元麻布春男の週刊PCホットライン

2004年、マザーボードのフォームファクタは
ATXからBTXへ


 前回は、おそらく最後に除去されるレガシーとなるであろうBIOSと、それを除去するものになるEFIフレームワークについて触れた。もう一言だけ補足しておくと、EFIフレームワークによっておそらくVGA BIOSも除去され、VGAというレガシーも排除されるだろう。

 VGAに代わって基本的なグラフィックスBIOSとなるのは、数年前から話題になっているUGA(Universal Graphics Adapter)である。UGAは、各グラフィックスハードウェア(チップ)ごとに存在するディスプレイドライバを置き換えるものではない(高性能なグラフィックス機能にはドライバが必須)が、32bitリニア環境で利用可能なグラフィックスBIOSとして、VGAに代わる存在となるハズだ。

 こうした直接的に機能や性能にかかわるレガシー以外にも、PCには多くのレガシーが存在する。例えば、おそらくここ数年で除去されそうなものとしては、フラットケーブル(リボンケーブル)が挙げられる。もちろん、パラレルインターフェイス(フラットケーブル)からシリアルインターフェイス(Serial ATA用の細いケーブル)への移行は、性能向上にも関係しないわけではないのだが、現時点では性能面での影響は小さく、間接的なもの、将来的なものにとどまる(冷却を妨げない、という効果が顕著になるのも将来的なものに近いだろう)。現時点では、機能や性能というより、使い勝手あるいは見た目の点での向上という側面の方が大きいように思う。フラットケーブルは、'81年にPCが登場して以来、ずっとPCとともにあったわけだが、あと2~3年で消える運命となりそうだ。

●変化の波は、マザーボードのフォームファクタにも

 同じように、直接的に機能や性能にかかわらないレガシーがマザーボードのフォームファクタだ。現在主流となっているATX/MicroATXは、PCIバスの時代に定義されたものであり、それ自身はレガシーとはいえないかもしれない。実際、ATXやMicroATXでは、レガシーであるPC/ATとは異なる電源ユニットを採用もしている。しかしその反面、PC/ATあるいはさらに前のPC/XTから脈々と受け継いだものもある。その一例が拡張スロットの位置だ。ATXの拡張スロットの位置、およびスロット間の間隔は、PC/XTに倣ったものだ。しかし、ここにも大きな変化が訪れようとしている。

 過去数回のIDFにおいてIntelは、「BigWater」という新しいフォームファクタ標準への取り組みについて公開してきた。それが今回のIDFで、“BTX”という形で実を結ぶこととなった。名前でも分かる通り、BTXはPCI Expressの採用を前提に、現在使われているATXを置き換えるもの。一応、Balanced Technology eXtendedというもっともらしい名前の短縮形とされているが、Aの次だからBじゃないかという気がしないではない(とすると、BigWaterもこれを意識してBで始まる名前だったのかもしれない)。

【写真1】展示会場に展示してあった「Small」の電源ユニット。一番手前のものにはSerial ATA用の電源コネクタがあるが、奥のものにはない

 このBTX規格が定めるものは、マザーボードとケース(シャシー)間のメカニカルなインターフェイスと、マザーボードと電源ユニット間のメカニカル(コネクタ)および電気的なインターフェイス標準。ケースと電源ユニット間のメカニカルなインターフェイス(早い話が電源ユニットの形状)は、デザインガイドの方で定義される。したがって、電源ユニットがSerial ATA用のパワーコネクタを提供するかどうか、といったことは直接BTXでは定義されない。また、マザーボードと電源ユニット間のインターフェイスは、現行のPentium 4対応ATX電源と基本的に同じだから、ATX対応電源を流用することが可能だ。

 ATX対応電源に加えて、現在デザインガイドで2種類の新しい電源ユニットのフォームファクタが追加されることが公表されている。1つは10~15Lの内容積のPCを想定したSmall、もう1つが6~10Lの内容積のPCを想定したUltra Smallだ。Smallについては、展示会場にあったコンセプトプラットフォームに用いられていたほか、単体での展示も行なわれていた(写真1)。

●レイアウトが大幅に変わるBTXマザーボード

【図1】BTXマザーボードの基本的なレイアウト。拡張スロットが反対側になる

 このBTXでマザーボードに関して最も大きく変わるのは、拡張スロットがこれまでと反対側(上から見て)になることだ。つまり、マザーボード上の拡張スロットの位置は、上から見てボードの左側(CPUの左側)にあった。それがBTXでは逆になる。

 基本的なBTXマザーボードのレイアウトを示した図1を見れば納得してもられるだろう。このようなレイアウトを採用する理由は、チップセットと拡張スロット、メモリスロット間の配線を合理的にすること、1つの冷却ファン(電源ユニットの内蔵ファンを合わせると2つ)でCPU、チップセット、メモリ、グラフィックスカードのすべてを冷却可能にすること(後述)にある。

 また、この図1はBTXに基本的なフォームファクタがあることを示しており、図中の真中の線から左が、拡張スロットを1つのみサポートしたpicoBTX(8インチ×10.5インチ)、その右側の線で区切られた拡張スロットを4つ持ったフォームファクタがMicro BTX(10.4インチ×10.5インチ)、そして7本の拡張スロットをもったBTXだ(12.8インチ×10.5インチ)。MicroBTXはMicroATXに、BTXはATXにそれぞれ対応するが、picoBTXは新たに定義されたフォームファクタだ。シリアルバスであるPCI Expressは、AGPに比べてレイアウトの自由度が増すため、Riserカードを併用することもできる。

【図2】BTXで取り入れられるSRM。マザーボードのたわみを防止する

 図1で示されたpicoBTXフォームファクタで不安になるのは、マザーボードの取り付け穴が4つしかないことだろう。発熱量の増大と共にCPUのヒートシンクは大型化を続けており、重量も増大している。マザーボードを4隅で固定しただけでは、大きくたわんでしまいかねない。

 そこでBTXで導入されるのがSRM(Support and Retention Module)と呼ばれる仕組みだ。SRMはロッキングタブを用いてシャシーにスナップインする(ネジ止めではなくはめ込み式に固定する)金属製のプレート(図2)で、ここに冷却用のサーマルモジュール(冷却ファン、冷却風を導くダクト、ヒートシンク、固定用クリップ等)をネジ止めする。と同時に、マザーボードを下から支えることで、マザーボードがたわむのを防ぐ。また、荷重をシャシーの中央から端に移すことで、シャシーがたわむことも防止する。


●マザーボードの下も冷却

 図3は、MicroBTXマザーボードを用いたリファレンスデザインの概要だが、中央にあるサーマルモジュールがグラフィックスカードの冷却も行なうため、グラフィックスチップはパッシブヒートシンクだけで済む。冷却の様子を分かりやすくしたのが図4で、ケース前面のファンにより前面から背面にストレートに抜ける冷却風が、CPU、VR(レギュレータ)、チップセット(MCH、ICH)、グラフィックスのすべてを冷却する様子が分かる(前面ファン以外のヒートシンクファンは不要)。メモリは恩恵を受けられないように見えるが、実際はダクトの一部が切りかかれており、そこから漏れる冷却風と、電源ユニットの冷却ファンで、十分な冷却が行なわれるという。

【図3】BTXのリファレンスデザイン。リファレンスデザインが内容積12.9Lに小型化されたこと自体が時代の移り変わりを感じる 【図4】上記リファレンスデザイン内の部品配置。少ないファンで主要コンポーネントをカバーしようという様子が分かる

 この様子を横から見たのが図5だ。ここで注目して欲しいのは、冷却風がマザーボードの下を流れるようになっていることだ。つまりBTXは、プロセッサ下部の冷却も考えていることになる。マザーボード下に冷却風を通すために、BTXではシャシーとマザーボード間の間隔(シャシーにマザーボードを取り付けるスペーサーの高さ)がATXの0.25インチから0.4インチへと増大している。これにより、将来マザーボードの底面に部品を実装する必要性が生じた際にも対応が可能になる。また、間隔が広がったことも、SRMの必要性を高めているといえるかもしれない。

 もう1つ、マザーボードとシャシーのインターフェイスで忘れてはならないのが背面のI/Oパネルだ。図6はBTXのI/Oパネルだが、ATXのものよりわずかに背が低く横長なものになっている。これはあくまでもデザイン例だと思われる(実際のレイアウトはマザーボードによるだろう)が、こうしたリファレンスデザインにS/PDIFらしきコネクタが含まれたのは初めてかもしれない。

【図5】サーマルモジュールの断面図。ファンによる冷却風がマザーボードの下にも流れる点に注目 【図6】BTXのリアI/Oパネル。ATXのものより背が低い

●BTXマザーボードは2004年に登場?

【写真2】Big Creekマザーボードを用いたコンセプトプラットフォーム。Riserカードのおかげで、省スペースの筐体でありながら、フルサイズのグラフィックスカードが利用できる

 さて写真2が、展示会場にあった図3のリファレンスデザインに準拠したコンセプトプラットフォームだ。ここで用いられているマザーボードは875Pチップセットを用いたBig Creekと呼ばれるもので、当然のことながらPCI Express対応ではない(だからこそリファレンスプラットフォームではなく、コンセプトプラットフォームと呼ばれる)。

 が、BTXのコンセプトは十分に理解可能だ。何と言っても白いダクトが目立つ。また、写真奥のPCIスロット(リファレンスデザインではPCIスロットとPCI Expressスロット)がLow Profile専用なのに対し、グラフィックスカードはRiserカードのおかげでフルサイズカードが利用可能となっており、性能面で妥協をせずに済む。ここにもPCI Expressのメリットが現れているといえるだろう。

 このように、BTXでは今のATXから多くのことが変わるが、PCI Expressを前提としたデザインであるため、登場するのは2004年の半ばあたりになりそうだ。その前、4月あたりまでには、必要なデザインガイドもすべて揃うことになっている。

 ただし、誤解してはならないのは、PCI Expressに準拠したマザーボードがすべてBTXになるわけではないことだ。これは、ATフォームファクタのPCIマザーボードがあることを考えても明らかで、むしろ最初はATXフォームファクタに対応したPCI Expressマザーボードの方が市場性は大きいかもしれない。

 だが、BTXはATXに比べて省スペース性に配慮しているし、ファンを減らしてコストと騒音を減らそうという意図も見える。長期的にはBTXが主流になっていくと考えて良さそうだ。


□IDF Fall 2003のホームページ
http://www.intel.com/idf/us/fall2003/index.htm

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(2003年9月20日)

[Text by 元麻布春男]


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