●アグレッシブに展開する2004年のATIのチップセット製品
ATIでIGP製品とモバイル製品を担当するPhil Eisler(フィル・エイズラ)副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President & General Manager, Integrated and Mobile Products Business Unit)は2004年の同社のチップセットの展開をこう展望する。同社はGPUでアグレッシブに展開するだけでなく、2004年はチップセットでも積極的に攻める予定だ。 2004年にはチップセットにとっては転換期だ。Intelを始め各社が一斉にPCI Expressへと移行、それに合わせてGPUも全てPCI Express接続へ向かう。ATIも、業界の足並みに合わせて、GPUとチップセットともにPCI Expressへと移行させていく。ATIのPCI Express世代チップセットは「RS400」だと言われている。 ATIはIntelとAMDの両プラットフォームにグラフィックス統合チップセットを投入している。以前はモバイル中心だったが、現在はデスクトップにも力を入れている。下がEisler氏が示したロードマップだ。これをみると、2004年のポイントは、PCI Express化とDirectX 9、パフォーマンス製品とバリュー製品への分化、そしてAMDのAthlon 64への対応であることがわかる。
●PCI Expressをコンフィギュラブルに設計 PCI Expressへと向かうチップセットとGPU。しかし、モバイルの場合、GPUとチップセットのPCI Express化は消費電力の面で問題があるという。AGP 8Xと比べると、PCI Express x16ではバス自体の消費電力が上がるからだという。 「PCI Expressになると消費電力は、劇的ではないが若干上がってしまう。おそらく、PCI Express x8でAGP 8Xと同程度のパフォーマンスで同程度の消費電力だろう。だが、PCI Express x16では、AGP8Xよりも帯域が2倍になる分、消費電力も多くなりそうだ」とEisler氏は指摘する。 同様の指摘はNVIDIAもしており、モバイルGPUではPCI Expressは消費電力が今後の重大なトピックになりそうだ。だが、GPUとチップセットでの、PCI Expressの実装方法によっては、この問題は十分解決ができるのだという。 「PCI Expressのリンク数をダイナミックにスイッチすることで、省電力化を図ることができると考えている。つまり、バス帯域の必要に応じて、PCI Expressのバス幅を、x16からx8、x4、x2へとダイナミックにスケーリングすることで、平均消費電力を抑えられるだろう。 結局、グラフィックスプロセッサは常にx16の帯域が必要というわけではない。フルに3Dグラフィックスを使う時はx16リンクを要求するが、ノートPCで通常の使用時には、たぶんx2で十分だろう。ピークパフォーマンスが必要な時だけx16にして、パフォーマンスが不要な時はx2に落とすなら、AGP 8Xよりも平均消費電力を下げられる。PCI Expressのアーキテクチャなら、こうした段階的なスケーリングが可能だ。これはAGPにはない利点で、PCI Expressがモバイルに向いている点だ」とEisler氏は説明する。 ATIの製品は、x2/x4/x8/x16のすべてのPCI Expressリンクパターンを動的に変更できるようになっているという。つまり、PCI Express化は消費電力削減にも効果があるということだ。だが、これにも問題がある。それは、Intelのモバイルチップセット「Alviso(アルビソ)」の最初の実装はx16しかサポートしないことだ。Intelが、このPCI Expressスケーリングに対応できなければ、PCI Express世代ではATIなどサードパーティチップセットにチャンスが訪れる可能性が出てくる。 ATIはPCI Express世代チップセットでは、チップセット間接続にもPCI Expressを使うという。これは、独自インターフェイスやHyperTransportを使うIntelやVIA、SiS、NVIDIAなどとは大きく異なる。 「ノースとサウスの両ブリッジ間の接続もPCI Expressインターフェイスへと移行する。利点は、顧客がATIのサウスブリッジだけでなくALI/ULIのサウスブリッジも選ぶことができるようになる点だ。チップセットは、言ってみればクローズドアーキテクチャだったが、我々はこれをもっとオープンにしていきたいと考えている。ATIはグラフィックス企業で、グラフィックス製品は得意だ。しかし、サウスブリッジはコミュニケーションデバイスで、他のベンダーも優れた技術を投入できる」とEisler氏は言う。 ちなみに、ATIがチップセット間接続に採用するのはPCI Express x2/x4だ。帯域はx2が片方向0.5GB/sec、双方向1GB/sec、x4が1GB/secと2GB/secだ。「x4はパフォーマンス重視の場合、x2は低消費電力または低コスト重視の場合のオプションだ。PCI Expressだから、同じ技術でより広い選択肢を与えることができる」(Eisler氏) ●RADEON 9700クラス性能が必要なLonghorn
MicrosoftのLonghornのUI「Avalon」のフル機能を使うには、DirectX 9世代GPUの機能が必要となる。しかし、チップセットベンダー各社は、DirectX 9世代の機能を実装するが、そのパフォーマンスレベルはベンダーによってかなり差があると言われている。では、実際にはどの程度のパフォーマンスが、最低限必要となるのだろう。 「今のところだが、MicrosoftはRADEON 9700クラスのパフォーマンスが必要だと言っている。つまり、NV34タイプの性能では、DirectX 9といってもだめだということだ。真の、DirectX 9(世代GPUの)パフォーマンスが必要となるようだ」とEisler氏は言う。 これは、現在のGPUの性能レンジを考えると、かなり高いハードルだ。果たしてローエンドの統合チップセットでも、Longhornに対応できるだけのパフォーマンスレンジを提供できるのだろうか。 「IGPでもLonghornに対応できる製品を提供する、それがゴールなのは間違いがないし、可能だと考えている」とEisler氏は語る。 統合チップセットでは性能の最大のボトルネックはメモリ帯域にあった。ディスクリートGPUと比べると格段に狭い帯域が、統合GPUコアの性能をローエンドに留めていた。だが、この問題はメモリ技術の順調な進歩である程度は解決してゆくとEisler氏は見る。 「確かにメモリは性能を左右する。しかし、RADEON 9100 IGP(RS300)」のメモリでは、シングルとデュアルチャネルの両方をサポートしたことで性能は大きく上がった。もちろん、デュアルチャネルメモリがコストエフェクティブにできるとは思わない。しかし、今後、DDR2にメモリが移行すると、より高い周波数と帯域になるため、シングルチャネルでもグラフィックス性能は上がる。DDR2では533Mtps(transfer per second)でスタートし、さらに667Mtpsもすぐに来る。加えて、IGPのグラフィックスコア側に実装する帯域圧縮技術も進歩する。こうした技術が追い風となり、IGPのグラフィックス性能は上がると考えている」 ●統合チップセットとディスクリートのパーティショニング ATIのチップセット戦略でのポイントは、高パフォーマンスのグラフィックスに引っ張っていこうというアプローチにある。それは、ATIが統合チップセットが2極化していくと考えているからだ。 「これまで、統合グラフィックス市場は、グラフィックスのパフォーマンスは低く均質だった。だが、我々はそれがパフォーマンスとバリューの2つに分かれていくと考えている。その変化は、今、まさに始まったばかりだ」とEisler氏は言う。 つまり、下のような市場構造になると予測しているわけだ。
・パフォーマンスディスクリート だが、こうしたATIの方向性は当然、ローエンドのディスクリートチップセット+GPUとの競合を産むことになる。実際、NVIDIAもチップセット市場に参入した時には、高パフォーマンスの統合グラフィックスを売り物にした。しかし、低コストを追求する統合チップセット市場ではうまく受け入れられなかったという歴史がある。事実、マザーボードベンダーは、ATIが考えるようなパフォーマンス統合チップセットの市場には懐疑的だ。 「例えば、3DグラフィックスではPixel Shaderはメインストリーム以上のグラフィックスプロセッサだけのものだった。ところが、当社のRADEON 9100 IGPはPixel Shaderを搭載している。それなら、100ドル余計に払ってグラフィックスカードを買う必要がない。だから、チャンスがあると考えている。ただし、実際に市場がどうなるかを語るのは難しい」とEisler氏は語る。 ●Vertex Shaderは将来もソフトウェアの可能性が大 ATIは現在のRS300では、Pixel Shaderを実装したがVertex Shaderはハードウェアでは実装しなかった。統合チップセットでは、ジオメトリはCPUで、GPUコア側はレンダリング側というパーティショニングは一般的だ。これはDirectX 9世代ではどうなるのだろう。 「IGP製品では、コストとパフォーマンスのトレードオフについて継続的に検討を続けている。Vertex Shaderの実装は、シリコン(チップ上の面積)を必要とするので、高くつくため難しい。現状では、CPU上でのソフトウェアによるVertex Shaderエミュレーションで、一定のパフォーマンスが得られる。そうすると、CPU上のソフトウェアに性能で勝るのでなければハードウェアを実装する意味がない。ハードウェアの方が勝る、そのしきい値がどこにあるかが問題だ。 現時点では経済上の理由から、Vertex Shaderはソフトウェア処理の方にバランスが傾いている。しかし、将来は変わる可能性もある。トランジスタコストが安くなり、必要とされるパフォーマンスが変わり、顧客がマザーボードに払うコストが変わったら。やや高価格だが、その分高パフォーマンスな統合チップセットにVertex Shaderを実装という可能性はある」とEisler氏は言う。 PCI Express/DirectX 9/2階層のライン/K8対応。ATIは、2004年にはチップセットでも勝負をかける。最大のポイントは、ATIが考えるパフォーマンス統合チップセットの市場が立ち上がるかどうかにかかっている。
□関連記事 (2003年12月19日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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