シグマが発売しているSDシリーズのデジタル一眼レフはほかの機種にはない大きな特長を持つ。最大の特長はFoveon(フォビオン)X3というイメージセンサーである。ほかのセンサーのような、モザイク状にRGBのカラーフィルタが配置されるベイヤ配列とはまったくちがう構造を持つ。 フィルムと同じように画素ひとつひとつがRGB3色を同時に再現できるのだ。ベイヤ配列ではひとつの画素にはひとつの色しか割り当てられていない。あとは補間により補うが、FoveonnX3はその必要がない。そのため、理論的には3倍の画素数と同じというこになる。シグマでは1,029万画素(約343万×3)としている。 また、ベイヤ配列でモザイク状にRGB画素が置かれていると、偽色(色モアレ)が出るが、FoveonnX3は原理的には偽色が出ない。このため、ローパスフィルター(LPF)を省略でき、それだけレンズの解像力をそのまま発揮できることになる。 今回はシグマ18~50mmF3.5~5.6DC標準ズームと、55~200mmF4~5.6DC望遠ズームの2本とともにテストした。 ●わかりやすい操作系だが、凡庸なデザイン シグマSD10の操作系はわかりやすい。おもな操作部と全体のレイアウトは6面写真を見ていただきたい(写真A)。 オーソドックスと言える一眼レフのスタイルで、無骨な感じもする。デジタル一眼レフなのだから、もっとデザインで冒険をしてもよかったのではないかと思う。フィルム一眼レフほど制約がないのだから、もっと自由なデザインができるはずだ。
ホールディングはいいし、重さもほどほどである。見た目よりはグリップしやすいボディだ。操作部もわかりやすく、上面右側に露出モードの切り替えダイアルがあるのは定石だが、フィルム一眼レフユーザーにもなじみやすい(写真B)。ただ、ちょっとちがうのは、モードダイアルの上にスピードダイアルがある点だ。SLOWとFASTと書いてあり、初めはなんのことだかわからなかった。これはシャッター優先AEやマニュアル露出でシャッター速度を選ぶダイアルなのである。ほかにコマンドダイアルがあるのだが、それは絞り設定に使う。慣れてくればとっさに操作はできるが、最初はとまどった。 上面左側にはメインスイッチを兼用したドライブモードダイアルがあり、1コマと連写の切り替えのほか、セルフタイマー、ミラーアップ、オートブラケットなどの設定ができる(写真C)。その左側に測光モードの切り替え(評価測光、中央重点測光、スポット測光)やら、ファンクション、AFなどの切り替えスイッチがある。このあたりのレイアウトはほかのデジタル一眼レフとちがう。しかし、すぐに慣れるので問題はないだろう。そのうしろに画質モードとISOの切り替えがある。これはちょっととまどう位置だ。液晶モニタの周囲に持ってきてくれたほうがよかった。
背面右上にはAEロックボタンと露出補正ボタンがある(写真D)。また、その下には拡大縮小再生のボタンがある。このあたりはわかりやすくできている。 液晶モニタの左側には上からMENU、VIEW(再生)、INNFO(情報)、MOD(プロテクト)、DEL(削除)ボタンが並ぶ。これはわかりやすいが、ボタンの割り付けは再考の余地があるように感じた(写真E)。液晶モニタに右には十字キー、その下にはOKボタンとキャンセルボタンがある。キヤノンやニコンとオリンパスのデジタル一眼レフの折衷のような操作系である。
記録メディアはType2 CFで、これは定石どおりの位置にある(写真F)。CFカードのカバーを開けると、液晶モニタに警告が出るのはいい。 レンズマウントはシグマ独自のSAバヨネットマウントで、大口径レンズ、超望遠レンズに対応している。レンズとのやりとりは電気接点による純電子制御で、機械連動部品はない(写真G)。
マウント部に目を近づけると、透明なプロテクターが内部にある。これがSDシリーズの第2の特長であるダストプロテクターだ(写真H)。レンズ交換時に入るゴミ、ホコリはこれでシャットアウトできる。ただし、シャッターやミラーの稼働部から出る金属粉は防止できない。このダストプロテクターをいいと思うか、それとも気休めにすぎない、と思うかはユーザ次第だ。私はもっと根本的な解決策が必要だとは思うが、大半のデジタル一眼レフよりもゴミが付きにくいことは事実だ。 あと、ファインダの視野が、写る部分とそのまわりの半透明な部分に分かれているスポーツファインダも、このSDシリーズの特長だ。しかし、一眼レフは見たままが写るのがベストで、このファインダはやや混乱を招く。もちろん、撮影視野外が見えるというのは動体撮影には有利なのだが、それなら光学式ビューファインダカメラでいいのではないかと思う。ライカ式のレンジファインダを搭載したデジタルカメラが出てくれば、このスポーツファインダはあまり意味がなくなる。あと、このスポーツファインダのために、実質的なファインダ倍率が落ちるのも問題だ。 電源はSD9では2系統必要だったが、SD10では1系統になった。CR-V3型リチウム電池2個(写真I)のほかに単3型乾電池も使える。ワールドワイドで入手しやすく、旅先でも安心して使える。
液晶モニタの表示はシンプルだ。メニューは1種類のみ(写真J1)。あとは、通常の再生(写真J2)のほかに、INFOボタンで撮影情報が表示される(写真J3)。
今回使用したレンズは両方とも小型軽量で、携帯しやすかった。とくに、55~200mmの望遠ズームレンズは驚くほど小さい(写真K)。さすがにレンズメーカーの製品という感じである。 全体として、慣れればそれほどとまどわない操作系だが、デザインはいまひとつ冒険をして欲しい。 ●価格以上のレンズ性能 実写はいつものように、順光のビルを絞りを変えて撮影する定点撮影から。18~50mm標準ズームの広角側では、わずかに前ピンとなったが、実用上問題になるほどではない(写真1左)。絞り込むと非常にシャープな画像になった(写真1右)。 望遠側では狙った位置に合焦している(写真2左)。ただし、絞り開放では全体にやや甘い描写だ。絞り込むと非常にシャープになり、文句のない描写となる(写真2右)。この実写テストは最初に想定していたよりもシビアな条件で、AFの精度がはっきり出てしまう。その意味で、AFは改良されたとはいえ、いまひとつの詰めが必要に感じた。
55~200mmの短焦点側での描写は素晴らしい(写真3左)。絞り開放からこれほどの画質を示すのは、25,000円という価格を考えるとものすごいことだ。こうなると、FoveonX3の威力がフルに発揮されているようだ。当然、絞り込むとさらに画質はよくなる(写真3右)。
望遠側では絞り開放からいい描写である(写真4左)。コントラストも高く、この望遠ズームは価格、大きさと重さ、そして描写のバランスが絶妙だ。こちらも絞り込むと画質がアップする(写真4右)。
定点撮影の2番目は夜景(レインボーブリッジ)で、このカメラにはとくにノイズリダクションはない。映像エンジンで処理しているものと思われる。15秒の長時間露出では、わずかに横縞ノイズが出ているものの、それほど気になるほどではない(写真5)。なかなかいい感じの描写になっている。ただし、ゴミが写り込んでしまった。 つぎの定番撮影は特急列車を連続撮影して、AFの追従性や連続撮影能力を見るもの。このSD10では6コマの連続撮影ができるため、かなりいい感じで動体を追うことができた(写真6)。ピントも各コマでぴったり合っている。最後のコマはややAFが迷ったが、それでもギリギリで合わせてくれて、ピントぴったりだった。 SD9ではこの動体撮影でのAF追従性がいまひとつだったが、SD10で大きく改良されている。RAW撮影専用だが、6コマ連写できるのはいい。欲を言えば、10コマ以上欲しいところだが、そうするとコストに跳ね返ってしまうだろう。
●逆光とホワイトバランスに問題 人物撮影は、逆光でレフを使って照明するという基本的な撮影方法なのだが、これが案外ときびしい。望遠ズームを使ったが、AFの精度は良く、ピントがぴったりだった(写真7左)。オートホワイトバランスもちょうどいい。ためしにデーライトにしてみたら、やや黄色がかった(写真7中)。 ただ、両方ともきれいには写っているのだが、コントラストが物足りない。それはじつは逆光でフレアが起きているせいなのだ。フードはもちろん使っているが、それでもフレアが出ている。ためしに本でレンズ前玉に当たる斜め光をカットしてみたら、段違いにクリアな画像となった(写真7右)。このレンズは逆光にはやや弱いようである。
つぎはタングステン光下でのオートホワイトバランスのチェックだ。オートまかせでもかなり補正されたが、わずかに黄色みが残っている(写真8左)。ただ、白熱電球モードにすると、補正過剰になってしまう(写真8右)。
蛍光灯でもオートとマニュアルの撮り比べをした。オートホワイトバランスでは、やや黄色みが残る(写真9左)。しかし、蛍光灯モードでは補正過剰で、ややマゼンタ色が浮いてしまう(写真9右)。このカメラのホワイトバランスはやや問題がある。
つぎに、今回から加えたテストで、ISO感度を変えた場合のノイズの出方を見た。各感度で撮ったが、いちばん低いISO100(写真10左)と通常でいちばん高いISO800(写真10右)を比較してみよう。ISO100ではほとんどノイズがないが、ISO800では横縞ノイズが出てきた。高感度時に現れやすいノイズだ。
しかし、ISO1,600に拡張しても、それほど目立ったノイズが出ないのはいい(写真11)。 標準ズームレンズは遠景でやや甘いが、近距離では非常にシャープである。ちょっと通りがかりに撮っただけだが、非常にいい描写だった(写真12)。 また、輝度差の大きな被写体を撮ってみた。ダイナミックレンジをチェックするためだ。ハイライト(明るい部分)に露出を合わせたが、シャドー(暗い部分)も完全にはつぶれない。ダイナミックレンジは広いほうである。
このカメラはRAW撮影専用で、JPEGですぐに送信するというような用途には向かない。じっくり写真を撮り、じっくりRAW現像をするユーザ向きのカメラだ。現像ソフトのPhoto Proはバージョン2となって、よりRAW展開が早くなり、またオートで現像した場合の彩度も高くなった。メニューもわかりやすい。なお、作例写真はすべてオートモードで現像した。JPEGでの上限になるべく近づけるためだ。 全体として、シグマSD10はコストパフォーマンスの高いデジタル一眼レフである。細かい点ではいろいろと注文があるものの、ユニークな存在として、これからも発展を続けて欲しいと思う。PCの扱いにある程度慣れないと使いこなせないが、PC Watchの読者ならまったく問題はないだろう。じっくり絵を作り込むには最適なデジタル一眼レフの一台である。 □シグマのホームページ ■注意■
(2004年2月2日)
【PC Watchホームページ】
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