かつてはバンドルソフトの定番だったこともある電子地図ソフトだが、最近はWebの地図サービスに押されて、すっかり影が薄くなってしまった感がある。紙地図では味わえない検索性、日本全国を様々な縮尺で網羅……といった地図ソフトならではの特徴は、そのまま無料のWebサービスにも受け継がれ、一般的な「行く先を調べる」という用途では、ほとんどWebだけで事足りてしまう。 infoseekリサーチが今年2月に行なった「第2回ブロードバンド利用者調査」では、地図ソフトやWebの地図サービスを利用するユーザーが全体の8割近くを占めるものの、その2/3はWebのサービスしか利用していないという。 オフラインで使いたい、大画面でさくさくスクロールしたい、ユーザー情報を書き込みたい、他のアプリと連係したい、などの特別な理由でもなければ、もはや地図ソフトの出る幕はないのかも知れない。 そんなお寒い状況の地図ソフトにも、航空写真というコアな題材を扱ったものがいくつかあるのでご紹介したい。もちろん金に糸目をつけなければ、ソフトもデータも充実した世界があるようだが、価格はお問い合わせ下さいなどという時価な奴や、0がいくつも並ぶ桁違いな奴は除外。一般向けのソフトたちを中心にお届けする。
●プロアトラス航空写真DVD
地図ソフトの老舗(といってもまだ10年足らずだが)といえば、アルプス、インクリメントP、昭文社、ゼンリン。Webベースの無料地図サービス(それぞれMapion、MapFan Web、ちず丸、Its-mo Guide)や、そこで使われている地図データの提供元としてもお馴染みの4社である。 各社の地図ソフトは、インクリメントPが「MapFan V」を最後に(Mac用のMapFan 6もあったが)、スタンドアローン版から撤退してしまったものの、残る3社からは、今年も順調に「プロアトラス」、「Super Mapple Digital」、「Zi」の新版がリリースされている(9月予定のZi以外は発売中)。 そんな地図ソフトの中で、早くから航空写真を取り込んでいたのが、アルプスのプロアトラスシリーズだった。東京23区全域の航空写真を収録した「空撮プロアトラス東京23区」が発売されたのは、'99年の春である。高分解能の航空写真がWebで見放題という、今のような恵まれた環境は当然まだない。 当時利用できたソフトといえば、大日本スクリーン製造(製作は写真化学)の「ランド撮図」と、丸善の「航空写真データファイル」くらいだったろうか。ランドサットの衛星写真を使った前者の分解能が60m程度、航空写真を使った後者でも4~5mだったところに、いきなり家の形がはっきり分かる1m(一部50cmも収録)分解能の航空写真地図が登場したわけで、23区限定とはいえ、かなり衝撃的なデビューだった。 ちなみに「ランド撮図」は、もはや入手不可能なので割愛。「航空写真データファイル」の方は、まだオーダー可能な状態にあるようなので(おそらく風前の灯だろうが)、後日紹介する。 プロアトラス本体は、その後も続々と新版がリリースされるも、空撮版の方はさっぱり。やはり一発屋で終わったかに見えた2002年、収録エリアを横浜市まで広げた「スカイアトラス東京・横浜DVD」が登場。昨年リリースされた最新の「プロアトラス航空写真DVD」では、さらに千葉市とさいたま市までエリアが拡張され(神奈川県の一部が削られてしまったが)、名古屋市と大阪市も収録される様になった。 収録されている地図や写真は、その都度最新のものに差し替えられているので、新旧取り揃えておくと街並みの経年変化も楽しむことができる(ソフト自体にはその様な機能はないので、全部インストールしなければならないが)。もっとも旧版の東京23区分('97年と2001年撮影分)は、前回ご紹介した「東京空間遊歩人」でまかなえるので、都内は現行製品だけ用意すればOK。東京空間遊歩人の翌年の姿を見せてくれる(収録データのうち2002年撮影分は、東京23区・千葉市・さいたまとその市周辺で、それ以外の地域は2001年撮影)。 「プロアトラス航空写真DVD」の収録エリア
このソフトの本体は、プロアトラスW2そのものであり、1/50万相当までの広域図は日本全国を網羅。航空写真収録エリアに関しては、1/25,000までの地図画像が全域分、都市部にはさらに詳細な1/10,000や1/5,000の地図画像が収録されている。詳細図のカバーエリアがかなり限定される点と、住所検索が字丁目レベルまでという制約を除けば、プロアトラスW2と同等の機能が盛り込まれており、普通の地図ソフトとしても利用価値は高い。 航空写真の分解能は、収録エリア全域で1mのものが用意されているほか、都内の一部に50cm、大阪市の一部に35cm、名古屋市の一部に33cmの高解像度画像も収録。1m版が地図画像の「1万都心図」に、高解像度画像が「5千都心図」にそれぞれ対応しており、収録エリアに入るとこれらが選択できるようになる。 地図画像と航空写真は、ワンタッチで切り替えられるほか、両者を重ねて表示できるのも大きな特徴だ。重ね合わせのバランスは連続的に変化させられる(ディゾルブできる)ので、地図と写真を見比べる際にはたいへん重宝する。航空写真地図特有の機能としては、このほかに写真の上に行政界や町名、主要な施設名を表示する機能が用意されているだけだが、本体がプロアトラスW2の全機能をサポートしているので、トータルではかなり多機能な航空写真地図ソフトになっている。 航空写真のデータは、プロアトラスW2/W3のアドオンマップとしても利用でき、この場合には、使用中のW2やW3に航空写真の表示機能が追加される。最新のプロアトラスW3にアドオンすれば、W3の全機能に航空写真が加わるので、例えば新機能のひとつであるジオラマ機能(W3で新しく追加された、標高データを使って地図を立体的に表示する機能)の表示に、リアルな航空写真のテクスチャーを利用することもできる(現行の収録エリアは、ほぼ全域が平野なので今ひとつ面白味に欠けるが)。
初代から利用してきた物好きな筆者(前2作は自宅も写っていないのに買った)にとって、この収録エリアの問題と画像が256色という点が、特に不満を感じるところである。 前者に関しては、改めていうまでもないことなのだが、より広くは切なる願い。50cmの高解像度画像よりも、収録エリアが広がる方が嬉しいし、周辺部を1/25,000や1/70,000の地図画像に対応する航空写真でカバーして行く手もある(初代「空撮プロアトラス」には、1/70,000相当の広域写真も収録されていたが、収録エリアは詳細写真と同じ)。いずれにしても、もう少しなんとかならんかいというのが素直な気持ちである。 256色画像に関しては、普通に見ている分には、若干のざらつきを感じる程度で済むが、一面の緑や水面などでは、生々しいディザの跡が目に付く。プロアトラスは、古くから地図データの圧縮に可逆圧縮(圧縮・伸張で元のデータと完全に同一のものが生成できる圧縮方法で、現在はBzip2という高圧縮なアルゴリズムが使われている)を使用して来た。 ベタ塗りが多くメリハリが強い地図画像の場合には、可逆圧縮でも比較的高い圧縮率が期待でき、非可逆圧縮(圧縮・伸張でデータの損失をともなう圧縮方法)にありがちな滲みの心配もない。地図画像向けには良い選択なのだが、相手が写真となると(それもゴチャゴチャした街中でディザまでかかっている)かなり不利で、256色の原画像を半分に圧縮することもできなかったりする。 フルカラー画像を使用すると、元データは3倍に膨れ上がってしまうが、現在の非可逆圧縮技術では、画質の劣化をほとんど感じさせずに1/10~1/20くらいまで圧縮することが可能だ(*1)。航空写真相手なら、画質的にも容量的にもこちらの方が有利なのだ。 2.4GBの航空写真データに地図画像とシステムを加えた現行製品は、既に単層のDVDメディアの9割がたを埋め尽くしてしまっているが、広域化や高画質化の余地は、まだまだ残っているのである。もちろん2層メディアを使えば、さらなるエリアの拡大も期待できるのだが、いちばんの問題は、収録エリアを広げても、それに比例したユーザー数の増加や、コストアップを許容できる価格設定が難しい点かも知れない。 【*1】現在広く普及している離散コサイン変換ベースのJPEGだと、1/20圧縮は辛いレベルになってしまうが、JPEG2000などに使われているウェーブレット変換ベースの圧縮技法では、1/20でもかなり良好な結果が得られる。 ※本編に掲載した地図の作成にあたっては、国土数値情報の行政界海岸線(H11年度版)を使用した
□アルプスのホームページ (2004年8月14日)
[Text by 鈴木直美]
【PC Watchホームページ】
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