笠原一輝のユビキタス情報局

【COMPUTEX TAIPEIレポート】
自作DTR/Centrinoノートに力を入れるマザーボードベンダ




AOpenのブースで展示されていたチャネル向けのノートPC。CPUにはPentium M(1.3GHz~1.7GHz)を採用し、チップセットにはIntel 855、無線LANにはIntel Pro/Wireless 2100を搭載しており、Centrinoノートとして利用できる

 COMPUTEX TAIPEIの会場をよく見ていると、今年の後半から来年の前半にかけての新しいトレンドを見て取ることができる。会場を回って目につくのは、いくつかのマザーボードベンダが、ノートPCを展示していることだ。

 しかも、これまでよく見られたデスクトップリプレースメント(DeskTop Replacement、以下DTR)と呼ばれる大型のノートPCだけでなく、CPUにPentium M、チップセットにIntel 855ファミリー、Intel Pro/Wireless 2100というコンポーネントを採用したいわゆるCentrinoノートも含まれている。

●COMPUTEXで最も盛り上がっていた製品はキューブ型ベアボーン

 今日は、COMPUTEX TAIPEIの最終日で一般公開日に設定されており、会場には台湾のエンドユーザーが多数来場している。各出展者ともエンドユーザー向けのアピールに余念がない。

 今回のCOMPUTEX TAIPEIは、本来6月の上旬に開催されるはずだったものが、9月のこの時期にスリップしてしまったため、各ベンダとも6月にあわせて開発してきた新製品はすでに出荷済みという状況が多かった。

 新製品といえばAMDが発表したAthlon 64だが、各ベンダともAthlon 64対応製品を前面に出して盛り上がっているのかと言えば、決してそうでもない。OEMメーカー筋の情報によれば、Athlon 64は年内の出荷数が、CPUの出荷数としては異例の少なさといってよい30万個程度だとAMDから通知されていると言う。(AMDをのぞけば)Athlon 64関連製品を売る側も力が入っておらず、今ひとつ盛り上がりにかけているのが実情だ。

 そんな、今ひとつ盛り上がりに欠けるCOMPUTEXだが、よく見て歩くと、今年の末から来年の春にかけてのPC業界のトレンドを見て取ることができる。1つには、キューブ型ケースが上げられる。これに関しては各社が競うように展示しており、よりスタイリッシュなもの、ボディにイラストを描き込んだもの、オーバークロック用のつまみをつけたものなど多種多様で、今後実際に市場に投入されることになるだろう(どのような製品が出荷されていたかは、別記事を参照して頂きたい)。

●マザーボードベンダがDTRノートやCentrinoノートを展示、ターゲットはチャネル

 そして、もう1つの気になる動きが、これまで(OEMメーカー向けのビジネスを行なっているASUSは別として)あまりノートPCビジネスには手を出してこなかったマザーボードベンダがノートPCのビジネスに乗り出していることだ。

 例えば、AOpen、GIGABYTEといったOEM向けのノートPCビジネスを行なっていないベンダが、ノートPCの展示を行なっている。

 展示されている製品は、大型の液晶ディスプレイを搭載したDTRノートのみならず、14型の液晶をディスプレイを搭載して薄型のCentrinoノートなどもある。しかも、AOpenやGIGABYTEは、これらの製品をOEM向けにビジネスを行なうというのではなく、チャネル向けに自社ブランドで販売していくという計画である。

 チャネルは、CPUやメモリ、HDDがないCentrinoノートをこれらのベンダから購入し、CPU、メモリ、HDDなどを組み込んで販売したり、場合によっては自作ユーザー用にベアボーンノートとして販売していくことになるという。

 これまでも、台湾ベンダがDTRのノートPCをチャネル向けに出荷し、チャネルが自分のブランドをつけて販売するというのは何例かあったが、Centrinoのノートといってモバイル用途の製品がそうしたチャネル向けに販売された例はほとんどなく、新しい動きと言ってよい。

 実は、この動きは3月に開催されたCeBITでも見られていた。いくつかのベンダはデスクトップPC用のPentium 4を搭載したDTRノートを展示する横で、Pentium Mを搭載したCentrinoノートを展示していたのだ。その時点では、筆者はOEM向けのビジネスでも始めるのかと思っていたのだが、どうもそれは間違った認識だったようで、明確にチャネル向けのビジネスを狙っているようだ。

 ただし、各ベンダとも12型や10型といった小型の液晶ディスプレイを搭載したウルトラポータブルのノートPCにはほとんど取り組んでいない。こうした製品では、Intelのデザインガイドに従って作っても技術的に解決できない問題があるなど、製造が難しいのだ。CPUもソケットに挿入するタイプではなく、マザーボードに直づけする必要があるBGAパッケージが使われることが多いため、チャネル向けの製品としてはあまり適当ではないという事情があるからだ。こうしたウルトラポータブルの製品では、引き続き日本のOEMメーカーの技術的なアドバンテージは大きいといえるだろう。

GIGABYTEのNB-1401。14.1型のTFT液晶ディスプレイを搭載し、Pentium M、Intel 855GM、Intel Pro/Wireless 2100を搭載したCentrinoノート GIGABYTEのN601。15.4型、1,280×800ドットのワイド液晶を搭載したCentrinoノート GIGABYTEのN501。15.1型、1,024×768ドットの液晶を搭載したCentrinoノート

AOpenの1555。14型ないしは15型のXGAを搭載したCentrinoノート AOpenの1556J。15型の液晶ディスプレイを搭載した2スピンドルCentrinoノート

●チャネル向けノートPCを狙う背景にはIntelのリテール戦略

 これまで、IntelはノートPCのビジネスではチャネルよりもOEMメーカー向けのビジネスを重視してきた。その背景には、ノートPCを製造するにはメーカーの技術力が必要になるし、ノートPCは標準化が難しいという事情がある。

 チャネル向けにビジネスを行なうには、コンポーネントを標準化し、技術力が高くないチャネルでも簡単にPCビジネスを行なえるようにする必要がある。

 デスクトップPCにおいては、マザーボード、ケース、拡張カードなどがすべて標準化されており、各コンポーネントベンダは標準化された製品を製造しチャネルに供給している。チャネルでは、これらのコンポーネントを組み合わせることで、簡単にPCを組み立て、エンドユーザーに対して供給できる。もちろん、組み立てないで、自作PCユーザー向けにパーツのまま提供されることも多い。

 これに対してノートPCでは、そもそもケースを標準化することも不可能であるし、マザーボードなどもケースにあわせて作り込む必要があるため、標準化は不可能に近いと言ってよい。

 ただし、こうした状況も徐々に変わってきている。1つには、液晶の大型化という背景がある。液晶が大型化することにより、ノートPCのボディは大きくなってきており、ケースやマザーボードの標準化まではいかないとしても、マシンの底面の蓋を開けることで、簡単にCPUを挿入することなどは可能になりつつある。

 また、メモリやHDDなども底面に蓋をもうけるなどしてやはり簡単にインストールできるようになっている。つまり、ノートPCでも、CPU、メモリ、HDDを抜きでベアボーンシステムとして提供することが可能になってきたのだ。

 さらに、Intelのチャネル向け戦略もそうしたチャネル向けノートの普及を後押ししている。あるOEMベンダの関係者は「利益率が高いボックスのCPUを売ることはIntelにとってメリットがあるので、積極的に台湾のベンダに対してチャネル向けのCentrinoノートPCに取り組むように後押ししている」と説明する。

 Intelにとって利益の源はなんといってもCPUを売ることだが、チャネル向けに1つのCPUを売るのと、OEMメーカー向けにCPUを販売するのでは、利益率が全く異なる。同じCPUであってもチャネル向けに比べて、大量に一括で購入してくれるOEMメーカー向けの場合は、価格を安価に設定しなければいけないからだ。

 Intelにしてみれば、チャネル向けの数を増やせば増やすほど利益が増えていくので、当然チャネル向けのビジネスに力を入れることになる。

 これまでIntelはチャネル向けのCPU販売は、デスクトップPC向けを重視してきたのだが、昨年ぐらいからノートPC向けにも力を入れるようになってきている。実際Intelの代理店にはボックス版のPentium MやモバイルPentium 4などのモバイルCPUが供給され始めており、チャネル向けのノートPCという市場ができあがる下地が整いつつあるのだ。

●課題はサポート体制の確立、各社ともサポート体制の充実を図る

 ただし、課題もある。1つにはサポート体制を確立できるのかということだ。というのも、自分でほぼすべてのパーツを交換できるデスクトップPCとは異なり、ノートPCではCPU、HDD、メモリしか交換することができない。

 マザーボードやキーボードなどベアボーンとして購入した部分が壊れた場合には、メーカーサポートを受ける必要がある。

 ここ数年で、マザーボードベンダも日本支社を設立し、自社でユーザーサポートを行なう体制を整えてきた。AOpenも、GIGABYTEもいずれも日本支社が設立されており、日本でベアボーンノートPCの販売を開始した場合にはユーザーサポートを行なう体制が確立されつつあるという。

 AOpen ソリューションプロダクトビジネスディビジョン プロダクトプランニング部門ディレクターのクリス・リュー氏は「当社ではチャネル向けにノートPCを販売するにあたり、ユーザーサポートが何よりも重要であると考えて、それを構築するのに時間を割いてきた」と説明する。すでに同社はデスクブックと呼ばれるDTRノートを日本で販売しており、今後もサポート体制を拡充しながら、ラインナップを拡張していく計画があるという。

 このように、今後日本でも各社がベアボーンノートPCをチャネル向けに販売していくことで、店頭でベースシステムとなるベアボーンノートを購入し、そこにボックス版のCPU、メモリ、HDDを追加してノートPCを自作する、という光景を見かけるようになる可能性がある。

 また、チャネル向けのノートPCの登場により、かつてのデスクトップPCがそうであったように、ノートPCに関しても価格が下落するという状況が生じてくる可能性がある。

 特に、DTRノートは、その名の通りデスクトップPCの代換となる製品であり、メーカー製の製品以外にも選択肢を多様化させるという意味でチャネル向けのベアボーンが登場し、ユーザーが自分でCPU、メモリ、HDDをインストールして利用するということができるようになるのは歓迎していいだろう。

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~キューブ型ベアボーンは液晶搭載がブームに
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0924/comp08.htm

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(2003年9月26日)

[Reported by 笠原一輝]


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