ニコンの直販サイト「ニコンオンラインショップ」で発売された「クリーニングキットプロ」は、その名の通りプロ向けのカメラ掃除道具と、CD-ROMマニュアルのセットだ。このキットのキモは、本体やファインダー、レンズなどのクリーニングができるのはもちろん、「レンズ交換式デジタル一眼レフのイメージセンサーをクリーニングできる」ところにある。 ●デジタル一眼のゴミ---小さくて大きな問題
レンズ交換式デジタル一眼レフのレンズ交換時に、ボディの中にゴミやホコリが入り、これがイメージセンサーに付着、撮影した画像に写りこむ、という話はすでにおなじみかと思う(通常はセンサーの前にローパスフィルタなどがあるので、“ローパスフィルタに付く”などの表現が正しいが、煩雑なのでここではセンサーという表記にする)。入り込んだゴミだけでなく、内部のメカから出る金属粉なども問題になる。 センサーのゴミが画像に占める面積は、ともすれば見逃してしまうほど小さい。が、気づいてしまうとその存在感は大きなものになる。そして、サポート窓口にカメラを預ける余裕がないときほど、ゴミを見つけてしまうものだ。 レンズ交換式デジタル一眼レフでは、シャッタースピードをバルブにセットしてミラーアップすれば、レンズマウントからセンサーを覗くことができる。綿棒で簡単に掃除できそうに見えるが、センサーやフィルタ、シャッター、ミラーといったデリケートなパーツを壊す可能性がある。 だからなのかどうか、ユーザーによるセンサー清掃を推奨しているメーカーは、ない(筆者の知る範囲では)。メーカーのサポート窓口に持ち込んだり、送付して、清掃してもらうのが王道だ。が、これには費用もかかれば時間もかかる。送付ともなれば、輸送中に別なトラブルが起きるリスクを、重ねて負うことになる。 そんなわけで、ユーザーによるクリーニングキットをニコン自身が発売したことは、とても画期だ。一部のプロ向けカメラショップなどで、アメリカのサポート要員が使用しているというクリーニング用品が販売されている例はあるが、メーカー自らのブランドとして、こうしたものを用意した例は、聞いたことがない。 ●いかにもプロの道具 早速、編集部でもニコンオンラインショップで注文してみた。価格は7,800円(税別)。同ショップでは、ニコンイメージング会員が5,000円以上購入すると、送料が無料になる。会員には、誰でも無料でなれる。注文から2日ほどで品物が届いた。 ただし、このキットだけで必要なものがすべて揃うわけではない。ニコンのデジタル一眼レフには、ACアダプタを装着しないと掃除できないものがある。ACアダプタは本体とは別売りだ。これがだいたい1万円する。 また、掃除には「無水エタノール」が必要だが、これも同梱されていない。無水エタノールは火気厳禁の危険物だからか、薬局で別に買わなければならない。こちらは500ml壜が1,000円程度だ。
キットに含まれているのは、クリーニングスティック、クリーニングクロス、ブロアー、シルボン紙、ブラシ、ハンドラップ、それに説明CD-ROMが2枚だ。これらがニコンのロゴ入り工具箱に収められる。工具箱は、ホームセンターに行けば1,000円以下で手に入るような樹脂製の製品だが、つくりはちゃんとしているし、クリーニングキット以外のこまごましたものを入れるスペースもある。 シルボン紙は、エタノールを染み込ませて、レンズやセンサーを拭くためのものだ。クリーニングスティックに1枚ずつ巻きつけて使う。いちいち棒に巻きつけて使うのは面倒だが、こういうところはいかにも業務用の製品らしい。同梱されているのは500枚で、足りなくなったら1,000枚1,000円で、オンラインショップやサービスセンターで購入できる。 ハンドラップは無水エタノールを入れる容器だ。厚手のガラスでできていて、重く、頑丈そうだ。ポンプ一押しで一定量のエタノールが出るようになっていて、シルボン紙に無駄なエタノールを染み込ませないようになっている。これまたいかにもプロの道具っぽい。
クリーニングクロスやブロアーは、カメラ屋で売っているものと同じもの。というか、カメラ屋ではもっと大きなブロアーやクロスだって売っている。7,800円もするキットに含まれる用品としては、ちとチャチいような気がしないでもない。が、ニコンはこれで十分と判断したのだ。これはこれでプロっぽいのかもしれない。 ●懇切丁寧なマニュアル モノだけ見ていると、7,800円というキットの価格が高すぎるように見えるかもしれないが、このキットのハイライトは、マニュアルが収録された2枚のCD-ROMだ。ニコンのサポート窓口で行なわれている清掃方法が、このマニュアルで明かされるのだ。 1枚は「イメージセンサクリーニング説明CD」で、題名どおり、このキットでイメージセンサを掃除する方法が解説される。もう1枚は「クリーニングキットプロ説明CD」で、カメラ本体やレンズを掃除する方法が解説されている。まず、後者のほうで掃除に慣れてから、センサーにとりかかるほうがよさそうだ。 どちらのマニュアルもWebブラウザで写真入りの説明を読んでいくようになっていて、重要な部分は音声付のQuickTimeムービーでも操作が解説される。内容はたいへんわかりやすいし、両方のCDの操作方法がちゃんと統一されているのもいい。きっちり作りこまれている印象で、このマニュアルが含まれているなら7,800円という価格に納得がいくというものだ。
●練習が必要 さっそく筆者のD100の掃除にとりかかってみたのだが、すぐにセンサーを掃除できるわけではない。まず、シルボン紙をスティックに巻きつける作業に慣れたり、掃除のやり方を練習しなければならないのだ。筆者は1時間ほどかけて練習してみたが、生来の不器用がたたって、どうもうまくなった気がしない。 また、センサーの掃除に取りかかる前に、ゴミの状態を把握するため、白い紙を撮影する必要がある。ここで撮影した画像を見ながら掃除するように、とされているので、画像を印刷するとか、ディスプレイの前に作業場所を設けるといった手間も必要だ。 作業。エタノールを染み込ませたシルボン紙で、フィルタなりセンサーなりを拭くだけ。こう書くと単純で簡単そうだが、たとえば、シルボン紙を掃除の対象にどのようにあてて、どの程度の力で、どのように拭くのか、最後はどこで拭きぬくのかなど、細かくて、おろそかにできないことが多々ある。あえてここではその詳細を書かない。このキットで掃除に挑まれる方は、くれぐれもマニュアルを熟読し、動画もすべて見て、十分な練習を積んで欲しい。
●これだけですべて解決するわけではないが というわけで、このキットがあれば誰でも間単に掃除できます、というわけではない。このキットを買っても、サービスマンが使っている道具が手に入り、作業方法がわかるだけだ。作業の難易度や手間は変わらない。また、このキットで掃除中に、ユーザーがカメラやレンズを壊しても、ニコンは責任を負ってくれない。壊れたら、修理費用はユーザーが払うしかない。 だからこそ、このキットは直販サイトだけでひっそりと販売されているのであり、「プロ向け」という位置づけにもなっているのだ。 リスクは依然としてユーザーに残されている。キットを購入して自分で清掃する以外にも、「こんな面倒なことをするくらいなら、時間がかかってもサービスにまかせる」という選択肢があるし、「予備のボディをもう1台買ったほうがいい」という考え方もある。 それでも筆者は、あえてこのキットで、自ら掃除する道を選びたい。予備のボディを買えるほどの財力はないし、“愛機”は自分の手で面倒をみてやりたいものだ。ユーザーによる掃除は、肌が触れることの多いカメラという機械に、とてもふさわしい行為のように思われる。 あえて言うなら、CD-ROMのマニュアルはよくできているが、やはりこれだけでは少し不安だ。マニュアルどおりにやっても、紙の巻きつけ具合とか、力の入れ加減などが正しいのかどうか、確信がもてない。講習会など、プロにチェックしてもらえる場があるといいのだが。 □ニコンオンラインショップ (2004年2月12日) [Text by tanak-sh@impress.co.jp]
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