Microsoftはレドモンドの本社キャンパス内に、実際の住居を模した「Digital Home Experience」ルームや、情報ドリブンに様々な機能が連携する使い方、機能を提案・デモする「Center for Information Worker」といった設備を設置し、将来のコンピューティング環境に関して様々な提案を行なっている。 米シアトルで開催しているWinHEC 2004では、そうした場で紹介されているコンセプトデモの一部が披露された。その触りの部分はMicrosoft上席副社長のジム・オルチン氏の基調講演でも紹介されたが、別途展示会場では担当者が詳細なデモを行なっていたので、そのレポートをお届けしたい。 ●“人”を中心にした情報アシストを実現 MicrosoftとHewlett-Packard(HP)は、昨年ニューオーリンズで開催されたWinHEC 2003で「Athens」と名付けられたコンセプトPCを展示していた。Athenは特徴的なデザインもさることながら、電話技術を積極的にPCに取り込んだハードウェアとソフトウェアの機能がユニークだった。 今年はその後継となる「Troy」を展示している。Troyにはボリュームや再生、ストップなどのオーディオコントロールキーのほか、受話器音量やハングアップなどの操作を行なうボタンと、ボタン機能のガイドを行なう液晶ディスプレイ、Pocket PCのクレイドルなどが統合されている。
電話をかけるとき、あるいはかかってきた電話に応答するときなどにWindowsと連動するのはAthensの時と同じ。通常の加入者回線とIP電話が統合されており、ユーザーは通常、その違いを意識することはない。しかし、Troyのデモでは電話などでコミュニケーションを取る際の、インフォメーションの出し方がより洗練されている。 ユーザーに電話がかかると、相手の写真と名前がポップアップ。電話を受けるか辞退するかを選択できる。このとき、ボタンひとつでも応答できるが、たとえば電話を辞退するときに、ミーティング中、他の電話に出ている、10分後にかけなおすなど、任意のメッセージを相手に伝えることが可能だ。 電話に応答すると、かかってきた相手の詳細な情報がデータベースから呼び出され、画面上に自動的に表示される。このウィンドウでは、通話相手とこれまでにどのような連絡を取り合ってきたか、その履歴が表示される。通話履歴だけでなく、電子メールとインスタントメッセージの履歴、内容ともリンクしている。 通話中、たとえば特定の書類を共有しながら会話することも可能だ。相手が同じようにWindowsを使っていれば、書類をドラッグ&ドロップすることでアプリケーション共有が始まり、同じ書類を元に会話を行なえる。会話履歴には、どの書類のどの版を元に会話が行なわれたかも記録され、次回のコミュニケーション時に活かされる。付箋紙機能もあり、会話履歴に関連付ける属性が与えられた付箋にメモを記入しておくこともできる。 さらに通話相手の詳細な情報を得たければ、別ウィンドウを呼び出すことで公開スケジュール、メールやインスタントメッセージ(IM)で通信した内容にも一発でアクセスできる。“この前IMで伝えた、アレってどうなった?”なんて時にもすぐに履歴情報にアクセスでき、“来週、ミーティングのスケジュールを立てたいけど、予定はどうなっているのかな?”といった情報を見ながら会話できるわけだ。
なお、これらの機能はLonghornの一部として提供され、APIを通じてすべてのアプリケーションが利用可能になる。通信相手の情報や通信履歴など人を中心としたコミュニケーションの切り口は、WinFSの中にデータベースとして収められ、他のアプリケーションから情報を再利用することも可能である。 またBluetooth内蔵携帯電話との接続もサポート。携帯電話に着信があると、Troy内蔵電話と同様にWindows上に相手の情報が表示される。電子メールやインスタントメッセージなどを含む通信履歴を、Bluetooth経由で同期することも可能だ。 ●ユーザーとPCのコミュニケーションを意識したWindows Homeコンセプト 一方、家庭の中で使われるPCの将来形として展示されていたのは、白い石版のようなPCである。このコンセプトマシンも、やはりHPとの共同開発だが、開発コード名に関してはアナウンスされなかった。
多少Apple Computerのマシンにも似たコンセプトのPCは、薄型で奥行きは6~8cmほどしかない。石版のように見える筐体には2列分の文字ディスプレイが内蔵されており、起動時に挨拶をしたり、再生中のコンテンツタイトルを表示したり、あるいは名前を呼んでメールなどの着信を知らせるといった機能がある。 ディスプレイとして大型プラズマディスプレイが接続され、その上でMedia Centerの将来バージョンが動作していた。徹底したPlug & Playを目指し、ゲームやDVDなどのコンテンツディスクを筐体の上部から挿入すると、その場でプレイできる。 また本機にはカラー液晶パネルが搭載された次世代のリモコンデバイスが付属する。リモコン上のカラーディスプレイには実行中のアプリケーションの情報が表示されたり、あるいはIMを受信したとき、相手のメッセージや写真などが表示される。またリモコンにはマイクも内蔵され、マイクを使って起動するとユーザーを認識し、前述の筐体ディスプレイに挨拶を表示する。 操作を音声で行なうことも可能で、直接、Media Centerのコンテンツを呼び出すことも可能だ。たとえば特定アーティストの名前で検索を行ない、ヒットしたアルバムの再生を行なうことができる。メニューの階層に縛られないため、音楽を再生させてからスライドショウを実行するといった手順を踏むことなく、スライドショウ実行中に音声でBGMを呼び出すことなどが可能になる。
Windows Homeコンセプトではほかに、「Family Hub」というコンセプトも披露された。Family Hubとは、その名の通り家族のコミュニケーションハブとなるデバイスで、展示会場(および基調講演)では壁掛け型のTablet PCとしてコンセプトの実装が図られている。 手書きメモを貼り付けておいたり、ピクチャーフレームとして動作したり、手書きインスタントメッセージの送信に使ったりといった用途が考えられている。壁に掛けた本体は簡単に取り外しが可能で、通常のTablet PCとしても利用できた。 ただし担当者は、あくまでもFamily Hubというコンセプトを見せるためのもので、実際にどのWindowsを用いて製品化を目指すかは全くの未定としている。フル機能のWindowsではなく、組み込みバージョンに専用ソフトウェアを組み合わせたり、あるいはWindows CEベースで作るといったことも考えられるからだ。 ●Simple and Coolを目指した要素技術 このほか、MicrosoftがPC改善の手法として上げているキーワードに関連した、いくつかの機能を簡単に紹介しておきたい。 Simpleな設定を行なう手法として、Microsoftは「Windows Smart Network Key」という技術を組み込み、関連ハードウェアの対応を勧めようとしている。実装のタイミングはWindows XP SP2というから、もうすぐのことだ。 さらなる詳細は別途紹介したいと考えているが、USBメモリにネットワーク設定情報を記録しておき、それを挿入するだけで無線LANの設定を完了できるというもの。設定情報はWindows XP SP2の追加機能である無線LAN接続ウィザードの中で保存する。このUSBメモリを別のWindows XP SP2インストールPCや、無線LAN対応プリンタのUSBポートに接続すると、難しい操作なしに無線LANに参加させることができるほか、対応アクセスポイントを用いると保存した情報をアクセスポイント側に読み込ませて自動設定させることも可能だ。 MicrosoftはUSBメモリの活用に積極的で、USBメモリ内に設定情報を記録して企業内ユーザーに配布し、新しいPCが届いた時にUSBメモリを挿入すると、その中に記録された情報を元に自動的に環境を構築するといった機能も開発しているという。
一方、「Windows Power Sense」テクノロジは、より細かなホームコンピュータ向けの電源管理機能。プロセッサやチップセットの電源管理機能、内蔵デバイスの電源などを、従来よりも細かく管理することで、超高速の復帰(デモでは家電並みだった)やスタンバイへの移行が可能だった。ソフトウェアの動作とも連動しており、ダウンロード中に電源オフを指示することも可能。その場合、必要最小限のパート以外の電源が落ち、バックグラウンドで少ない消費電力をキープしながらダウンロードが継続される。 徹底した電源管理により静音化も図ることができるという。なお、デモ機はAMDのAthlon 64プラットフォームで構築されていた。またPower SenseそのものはWindows XPの上に実装されており、時期などは未定ながら対応ハードウェアの動向を見てリリースされるという。 □WinHEC 2004のホームページ(英文) (2004年5月6日) [Text by 本田雅一]
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