第230回
WiMAXをWAN通信に…は日本でも通用するか?



 さて、長い旅となった米国出張。前回デジタルイメージング関係の取材で、ラスベガス、ニューヨークと渡り、次に向かったのは、先週、本誌でも多くの記事が掲載されたサンフランシスコでのIntel Developers Forum Sprng 2004。

 初めてIDFに参加したのは'98年のことだったと思うが、それから毎年欠かさず2回のIDFを取材していたのだが、今回到着したのは2日目の午後3時のことだった。

●モバイル用途にも魅力的なWiMAXだが、日本での普及には疑問も

IDF Spring 2004におけるショーン・マローニ氏

 IDFでは毎回、多くの話題があり、後ろの方の参加だけでもある程度楽しむことはできたが、その中から“モバイル”を切り口に話題をひとつ切り出すとすれば、最終日にIntel コミュニケーショングループジェネラルマネージャ兼上席副社長のショーン・マローニ氏の基調講演を取り上げたい。

 マローニ氏はブロードバンドの普及こそが、PC業界発展に必要なことと説き、そのキーテクノロジとしてWiMAX(IEEE 802.16)を挙げた。WiMAXに関しては数多くの報道があり、前回のIDFでも紹介された技術。基地局から最大で半径約50kmのエリアに対して、最大70Mbpsのワイヤレスブロードバンド通信を提供可能な技術だ。

 現在、ブロードバンド環境の世帯普及率で50%を越えているのは、世界でも日本と韓国だけ。帯域あたりのアクセス料でもこの2国は他を圧倒している。言い換えれば、何年も前から言われているブロードバンド革命は、まだまだインフラ面での整備が進んでおらず、思い通りにビジネス環境は整っていないことを示しており、ブロードバンド環境の整備が進めば、ブロードバンド向けサービスが急速に立ち上がる可能性がある。

 いや、PCのパフォーマンスを活かすためには、そうならなければならない、とIntel自身が切実に思っているということか。

 WiMAXは来年、つまり2005年前半からサービスが開始される見込みで、現在、DSLやFTTHの整備が望めない地区でのブロードバンド環境整備が進むと見られている。またその後、2006年中にはモバイル端末向けのWiMAXアダプタが登場するという。最大70Mbpsの屋外ブロードバンド通信環境が実現というのは、聞き捨てならない話だ。

 もっとも、すでに“引こうと思えばいつでも引ける”日本では、WiMAXのインフラ整備に疑問がないわけではない。ニーズの問題だけでなく、日本の環境に向いているかどうかにも不透明な要素がある。

 70Mbpsというのは、ひとつの基地局が提供する帯域だから、同じチャンネルで同じ基地局にアクセスしているユーザーは、その帯域を共有することになる。従ってユーザー密度の高い地域では多くの基地局を設置せざるを得ず、コスト面でのメリットがあるかどうか? WiMAXは基本的に、ユーザー密度が比較的低い地域でこそ生きる技術のように思える。

 もちろん、日本でも地域によっては有望な技術だと思うが、すでにDSL、FTTHのインフラ整備が全国的に展開している日本では、WiMAXはマイナーな技術になるかもしれない。全国的にWiMAXのインフラが広がらないとすると、その先にあるモバイルアクセスインフラとして使う案も成立しないわけだから、PHSパケット通信の“次”として期待しすぎると、残念な思いをするかも。

 ただし、日本以外でならば、モバイルIPフォンのインフラなどにも将来は活用される可能性があり、引き続き注目すべき技術であることは間違いない。

●思惑通りに進むことを願いたいDHWG

 今、DHWG(Digital Home Working Group)の広報活動にもっとも積極的なのは、間違いなくIntelだろう。元々、DHWGはソニーが考えていたビジョンに、MicrosoftとIntelが賛同し、3社で細かな部分を詰めながら、協議を重ねてきた仕様を元に発足させた作業部会である。

 基礎技術にUniversal Plug&Play(UPnP)をベースに、その上に実装するアプリケーションプロトコルについて標準を定め(アプリケーションプロトコルの基礎部分はUPnPでも決められている)、さらには標準CODECや相互運用を高めるための基礎的な決めごとなどを設定するなどして、ネットワーク間でのデバイス相互接続を実現する。

 現在、特に立ち上げを急いでいるのが、ホームネットワーク内でのAVコンテンツ共有である。また、その先にはAV機器の機能をリモートで利用したり(別のチューナユニットが提供するテレビ機能をリモートでライブ表示など)、写真やビデオのプリントアウトソリューション、トランスコードして携帯電話と接続するといったアプリケーションも想定されている。

 なお、あまり語られることはないが、DHWGが基礎技術としているUPnPのプロトコルは、IPさえ通れば物理的なネットワークの形態には囚われない。有線LANや無線LANはもちろん、電灯線ネットワークでも、IEEE 1394でも、USBでも、Bluetoothでも構わないし、PCなどのデバイスが代理応答すれば、IPに対応していないデバイスもUPnPデバイスのように扱うことができる。しかも、物理的なネットワーク形態を、アプリケーション側は全く意識しなくていい。

 今回のIDFでも、IntelはDHWGでの成果がエンドユーザー製品に反映されつつある状況をアピールしており、今週は会長のバレット氏が来日してDHWGでの成果が日本の製品に実装されていることを説明した。僕自身は、Intelのプロセッサ出荷スケジュールよりも、ずっとDHWGでの活動の方が興味深いと感じている。

 たとえプロセッサのリリースがIntelの思惑通りに進まなかったとしても、DHWGの成果はIntelの思惑通りに進むことを願いたい。

●微妙なiPod miniのスペック

Apple iPod mini

 さて、IDF最終日の翌日にはiPod miniの発売というイベントもあった。僕自身は発売日の12時前には成田へのフライトがあったため、発売イベントには参加していないが、前日に販売店に出掛けてみた。結局、前日にも資料はたいしてあるわけでもなく……という状況だったが、いずれにしろイマイチ食指が伸びる製品では無かった。

 ひとつには4GBという微妙な容量がある。iPod miniの価格は15GB版iPodより少し安い程度。最近、音楽データを整理したこともあり、手持ちのMP3ファイル容量は減っているが、それでも12GB程度になる。4GBだと、その中から好みの曲を選択して持ち出すことになるが、どうせならあと数十gの質量ですべてを持ち歩ける機種を選びたい、と思うからだ。

 そもそも、いくら小型・軽量とはいえ、音楽しか聞けない製品に249ドルを投じるのにも抵抗を感じる。兄貴分のiPodなら、オプションでボイスレコーダ機能やメモリカードのデータ吸い上げといった機能も利用可能だが、iPod miniの容量ではメモリカードのデータ吸い上げ機能が実現されてもイマイチ魅力的ではない。

iRever iHP-300

 ということで、個人的にiPod miniのスペックは非常に微妙なのである。もしHDD搭載音楽プレーヤを買うならば、大容量HDDを搭載し、かつマルチパーパスで使える製品を選ぶことになるだろう。現時点での第1候補はiReverがリリース予定の新型機「iHP-300」だ。USBストレージクラスのデジタルカメラからのデータ吸い上げ、MP3レコーディング機能などに対応。カラー液晶画面で吸い上げたJPEGデータの確認も行なえるとか。まだモックアップのみしか見ていないが、デザインもなかなか魅力的なものだった。

バックナンバー

(2004年2月26日)

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp 個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.