第215回
@niftyモバイルパックに見る、
モバイルユーザー向けVPNサービスの可能性



ThinkPad X31用インナーバッグ

 先週、10万円のインナーバッグのことを記事にして以来、同じ職業の人たちからは「本当に自腹なのか」とか「もうX31以外のPCは使わないのか」、あるいは「記事の中身自体が嘘じゃないの?」などなど、様々な反応をもらったが、一方で作ってみたいという人(何故かPCマニアではない方が多い)も決して少なくはなかった。モノに対する価値観は、人それぞれだと実感。

 また意外なところからオーソドキシーに発注が来たという。ドイツから先週の記事に掲載した写真を貼付し、英語で「これと同じもののT40版を作ってドイツまで発送できるか?」との問い合わせが掲載2日後に来たそうだ(発注者はドイツ人とのこと)。PC Watchのドイツ語版、あるいは英語版があるわけではないが、彼らはどこでそうした情報を仕入れているのだろう?

 さて、今週の話に移ろう。今週は先日発表された「@niftyモバイルパック」に注目してみた。このサービスは家庭内の無線LANアクセスポイント、@nifty MobileP、@niftyホットスポット、@FreeDを統合し、単一のユーティリティからインターネットへとアクセス可能にし、VPNを用いることにより無線区間のセキュリティを強化。さらにMobile IPを用いて、どのサービスからアクセスした場合でも、同じIPアドレスを利用可能にするという、複数サービスをセットにしたパッケージである。

 現時点では100人限定の試験サービスを無料で提供しており、来年の4月には商用サービスとして実用化したいという。なお試験サービスの提供期間は9月16日から2004年1月12日までとなっている。

●3つのモバイルサービスを統合

 ニフティのニュースリリースによると、ユビキタス時代を見据えた新しいモバイルサービス云々……と続くが、何がモバイルコンピューティングと関係あるのか。もちろん、どこからでも単一のツールでインターネットにアクセスできるのは便利だが……はて、今ひとつピンとこないと疑問に思っている読者もいるのではないだろうか。

 このサービスは@niftyモバイルパックというひとつのサービスにまとめられているが、その内容は特徴や目的が異なる3つの機能・サービスに分かれている。

 まずひとつ目が、家庭内の無線LANアクセスポイント、@nifty MobileP、@niftyホットスポット、@FreeD、いずれからでも単一のアクセスツールでインターネットへのアクセスを可能にするツール「モバイルアシスタント」の提供。このツールには、各経路におけるアクセス料金とアクセス速度がプログラムされており、各状況下において自動的に最適な経路からインターネットにつないでくれる。

 なお、AirH"が現時点でサポートされていないが、モバイルアシスタントにはAirH"用通信カードも接続先の自動切り替え対象として登録されているそうだ。実際に、現時点でも利用できているという。ただ@FreeDと異なり、対応通信デバイスの数が多すぎるため検証作業が間に合っておらず、正式サポートしていないだけとのことだ。

ニフティ ネットワーク部の名久井寛之氏

 2つ目のサービスはMoblle IP対応。ニフティ ネットワーク部の名久井寛之氏によると、ユーザーごと固有のIPアドレスを割り当て、常に同じIPアドレスであらゆる経路からネットワークにアクセスできる。IPネットワーク対応のアプリケーションを利用中、ネットワークの状況が変化し、経路を自動的に切り替えた場合などでも、そのまま継続してアプリケーションを利用可能になる。またIPアドレスが変化しないため、特定のサーバやサービスへのログオンを、割り当てられたIPアドレスのみからしか受け付けないように設定しておけば、セキュリティを高めることも可能だろう。

 3つ目は無線アクセス時、無線区間のセキュリティをIPsecで高めるサービスだ。具体的にはPPTPとIPsecを用いたVPNサービスで実現する。モバイルアシスタントで接続すると、インターネットへのアクセスラインを設定するとともに、接続後は自動的にニフティのネットワークセンター内にあるVPNサーバへと接続する。

 結果、PC-ニフティ間の通信が暗号化され、ホットスポットなどからアクセスする場合でも通信内容の秘匿性が高まる。トンネリングとIPsec利用に伴うスループット低下も心配されるが、試験サービスの中で必要なVPNサーバパフォーマンスの見極めを行なう予定。名久井氏によると「商用サービス開始時にも、十分に安価なプライスで高スループットのVPNサービスを提供できるめどは立っている」という。

 ただし、無線区間を含めたニフティまでのセキュリティは保たれるが、ニフティからインターネットに出てしまえば暗号化はされていないことになる。あくまでも無線LANのセキュリティを高める効果と考えた方がいいだろう。

●個人向けのVPNサービスを考える

 さて、ユーティリティを用いた経路を意識しない接続という試みは、PCだけではなくPDAあるいは将来的なワイヤレスIPフォンといった、より携帯性の高いデバイスからインターネットを利用する際に重要な経験となるだろう。前出の名久井氏も「今回、試験サービスの参加人数を100名に絞ったのも、技術的な要件を揃えた時、ユーザーがどのような使い方をしてくれるかを見極めたかった」と、実験的な要素が非常に強いことを示唆している。ニフティでは初期試験サービスユーザーからのフィードバックを元に、サービス内容を整理し、商用サービス前にもう一度、試験サービスユーザーの追加募集を行なう予定という。

 “経路を意識せずに自動的に選択”とはいえ、あらかじめ決められたサービスをユーティリティの中にプログラミングしているからこそできる機能。家庭の無線LANアクセスポイントをアッカネットワークスの無線LANサービスに限定しているのも、自動切り替えを意識する必要があるからだという。

 今後、無線アクセスサービスの種類が増加し、ローミングアクセスも複雑さを増していった時、また様々な契約形態とそれにともなくアクセス料金のコスト計算も含め、全く意識しなくとも最適な経路でのネットワークアクセスが行なえるようになるには、まだ時間がかかるように思う。が、そこまでに至る過程として、この試験サービスは無駄にはならないだろう。

 ただ、@niftyモバイルパックに組み込まれたサービスの中で、VPNによるセキュアなアクセスサービスの提供部分に関しては、今回のような無線区間のセキュリティを強化するという目的だけではなく、より広範なサービスへと繋げていくことができるように思う。

 名久井氏への取材時にも話題にしたのだが、せっかくVPNでセキュアにニフティのネットワークセンターまでの結ぶことができるのであれば、ニフティの契約の元に接続している自宅ネットワークまでをインターネットを経由せず(あるいは仮想的に自宅ネットワークが接続しているAPまでVPNトンネルを張るというのでもいい)にアクセスできれば、より付加価値の高いサービスになるだろう。

 もしくはVPNで接続したニフティのネットワークセンター内でファイアウォールやウィルス/ワーム対策を行なうことで、どんな場所から接続してもファイアウォールで守られている環境を作り出すといったサービスも考えられる。インターネットからのアタックに対する安全保障をISP側でサービスとして提供するわけだ。自宅でも、外出先からでも、あるいは海外からのアクセスでも、常にファイアウォールの存在や設定を意識しなくても良いというならば、それなりに料金を支払っても良いと思うユーザーは多いのではないだろうか。

 名久井氏も将来の可能性については否定しない。「@niftyにはファイアウォールを代行するサービスメニューもある。現在は接続環境を用意し、試験サービスユーザーの反応を見ながらアプリケーションを創出しようという段階だが、商用サービス時にはより高い付加価値を提供するメニューを考えていきたい」と話す。そうした思いの陰には「ニフティはインターネット上の新しいサービスを提供するとき、2番手、3番手になることが多かった。しかしいつまでも2番手ではダメ。ユビキタスなネットワーク環境では、1番手を走りたい。その思いがあって、ユーゼージモデルが見えない現段階での試験サービスを始めた」という考えがあるという。

 @niftyモバイルパックの試験サービスは本日から開始される。追加の試験ユーザー募集も含め、商用サービス開始までにじっくりと“誰もがきっと使いたくなる”サービスメニューの整備を期待したい。

□@niftyのホームページ
http://www.nifty.com/
□ニュースリリース
http://www.nifty.com/corp/release/20030821.htm
□@niftyモバイルパックのホームページ
http://www.nifty.com/mpack/

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(2003年9月16日)

[Text by 本田雅一]


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