笠原一輝のユビキタス情報局

【新生VAIOシリーズインタビュー(2)】
~VAIO type A開発者インタビュー
“こだわりのオーディオ”はノートPCの新しい形となれるか




ソニーのVAIO type A、「S-master」と呼ばれるデジタルアンプと2ウェイスピーカー、TVチューナ内蔵のAVパワーアップステーションなどの特徴を持つ

 ソニーの「VAIO第2章」は、PC業界にとっても注目の取り組みだ。というのは、ソニーのPCは、これまでいくつかの新しいトレンドを作ってきたからだ。

 “銀パソ”ブームもそうだし、“テレパソ”もその1つだろう。しかし、今や銀パソを通りすぎて“白パソ”がトレンドだし、コンシューマ向けのデスクトップPCはほぼ例外なく“テレパソ”になり、ノートPCですらテレパソになりつつある状況だ。つまり、VAIOシリーズが過去にアピールしてきた機能は、今や差別化のポイントとなりえていないという状況だ。

 そんな中、VAIOがどのような未来を描いていくのか、その第一歩が“VAIO第2章”であり、今回の夏モデルだ。

 前回紹介した「VAIO type S」の差別化ポイントは、13.3型ワイド液晶という他社が採用していない液晶だったと言えるが、今回のレポートで取り上げる「VAIO type A」の差別化ポイントはなんだろうか? それを追求しようというのが、今回のインタビューの主眼である。


●日本のDTRノートPCはテレビ機能を実装していて当たり前

 今回取り上げるVAIO type Aを、A4スリムやサブノートなど、ノートPCのセグメントに当てはめるとすれば、DTR(DeskTop Replacement)というカテゴリーに属する製品といえるだろう。

 DTRノートPCというカテゴリーは、デスクトップPC用のCPUやGPUなどをノートPCに詰め込んだものという解釈が一般的だ。だが、もしデスクトップPCのCPUやGPUをやや大きめのケースに詰め込むことがDTRノートPCの概念であるならば、このVAIO type AはDTRノートPCではないということになる。なぜならば、本製品ではCPUにPentium Mを採用し、GPUにはMOBILITY RADEON 9700(下位モデルはMOBILITY RADEON 9200)を採用しており、いずれもモバイル用のコンポーネントだからだ。

 では、type AはDTRノートPCではないのだろうか? いや、そんなことはないだろう。そもそも、デスクトップPC向けのCPUやGPUを利用しているからDTRノートPCだという定義そのものがおかしいのだ。

 DTRとは素直に解釈すればデスクトップPCの代替であるということになる。それでは、デスクトップPCとはなんだろう、となるが、多くの日本のコンシューマ向けデスクトップPCは「テレビやAV機能を強化したパソコン」となっている。つまり、DTRノートPCは、“テレパソ”や“AVパソコン”でなければならない。これがtype Aの基本的なスタートなのではないだろうか。

ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー インフォメーションテクノロジーカンパニー 皆川裕美子氏

 実際、type Aの製品企画を担当したソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー インフォメーションテクノロジーカンパニー 皆川裕美子氏は、「最初にテレビ機能を入れた「バイオノートGRT」シリーズをリリースした当時、ノートPCなのになんでテレビ機能が入っているの? という質問をよくされました」と、当初はノートPCにテレビ機能を入れることに違和感がある、という意見もあったと説明してくれた。

 「DTRノートPCというのは、お客様がデスクトップPCにするか、ノートPCにするのかを悩んで頂いて、スペースなどの都合からやっぱりノートPCだよね、という時に選択して頂く製品です。デスクトップPCにとってテレビ機能はもう当たり前の機能ですから、DTRノートでテレビ機能が入っていないのはナンセンスなのではないかと考えました」(皆川氏)

 確かに、筆者も含めてほとんどのユーザーは“ノートPCというのはこういうものだ”という自分なりの固定観念を持っている。その固定観念を打ち破り、かつそれが実際にユーザーのニーズを満たすものであった場合、その製品は新しいジャンルを開拓した製品となることができる。過去のVAIOでいえば初代「バイオノート505」がそうだったろうし、「バイオU」もその1つだろう。

 type Aもそうした製品を目指している製品の1つだ。ただ、すでに皆川氏も認めるように、次の一歩というのは実に難しい。例えば、GRTをリリースした当時にはあまり数が多くなかったテレビ機能をもったノートPCというのも、今では当たり前の製品だ。「何かが当たり前になってきたときには、次は何か、というのを常に考えていかなければならない」(皆川氏)と、type Aの開発チームとしても、それが何であるのかということを常に問い続けているという。

VAIO type Aに付属するAVパワーアップステーションに内蔵されている基板類。向かって左上の基板がデジタルアンプのS-Master、右上の基板がTVチューナ

●最初からtype Aの“何か”に位置づけられていた「S-master」の採用

 その“何か”というのを、VAIO type Aから探してみれば、やはり、“オーディオ機能の強化”にあると思う。

 VAIO type Aのシステムは、3つのブロックから構成されているといえる。1つはもちろん17型液晶を搭載したノートPC本体であり、もう1つがTVチューナなどを内蔵する“AVパワーアップステーション”、最後の1つがノート用としては大型の2ウェイスピーカーだ。

 考えてみれば、ノートPCに外付けスピーカーが付属した製品なんて、あまり聞いたことがない。しかも、付属のスピーカーは、デスクトップPCでよく見られるような“おまけ”感が漂うスピーカーではなく、本体に合わせてデザインされた、本格的なスピーカーなのだ。この点は、明らかにほかの製品とは異なる特徴だ。

 それだけではない。type Aのオーディオ機能は、他の製品に例がないほど特徴的なものとなっている。そのポイントは2つ。1つはAVパワーアップステーションの中にデジタルアンプを内蔵していること、そしてもう1つは先ほど述べた2ウェイスピーカーだ。

 type Aでは「S-master」と呼ばれるデジタルアンプが採用されている。S-masterというのはソニーが開発したハイエンドオーディオ向けのデジタルアンプ技術で、単体のハイエンドAVアンプなどに採用されている。

 一般的なアンプがアナログ信号を入力し、増幅して出力するのに対し、S-masterでは入力から増幅までをすべてデジタルで処理。最終的にアナログに変換して出力する形となっている。

 「弊社のオーディオ部門でS-masterやS-Master PROといったフルデジタルアンプの回路の開発をしていますが、これをtype Aに採用するというのは企画段階から決めていました。S-Master PROと言えばTA-DA9000ESのようなハイエンドアンプに採用されているものですが、そういったフルデジタルアンプ回路が小型化され、type Aに入るのだったらぜひ入れていこう、というのがあったからです」(皆川氏)と、S-masterの採用はtype Aの企画段階から決まっていたという。

 なお、S-masterがオーディオ部門の製品以外のソニー製品に採用されたのは、type Aが最初ということだ。

●“フルデジタル”のS-Masterを採用したメリット

 もちろん、type Aに搭載されているS-masterそのものは、TA-DA9000ESに搭載されているS-master PROのようなハイエンド向けに比べれば機能は省略されている。それでも、S-master特有の“デジタルアンプの音”が実現されている。

ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー ITカンパニー 高木健次氏

 ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー ITカンパニー 高木健次氏は、「S-Masterの特徴は最初から最後まで、フルデジタルで処理を行なうことです。S-materは、プロセッサ部分とパワーダン(増幅器)という2つからで構成されていて、最終的に出力される段階でアナログに変換し、スピーカーへ出力します。デジタルアンプの特徴は、高効率で、ノイズもなく、すごくクリアな音になります」と説明する。

 アナログアンプを利用した場合には、アナログ特有の“まろやか”と表現される音になるのに対して、デジタルアンプを利用した場合には、デジタル特有のクリアな音になるのだ。

 なお、S-masterへの入力そのものもデジタルとなっている。「S-masterへの入力はPCオーディオコントローラからS/PDIF経由でS-Masterへ入力されます」(高木氏)との通り、type Aでは、AVパワーアップステーションの出力からスピーカーまでの間だけはアナログだが、それ以外の部分は全てデジタルだ。

 なお、スピーカーとAVパワーアップステーションの接続は、一般的なステレオミニプラグ方式ではなく、ハイエンドオーディオなどで利用されるようなスピーカーケーブルが採用されている。この点でも“音質”に対するこだわりが感じられると言ってよい。

 たしかに、従来のノートPCなどとは比べものにならないほどクリアな音がする。PCにAV機器の要素を求めるユーザーにとってはこの点は重要なポイントと言えるのではないだろうか。

VAIO type AのAVパワーアップステーションに内蔵されているS-masterの基板。S/PDIFで入力されたデジタル信号をすべてデジタルのまま処理するフルデジタルアンプ

●本格的な2ウェイスピーカーを採用したというこだわり

 スピーカーに関しても、非常に豪華な仕様となっている。そもそも、アンプの出力が10W+10Wと高出力なうえ、ツィータとウーハーが独立しているスピーカーも、PC付属のものとしてはかなり豪華だ。

ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー ITカンパニー 鈴木一也氏

 「当初はツィータは独立していませんでした。しかし、やはりこうしたコンセプトの製品であれば、2ウェイであるのは必須でしょうということで、ツィータが分離し、そしてウーハーの口径も徐々に大きくなっていきました」(高木氏)と、試作段階では様々な形を検討し、最終的に現在の形に落ち着いていったという。

 実際、インタビューでは複数の試作品を見せて頂いたが、たかだかスピーカーなのに、こんなに作らなくても……と思うのは筆者がオーディオマニアではないからだろうか。しかし、オーディオの世界では、音の入り口に相当するアンプへのこだわりも大事だが、最終的には出口であるスピーカーが音質を左右するのは常識らしいので、やはりこだわりたい部分なのだろう。

 また、このスピーカーには、ボリュームコントロール用の端子がついており、スピーカー側についているボリュームつまみからアンプの音量をコントロールできるようになっている。「S-masterはフルデジタルのため、ボリュームもでPC側のファームウェアやユーティリティによってパラメーターでコントロールできます」(ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー ITカンパニー 鈴木一也氏)と、S-masterの採用によるデジタル化のメリットがこんなところにもでている。

type Aについているスピーカーは、2ウェイの本格的なもの。高さも液晶に合わせて設計されており、一体感を醸し出している type Aのために試作されたスピーカー。ツィーターの無いものや、様々な口径のウーハーなどを採用した試作品が作られた

●ハイエンドかどうかは“エンジンスペック”だけで決まるモノではない

 個人的に、type A(VGN-A70P)のスペックを見ていて気になったのは、CPUがHTテクノロジに対応したモバイルPentium 4 3.20GHzではなく、DothanコアのPentium M 735(1.70AGHz)を搭載することだ。

 おそらく、一般的な用途、例えばMicrosoft Officeシリーズを使ったり、というシーンであれば、モバイルPentium 4 3.20GHzとPentium M 735でも大きな差はないと思う。そればかりか、2MBのL2キャッシュを搭載したPentium M 735の方が処理によっては速く感じるかもしれない。

 だが、メディア処理に関しては話は別だ。エンコードやトランスコードのような処理の場合、モノを言ってくるのはクロック周波数とマルチスレッド処理だからだ。

 今のところ、クロック周波数があまり高くないPentium M系は、クロックが高く、かつ疑似マルチスレッド処理のHTテクノロジを導入しているPentium 4系に比べると、やや劣る。

 では、type Aのような製品に搭載する場合はどうか? type Aが最高峰デスクトップPC、ソニーで言えばtype RのDTRであるとすれば、やはりエンコード時の性能も重要になってくるのではないだろうか。そう考えると、「なぜPentium M?」という疑問はでてくる。

 そのあたりの理由については「1つにはデザイン上の自由度を確保したかったということもありますが、もう1つ大きな理由としては、type Aがオーディオ機能を重視した製品であるということです。この製品をリビングに置いてもらったり、あるいはスピーカーで音楽を楽しんでもらうときに、ファンの音が気になっては意味がないですから」(鈴木氏)と、最も大きな理由がファンの騒音であると指摘する。

type Aで採用されている基板。今回はCPUに通常版Pentium Mが採用されている type Aに採用されているヒートシンク。GRシリーズで採用されていたものに比べて大幅に小さくなっている

 確かに熱設計消費電力が75Wに達するモバイルPentium 4と、25WのPentium Mでは、放熱機構に大きな違いがある。75Wのシステムではフルロード時(例えばエンコード時がそうだ)にはファンを全開で回す必要がでてくるが、その時の騒音がどうなるかは、すでにモバイルPentium 4のPCを持っているユーザーであればよくご存じだろう。

 Pentium Mであれば、モバイルPentium 4を採用した場合に比べれば少ない騒音で済ませることができる。実際、type Aで採用されているCPUの放熱機構は、バイオノートGRシリーズに採用されていたそれに比べて圧倒的に小さくなっている。

ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー ITカンパニー 林薫氏

 「実際この製品を企画するときに、ハイエンドって何だろうという議論をしました。エンジンの排気量が大きければハイエンドなんだろうか、と。しかし、実際の車を見てもそうですが、エンジン以外の部分でも高級感を出している部分は少なくないと思います。ハイエンドかどうかは、製品全体の持っている雰囲気などで決まってくるのだと思います」(ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー ITカンパニー 林薫氏)という議論も社内ではあったという。

 CPUがパワフルだからハイエンドというのではなく、スピーカーやTVチューナなどすべての部分によいものを使ってこそ、ハイエンドだというのがtype Aの設計思想だというのが開発陣の認識なのだろう。

●部屋の明るさに合わせて“じわっと”変わる「ルミナスセンサー」

 そして、もう1つ個人的に興味を引いたのは液晶ディスプレイだ。PC用としてはまだまだ採用される例が少ない17型ワイド液晶を搭載し、かつWUXGA(1,920×1,200ドット)の解像度を実現している。

 従来のハイエンドノートである、GRTシリーズでは、液晶にUXGA(1,600×1,200ドット)の16型液晶が採用されていた。今回は17型ワイドとなりサイズが大きくなっただけでなく、解像度も横に広がり見やすさが圧倒的に向上した。

 「本製品の利用用途を考えると、やはり高解像度化は重要な条件です。このため、従来製品では4:3を採用していたところを、今回は17型ワイドの液晶を採用しました」(鈴木氏)と、やはりこの製品だからこそ採用した液晶であると説明する。

 さらにこの液晶は、ソニーのPCではお馴染みとなった「クリアブラック液晶」が採用されている。type Aに採用されているクリアブラック液晶は、バックライトと蛍光灯が2本入っているデュアルライト仕様のもので、液晶テレビに近い輝度が実現されている。

 こうした高輝度、高コントラストの液晶は、メディアファイルの再生時には適しているが、逆に文章を作ったり、Webブラウザでインターネットを閲覧したりという用途には輝度が高すぎて目が痛くなる、という問題を引き起こすことになる。

 そこで、type Aではソニーが「ルミナスセンサー」と呼ぶセンサーが液晶とキーボードの間に内蔵され、それが周りの明るさを感知し、自動的に液晶の輝度を調節してくれる。

ルミナスセンサーは赤く光るボタンの左側にあるメッシュの穴の中に隠されている ルミナスセンサーとスイッチの基板。基板の左側にルミナスセンサーがある

 「GRシリーズで輝度を切り替えるボタンを用意して、液晶に近づいて利用する場合にはワンタッチで切り替えられるようにしていました。type Aではそのシステムを発展させ、自動モードを用意し、ルミナスセンサーで感知し部屋の明るさに応じて輝度が自動で切り替わるようにしました」(鈴木氏)

ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー ITカンパニー 堀 太樹氏

 外光なのか、蛍光灯なのかも検知可能で、外光の明るさに応じてファームウェアなどで切り替える仕組みになっているという。「今回の製品は、AVパワーアップステーションからはずして持って移動することもあり得るので、明るい部屋で使う場合もあれば、暗い部屋で使う場合もあると思います。そうした時に自動で切り替わるようにすれば、ユーザーにとってのメリットが大きいと考えました」(ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー ITカンパニー 堀 太樹氏)との通り、確かに自動で切り替わるというのは便利だ。

 単純にセンサーを入れればよいように思うかもしれないが、実はこの機能を実現するにはいくつかの課題があったという。例えば「液晶の輝度がいきなり変わるととても不自然に感じてしまいます。そこで、今回は、ファームウェアなどで輝度がじわっと、つまり段階的に変わるように調節しています」(鈴木氏)と、いきなり輝度が切り替わるのではなく、例えば400cd/平方mぐらいだったものが、390、380……と徐々に変化するようにしたという。

 「いきなりパッと輝度が変わるとユーザーは違和感を感じます。ところが、段階的に変わっていくとユーザーはそれを自然に感じることが可能なのです」(堀氏)とユーザーが自然に感じる仕組みが採用されているのだ。実際、筆者も使用してみたが、センサー部を指で隠して外光を制限してみると、輝度がじわっと下がっていき、指をどかすとじわっと明るくなっていく様子を確認できた。

●初期のデザインがほとんどそのまま最終製品となった珍しい例に

 type Aのデザインは、最近のノートPCとしてはどちらかと言えば少数派に属する曲線を多用したデザインだ。

ソニー ホームエレクトロニクスネットワークカンパニー 横田洋明氏

 「最近のノートPCでは、2枚の板をびしっと重ねて、というデザインがトレンドになっています。そうした中で、曲線をうまく使ってしゃきっとしたデザインにするのはチャレンジでした」とtype Aのデザインを担当したソニー ホームエレクトロニクスネットワークカンパニー 横田洋明氏がそのデザインについて語ってくれた。

 たしかに、Appleの「PowerBook」に代表されるように、ノートPCのデザインは上下同じような板を2枚重ね合わせた、スクエアなイメージというデザインが少なくない。

 そうした中、ソニーのノートPCは、曲線を多用したデザインに昨年からチャレンジを続けている。昨年の例でいえば、「バイオノートZ」がその代表例だろう。

 「バイオノートZから引き継いでいる部分もありますが、typeAでは、2枚の板が柔らかく重なり合うという表現で、インターフェイス類を造形の中にうまくゾーニングし、デザインの美しさと使い勝手の向上をより完全な形で実現することが出来ています」(横田氏)と、デザイン性と使い勝手のより高レベルでの向上が、Zから得た教訓を生かすtype Aのテーマだったとする。

 とはいえ、デザイナーがそういう想いを持っていたとしても、それを実現するのは大変難しい。通常PCのデザインというのは、デザイナーの思い通りになるものではない。PCがPCである以上、どうしてもコネクター類がデザイン性を損なったりするからだ。

 あるいは、デザイナーがどんなに薄いデザインを描いたとしても、熱設計の都合で厚くせざるをえなくなったりする。一般的にはデザイナーとPC側の設計を行なう機構設計の担当者がお互いにせめぎ合い、バランスをとったものが最終製品となる。

 だが、type Aでは、そうした作業をやっていないという。「今回の製品では、企画の段階から“ハイエンドって何だろう”ということを突き詰めていき、それをお互いに共通認識として持っていた。このため、デザイナーが考えていることをなんとしても実現しようと考えた」(林氏)との通り、今回はほとんど初期デザインがそのまま最終製品のデザインとして採用されているという(実際こうした例は本当に珍しい)。

 インタビューでは、社内での最初のプレゼンテーションに利用されたイラストが公開されたが、確かに最終製品と大きな違いはなかった。

デザイン説明の社内プレゼンテーションに利用された、type Aの初期デザイン。最終的にはこのデザインにかなり近い状態で製品化が行なわれた type Aが特徴的なのは液晶から本体まで曲線で落ちてくるという一体化されたデザイン

 そのために、機構設計側ではいくつかの犠牲を強いられている。例えば、パームレスト部分は外側に向けて曲線を描くデザインになっているが、このため、ここにはコンポーネントを入れることができなかった。要するに容積的に無駄になっているのだ。

 また、この形では剛性(強度)を出すことが大変難しい。一般的なノートPCでは四隅をきっちりとった“バスタブ構造”を採用することで強度を確保している。ところが、type Aでは曲線を多用したデザインのため、バスタブ構造とはならなかった。

 「最初にこのデザインを見たときに、そのまま剛性を出すのは難しいと考えました。そこで、サイドパネルの部分を合金に変更し、剛性を出しました」(林氏)と、機構設計側で様々な工夫を凝らすことで、ユニークな曲線を多用したデザインができあがったわけだ。

●“ハイエンドノートPCとは”を市場に問う製品

 インタビューを終えて感じたことは、確かに林氏のいうような「ハイエンドって何だろう」という課題は、難しいということだ。

 多くのPCメーカーのビジネスモデルは、PCを構成するコンポーネント(CPU、マザーボード、ビデオカード、OS……)の原価に利益を載せて出荷するものだが、これだと他社との差別化はコンポーネント選択の差異のみになってしまい、差が出にくくなる。

 昨年バイオノート 505 Extremeが発表されたとき、多くの人が「いいけど、高いよね」と言っているのを聞いたことを思い出した。その通りだ、確かに超低電圧版Pentium M 1GHzを搭載したノートPCとしては高価だろう。だが、同時に「それって変じゃないのか?」と筆者は感じていた。というのも、もし、X505にそれだけの付加価値があるなら、+αはあってしかるべきなのではないかと。

 車で言うなら、同じアルミボディで、どちらも3リッター級エンジンを搭載しているのに、NSXは1千万円で、レジェンドは400万円である。車としての機能は同じなのに、それ以外の様々な付加価値でこれだけの価格差がついているのだ。

 自動車ではすでにこうしたスペック以外の部分の付加価値をユーザー側も受け入れているが、未だPCでは、CPUが、GPUが……というモデルから離れることができていない。

 今回のtype Aも、X505のようにPCのビジネスモデルに挑戦する製品といえるだろう。17型ワイド液晶を搭載した最上位モデル(VGN-A70P)で40万円弱という価格は、ノートPCとしては最高峰と言ってもいい。誰もが気軽に買える製品でないのも事実だが、S-masterや2ウェイスピーカーによるクリアーなサウンドやルミナスセンサーに付加価値を感じるのであれば決して高い買い物ではないと思う。

 「お客様のマインドも変わっていただかないと、新しい機能を搭載してもそれに対するバリューが正当化できません。例えば、これまで音楽はMP3で十分と思われるお客様も少なくないと思いますが、S-masterのような本格的なデジタルアンプでよりよい音源で聞いてみると実はもっと楽しいんじゃないか、という方向にもっていきたいですね」と皆川氏が指摘する通り、このあたりをどの程度ユーザーに理解してもらえるかが成功の鍵であり、市場に対するソニーからの問いかけであると言えるのではないだろうか。


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【5月18日】【Hothot】17型ワイド液晶とAV機能を詰め込んだハイエンドノート「VAIO type A」レビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0518/hotrev248.htm

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(2004年6月22日)

[Reported by 笠原一輝]


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