例年通りConferenceは火・水曜日に開催され、これを挟む様にSeminarが月曜と木曜に開催される。昨年はいまいち元気がなかったこのEPFだが、今年は観客の入りもまぁまぁで、やはり色々と面白い製品が発表されている。というわけで、早速レポートをお届けする。
●新登場のCentaur/VIA C5J Centaur/VIAのGrenn Henry氏といえば、MicroProcessor Forumの常連スピーカーであるが、今回はEPFへの参加である。VIAのC3といえばx86プロセッサなので、EPFには似合わない様にも思えるが、現状のC3の売上の半分は既に組み込みマーケットになっているのだという。 そのVIA C3であるが、昨年のMPFではNehemiahことC5Pコアが発表されている。基本的にはその前のC5XLと同じコアながら、回路の見直しを行なってダイのシュリンクを行なったほか、SSEのサポートやL2キャッシュの構成変更、暗号化機能の追加、デュアルプロセッサのサポートなどを行なったもので、1.5GHz程度までの動作速度向上と消費電力削減を図ったものである。 これに続くものとして前回は「C5I」ことEstherコアが、今年Q1のテープアウトを目指して作業中という話が出ていたが、このEstherの詳細がC5Jとして発表された。主な特徴は次のとおりだ。
・L2キャッシュを64KB 16way→128KB 32wayにサイズ倍量。AMDのAthlon XP/64系同様、排他構造をとるのは同じである。 予想通り製造はIBMの90nm Low-K SOIプロセスが利用され、トランジスタは20.4M→26.2Mと増えたにも関わらず、ダイ面積は48.1平方mm→31.7平方mmへと縮小された。丁度テープアウトしたばかり(予定よりやや遅れた事になる)という状態なので、まだ動作するダイは存在しない(テープアウト後すぐに製造を開始したとしても、最初のES品が出てくるのは8月以降になるだろう)ため消費電力はあくまでも推定であるが、1GHz動作でのTDPは3.5W(C5Pは1GHz動作で7W)になるとされている。 90nmプロセスによる初期投資の多さはあるにせよ、ダイ面積を削減することでさらに低コストを狙う構成になっているわけだが、これに関しては、あくまでC5は「低価格・低消費電力・省パッケージサイズ」というコンセプトを忠実に守っている、という説明だった。ちなみに、C5Jのフロアプランも公開された。
●組み込み用途に欠かせない暗号化/復号化アクセラレーション これがMPFだと、ではV4バスとは何かといった話になるのであろうが、EPFとあってそのあたりはあっさりスルーされ、話はむしろ暗号化アクセラレーションの方に移った。 そもそも暗号化アクセラレーションがなぜ必要かというと、要するにC5コア単体で暗号化/復号化を行なうにはあまりに非力であるという問題である。以前はたとえばSetTopBoxを作る場合、単にMPEGのデコーディングが高速にできればすんでいたわけだが、最近はDRM(Digital Right Management)関連の要求が多いから、リアルタイムに行なうべき暗号化/復号化の作業が増えていることになる。 これは単にDVDだけではなく、例えば無線LANなら64/128/192bit WEPやAESの対応が、VPNなら3DESの対応がそれぞれ必要になってくる。従来組み込み系ではこうした場合に暗号化/復号化アクセラレータをディスクリートで搭載する形で対応していたわけだが、これは当然コスト上昇に繋がる。もちろん十分にCPUパワーがあれば、ソフトウェアでこれを行なうこともできるわけだが、これは消費電力の増加に直結するし、だいたいC3/1GHz程度の処理性能では到底追いつかない場合が多い。これを解決するのが、暗号化/復号化処理に特化した形での専用演算器の搭載である。 正直な話、PCマーケットだけを睨んでいればこの機能は不要(VPNを使うようなビジネス用途にC3プロセッサ搭載PCが使われる可能性は少ないし、コンシューマ用途ならば例えばWeb通販の際のSSLの通信が遅いからといって文句が出ることは無いだろう)なわけで、組み込み系用途を睨んでいるからこそ必要とされた、と考えて間違いないだろう。 そのアクセラレーションだが、2つの乱数発生器とAESのサポートまではC5Pで行なわれているが、C5Jではこれに加えてRSAの高速化やSHA-1の高速化なども追加された。これにより、現在一般的に使われている暗号化方式のほぼ全てに関して、何らかの高速化の手段を提供できた事になる。ちなみにこの暗号化アクセラレーションに関しては、アメリカ政府の輸出規定に関する認可を既に取得したとの事で、これを搭載した機器が輸出規定に引っかかることもない。 今回の発表で力が入っていたのは、具体的な暗号化/復号化アクセラレーションの実装である。C5Pで実装されているハードウェアの詳細はすでにMPFで発表されているが、これに加えて今回C5Jで搭載されたRSA関係の詳細が説明された。また、C5Pでは“0F A7”をこのセキュリティ命令の実行に当てていたが、これを“0F A6”と“0F A7”に拡張した事も公開された。
●SSE3とV4バスを搭載 さて、ここからは講演の後で直接Henry氏にインタビューを行なった結果をまとめたものである。まず気になるのは、SSE3のサポートとVIA V4バスなるものの存在である。 まずSSE3では、マルチメディア系はともかくMONITOR/MWAITというスレッド制御命令をどうするのかが気になるところだ。ところが何とこのMONITOR/MWAIT、C5Jでサポートされるという。「MONITOR/MWAITは基本的にはHyperThreadingのためのものだが、マルチプロセッサ環境というのはそのままマルチスレッド環境なわけだ。ということは、プロセッサ間でスレッドの同期を取る場合にこの命令はそのまま利用できる。実際、C5JではShared Memoryに値を書き込む形でマルチプロセッサ間の同期を取ることができるようになっている。もちろんこれを使わなくても、OSがセマフォなんかを使って同期を取ることは可能だが、OSがこれをサポートすれば、同期をはるかに簡単に取れるようになる」(Henry氏)。 ついでV4バスだが、「電気的には互換性がある。つまりAGTL+だ。ただコストダウンのために、ピン数が少なくなっている。現在のBaniasバスから無駄なピンを省いた形だ。また、バスプロトコルで言えば、これも一部互換性がない。C5Jでは4プロセッサまでのマルチプロセッサをサポートするために、バススヌープ関係で多少変更している」という返事が帰ってきた。 SSE3のついでに「要するにC3では業界標準をサポートするという方針ですが、AMD64やEM64Tという形でx86の64bit拡張は事実上の標準になりつつあります。ということは、C3も64bit拡張をサポートするのでしょうか?」と聞いたところ「する。ただ、それがいつか?というのは別の問題だ。どんな標準にしても、まずOSがサポートし、ついでドライバがサポートし、その後でアプリケーションが対応する形になる。従って、アプリケーションから(64bit拡張の)要求が出るのはずっと先のことになる。また、64bitはまずサーバーやワークステーションのマーケットで利用されることになるだろうから、組み込みマーケットでそれが必要とされるまで、だいぶ時間がかかると思う」との答えが返ってきた。 ●IBMの90nm SOIプロセスで製造 C5Jは、Centaur(というかVIA)としては初めてIBM Microelectronicsをファウンダリとして使った製品になる。 これに関し「一般に90nm世代となると、リーク電流による消費電力過多が大きな問題になっていますが?」と水を向けたところ「我々の使っているプロセスは、IBMのPowerPC 970シリーズと同じもので、問題はない。IBMには2つプロセスがあり、もう片方は問題があるようだが。それに、我々はVt(スレッショルド電圧)を高く設定している。我々の目的はあくまで低消費電力であって、高速動作ではないからだ。先に示した3.5Wというのは確かに推定値であって実測値ではない。大体まだテープアウトしたばかりで実際のダイはないからね。だが、我々は消費電力を下げられることに自信を持っている」とのことだった。ちなみに今のところ、製造に関して特に問題は出ていないという話だった。 ●組み込み用途に向かうC3シリーズ
「2年前、C3の売上のほとんどはPCマーケット向けで、組み込み向けは皆無でした。それが現在では50%に達しているということは、今後はどんどんPCマーケット向けが減るということでしょうか?」という質問に対しては次のような答が返ってきた。 「2年前は組み込みのマーケットが(VIAにとって)そもそも存在していなかったわけで、マーケットの成長に伴ってそのまま比率が増えてきたわけだ。ただ、確かに今後PCマーケット向けは減るかもしれない。ただ誤解の無いように言えば、我々はIntelやAMDと、一定の間隔を持って追従してゆく。確かにゲームとかにはC3では非力だが、Webやメールを使うのにそれほど高い性能が必要なわけではない。こうしたマーケットは確実に存在するし、そのマーケットに向けて我々は低コスト、低消費電力の製品を引き続き投入してゆく。ただ出荷数量の比率から言えば組み込み向けの方が大きなマーケットが見込めるわけで、結果として売上の比率は(PCマーケット向けは)さらに減るだろう」ということだ。またC5Jに関して、今のところSocket 370対応の予定はないということで、現行のC5Pが最終製品になる可能性が高い。 そのC5Pだが、これを利用したゲームプラットフォームが公開されたのは既報の通りだ。今回インタビュー場所には、このeveのモックアップが展示されていた。 ところで2002年のMPFでは、2005年以降に登場する製品として、全くアーキテクチャを変えたCNなるコアが登場するという話があった。ついでに言えば、このときにはC5Xなる1.5命令スーパースケーラコアの予定もあったのだが、C5Xはその後消えている。そこで、「もうスーパースケーラを使う事はないのですか?」と聞いたところ「CNはスーパースケーラになる」という返事が返ってきた。ただ、具体的にどんな構成かという話は一切教えてもらえなかった。このあたり、10月のMPF 2004では多少Updateがあるかもしれない。
□Embedded Processor Forum 2004のホームページ(英文) (2004年5月19日) [Reported by 大原雄介]
【PC Watchホームページ】
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