Microsoftはここ数年、Windowsと他のネットワーク対応デバイスをシームレスに接続する技術に関して熱心だが、米シアトルで開催中のハードウェア開発者向け会議「WinHEC 2004」では、またも新しいプロトコルについて話した。 「Windows Network Connected Device (NCD)」と名付けられた新しい仕組みは、ネットワークを通じ、あたかもPlug & PlayデバイスがローカルのI/Oパスに接続されたように動作させる仕組みだ。 Microsoftはこれまでデジタルホーム実現に向け、「Universal Plug & Play (UPnP)」や、UPnPをベースに様々なデバイスの相互接続性向上を目指している「DHWG (Digital Home Working Group)」、Windows MediaやDHWGでの成果を基礎に、Windowsをメディアサーバに仕立てる「Windows Media Connect」といった技術に力を入れてきた。(もちろん、これらの技術に関しても今回のWinHECではアップデートがあるが、それらは追って紹介したい)。 そして、NCDはMicrosoftのデジタルホーム実現に向けた取り組みの中でも、最新のものになる。 ●ネットワーク経由でPnPハードウェアを利用
NCDをごくごく簡単に説明すると、ネットワークを通じてハードウェアをインストールするためのプロトコルである。 たとえばUSB端子にカメラを接続すると、USBの中で通信チャネルが確保され、そのチャネルを通じてハードウェアの情報を収集。Windows PnPのルールに則ってドライバの検出、インストールプロセスが走る。インストール後、カメラはそのPCの一部となって機能し、USBを通じて動画ストリームを送信し始める。これは、PnPの技術が確立されて以降、ごく当たり前の動作だ。 NCDでは、この例におけるUSBの部分が丸ごとIPネットワークに置き換えられる。 ネットワークを通じてコンピュータにカメラを接続しようとすると、IPネットワークの中で通信チャネルが確立され、そのチャネルを通じてハードウェアの情報を収集。PnPのルールに則ってドライバの検出、インストールプロセスが走る。インストール後、カメラはそのPCの一部となって機能し、IPネットワークを通じて動画ストリームを送信し始める。 つまり、IPネットワークに対して透過的に設計されたPnPがNCDというわけだ。 NCDを用いれば、ネットワーク上で同一セグメントに接続されたハードウェアは、あたかもPCローカルに接続されたハードウェアのように利用できる。 MicrosoftはNCDの必要性に関して「Windows 3.1時代にユーザーを苦しめたハードウェア構成の難しさは、デバイスごとに共通のインストール手順が提供されなかったこと、(当時の)Windowsがサポートするデバイスの種類が限られていたことが原因だった。こうした問題はWindows 95以降のPnPを熟成することで解決してきたが、ホームネットワークの中においては同様の問題が生まれてきた」と話す。 ネットワークを通じて相互接続される機器は、互いの接続を行なうための標準的な手段や、ユーザーインターフェイスを持たず、機器構成のやり方もまちまち。さらには現時点におけるWindowsは、ネットワーク透過なハードウェアをほとんどサポートしておらず、PCとそれらの機器がつながるためには、機器ベンダーが独自に接続・構成のためのユーティリティを提供しなければならない。 しかし、NCDに対応することでWindowsユーザーにとって慣れ親しんだPnPインストールプロセスをネットワーク対応機器との接続でも利用できるようになる。 ●UPnPの拡張による実装 さて、ネットワークを通じてPnPを実現するというコンセプトは、NCDが最初というわけではない。Microsoft自身が'90年代終わりから提案してきたUPnPはその代表的な例だ。 UPnPは標準的ないくつかのプロトコルを組み合わせ、ネットワーク内にある互換デバイスを検索。各デバイスの種類や能力を把握する仕組みや、デバイスの簡易ディレクトリ管理、簡易IPアドレス管理を行なう仕組みが提供されている。UPnPに対応した機器は、Ethernetに接続することで、自動的にIPネットワークに参加可能となり、またネットワーク内の状況を簡単に知ることができる。 MicrosoftはこのUPnPのメカニズムを利用してIPネットワーク内での相互接続を確立し、さらに特定アプリケーションにおける通信手順やデータフォーマットを決めるDHWGの取り組みにも参加している。DHWGの取り組みが拡大していけば、ネットワーク機器はメーカーの違いなどを意識せず、シームレスに接続されるハズである。 しかし、DHWGで決めるベンダーに依存しない共通仕様は、機器の相互接続を阻害しないための最低限のルールだ。したがって、DHWGの手順で機器同士がつながっても、当初はAVストリームと機器制御コードなど、デジタルホームの中で重要となる限られたアプリケーションのみしか実装されない。また、将来的にもWindowsのフル機能を活かすような仕組みとはなり得ないのは明らかだろう。 Microsoftは、NCDによってDHWGの取り組みを台無しにする、といった意図はなく、UPnPとその上に乗せるアプリケーションプロトコルだけでは実現できない機能を、IPネットワーク上で実現させるために開発したものだと話す。また、NCDはUPnPを拡張したものであり、NCDはUPnPに対する上位互換性を持っている。 実際にネットワークの状態を調査し、各デバイスの履歴書をXMLで取ると、その履歴書の中にデバイスの種類や能力、名前などが記されている。そのXMLの中に、NCDであることや拡張PnPで自動インストールするための情報が記されている。 セキュリティ面では、接続時に認証が必要なデバイス、不要なデバイスそれぞれでの扱いはBluetoothにおける相互接続認証の仕組みと似ている。ユーザー側の接続管理インターフェイスは、「マイネットワーク」にアイコンを表示し、接続の可否を管理。もちろん通信内容はSSLなどで暗号化することも可能だ。また、UPnPデバイスをNCD対応にするのは比較的容易で、もちろん、両対応にすることもできる。 NCD対応デバイスの基本的なサポートレイヤーは、PnPデバイスと同様にクラスドライバがMicrosoftから提供され、ネットワーク経由で利用する周辺機器としてつながるものとなる。ネットワーク上でのチャネルを構成するプロトコルに関しても、Indigo、.NET Framework、WSDAPI、UPnP、WinSock、あるいはカーネルモードでサポートされるローレベルのプロトコルなど用途に応じてあらゆる選択肢から選ぶことが可能だ。 ●広がる使い方 WinHEC 2004では、NCDのデモ環境が入ったCDも配布された。Windows側のNCDサポートサービスをインストール、起動し、NCDデバイスの認証や拒否を行なうツール、ネットワーク対応ピクチャフレームをエミュレートするサンプルコードなどが付属する。 実際に動かしてみたところ、ピクチャフレームを起動するとNCD対応PCを発見、接続すると自動的にドライバインストールプロセスが走ることが確認できた。その振る舞いは、USB端子をPCに挿入した時と同様だ。展示会場でも、ピクチャフレームがネットワーク経由でPC上の画像をダウンロード、表示するデモが行なわれていた。 NCDを用いれば、Windowsで利用できるほとんどすべてのデバイスを、ネットワーク透過で簡単に利用可能になる。 たとえばスキャナ、FAX、プリンタ、コピーが統合された複合機の場合、FAX送信とプリンタはWindowsのプリンタ共有機能でネットワーク経由の利用が可能だが、スキャナやFAX送信をネットワーク透過で利用するには、何らかのネットワーク対応ソフトウェア、ツールを実装しなければならない。NCDはこれらのデバイスクラスをローカルで接続した場合と同じようにサポートしているので、あたかも直接接続しているかのように動作させることが可能になる。 あるいはPC上でNCDのエミュレートを行なうソフトウェアを走らせれば、手元のPCに接続されている非NCDデバイスを、別のPC上に接続しなおしたかのように利用させることもできるはずだ。 たとえば手元のノートPCで、キーボードやマウスが接続されていないホームサーバを直接操作したり、別PCのWAVデバイスを鳴らしたりなどなど、実際にどのように使われるかはともかく、制限が極端に少なくなる。ローカルのバスで繋がっているあらゆるWindowsデバイスは、NCDによりネットワークの向こう側に分離できてしまうのだから強力だ。 MicrosoftはNCDの実装に関して“Longhornで”という言い方はしていない。もちろんLonghornでも実装するだろうが、Windows XPでも利用可能にするものと思われる。ただし、NCD実装のためのキックオフカンファレンスは、2005年第1四半期に開催される予定とのこと。今回のWinHEC 2004におけるアナウンスは、“NCDという仕組みを提供するので将来の製品での組み込みを意識して欲しい”といった意味合いしかない。 しかしホームネットワークの中におけるPCの立ち位置を強化する取り組みとして、NCDは非常に興味深いものとは言えるだろう。 □WinHEC 2004のホームページ(英文) (2004年5月6日) [Text by 本田雅一]
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