昨年来、バイオはシェアを落とすなど厳しい状況に置かれていたのは周知の通りだ。もちろん、安藤社長もその点は認めている。だが、シェアを落とした事実を認めながらも次のように話すのだ。 ●意識的に出荷数量を減らしたバイオ 「失速したのではなく、意識的に出荷数量を減らした。それは私の指示だった」ソニーのPC事業が、国内では2年連続の2桁減という状況を余儀なくされているのは、市況変化の影響を大きく受けたのが理由だったとされている。決算会見の席上でも、「市場全体が低価格へとシフトするなか、価格に追随しなかったバイオのビジネスは、マイナスに影響した」とコメントされていた通り、やはり市場環境の変化についていけなかったのが要因だったのは事実だろう。 だが、この点についても安藤社長は別の観点からこう話す。 「バイオのコンセプトは、安売りPCではなく、あくまでもITとAVを融合した付加価値PC。市況が低価格の方へシフトしたからといっても、それに流されて低価格化戦略にシフトしてしまってはバイオではなくなる。低価格路線を打ち出せば、その時点で、バイオのビジネスは成立しなくなる」 つまり、低価格化はバイオの出荷減には影響したのは事実だが、それに追随してまで事業を推進する必要はないと判断したのだという。 「私は、儲からないのならばやる必要がないと、カンパニーに対してハッキリと言った。バイオのブランドで出す限り、単に安いものを出すのでは意味がないとも言った。その判断の上であれば、シェアが落ちてもいいと。つまり、ソニーは失速したのではなく、自らの判断で出荷を絞り込んだ」 バイオ生みの親でもある安藤社長ならではの判断と、カンパニーへの提言だったともいえる。 さらに、米国では、もうひとつの要素が働いた。 それは、ソニーに限らず、複数の家電メーカーやPCメーカーが陥りつつある「流通の寡占化の弊害」である。 米国市場では、Best Buyなどの一部の小売店に集中する寡占化の傾向が強まっている。それらの流通が力を持つが故に、大幅なディスカウントを要求するという例が出てきているのだ。 つまり、バイオの考え方は、儲からない取引条件であるのならば無理をして売る必要はない、という判断なのだろう。
●ビジネスブランド戦略でPCセントリック型の提案へ そのバイオについて安藤社長は、「今後は、ビジネスブランドとして成功させたい」と抱負を語る。昨年4月の段階で、ソニーの出井伸之会長が言及したように、今後、バイオブランドは、PC本体だけのブランド名から周辺機器などを含めたビジネスブランドとして位置づけられることが明らかになっている。まだ、具体的な形でラインアップが広がっているわけではないが、「米国で、DellやHPがPCを中心とした各種デジタル機器を発売したり、Apple ComputerがiPodを出したような位置づけに似ている」と話す。 いわば、PCを中心としたリビング向け戦略を、ソニーはバイオブランドとして推進することを明確に打ち出したものともいえるだろう。 「少し前までは、家電分野では2年は遅れていると思っていたMicrosoftが、あっという間に家電メーカーをキャッチアップしてきた。米国の家電市場では見逃せない存在になってきた」と安藤社長が語るように、PCセントリック型のリビング向け製品が、Microsoftを中心に一気に品揃えされてきた。 こうした動きに対して、DellやHPと同様に、ソニーもバイオによって、PCセントリック型の一手を打とうとしているのだ。 もちろん、その一方で、ソニーが本来得意とするAV機器を中核とした将来のデジタル・ホーム・ネットワークの取り組みには余念がない。DVD、テレビ、ビデオなどのエレクトロニクス機器と、プレイステーションで培ったゲーム機の技術、ノウハウを融合させた次世代デジタル家電は、むしろソニーにとって主軸ともいえる取り組みであることは間違いない。 先頃、開催されたCESにおいても、終日人だかりがしていたソニーブースの展示からも、その片鱗を十分知ることができた。 とくに、今回の展示会で、新たに「ロケーションフリー」という考え方を示したことは、デジタル家電機器による将来の方向性を示したもののひとつだといっていいだろう。
●デジタル家電なのか、PCなのか? かつて、出井会長は、「PCは、コンシューマ機器として考えればあまりにも遠い存在。トラックに乗るようなものだ」と比喩した。その段階で、ソニーの次世代リビング向け機器の中核は、デジタル家電であることが明確にされたともいえる。 だが、今回の安藤社長の発言から、PCを中心としたデジタル家電のアプローチについても、ソニーは具体的なプランを用意していることが示されたともいえる。 CES開催初日に全世界で発表されたHi-MDも、PCの外部記憶装置として、あるいはPCと連動した音楽のダウンロードなどといった利用を想定していることからも、PCとデジタル機器の融合を視野に入れた製品企画を進めていることがわかる。 とはいえ、ソニーにとって、決して、PCがリビング向け戦略の主軸ではないことは明白だ。 それは安藤社長の「いまは、どっちに転んでも大丈夫なように手を打っている」という言葉に集約される。 AV機器ベンダーとしてのソニーの強みを発揮できるのはデジタル家電。PCは、やはりMicrosoftとIntelが主導権を握るものだからだ。 ソニーが、自らの優位性や特徴を発揮でき、「It's a SONY」といわれる製品を投入しつづけるには、残念ながらバイオでは限界がある。確かに、これまではITとAVの融合戦略を打ち出し、PC業界のなかでは、異例ともいえる特異性を発揮してきたともいえるが、ソニーがこの戦略をベースに今後も製品を投入し、リビング市場をリードし、次世代市場を開拓するのは難しいだろう。 バイオは、ソニーのビジネスブランドとして独立するが、決して、リビング向け戦略の主流を担うものではないという点で、DellやHPとは、PC事業の位置づけが大きく異なるのだ。 CESにおけるソニーブースの展示テーマは、「SONY Like No Other」。MicrosoftやIntelを核にしたPCセントリック型のリビング向け戦略では、とてもこの言葉は使えないだろう。次世代のデジタル家電が一堂に介する世界最大の家電イベントにおいて、あえてこの言葉を使った点に、ソニーの次世代デジタル家電戦略に対する思いと、バイオの位置づけがこめられているといっては言い過ぎだろうか。
□関連記事 (2004年1月7日)
[Text by 大河原克行]
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