プロカメラマン山田久美夫のデジタルカメラレポート

往年の名レンズが使える、エプソンの異色デジタルカメラ



 デジタルカメラもそろそろ成熟期にさしかかり、どれを見ても、あまり目新しい感じがしなくなりつつある。

 しかし、今回、セイコーエプソンが参考出品した“異色の”デジタルカメラを見て、久々に、心底、感動してしまった。

 それが今回紹介する、世界初のレンズ交換式レンジファインダー式デジタルカメラだ。

●温故知新の新感覚モデル

 まずは、外観写真を見ていただこう。これだけで、ピンと来た人には、もう説明は無用だろう。

 そう、このモデルは、装着してある、古き良き時代のレンズからもわかるように、一眼レフが普及する前に、一時代を築いた、ライカに代表されるレンジファインダーカメラ用レンズが装着できる、本格派デジタルカメラだ。

 残念ながら、現時点では参考出品であり、正式名称はない。正確にいえば、黒テープでネーミングが隠された状態で展示されていた。

 また、本機の仕様などについても、現時点では全く公開されていない。数少ない情報としては、近年マニアの間で人気を博している「ベッサ」という35mm判レンジファインダーカメラを製造しているコシナとのパートナーシップによる開発である点と、詳細な仕様については3月に公開予定であるという、この2点のみだ。

●ベースはベッサR

 アクリル越しにカメラを見ているだけでも、このモデルの素性や魅力が手に取るように感じられる。それだけ、カメラ自体に魅力があるということだ。

 外観から判断する限り、本機のベースとなっているのはコシナの「ベッサR」であり、軍艦部(カメラ上部)やファインダー、距離計のあたりはそっくりだ。

 さらに、デジタルカメラに本来必要がない、フィルム巻き上げレバーや巻き戻し用ノブも、そのまま残されており、前面から見ている限り、35mm銀塩カメラのようにも見える。

 だが、背面に回ってみると、1.8~2インチのカラー液晶パネルがあり、ヒンジ部は上下左右に回転する、バリアングルやフリーアングルと呼ばれるタイプになっており、本機がデジタルカメラであることは一目瞭然だ。

 また、上部のシャッターダイアルを見ると、ベッサRと全く違うが、高速シャッターが1/2,000秒までになっていることを考えると、シャッターは完全な電子シャッターではなく、メカニカルシャッターを併用するタイプ。そのため、そのシャッターをチャージするために、巻き上げレバーを残してある可能性が高い。

 ただ、巻き戻しノブはとても不自然。ベッサRがベースであれば、ノブが回しやすいようにレバーが付いているのだが、それが取り払われている。たぶん、このノブを使って、各種モード設定でもするのだろう。

 そしてカメラ上面にはアナログ指針によるメーターが配置されている。アナログ指針が時計を思わせエプソンが精工舎の流れを汲むことを思い出させる。しかも、よくよく見ると、外周が撮影枚数(残数)で、なかにはバッテリー残量のような表示もあり、趣味性と実用性を兼ね備えた、なかなか楽しめるものに仕上がっている感じだ。

コシナとの協力関係から生まれた 詳細情報は3月に公開される
●レンジファインダー式カメラとは?

 さて、そもそもレンジファインダーカメラのことを知らない人のために、その特徴をごく簡単に紹介しておこう。

 このタイプのカメラは、一眼レフと違って、撮影レンズとファインダーが全く独立したものとなっており、撮影時には、コンパクトカメラのようにレンジファインダー(ビューファインダー)で構図を決めて撮影するものだ。

 ピント合わせは、カメラに左右の視差を利用した高精度な距離計が付いており、ファインダー中央に見える2つの画像が一致するように、距離リングを回して調整することで(二重像合致式)、ピントのあった写真が撮れるようになっている。

 もちろん、35mm一眼レフのような正確なフレーミングは難しいが、そのぶん、ファインダーがクリアで、しかも、写る瞬間をファインダーを通して確認できることもあって、シャッターチャンスがつかみやすいという大きなメリットがある。そのため、いまもスナップショット用として第一線の報道カメラマンに愛用されているほどだ。

 ある意味では、ポピュラーなコンパクトタイプのデジタルカメラで、光学ファインダーを使って撮影するのに近いものだが、最大の特徴は、レンズが交換できる点にある。

 このレンズには、いくつかレンズマウントの規格があり、そのなかでも、ねじ式のLマウントと、バヨネット式のMマウント(およびその互換マウント)が代表的なものといえる。また、変換アダプターを併用することで、LマウントレンズをMマウントに変換することもできるため、Mマウントのカメラであれば、同マウントの新旧各社のレンズが自由に装着できる点が最大の魅力だ。

 そして今回、エプソンが参考出品したモデルは、アクリル越しに見る限り、装着レンズから見ても、このMマウント互換のレンズマウントを採用しているようだ。

 そのため、このマウントに変換できるものであれば、戦前のレンズであっても、このデジタルカメラに装着して撮影することができるわけだ。もちろんこれは、かなりマニアックな世界の話なので、誰もが胸ときめかす世界ではないと思うが、ハマった人にとっては、まさにドップリと浸ることができる世界だ。

 本機の話から脱線してしまったようだが、実は本機の周囲には、まさに往年の名レンズ、銘玉が展示されており、展示機の一台にはコシナのカラースコパー。もう一台には、ライツのヘクトールが装着されていたことから見ても、「デジタルでも、こんな楽しみ方ができますよ」というメッセージが伝わってくる。

●撮像素子はAPS-C ?

 もっとも気になるのは、撮像素子だ。画角を考えると、本来は35mmフルサイズの撮像素子を搭載したいのだろうが、コストから考えると無謀。また、本機の生産台数を考えると、専用のセンサーを起こすことは考えにくい。となると、(想像の域を脱しないが)撮像素子は汎用性の高い、APS-Cサイズの600万画素あたりに落ち着いているのではないだろうか?

 フォーサーズの賛同メーカーにエプソンが名前を連ねていれば、4/3型CCDの可能性もあったが、それもなさそうだし、2/3型では画角が違いすぎて、このファインダーでは現実的なフレーミングできないことから見ても、APS-Cサイズあたりが妥当な線だろう。

 最近ではAPS-CサイズのCCD搭載一眼レフも、軒並み12~15万円くらいの価格帯になっている。そこから想像すると、本機の価格は、その特殊性を考慮して、その2~3倍くらいではないだろうか? もし、30万円前後で入手できるのであれば、使ってみたいという人は意外に多いのではないだろうか?

 今回のPMAは初日から、これほど魅力的で、想像力をかき立てるモデルを目にすることができたわけだが、本機はまだ開発発表段階であり、完全に発売が決まっているというわけではない点が、唯一気になる。

 なにしろ、すでに一眼レフ用レンズシステムが充実している、大手カメラメーカーが、このようなモデルを作ることは考えにくく、いわゆる家電系メーカーもその顔ぶれを見ると、かなり無理がありそうだ。

 そう考えると、このような、いい意味で趣味性の強いデジタルカメラを発売できるのは、エプソンくらいしか思い当たらない。それだけに、このモデルはぜひともきちんとした形で製品化してほしい。

 まずは、3月の詳細情報の発表を心待ちにしたい。

□エプソンのホームページ
http://www.epson.co.jp/
□コシナのホームページ
http://www.cosina.co.jp/
□関連記事
【2月13日】【PMA】エプソン、世界初のレンズ交換式レンジファインダーデジカメを参考展示
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0213/pma05.htm

(2004年2月14日)

[Reported by 山田久美夫]


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