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ATI、デスクトップ用ハイエンドGPUをモバイルに投入




●デスクトップ代替ノートPCの興隆で変わるモバイルGPU

Phil Eisler
副社長兼ジェネラルマネージャ
 ATI Technologiesは、2004年にはノートPC向けGPUの性能を大幅に強化するつもりでいる。

 現在のデスクトップGPUのハイエンドクラスの機能を、ノートPCにももたらし、ノートPCのグラフィックス性能を飛躍させるつもりだ。そのため、ATIは新たにハイパフォーマンスのモバイルGPUのセグメントを作り、そのセグメントに継続して製品を投入するロードマップを作ったという。

 「その背景にあるのは、ノートPC市場が拡大しつつあるという認識だ。我々は、ハイエンドのデスクトップ代替(DTR)ノートが、特に北米で急伸していることに気がついている。そして、デスクトップ代替市場が拡大するに従って、デスクトップクラスのグラフィックス性能がノートPCでも求められるようになる。

 一方、デスクトップグラフィックスプロセッサの消費電力は上昇し、今や30~40Wに達している。これは、従来ならノートPCにフィットしない。しかし、ユーザーはより大型のノートPCを使うようになり、その結果ノートPCの冷却能力も向上した。高パフォーマンスのグラフィックスプロセッサが要求する熱設計にも応えられるようになった。

 そこで、我々は、デスクトップ代替に合わせて新たなパフォーマンスと熱設計のセグメントを作ることにした。ノートタイプのワークステーションの市場も広がっているため、このセグメントには大きな可能性があると考えている」とATIでモバイル製品を担当するPhil Eisler(フィル・エイズラ)副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President & General Manager, Integrated and Mobile Products Business Unit)は説明する。

 つまり、従来の製品ラインにプラスして、DTR向けのハイエンドのモバイルGPUのカテゴリを作るわけだ。

●LonghornでGPUへの要求が変わる

 DTRノートPCでは、従来はデスクトップCPUを使ってきた。そのため、CPU性能はデスクトップ並みに高く、GPUにも見合った性能を求めている。そして、DTRでは、ますますGPUパフォーマンスが重要になるとEisler氏は予告する。

 「グラフィックス性能は、システムパフォーマンスの中でもっと重要な役割を果たすようになる。特に、Longhorn(ロングホーン:Microsoftの次期Windows)が来ると、3Dアクセラレータの性能が最重要になる。ちょうどWindowsの初期に、2Dグラフィックスが重要だったように。そうすると、人々はよりグラフィックスにより多くの電力バジェット、それはイコール冷却バジェットなのだが、それを割くようになるだろう」

 つまり、LonghornのGUI「Avalon(アバロン)」は3Dグラフィックス機能を使うため、ノートPCでも高い3D性能が必要になる。そのため、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)が高くても高性能のGPUが求められるようになるとATIでは考えている。DTR向けのハイエンドGPUのカテゴリは、性能だけでなくTDPも高いことになる。

 「セグメントは、パフォーマンスと熱設計で分類する。ちょうどCPUと同じだ。モバイルCPUでは、デスクトップ代替やThin & Light(T&L:薄型)など各ノートPCセグメント毎に、一定のTDPの枠があって、その中で製品ロードマップを作っている。我々も同様に、各セグメント毎にTDPの枠を決め、その中で提供できる最高性能のロードマップを作る」とEisler氏は言う。

 ATIは当面、DTR向けのセグメントのTDP枠を15Wで考えているらしい。

 「DTRでは15Wが可能なラインだと考えている。デスクトップCPUが80Wを消費するようになると、グラフィックスプロセッサが15Wというのは、ある種のバランスになるかもしれない。

 一方、T&Lノートは、ほとんどが8Wまでに留まるだろう、一部は15Wもありうるかもしれないが。その一方で、ノートのなかにはファンレスへと向かう動きもある。そのカテゴリに対しても、当社はIGP(グラフィックス統合チップセット)で5W以下のソリューションを提供する。つまり、我々のロードマップはパフォーマンスからバリューまでで15W~5Wに広がり、ノートPCの設計に応じてソリューションを提供できるようになる。15W、10W、5Wのロードマップかな、わからないが」(Eisler氏)

ATIのモバイルGPU戦略
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●よりハイエンドのGPUがモバイルにやってくる

 こうしたモバイルGPUのカテゴリの変化は、モバイルGPUそのものも変化させる。つまり、どのデスクトップGPUの派生品をモバイルに持ってくるかが変わる。これまで、モバイルGPUとデスクトップGPUの関係はおおまかに言って下のようになっていた。

デスクトップGPU モバイルGPU
パフォーマンスGPU→ N/A
メインストリームGPU→ パフォーマンス/メインストリームGPU
バリューGPU→ バリューGPU

 つまり、デスクトップのメインストリームGPUが、モバイルではパフォーマンス/メインストリームGPUだった。それは、デスクトップのパフォーマンスGPUが、7W程度というモバイルGPUの従来のTDP枠にフィットしなかったからだ。現在なら、デスクトップのメインストリームの4パイプのRADEON 9600(RV350)の派生品が、モバイルのトップブランドのMobility RADEON 9600(M10)。しかし、ハイエンドの8パイプのRADEON 9800(R350)系のモバイル版はない。

 だが、今後はこれが変わる。Eisler氏は「(デスクトップの)よりハイエンドの製品をモバイルに投入する可能性がある」と言う。つまり、今の製品ラインなら8ピクセルパイプのハイエンドGPU系列の派生品を、ノートPC向けに投入する可能性があるわけだ。

 今のところATIは、ハイエンドのモバイルGPUはDTRノート向けと考えている。しかし、将来的にグラフィックス機能の重要性が高まると、これまでとは異なる組み合わせも出てくる可能性があるという。

 「例えば、Banias(Pentium M)は35W以下だが、それにハイエンドのグラフィックスを組み合わせたグラフィックス志向のノートPCだってありうるかもしれない。グラフィックス性能がもっと必要なら、もっとグラフィックスプロセッサの消費電力を上げてもかまわないというニーズが出てくるだろう」とEisler氏は語る。Longhornでは3D性能がWindowsの快適さを左右するようになるなら、確かに3Dグラフィックス性能重視のノートPCが出てくるかもしれない。

●PCI ExpressとDirectX 9化が進む2004年

 2004年のATIのモバイルGPUは、PCI ExpressとDirectX 9という2つの節目を迎える。

 まず、デスクトップではPCI Expressへと移行を一気に進める。「当社はPCI Expressにフォーカスする。まだ未発表の製品ではAGP版があと1つ残っているが、以降の製品はPCI Expressになる。すでに以前からPCI Express版のサンプル出荷は行なっており、トップツーボトムでPCI Express製品を提供する」とEisler氏は語る。

 ちなみに、ATIはデスクトップGPUでも、3製品ラインの全てで一気にPCI Express版を提供する予定だ。これらはいずれもPCI Expressネイティブソリューションになる。モバイルGPUは評価に時間がかかるため、できるだけ先行してサンプルを提供、ライバルを引き離そうという狙いだ。

 モバイルGPUでは、ATIは現在のところDirectX 9ハードはMobility RADEON 9600(M10)系列しか提供していない。しかし、DirectX 9化も一気に進めるという。

 「今、DirectX 9はパフォーマンスセグメントに提供しているが、来年には統合チップセットにまでDirectX 9を持ってくる。つまり、5Wから15WまでのフルレンジでDirectX 9をサポートする」とEisler氏は言う。

 こうしてみると、ATIは2004年にデスクトップとモバイルの両輪で、PCI Express化とDirectX 9化を一気に促進することがわかる。デスクトップとモバイルの戦略が揃ってくるのが、2004年の特徴だ。ただし、デスクトップでこうした変化が2004年前半に来るのに対して、モバイルでは2004年後半になるという。

 さらに、プロセス技術の改良も進める。

 「モバイルGPUでもLow-kバージョンを計画している。Low-kの利点は、同じ周波数&パフォーマンスなら消費電力が低くなり、同じ消費電力ならより高い周波数&パフォーマンスが達成。どちらもノートPCでは利点がある」とEisler氏は、Low-kを採用したRADEON 9600 XT(RV350)のモバイル版を示唆する。

 拡大するノートPC市場に合わせて変わり始めたATIのモバイルGPU戦略。これは、他のGPUメーカーにも影響を与えることは必至だ。

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【10月27日】【海外】ATI、デビッド・E・オートン社長兼COOインタビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1128/kaigai050.htm

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(2003年12月19日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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