デルコンピュータのLatitude X300は、CPUに低電圧版Pentium Mプロセッサ(以下低電圧版Pentium M) 1.20GHz、ディスプレイに12.1型のTFT液晶を採用したB5サイズクラスのサブノートPCで、日本アイ・ビー・エム(以下IBM)のThinkPad X31シリーズ(以下X31)、日本ヒューレット・パッカード(以下HP)のHP Compaq Business Notebook nc4000(以下nc4000)、東芝のDynaBook SS 2110(以下、SS 2110)、松下電器産業(以下松下)のLet's note T2などと競合するビジネス向けのワンスピンドルノートPCだ。
Latitude X300(以下本製品)は、CPUにIntelの低電圧版Pentium M 1.20GHzを採用している。ライバルとなるIBMのX31シリーズやHPのnc4000などが通常版のPentium Mを搭載し、東芝のSS 2110(およびSS S8)や松下のLet's note T2などが超低電圧版Pentium Mを採用していることを考えると、珍しい選択であるといえる。Pentium Mの3種類の機能などを表にすると以下のとおりだ。
これをみてわかるように、低電圧版のPentium Mは、バッテリ駆動時間に大きな影響を及ぼす平均消費電力は通常版とあまり変わらないものの、PCの本体設計時に大きな影響を及ぼす熱設計消費電力に関しては通常版の半分以下になっており、より「攻めた」本体設計が可能になる。 本製品もそうした事情を反映して、通常版のPentium Mを採用しているX31やnc4000に比べて薄い設計となっている。スペック上では19.8~23.9mmとなっており、X31の24.9~30.2mm、nc4000の27.9mmに比べて薄くなっていることが分かる。さすがに超低電圧版を採用した東芝のSS 2110の14.9~19.8mmにはかなわないものの、12.1型液晶を搭載した製品としては十分薄い部類に入れることができるだろう。
メインメモリはオンボードで128MB搭載されており、空いている1つのDIMMソケットを利用して増設することになる。デルではBTO方式が採用されており、注文時にメモリ容量を増やすユーザーも少なくないと思うが、できるだけメモリ容量を増やしたいと考えるのであれば注文時に512MBなどの大容量DIMMを選択するようにした方がいいだろう。 HDDの容量もBTOで変更することが可能だが、レビューに利用したマシンには日立グローバルストレージシステムのIC25N030ATMR04-0(30GB)が採用されていた。ハードディスクの容量は20/30/40/60GBから選択することが可能だ。なお、ハードディスクはリムーバブル形式にはなっていないので、本体を分解しないと交換することは難しそうだ。IBMのX31、HPのnc4000は交換可能なようにリムーバブルになっていることを考えると、この点はやや残念だ。ぜひ次機種では簡単に交換が可能なように変更してほしい。 本製品にはオプションでメディアベースと呼ばれるドッキングステーションが用意されている。メディアベースは光学ドライブを利用するためのベイとしての機能と、PS/2、シリアル、パラレルなどの本体には装備されていないポート類を利用するためのポートリプリケータとしての2つの機能が用意されているほか、底面にはサブウーファーとしての機能も用意されており、本体に内蔵されているステレオスピーカーと併せてCDやDVDを再生する場合に利用することが可能だ。X31やnc4000の本体内蔵のスピーカーはモノラルであることを考えると、ステレオになっている本製品は賞賛に値するだろう。 光学ドライブはCD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブ、CD-RWドライブ、CD-RW/DVDコンボドライブ、DVD+RW/+Rドライブなどがラインナップされている。また、別途オプションとしてFDD、セカンドHDDも用意されている。メディアベースのベイはホットスワップに対応しており、これらのドライブを用途に応じて切り替えて利用することが可能だ。 また、メディアベースの内部には、標準バッテリを内蔵することができる。オプションで用意されている大容量バッテリを購入した場合には、標準バッテリが余ってしまうことになるが、メディアベースに入れて利用すれば、たとえば飛行機の中でDVDを閲覧したりする場合などに、より長時間の利用が可能になる。このように、メディアベースがあれば、必要な時にだけ光学ドライブやセカンドバッテリを利用することが可能になる。購入時にはぜひ検討したいオプションだ。
本製品の液晶ディスプレイは、12.1型のTFT液晶となっている。輝度は以下のとおりで、X31やnc4000などとほぼ変わらない明るさとなっている。ビジネス用途に利用するには十分なものといっていいだろう。解像度は1,024×768ドットで、最高1,677万色表示が可能になっている(ただし、ビデオチップのディザリング機能を利用)。 【輝度一覧】
グラフィックスコントローラは、チップセットであるIntel 855GMに内蔵されているIntel Extreme Graphics2が採用されている。Intel Extreme Graphics2はハードウェアT&Lエンジンこそ備えていないものの、レンダリングエンジンはDirectX 8世代の機能を備えており、2つのパイプラインにそれぞれ1つのテクスチャユニットを備える構造となっている。 3Dの描画性能だが、X31に採用されているATI MOBILITY RADEON、nc4000に採用されているATI RADEON IGP 350Mの内蔵グラフィックスと大きな違いはなく、ほぼ同等といっていいだろう(詳しくは後述)。
本製品の通信機能だが、ノートPCとして考えられる機能のほとんどが搭載されている。Ethernetは標準では100BASE-TXまでの対応となっているが、メディアベースを利用した場合には1000BASE-TX、つまりGigabit Ethernetとして利用することができる。これは、コネクタ部分の対応が本体内蔵部は100BASE-TX対応で、メディアベース側に内蔵されているものが1000BASE-TX対応となっているためだ。 Gigabit Ethernetが必要となる机の上ではメディアベースを使い、モバイルで利用する場合には100BASE-TXと使い分けてということだと思うが、できれば本体側もGigabit対応にしてほしかったところだ。また、V.92に対応した56kbpsモデムも用意されている。 無線関係だが、無線LAN、Bluetoothの機能が用意されている。Bluetoothはオプション扱いだが、無線LANに関しては標準でIEEE 802.11bに準拠した「Intel Pro/Wireless 2100」が採用されている。オプションでIEEE 802.11gに準拠した「TrueMobileTM 1300 ワイヤレスLAN 内蔵 Mini-PCI カード」、あるいはトリプルモード(11a/b/g)に対応した「TrueMobile TM 1400 デュアルバンドワイヤレスLAN 内蔵 Mini-PCI カード」が用意されており、注文時に変更が可能だ。ビジネスユーザーにとってはチャネル数を増やすことができるトリプルモードへの対応は必須といえるが、それに対応するオプションが用意されていることは歓迎していいだろう。 このほか、赤外線通信ポート、IEEE 1394(4ピン、本体側とメディアベースにコネクタが用意される)、USB 2.0ポート(左側面に1ポート、右側面に1ポート、メディアベースの2ポート)、PCカードスロット(Type2×1)、SDカードスロット、アナログRGBなどが用意されている。 キーボードは6列配列となっており、ストロークもこのクラスとしては十分なものであり、快適な入力が可能だ。ただ、1つだけ難点をいうとすれば、ファンクションキーの縦方向のピッチが非常に小さく、やや押しにくい。ファンクションキーを多用するユーザーにとってはやや不満が残るところだろう。できれば、数字キーとファンクションキーの間にスペースを入れるなど工夫がほしかったところだ。ポインティングデバイスはパッドで、特にドリフトなどもなく快適に操作することが可能だった。
ビジネス向けのノートPCに欠かせないセキュリティ機能だが、本製品ではBIOSレベルのパスワード機能が用意されている。パスワードは、プライマリパスワードと呼ばれる管理者用のパスワード、パワーオンパスワード、HDDパスワードと必要な機能が十分用意されており、ビジネスPCとしての最低限のセキュリティ機能を備えているといえる。 また、保険関係だが、標準でCompleteCareと呼ばれる3年間の拡張保証が添付されている。これは、火災、爆発、落雷、水漏れ、水災、衝突破損、落下、偶発的破損などに対応するもので、もって歩くがために事故が避けられないモバイルPCに対する備えが標準で添付されているというのはメリットといえる(CompleteCareの詳しい内容などはデルのWebサイト[http://www.dell.com/jp/jp/soho/products/model_latit_3_latit_x300.htm]を参照していただきたい)。 このほかにも、3年間パーツ保証、3年間翌営業日対応オンサイト保守サービス、3年間インターナショナル・サービスなどが標準で添付されており、ビジネスマシン向けの備えは十分だ。ビジネス向けのPCでは、本体の機能やスペックもさることながら、こうした保証体制も同じプライオリティであるということを考えると、本製品は十分合格点を与えられるものだといっていいだろう。 なお、保証やボディカラーなどをコンシューマユーザー向けにしているInspiron 300mもラインナップされており、ビジネス用途でないならば、こちらを選択するのもよいだろう。
それでは、実際にベンチマークプログラムを利用して本製品の持つ性能に迫っていこう。今回は比較対象として、ThinkPad X31、そしてHP Compaq Business Notebook nc4000を用意した。以下がその結果だ。 【ベンチマーク結果】
性能面に関しては、Pentium M 1.40GHzを搭載しているX31とnc4000が、低電圧版Pentium M 1.20GHzを搭載する本製品を全体的に上回っていることがわかる。これは、CPUのクロックが速いことが大きな要因であり、こうした結果になることも致し方ないところだろう。だが、冒頭でも述べたように、代わりに熱設計消費電力が低く抑えられ、その分スリムな本体が実現されているのだから、トレードオフということであろう。 ただ、平均消費電力で、X31やnc4000に対してやや不利となっている点はいただけない。X31が10.4W、nc4000が12.8Wとなっているのに対して、本製品は標準バッテリ、大容量バッテリのどちらの場合も13W台になっており、12W台が平均的なPentium M搭載ノートPCとしてはやや平均消費電力が高いといえる。実際、せっかく65Whという大容量なバッテリを搭載しながら5時間弱というバッテリ駆動時間はやや物足りないといえる。ただ、今回のレビューは試作製品を利用して行なったものであり、実際の製品では改善される可能性もあることを付け加えておきたい。
以上のように、平均消費電力にはやや不満が残るものの、低電圧版Pentium Mを採用したことで薄型化が実現できたことなどはX31やnc4000にはない特徴といえ、充実したメディアベースなど魅力的なオプションも魅力のひとつといえる。また、CompleteCareなど充実の保証体制などはビジネス向けPCとして必要不可欠なものであり、それが標準でサポートされる点は大きな魅力だろう。 ビジネス向けのノートPCを探していて、スペックなどをBTOで自由に決めていきたいと考えているユーザー、シーンに分けて光学ドライブの有無を使い分けたいユーザー、薄いノートPCがほしいユーザーなどであれば、本製品を検討することをお勧めしたい。 □関連記事 (2003年9月5日)
[Reported by 笠原一輝]
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