WinHEC 2004 基調講演レポート

64bit Windowsとデジタルホームを語るゲイツ会長


Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CSA
会場:Washington State Convention and Trade Center(米国シアトル)

会期:5月3日~7日(現地時間)


 Microsoftが開催するエンジニア向けカンファレンスであるWinHEC(Windows Hardware Engineering Conference)が、5月3日~7日(現地時間)の4日間にわたり米シアトルにおいて開催されている。

 初日となった3日は、Microsoftの幹部による基調講演などが行なわれ、その中で同社の幹部は「64bit」、「Windows Home Concept」という2つのキーワードを繰り返し、Microsoftが現在課題としている64bit WindowsとWindowsを中心としたデジタルホームの実現に対する支持を訴えた。

 その反面、次世代Windows「Longhorn」に関しては、参加者に配られる予定であった最新ビルドのα版が間に合わず、期間中での配布と、やや変則的な形になってしまったほか、そもそもLonghornに関する言及自体が少なかったなど、大きな進展がないことを改めて印象づけてしまった。

●予定どおりLonghornのβ版は2005年

 注目を集めるLonghornに関して、基調講演に登場したMicrosoft Windowsプラットフォーム担当副社長のジム・オルチン氏は、Longhornに関してあまり詳しく語ろうとせず、スケジュールに関しても具体的には明らかにしなかった。

 明らかにされたことは、すでにアナウンスされているとおり2005年にβ版がリリースされるということだけで、アップデートはなかった。

 正確には、これまでβ版も含めてスケジュールが全く語られてこなかったサーバー版Longhornも2005年にβ版がリリースされるということはアナウンスされた。だが、クライアント版、サーバー版、ともにLonghornがいつリリースされるのかはアナウンスされなかった。昨年のWinHECでは、2005年にRTM(出荷版)がリリースできると説明したのに比べると明らかに後退した内容と言える。

 このことは、オルチン氏の後に登場したMicrosoftの会長兼CSA(最高ソフトウェア開発責任者)のビル・ゲイツ氏の講演でも同様だった。ゲイツ氏の基調講演でもLonghornについてはほとんど触れられず、将来の話としてわずかに登場する程度だった。

 Longhornに関して、その機能に関して取り上げられることも少なくないが、報道の多くは「いつ出荷されるのか」ということに焦点を当てたものが多くなっている。というのも、すでにWindows XPが2001年にリリースされてから3年近くが過ぎようとしており、PC業界関係者の多くは、次のカンフル剤としてLonghornに期待を寄せているからだ。

 しかし、多くのPC業界関係者は、Longhornのスケジュールが今後も先延ばしになるだろうと予想している。というのも、Longhornでは、ユーザーインターフェイスも、ファイルシステムも、ほとんどすべてが一新されてしまうほどのアップデートになるからだ。

 このため、今回のWinHECで、Microsoftの幹部がどのような発言をするのか注目されていたが、今回もLonghornのスケジュールに関して口をつぐんでしまったことで、逆にそのような噂に拍車をかけてしまうことは避けられない情勢だ。

Windowsのクライアントロードマップ。Longhornに関してはβ版の提供が2005年になるとだけ説明された Windowsのサーバーロードマップ。Longhorn Serverのβ版提供は2005年

●集まったエンジニアに「64bitWindowsにドライバを開発して欲しい」と語りかける

 昨年のWinHECにおいて、AMD64に対応した64bit版のWindows(Windows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systems)を配布したMicrosoftだが、今年のWinHECでも、引き続き64bit版Windowsの配布を行なったほか、オルチン副社長が「Windows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systemsは第4四半期にRTMを出荷する」と説明し、集まった開発者に対して64bit版Windowsへの対応を訴えた。

 ゲイツ会長は、「プロセッサに関しては、現在2つの進化が進行している。1つは「x64」であり、もう1つがマルチコアへの対応だ」と説明し、今後新しいプロセッサの2つのテクノロジをMicrosoftが積極的にサポートしていくことを明らかにした。特に、x64とMicrosoftが呼ぶ64bitのx86命令、つまりAMD64とIA-32eに関しては、Windows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systemsという新製品が控えているだけに、かなり積極的にアピールしていた。

 「私の予想では、2005年の終わりにはAMDが出荷するCPUはほぼ100%がx64に対応し、Intelもほとんどがx64に対応してくると思う。DirectXやBluetoothなどWindows XPのすべての機能が搭載されており、ホームユース、ビジネスユースのどちらにもメリットがある」(ゲイツ氏)と述べ、実際に色眼鏡を利用した3Dアプリケーションの作成にx64を利用するというデモを行ない、その処理能力の高さを強調した。

 Windows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systemsでは、32bitアプリケーションがそのままのバイナリで実行することが可能になっているが、デバイスドライバに関しては32bit OS用のものは利用できない。つまり、デバイスドライバに関しては作り直す必要がある。そこで、オルチン副社長は集まったエンジニアに向かって「64bitWindowsでは64bitのデバイスドライバが必要になる。ぜひとも64bit Windowsに対応したデバイスドライバを開発して欲しい」と訴えた。

プロセッサ関連では、x64(AMD64/IA-32e)とマルチコアへの対応が重要と説明 複雑なシミュレーションなども64bit命令セットを利用すれば、高い処理能力で行なうことができるとデモ
3Dの複雑な演算も、64bit命令セットでできるというデモ。3D用のめがねが来場者に配布された

●Windows Home Conceptを実現したコンセプトPCを公開る

 64bit Windowsと共に、今回の基調講演で話題の中心にあったのが、Microsoftが“Windows Home Concept”と呼ぶ、デジタルホームにおけるAV機能を備えたPCのビジョンだ。

 今回、Microsoftは「Home Center Concept PC」、「Home Center Concept Remote」、「Home Tablet Concept PC」と呼ぶ3つのコンセプトデバイスを公開した。

 ゲイツ氏の公演中で公開されたプロトタイプは、テレビの横に置くメディアサーバー型のPCとなる「Home Center Concept PC」、Home Center Concept PCをコントロールするための「Home Center Concept Remote」、さらにはTablet PCのパーソナル版という位置づけとなる「Home Tablet Concept PC」の3つのデバイスだ。いずれもMicrosoftとHPが共同で開発したものであるという。

 Home Center Concept PCにはOSとしてWindows XP Media Center Editionが採用されており、タワー型PCを横置きにしたような形状をしている。ユニークなのは、ボディに文字情報を表示する機能などが用意されており、例えば電話が着信したりすると、番号から着信相手の名前などを表示させることができるという。

 実際、デモではテレビを見ている時に電話がかかってくると、その相手の写真が画面にポップアップしたり、かかってきた相手に関する情報をMedia Center Editionの10フィートGUIで表示できる様子などが公開された。現在のバージョンのWindows XP Media Center Edition 2004にはそうした機能は用意されていないため、おそらく次世代バージョンである“Symphony”ではないかと思われる。

 Home Center Concept Remoteは、Home Center Concept PCのリモコンで、MCEのユーザーインターフェイスをリモコンのLCDに表示させて、本体の操作をより容易に行なうことができる。マイクや指紋認証の機能なども用意されており、Home Center Concept Remoteを音声で操作したりということも可能になっている。

 Home Tablet Concept PCは家庭向けのTablet PCで、OSにはWindows XP Media Center Editionが採用されているという。普段は、壁に取り付けたドッキングステーションに取り付けて利用できるほか、取り外してTablet PCとして利用することも可能であるという。また、Home Center Concept PCに入っているセカンドチューナを利用して、TVを見るという使い方も可能になる。

 ゲイツ氏は「ハードウェアだけでなく、音声認識や、3Dグラフィックス、リアルタイム通信、GUIの進化などソフトウェアも進化している。それらによって、ユーザーにより新しい楽しみ方を提案できるはずだ」と述べ、Microsoftが今後Windowsにこうした機能を搭載していくことで、“Windows Home Concept”を推進していくという意気込みを示した。

ソフトウェアの革新が新しいブレイクスルーを実現するとゲイツ氏は説明 Home Center Concept PC。ケース自体に文字を表示させたりというユニークな機能を持っている。説明員が手に持っているのがHome Center Concept Remote
次世代Media Center Editionと思われるユーザーインターフェイスを利用したデモ。かかってきた電話を受けて、その相手に関する情報表示をリモコンで行なうことが可能
テレビを閲覧中に電話に出たくないときにはDo Not Disturb(ホテルなどで従業員に部屋に入ってきて欲しくないときに出しておく札)の札を出しておいて受信を拒否することもできる Home Tablet Concept PCは、Media Center Editionが導入された家庭用のTablet PC

□WinHEC 2004のホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/winhec/

(2004年5月6日)

[Reported by 笠原一輝]


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