●春過ぎからDirectX 9世代の統合チップセットが相次いで登場 グラフィックス統合チップセットが、いよいよDirectX 9世代に突入する。昨年6月のレポート「ATI、NVIDIA、Intel、VIAの統合チップセットは来年DirectX 9へと一気に移行」で紹介した通り、チップセット/GPUベンダー各社は、2004年に一斉にDirectX 9世代のGPUコアを統合したチップセットを投入する。いずれも、DirectX 9 Pixel Shader 2.0をハードウェアでサポートする。 Intelは第2四半期に投入する「Grantsdale-G」に搭載するグラフィックスエンジン「Intel Extreme Graphics 3」でShader 2.0を実装する。Grantsdale-Gのコアは、ピクセルパイプが4本の、強力なエンジンになると言われている。 ATIも今年前半に投入するIntel向けの「RS400」とAMD向けの「RS480」からDirectX 9世代コアになると言われる。SiS(Silicon Integrated Systems)も今年前半に計画している「SiS 662」にDirectX 9コアを統合する。これは「当社が開発していて製品化しなかったDirectX 9 GPU“Xabre II”にかなり近いコアだ」(SIS, Nelson Lee氏, Director, Computing Product Division, Technical Marketing Dept.)という。VIA Technologiesは今年前半の「PM890」に、DirectX 9コアを統合する。NVIDIAも今年後半のHyperTransport「T01G」に、NV34相当のDirectX 9コアを実装すると言われる。
各社が統合チップセットにDirectX 9コアを持ってくる理由は、もちろんMicrosoftの次期OS「Longhorn(ロングホーン)」のユーザーインターフェイス「Avalon(アバロン)」のフル機能を使うには、DirectX 9の機能が要求されているからだ。 Longhorn自体はDirectX 10(Shader 4.0) APIを統合するが、UIの要求仕様はDirectX 9 Shader 2.0になるという。足きりラインがDirectX 9になるため、アーキテクチャ面では、各チップセットベンダーともDirectX 9で一線に並ぶ。ここまでは、これまでレポートした通りだ。 残る疑問は、各社の統合チップセットのパフォーマンスだ。果たして、DirectX 9コアといっても、新世代チップセットは、DirectX 9シェーダを多用したゲームを、そこそこのモードでプレイできるほどの性能なのだろうか。それとも性能レベルは、従来の統合チップセット同様にローレベルのディスクリートGPU以下に留まるのだろうか。 ●鍵となるLonghornの要求するグラフィックス性能 じつは、この点については、まだ不明な点が多い。しかし、どうやらDirectX 9世代統合チップセットは、パフォーマンス重視型とローコスト型の二極分化する気配が見えてきた。 GPUの性能を上げようとすると、より多くのトランジスタが必要になる。その結果ダイサイズ(半導体本体の面積)が大きくなり製造コストが上がる。つまり、性能とコストはトレードオフの関係にある。そのため、今後の統合チップセットでは、どこまでのグラフィックス性能が必要なのか、どこまでのコストが許されるのかを見極める必要がある。そこで、チップセットベンダー間でも戦略の違いが出つつある。 簡単に言うと、DirectX 9化をチャンスにグラフィックス統合チップセットの性能レンジも一気に引き上げようという動きがある。ATIは明確にこの方向にあるし、Intelもグラフィックス性能重視を謳っているという。この方向性の先にあるのは、ディスクリートグラフィックスのローエンド市場を統合チップセットに吸収することだ。 一方、統合チップセットの位置づけは変わらず、低価格が最も重要なファクタで、市場のローエンドに留まるという見方も強い。この方向性では、できるだけコストを押さえるために、性能を犠牲にすることになる。 現実的には二極の両方が平行する可能性も高い。「これまで、統合グラフィックス市場は、グラフィックスのパフォーマンスは低く均質だった。だが、今後はパフォーマンスとバリューの2つに分かれていくと考えている」とATIでIGP製品とモバイル製品を担当するPhil Eisler(フィル・エイズラ)副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President & General Manager, Integrated and Mobile Products Business Unit)は言う。 もっとも、LonghornのAvalonがスタンダードとして定着した場合には、Avalonを快適に利用できる性能レンジへと一気にユーザーが移行する可能性もある。「Windows 3.xの時に、GUIを快適に利用するために、グラフィックスは一気に性能を向上させた。Longhornはその再来になる可能性がある」とIntelで3Dグラフィックスを担当するKim Pallister氏(Senior Technical Marketing Engineer, 3D Graphics)は言う。 ここで、鍵となるのはLonghornの要求する性能だ。Longhornが、次世代統合チップセットのグラフィックス性能の下限を決めると考えていい。そして、そのハードルは意外と高いかもしれない。 「今のところ、MicrosoftはRADEON 9700クラスのパフォーマンスが必要だと言っている。つまり、NV34タイプの性能では、DirectX 9といってもだめだということだ。真の、DirectX 9(世代GPUの)パフォーマンスが必要となるようだ」とEisler氏は説明する。 もっとも、実際にはRADEON 9700のフル性能が求められているわけではない。それは、Longhornが3Dパイプの一部の性能しか要求しないからだ。 ●Longhornとゲームで異なる性能要求 ここで重要なのは、一口に3Dグラフィックス機能と言っても、Longhornで求められている機能と、ゲームで求められている機能は大きく異なることだ。そのため、どちら側に向くかによって、グラフィックスコアに求められる機能も大きく異なってくる。最大のポイントは、バーテックスシェーディングとピクセルシェーディングのバランスだという。 「Longhornは、Pixel Shader志向になる。ほとんどがピクセルの処理になるからだ。まだ最終コードがどうなるかはわからないが、おそらくバーテックスシェーディング性能はそれほど必要とされないだろう。その反面、Pixel Shaderの性能は非常に高いレベルが求められると考えている」とIntelのKim Pallister氏は言う。
ゲームでは膨大な数の3Dオブジェクトとステンシルシャドウによって、甚大な量のジオメトリ処理が必要になる。しかし、LonghornのUI「Avalon(アバロン)」では、ジオメトリ処理は比較的軽そうだ。今のところ見る限り、基本的には平坦なオブジェクトの重ね合わせで、ウインドウをはためかせるといった程度しかジオメトリプロセッシングが必要な部分は見えない。もちろん、Longhorn上のアプリケーションは、もっとジオメトリを使って来る可能性もあるが、基本的にはジオメトリ側の負担は少ないと考えられる。 これは、GPU/チップセットベンダーにほぼ共通した認識のようだ。そのため、今のところわかっている限り各社の統合チップセットはPixel Shader 2.0だけを実装し、Vertex Shaderはハードでは実装しない。つまり、Pixel Shaderセントリックな設計になっている。ジオメトリパイプはソフト(CPU)で、ピクセルパイプはハード(GPU/統合チップセット)でという区分けは、従来の統合チップセットを継承する。 ただし、今後のLonghorn世代で大きく異なるのは、ピクセルパイプ側の処理が従来より飛躍的に増大する可能性があることだ。高解像度で描画し、テクスチャを貼り、ある程度のシェーディング処理を多くのピクセルに対して処理を常時行なうのだから、それは当然だ。シェーダ(プログラム)自体がそれほど重くなくても、処理量はかなり大きいと推定される。 そうした背景を考えると「LonghornでRADEON 9700クラスの性能が必要」というのは、Shader全体の話ではなく、Pixel Shader性能のことだと推定される。そのため、Pixel Shader性能だけに特化して引き上げたグラフィックスコアという展開も、Longhorn世代ではリーズナブルになる。つまり、Grantsdale-Gのように、4本のピクセルパイプを備えたチップセットにも十分な意味があるわけだ。 ●メモリ帯域のネックは軽減される方向に もっとも、従来的な考え方でいくと、統合チップセットでピクセルパイプ数を増やすことは意味が薄い。それは、メモリ帯域のネックがあるからだ。「GPUのパイプラインとメモリチャネルの数には相関関係がある。パイプライン本数は消費できるメモリ帯域にある意味で制約される」とATI TechnologiesのDavid E. Orton(デビッド・E・オートン)社長兼COOは言う。 ピクセルパイプ数が2倍になると、ピクセル側でピーク時に必要となるメモリ帯域は理論上2倍近くになる。つまり、メモリ帯域もピクセルパイプ数と平行して拡大していく必要がある。ところが、統合チップセットの場合には、UMAアーキテクチャでメモリ帯域が限られるため、ディスクリートGPUよりピクセルパイプ数を増やしにくいわけだ。 だが、DirectX 9世代になると、この問題も変わってくる。 「2つの要素がある。まず、メモリ帯域はDRAM技術の進歩で継続的に伸びており、アプリケーションニーズを上回るペースで伸びている。帯域がきついのは確かだが、軽減されつつある。もう1つは、(グラフィックスコアの)プログラマビリティが上がると、メモリ帯域のニーズも変わることだ。傾向としては、コンピュテーションとメモリ帯域のバランスのうち、コンピュテーションの比率が高くなる。(グラフィックスコアが)メモリにアクセスにいくよりも、コンピューティングをしている時間の方が長くなるからだ」(Intel, Pallister氏) つまり、ピクセル処理ではグラフィックスコア内部での演算処理が多くなるため、相対的にメモリ帯域の必要は性能ほど伸びないということだ。ATIのOrton氏もメモリ帯域について同様の指摘をしており、これもグラフィックス業界の共通認識だと言ってよさそうだ。 また、メモリ帯域を軽減する技法も変わってくる可能性がある。例えば、今公開されているLonghornのUIの場合には、カメラ視点に対して平面的にサーフィス(=ウインドウ)が並ぶ。そのため、Zバッファリングは比較的簡単になり、より単純なZコンプレッション技法で効果を上げやすくなると想像される。 こうして考えると、LonghornのAvalonに最適化するグラフィックスエンジンは、ゲーム向けのGPUとは、ある程度異なったものに分化していくのかもしれない。Pixel Shader志向で、比較的単純なオブジェクトに最適化した方向へ。そうすると、ソフトウェア側も、そうした新世代の3Dエンジンに最適化して、ピクセル側の処理だけが重いソフトウェアを投入して来るかもしれない。 □関連記事【2003年10月31日】【海外】LonghornのユーザーインターフェイスAvalon http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1031/kaigai040.htm 【2003年6月27日】【海外】各社の統合チップセットは来年DirectX9へ一気に移行 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0627/kaigai01.htm (2004年1月23日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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