ATAインタフェースの接続形態は、ストレージ機器を筐体に“内蔵”するのが原則である。しかし、先日の記事「そろそろ策定が開始される次世代のATA/ATAPI-8規格」の冒頭でも触れたとおり、シリアルATAではストレージ機器の外付けが正式にサポートされる方向で動いている。今回は、この外付け(外部接続)仕様の最新動向を解説していく。 ●ATAインタフェースでも“外付け”の要望が高まる シリアルATA 1.0で利用可能な物理層には、第1世代の帯域幅(1.5Gbps)でホストコントローラとデバイスを直結する「Gen1i」と、同じく1.5Gbpsながら18インチのバックプレーンに対応できるように信号マージンを余分にとった「Gen1m」の2種類が規定されている。また、シリアルATA IIのフェーズ2は、第2世代の3.0Gbpsを新たにサポートするが、こちらについてはホストコントローラとデバイスを直結する仕様として「Gen2i」が追加された。 ご存じのように、シリアルATAのケーブル長は最長1mと規定されており、ストレージ機器の内蔵に限定されている。自作ユーザ向けのPCパーツとして、既存のシリアルATAケーブルを用いてHDDの外付けを可能にした製品をしばしば見かけるが、本来これは規格外の使い方であり、あくまでもPCパーツを開発したメーカー自身が動作を保証しているに過ぎない。 ただし、このような製品が登場したことからも分かるように、シリアルATAでも外付けの仕様が強く求められていることは揺るぎない事実だ。 現在、個人向けのPCにストレージを外付けする主なインタフェースにはUSB 2.0とIEEE 1394があるが、理論最大帯域幅はUSB 2.0が480Mbps、IEEE 1394が400Mbps(ごく一部ではIEEE 1394bの800Mbps)と1Gbpsを上回るATAインタフェースに比べればあまり高速とはいえない。 従って、書き換え型のDVDドライブくらいであれば問題ないが、最近の高速なHDDを接続するとなると力不足だ。そもそもUSBやIEEE 1394は、多種多様な周辺機器を接続できるように設計された汎用インタフェースであり、ストレージのような大容量のデータ転送を必要とする周辺機器を接続すると、プロトコルのオーバヘッドによるホストCPUの負荷増大が問題となりやすい。また、外付けのストレージ機器に内蔵されたATA-to-USB/IEEE 1394ブリッジのオーバーヘッドもバカにできない。 さらに、これらのインタフェースを通じて接続されたHDDからOSをブートできないのも大きな問題だ。一部ではBIOSとの連携によってブートを可能にしている製品も登場しているが、一般にはATAインタフェースやSCSIで接続されたHDDのような自由度を持っているとは言い難い。つまり、USB 2.0やIEEE 1394で接続されたHDDは、あくまでもOSがブートした後に使える補助用のストレージという位置付けにあるのだ。 そこで、一部のハイエンドユーザは、こうした問題にいっさい影響されないSCSI(Ultra160 SCSIやUltra320 SCSI)を積極的に利用している。SCSIの広い帯域幅を活かした高速データ転送、内蔵と外付けを選ばない接続形態、そしてOSブートも可能など、先述の問題をすべて解決できるからだ。ただし、製品の価格がいかんせん高い上に、使用面でもかなり高いスキルを要する。つまり、誰もが気軽に採用できる選択肢ではない。だからこそ、PCの世界ではストレージ接続のインタフェースとしてSCSIからATAインタフェースへ、外付けに関してはUSB 2.0やIEEE 1394へと移行していったのだ。 ●ストレージ機器の外付けも正式にサポートする、これからのシリアルATA こうした外付けの問題は、エンタープライズストレージの世界にも派生している。本来ならば、エンタープライズストレージだからこそSCSIやFibre Channelのような選択肢が活きてくるはずだが、近年の低コスト化の流れはエンタープライズストレージの世界にもATAインタフェースの出番を数多く作り出した。この結果、価格帯性能比を重視するローエンドストレージでは、ATAインタフェースを採用した製品が急増している。 そこで、シリアルATAでは、PCもしくはサーバと外部ストレージ間、外部ストレージと拡張用ストレージ間などの接続に用いられる外付けの仕様が新たに規定された。 外付けをサポートする物理層には、1.5Gbps版の「Gen1x」と3.0Gbps版の「Gen2x」の2種類がある。先述の内蔵用(Gen1i、Gen2i)との大きな違いは、送受信方向のドライバおよびレシーバの許容電圧にある。ドライバ側の信号電圧は、Gen 1iが400~600mVppd(ppdはdifferential peak-to-peak)、Gen2iが400~700mVppdなのに対し、Gen1xとGen2xは800~1,600mVppdと2倍以上に高められている。また、レシーバ側の信号電圧は、Gen1iが325~600mVppd、Gen 2iが275~700mVppdなのに対し、Gen1xは325~1,600mV、Gen2xは240/275~1,600mVppdである。つまり、ケーブル長の延長に伴う信号減衰を加味した仕様となっているわけだ。 さらに、外付け専用のケーブルとコネクタ仕様が追加された。これらの仕様には、PCとストレージ機器を接続する1レーン(1チャネル)のものと、エンタープライズストレージで使用される4レーン(4チャネル)のものがある。先述の物理層の電気仕様に加え、こうしたケーブル/コネクタの仕様は、現在、シリアルATA技術委員会で策定中の「Serial ATA II Cables and Connectors Volume 2 specification」に含まれる。 外付けの仕様策定に参加しているSilicon Image, Storage Semiconductors, Product Marketing ManagerのMark Hartney氏は、シリアルATAで外付けが正式にサポートされるまで経緯を次のように説明する。 「外付けが求められる第1の理由は、いうまでもなくユーザが容易にストレージを追加したり、取り外したりできることにある。すでにUSBやIEEE 1394では、このような高い利便性を実現しているが、ボックス内部ではATA/ATAPIドライブが採用されており、USB/IEEE 1394-ATAブリッジが必要である。しかし、これらは、データ転送のパフォーマンスを低下させたり、製造コストを増大させる原因となっている」。 「そこで、シリアルATAを用いて外付けを実現するソリューションがいくつか模索されてきた。シリアルATAで外付けが可能になれば、ブリッジコントローラが不要になるため、USBやIEEE 1394よりもパフォーマンスが高く、同時にコストも削減できるからだ。主なソリューションとしては、内蔵ケーブルをそのまま流用したものや、IEEE 1394など、他のプロトコル向けのケーブルとコネクタを使用してシリアルATAの外付けを可能にするものなどがある」。 「これらは、新たな技術開発や設計を必要としない。しかし、シリアルATA技術委員会は、外付けが求められているこうした現況を踏まえ、外付けに最適化した物理層、ケーブル、コネクタなどの仕様を策定することを正式に決定した。Silicon Imageは、この外付け仕様の策定で中心的な役割を果たしており、ケーブルサプライヤのComax Technologyとともに、外付け用のケーブルとコネクタのプロトタイプ版を開発、検証している」。 「外付け用のケーブルやコネクタには、利便性と信頼性を兼ね備えたケーブルリテンション機構、数多く挿抜回数に耐えうる堅牢性、EMI(ElectroMagnetic Interference:電磁妨害)シールドおよびESD(ElectroStatic Discharge:静電放電)保護などのフィーチャーが盛り込まれている」。 ●外付けのために開発された新しいケーブルとコネクタ Silicon Imageが昨年9月16日に発表したプレスリリースによれば、米サンノゼで開催されたIntelの技術者向けカンファレンス「Intel Developer Forum 2003 Fall」では、Silicon ImageのシリアルATAコントローラ、MaxtorのシリアルATA HDD、Comax Technologyのケーブルおよびコネクタを組み合わせたシリアルATAデバイスの外部接続のデモンストレーションが披露された。ここでは、Serial ATA II Cables and Connectors Volume 2 specificationの初期ドラフトに基づいてストレージシステムが構成されたという。 シリアルATAの外付けで最も重要な役割を果たすのがケーブルとコネクタだが、今回のデモンストレーションで、このケーブルとコネクタを担当したComax Technology, Serial ATA Marketing and SalesのJay Wang氏は、現在の開発状況と外付け用コネクタおよびケーブルの要件を次のように説明する。 「Serial ATA II Cables and Connectors Volume 2 specificationには、3種類の新しいコネクタ/ケーブル仕様が提案されている。Comax Technologyは、シリアルATA IIに賛同するシリアルATA技術委員会のメンバーの一社であり、特に1レーンの外部接続用の新しいコネクタとケーブル設計を担当している。現在開発しているケーブルは、2mまで対応したものだ」。
「シリアルATA技術委員会によれば、外付け用のケーブルは基本的にシリアルATA IIの速度、すなわち少なくとも3Gbpsの信号帯域幅に対応しなければならない。このため、ケーブルやコネクタのベンダは、こうした高速通信時にもデータエラーやデータ損失を発生させないように、製造工程での品質管理をしっかり行う必要がある。これは、RAIDサブシステムのような高性能ストレージで採用する場合に重要な要素となる。Comax Technologyは、シリアルATA技術委員会の要件を満たす高品質ケーブルを製造可能な品質管理体制を揃えた世界初のベンダである。現在開発中のケーブルは、シリアルATA II フェーズ2の速度を上回る4.5Gbpsの信号帯域幅に対応している」。
一方、ボックス間の接続に用いられる広帯域幅のマルチレーン対応ケーブリングは、SFF-8470(Small Form Factor 8470)仕様で規定されている、InfiniBandやFibre Channel向けに開発されたコネクタとケーブルを使用する。これは、Serial Attached SCSIのストレージ筐体間を結ぶマルチレーンケーブルでも採用されており、同一の物理層を採用しているシリアルATAにとってテクノロジの継承はきわめて容易といえよう。 一般のPCユーザにとって、やはり気になるのは1レーンの外付け用ケーブルとコネクタだろう。Serial ATA II Cables and Connectors Volume 2 specificationの内容が固まり、この仕様に準拠した製品が登場すれば、高速なシリアルATAでストレージ機器をそのまま外付けできるようになる。 「Serial ATA II Cables and Connectors Volume 2 specificationの正式な仕様が発表されるのは、2月に開催されるIntel Developer Forum Spring 2004の会期中になるものと予想される。ただし、すでにシリアルATAの外付け仕様に対する引き合いはかなり強く、いくつかのベンダでは、外付けコネクタを装備したPCIベースのSATAホストアダプタやPCカードタイプのノートPC向けSATAホストアダプタ、外付けコネクタのブラケットを付属したマザーボードなどが検討されている」。 「また、セットトップボックスにPVR(Personal Video Recording)機能を追加する目的でシリアルATAの外付け仕様に着目しているベンダもある。例えば、Scientific-Atlantaは、先日開催された2004 International CESにおいて、シリアルATAドライブを追加できるように外付けコネクタを装備した次世代のセットトップボックスのプロトタイプを披露していた(以上、Silicon ImageのMark Hartney氏)」。 USBやIEEE 1394のような利便性の高さと、Serial Attached SCSIに匹敵するパフォーマンス、そしてOSブートも可能な次世代のシリアルATA製品は、PC、エンタープライズストレージ、デジタル家電など、きわめて幅広い分野において数多くのユーザを魅了するに違いない。
□Technical Committee T13 - AT Attachment (2004年1月26日)
[Text by 伊勢雅英]
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