Intelは先週、自社が策定するネットワーク家電の枠組み「NMPR(Networked Media Product Requirements) Ver.2」の紹介を中心とした開発者セミナーを行なった。 NMPR2は、DLNA(Digital Living Network Alliance、旧名DHWG)の仕様決定を受け、DLNA仕様の上位互換規格として実装されたもの。主にTVやオーディオ装置に接続するデジタルメディアレシーバ(DMR)やDMR向けのサーバー仕様などが規定されている。また、DLNAには含まれない、プレミアムコンテンツを扱うためのコンテンツ保護機能も含まれる。 比較的ゆるやかで、最低限の相互運用性のみを確保するDLNAに対して、よりタイトにPCとネット家電を統合するための上位規格がNMPR2とも言える。ただし、DLNAよりも上位の仕様に関しては業界標準が存在するわけではなく、MicrosoftのMedia Connectをはじめ、各社独自の方言を含む仕様になっている。IntelはNMPR2の趣旨を説明し、デバイスのNMPR2準拠を訴えた。 今回は開発者セミナーに会わせて来日した米Intel デジタルホームマーケティング&プランニング・ディレクターのBill Leszinske氏に、NMPR2およびデジタルホームネットワーク市場の展望について話を伺った。 ●DLNAにはほとんどの家電ベンダーが参加する DLNAは多くの参加ベンダーを集めているが、旗を振っているのはごく一部という印象もぬぐいきれない。ソニー以外の家電ベンダーは、比較的のんびりと業界標準のビルドアップに参加している印象で、PC関連ベンダーとの温度差も感じる。 家電の世界で“つながる”と言い切るには、もっと多くのベンダーが積極的に相互運用性に対して強い意欲を見せる必要があるだろう。一部の有力プレーヤーだけでは難しい。 「DLNAはすでに多くの大手家電ベンダー、ソニー、松下電器、東芝などが参加しているが、今後はさらに増えるだろう。なぜなら、DLNAに加盟しなければ、今後、競争力のあるネット家電を開発することが難しくなってくるからだ。これは、コンシューマ市場に力を入れているPCベンダーも同じだ」。 DLNA加盟ベンダーが多い理由のひとつに、規約がさほどタイトではないから、という理由もあると思う。オーディオやビデオのケーブルを繋ぐように、あらゆるベンダーのあらゆる製品が自然につながるようになるには、今の規格ではまだまだ緩すぎはしないか? 「その点は認識している。まずは標準化プロセスを勧めることが重要だ。今後、DLNAには、“もっともっと”色々な要素が追加され、よりタイトな規格になっていくだろう。DLNAが完全な仕様であれば、IntelはNMPRを作ったりはしない。NMPR2はDLNAをベースに、その上に必須と思われる要素を積み上げている。いわば、Intelからの提案のようなものだ。この中から、いくつかの要素はDLNAの中に入っていくはずだ」。 Intelはホームネットワーク市場に対して、どのような役割を担おうとしているのか? すでに各社から提案のあるDLNAの上位仕様に、NMPR2という方言を追加することは矛盾していないか? 「我々の役割は、あくまでも標準仕様の提案を行なっていくことだ。最低ラインの規約はDLNA標準がすでに存在する。基礎があれば、ユーザーに混乱は起きない。今後、我々がUPnP Forumで提案しているRemote UIなどUPnPスタンダードが、DLNAにも取り入れられていく。NMPR2の主要な目的である、プレミアムコンテンツへのアクセス/流通に関しては、Intelだけでなく他のベンダーとともに行動しており、矛盾は起きない。NMPR2の役目は、単なるコンテンツ共有からプレミアムコンテンツ流通への発展。そのためのステップと捉えて欲しい」。 ●NMPR2の目的はプレミアムコンテンツの流通インフラを作ること NMPR2で、ほぼ必須となっているUPnP Remote UIだが、その前身となったUPnP Remote I/Oとはかなり性格が異なるプロトコルになった。以前は他のUPnPデバイスをリモート操作するための情報を交換し、コマンドをやりとりする事が主だったが、UPnP Remote UIはプレミアムコンテンツ向けのオンラインショップに、DMRからアクセスさせるための規則へと変化している。 「確かに多少異なるアプローチになっている。しかし、最終的な目的は実は同じだった。UPnP Remote I/OはNMPRのV1に盛り込んだものだったが、カスタム化やデバイスベンダーの作り込み負担がとても大きかった。しかし、Remote UIはインターネット標準のHTMLを基礎にプレミアムコンテンツサービスのユーザーインターフェイスを構築できる。こちらの方がより現実的で開発効率が良い。機能的にはシンプルになったが、目的から考えれば進化と言えるものだ」。 プレミアムコンテンツの流通は、日本ではなかなか進んでいない。様々な問題が多岐にわたっているため、一概にDLNAの取り組みで解決できるようには思えないのだが? 「前述したようにNMPR2ではコンテンツ保護の手法に取り組んでいる。また、ビットレート変換、コーデック変換、保護されたコンテンツ扱い方法なども盛り込んでおり、コンテンツの流通を活性化させるための基礎となるだろう」。 ●コピーワンス問題の解決も模索 しかし日本は著作権に関して、米国とはかなり異なるポリシーで運用されている。ドイツと日本の著作権に関する考え方は、権利者保護が基本だ。米国型は市場拡大に伴う著作権保有者の利益増大を考慮に入れた判断をするが、相容れない部分もありそうだ。コピーワンス信号をすべてのデジタル放送番組に付与するなどの措置にも、考え方の違いが現れている。 「確かに日本ではすべてのデジタル放送がコピーワンスで保護されている。これによりネットワークにおける放送コンテンツの運用に大きな制限ができてしまった。しかし、あまりにタイトな制限はコンテンツオーナーにとっても良いこととは言えないだろう。Intelは日本の機器ベンダーと共に、日本の政府機関に対してこれを明確に修正して欲しいと要望をしている。コピー保護は重要だと考えているが、同時にエンドユーザーはコンテンツを別の場所でも見る権利を持たせるべきだと考えている。たとえば、デスクトップPC、ビデオレコーダ、ポータブルプレーヤで、同時に同じコンテンツを所有しても良いはずです。しかし、他人にコピーを無料でプレゼントしたり、どこかからコンテンツ盗んだりはできないようにしなければなりません」。 日本では政府ではなく、業界団体が放送コンテンツの著作権管理方針について独自に決めている。放送局と関連する利権者を説得する必要がある。 「政府だけでなく、ARIBやNHKにも足を運んで、コピーワンスの弊害と我々の著作権管理方針について説明を行なっています。コンテンツ管理のスキームは変化しなければなりません。その方が、放送業界にとってもより良い業界構造を生みだし、業界の発展にもつながります」。 米国ではコンテンツ保護に関し、かなり緩いルールでネット配信によるコンテンツ流通量を増やし、業界を活性化しようとしているように見える。iTunes Music Storeの成功もその良い例になった。 「私は日本市場の専門家ではないが、日本政府とも協議をしながらコンテンツを保護ししつつ、業界発展も同時にねらえると考えています。たとえば、米国では購入したコンテンツを同時に3つのデバイスに入れて持ち歩いても良いという方向で調整が付いています。音楽は別の事例ができていますが、ビデオコンテンツも含めてそのような方向となるでしょう。米国政府はコンテンツオーナーと協議しながら、発展的な解決を目指しています」。 ●注目ネット家電はCEATECに集まる? 将来、プレミアムコンテンツのネット配信は、どの程度の市場規模になると思うか? たとえばワーナーホームビデオのDVDマーケティング担当副社長は、ネット配信はレンタルビジネスの置き換え程度にしかならない(セルDVD/VHSの1/10の市場)と話していた。 「毎月、少しづつブロードバンド配信の可能性を認める人が増えています。ただ、人によって大きく意見が異なるのは確かで、予想はとても難しいと言えます。ある人はDVDとは別の市場と捉えているし、別の人は映画封切りと同時にインターネットで配信した方が収入を最大化できるという。中にはネットワークなどには、絶対に出さない方が良いという頑固な人もいます。しかし、米国は日本とは異なり、ブロードバンドがまだあまり広まっていません。今後、ブロードバンドユーザーが増えれば、事情は変化してくるはずです。ただ、物理メディアで持ちたいという人はかならずいます。ネット配信では、そのCDが欲しい、という物欲には勝てません。これらは棲み分けていくでしょう」。 DLNAの活動成果が、我々の目の前に現れるのはいつごろになるのか? UPnP技術が注目され始め、すでに6年が経過している。そろそろ、素晴らしい製品を見せてもらわなければ困る。 「いくつかの家電ベンダーが、今年秋のCEATECで楽しみな製品を見せると言っている。おそらくそのときには、DLNAの活動成果をハッキリとした形として示すことができるでしょう」。 □インテルのホームページ (2004年7月22日) [Text by 本田雅一]
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