なるほど物語に出てきそうな家なのだが、実際に覗いてみると、あまりその効果が得られない。家の中の家を覗いても、結局そこにあるのはただのディスプレイであって、窓のなかを覗くというよりもむしろ、ディスプレイに映っているものを見る、という感じになってしまっているからかもしれない。 アイデアは非常に面白かったが、その実現がなかなか難しい、と逆説的に分かってしまった。 「THE CREATION LIGHT」。金沢学院大学「VR学院」チームによる。 「クリエイションライト」と名付けられた3軸ジャイロセンサー付きプロジェクターを持ち、自分が見たい方向を照らすと、スポットライトのようにバーチャルワールドが映し出される。見える範囲はスポットなので、思わずグルグル周りを探索してしまう。 たとえばヘンな動物がちらっと映ったりすると、その姿を追ってずーっと腕を動かしてしまう。ナチュラルに映像で示されたバーチャルワールドに動かされているわけだ。写真では分かりにくいだろうが、そういう意味ではまさにインタラクティブな作品だ。そのほか、たとえば光に弱い怪獣をやっつけるといった、ちょっとした遊びもできる。 「Conspiratio」。電気通信大学の「地球人」チームによる作品。スクリーンに映し出された生き物をストローで吸ったり吐きだしたりするインタラクション作品。 まず、「SUI(Starawlike User Interface)」と名付けたコップのようなデバイスで生き物をロック。ストローで吸う。SUIには圧力センサや振動モーター、コックと仕切り板などがつけられており、吸う生き物によって、吸うときの感覚や、再生される音が違う。かなり一生懸命吸わないと吸い込めないので、けっこう疲れた。吐き出すときの感覚は、何かをポンと生んでいる感じで、また面白い。
最後が作品名「Spike Tree」。電気通信大学、東京大学の学生による「Team Spike Tree」による作品。「トゲトゲ生物」こと、磁性流体を使ったインタラクション作品である。磁性流体とは、磁性粒子を界面活性剤で覆い、媒体に混ぜたものだ。液体だが磁石のように反応する。 かたわらに置かれた加速度センサ・温度センサつきの「子卵」を動かしたり、暖めたりすると、上下の筒の内部にそれぞれ一個ずつ設置されたコイルによって磁性流体が反応し、動いたり、上に登って行ったりする。飛び出ているのは電磁石の中心の鉄芯である。 これは磁性流体を使った素材の勝利である。見ていて飽きない。 以上10作品だ。学生作品ながら、いずれもなかなか楽しめた。もっとも、見学させてもらうまえに「ロボコンみたいな感じ」と説明されたのだが、実際には普通のインタラクション展示で、ロボコンのような白熱した雰囲気はないなあ、というのが率直なところだ。まあ無理もないのだが。おそらく前日までの準備が「ロボコンみたいな感じ」なのだろう。今後のさらなる発展を期待する。 なお、予選を通過した作品は下記の通り。 ・1位「Conspiratio」 最終審査は 10月29日(金)、30日(土)の岐阜本大会となる(於:各務原市テクノプラザ)。優勝チームは、米国ロサンゼルスで2005年に開催されるSIGGRAPH 2005のEtechに出展応募し、SIGGRAPH 2005への研修旅行に参加する権利を得る。 □IVRC Official site
(2004年9月3日)
[Reported by 森山和道]
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