●やっと最近暑くなってきましたが…… 7月は異様に暑かったのが、8月になった途端に極端なまでの冷夏。おかげさまで筆者の仕事部屋はクーラー1台で何とか乗り切ることができた(7月末は、クーラーをフル回転させても室温が30度を切らないという、かなりヤバ目な状況だった)が、居間に置いてあるデスクトップPC(C3 800MHzベースのEdenマシン)は、ケースを開けっ放しにしてあるにも関わらず、ケース内部が40度近くまで温度が上がる始末。いくら冷夏とはいえ、PCに夏は辛い時期である。 とはいえ、アクティブファンを大量に利用して排気を確実に、となると今度は気になるのが騒音。静音がどこまで重要かというのは人それぞれ(筆者なんぞ、耳元に8cmファンが4台もついたサーバーがある仕事場で寝るのに慣れてしまった)なのだが、まぁ静かな部屋にあまりうるさいマシンがあるのは嬉しくないだろう。 あまりアクティブファンを使わずに、それなりに温度上昇を抑えようとすると、今度は性能を上げられないという罠に陥る。CPUにせよビデオカードにせよ、動作周波数と消費電力は比例関係にあるから、温度を下げるためには性能を落とし、消費電力を低く抑えることが必要になる。 もう1つの技としては、「巨大なケースを使い、内部に騒音吸収対策を施す」という方法もある。サーバー用途の幅広いフルタワーケースを用意し、ケース内側には吸音材を敷き詰め、ファンは12cmクラスの大口径のものを低速で動作させ、かつ電源の排気口にはサイレンサーを使ってやると、驚くほど静かなマシンが出来上がることは、筆者も何度か試して確認している。が、居間に置いておくのにこれほど不釣合いかつ邪魔なものもないわけで、やはり小さいに越したことはない。
消費電力を低く抑えるには、「低消費電力のパーツを使う」という選択肢もなくはない。例えばCPUにAthlon XPやPentium 4などを使うのをやめて、VIA C3とかPentium Mを使えばそれだけでいい感じに低消費電力=低発熱=静粛なマシンとなるわけだが、C3の場合は性能も低い上、使えるマザーボードが限られてしまう。一方Pentium Mの方はベアボーンキットなども事実上ノートPC用オンリーに近い状態だから、どちらもあまりうまくない。結局のところ、自作に関しては低クロック動作のAthlon XPかPentium 4をベースに、放熱を色々工夫することで、騒音と温度と性能のバランスを取ることになる。
●小型静粛マシンの問題は? ここで意外に引っかかるのがビデオカード。3Dを最初から捨てるつもりなら、グラフィックス統合チップセット(Athlon XPならnForce2系、Pentium 4なら845GEとか865G)でもいいし、あるいはMatrox G450/550あたりを積むのも悪い選択ではない。が、「いや、あんまり捨てたくないなぁ」となった途端に、選択が難しくなる。 今の3DのトレンドがDirectX 9以降のサポートなのは説明するまでもないことで、そうするとあまり安いビデオカードは論外となる。GeForce4 MXとかRADEON 8000系/9100/9200あたり、あるいはSiSのXabre系は本当に安いが、DirectX 9はサポートされていない。MatroxのG650あたりは、お好きな人にはたまらない(?)かもしれないが、3D性能という点では今一歩二歩であり、結局選択肢はGeForce FX系か、RADEON 9500/9600/9700/9800というあたりに落ち着いてしまうのは、まぁ必然であろう。 一般的な自作であれば、「あとは予算と性能の兼ね合いで決めてください」で話が終わるのだが、省スペース系となるともうちょっと話が続く。省スペースで静音を目指すとなると、
・アクティブファンが搭載されたビデオカードは、騒音低下の観点からできれば避けたい。GeForce FX 5800/5900のFX Flowは論外 といった制約がさらにつくことになる。加えて言えば、省スペースPCだと電源の供給能力もそれほど高くないから、消費電力の多いビデオカードの搭載には向かない、という話もある。 実際のところ、これに適うビデオカードとなると、GeForce FX 5200か、RADEON 9600あたりしか残らないことになる。もちろん、例えばGeForce FX 5600のファンレスというものもあるわけで、今ではRADEON 9800のファンレスはもとより、GeForce FX 5900のファンレスなんていうのもあるらしいが、省スペースには全然向かない上、発熱自体が減るわけではない。結局ケース側にアクティブファンを付けないとまともに動作しないわけで、こうしたものに関しては考慮の対象から外れることになる。
ちなみにGeForce FX 5200の場合、コア周波数が250MHzのものと325MHzのものがあり、前者はファンレス製品があるが、後者はファン付きがほとんどである。従って今回のターゲットは前者ということになる。一方RADEON 9600の方は幸いファンレス製品が多く出回っている。というわけで、今回はこのRADEON 9600でちょっと遊んでみることにした。
●3D BLASTER 5 RX9600 前置きがえらく長かったが、そんなわけでクリエイティブの「3D BLASTER 5 RX9600」を用意した。LowProfile AGPにも対応するRADEON 9600搭載のビデオカードである(写真1)。標準状態は通常のブラケットが装着されているが(写真2)、LowProfile用のブラケットも付属するので、取り替えることでLowProfile AGPにも対応できる(写真3、4)。冷却はヒートシンクのみで、フル稼働時もそれほど熱くなるという印象はない(写真5)。ちなみにメモリは128MBで、基板の両面に実装されている(写真6)。
microATX対応で5インチベイ×1、3.5インチベイ×2を持ち、内蔵電源は200Wとなかなかのスペック(写真8)。作業時には5インチベイが出前に引き出せるあたりもちょっと気に入った点だ(写真9)。このケース、前面に8cmファン×1、背面に6cmファン×2を持ち、丁度この8cmファンがAGP/PCIスロットに風を送り込む構造になっているため、冷却効率も良さそうである(写真10)。何よりアルミケースの割に安いというのが気に入ったこともある(*1)。 これに組み合わせるマザーボードにはMSIの865GM2-ILSを購入。CPUは定番でPentium 4 2.40C GHzを、メモリには(たまたま手元に転がってた)KingmaxのDDR400 CL2.5 256MBを2枚、HDDは(これも手元に落ちてた)SeagateのBarracuda ATA IV 120GB SATAを、CPUクーラーには(これまた手元にあった)Cooler MasterのPentium 4 2.40GHz用を利用した。あんまり静音には向いてない構成という気もするが、今回は騒音測定を行なうつもりはなかったのでご容赦いただきたい。
(*1)スチール製ケースならもっと安く上がるが、車に積んで帰るならともかく電車などで持って帰るのは結構しんどい。まぁキャリーを使えばいい話ではあるが、アルミケースなら文字通り持ち帰りができるので嬉しい。ただ、どうしても材料費が高くつくので、相場を見ると(microATXのくせに)2万円台のケースも珍しくないのが、これは税別で9,979円とぎりぎり1万円を切っているあたりが非常に筆者的にヒットした。
●ベンチマークその1:描画性能 さて、これでどんなことをして遊んだかというと、性能&温度である。性能といっても2Dに関してはそれほど大きな違いはないし、この記事の趣旨は「3D性能を確保するためにビデオカードを搭載しよう」だから、厳密に測定しても意味がない。幾つかのゲームベンチマークを使って簡単に比較することにしてみた。 比較対象としては、GeForce FX 5200搭載のSiluro FX5200 DT、及びIntel 865Gの内蔵グラフィックスを利用した。Siluro FX5200 DTの方はというと、1万円を切る価格でDirectX 9がフルに動き、しかもメモリが128MBということで以前筆者が購入したものである(確か税別で8,900円ほどだったと記憶している)。ちなみにテストはすべて解像度を1,024×768ピクセル・32bitカラー/テクスチャに固定して行なった。
さて結果はというと、表1の通りである。性能から言えば3D BLASTER 5 RX9600が圧勝ということになるわけだが、そもそもコアの性能が異なるし、価格も大きく異なるから、単純に比較するのはちょっと無茶だろう。この数値は、Pentium 4 2.40C GHzと組み合わせると、どの程度の描画性能があるかを示したものだと考えていただければ良い。
●ベンチマークその2:温度 さて本題はこちらである。ビデオカードを連続稼動させた場合、温度がどの程度まで上昇するかを確かめることは、特に省スペースPCでは重要である。今回は、
・Windows XP起動直後 で、どの程度温度が上がるかを測定した。CPU及びマザーボードの温度は、865GM2-ILSのPC Alart 4(写真11)を使って測定し、それとは別にデジタル温度計を使ってビデオカードの温度と外気温を測定した(写真12)。ちなみに外気温といっても、クーラーを動かした室内の温度ということだが、変動が大きかったため個別に測定している。 また、通常の利用ならばケースファンをフル回転にするところだろうが、静音を狙うとなるとケースファンは極力動かしたくないところだ。というわけで、ケースファンを動かした場合と動かさない場合の両方について測定を行なっている。
まずグラフ1はCPUの温度である。ケースファンをちゃんと動かしている限り、CPU温度は外気温+20度前後でほぼ安定している。Intel 865Gのみ、3DMark実施後の温度が高めだが、これはSoftware T&Lのお陰でCPUがフル稼働しているため。一方ケースファンなしの場合、温度が外気温+25度になり、特に3DMark実施後は外気温+30度以上になる。室温30度なら61~67度で、Pentium 4のTcase(ヒートスプレッダ温度)の69度にかなり近づいてくるから、ちょっと注意が必要といったところだ。ここで面白いのは、3D BLASTER 5 RX9600のマージンが比較的大きいこと。他の2つに比べて発熱量が少ないのではないかと思われる。 グラフ2はマザーボード温度で、これは単にマザーボードだけでなく、その他の周辺機器の温度の指標ともなる。結果はというと、やはりケースファンの有無でだいぶ変わってくる。特にケースファンなしの場合、3D BLASTER 5 RX9600とSiluro FX5200 DTはほぼ同等だが、Intel 865Gの内蔵グラフィックスだと+3度ほど余計に温度が上がっており、このあたりは「内蔵グラフィックスを使うより、外部のビデオカードを使うほうが発熱対策に有効」と考えてよさそうだ。
で、そのビデオカードの温度は? ということで測定した結果がグラフ3だが、これを見るとSiluro FX5200 DTの温度の高さが飛びぬけていることがわかる。ケースファンありのときですら、3DMark実施後の温度は70度を超えていたほどだから、物凄く発熱が多いことが見て取れる。ただ、その割にCPUやマザーボードの温度が上がらない理由は、Siluro FX5200 DTのヒートシンクの効率が悪いためと思われる。実際こちらの写真をご覧いただければ判る通り、ヒートシンク自体の大きさも小ぶりだし、しかも効率がよさそうには余り見えない。これはGeForec FX 5200のコアの特性云々というよりはSiluro FX5200 DTという商品固有の問題だろう。もう少し効率の良いヒートシンクに付け替えれば多少温度差は縮まると思うが、そうなると今度は放熱量が増えて、CPUやマザーボードの温度が現在より上がることになるわけで、やはり温度の面でキツイことには変わりなさそうだ。
●案外いいかも ということで、3D BLASTER 5 RX9600をざっと試してみた感じでは
・ハイエンド製品と比べれば見劣りするものの、それなりに3D性能は高速 といったところである。試しに、ケースファンを切ったままで丸1日使ってみたが、(ケースはかなり暖かくなるものの)熱暴走もせずに安定して稼動した。実際には室温がもう少し上がることを考えて、背面に6cmの低速ファンを1つくらい回すか、もしくはCPUをクロックダウンして発熱量の低下を図ったほうが無難だとは思うが、逆に言えばその程度の配慮で実用的な静粛マシンが作れそうだ。 難点を挙げるとすれば、やや高値なことだ。登場時の価格は16,000円ほどだったが、今もそれほど大きくは変わらない。GeForce FX 5200の方は、最近遂に8,000円を切る製品まで見かけるほどだから、それに比べれば倍の値段とも言えるわけだし、内蔵グラフィックスを使うつもりならそもそも一銭もかからないからだ。最近はGIGACUBEからも同一スペックの製品が登場したが、価格はほとんど変わらない。
ただ、「高性能で発熱が少なくファンレスなので静か。しかも安い」というのはちょっと欲張りすぎな気もする。「高性能で発熱が少なくファンレスなので静か」が16,000円そこそこで買えることを喜ぶべきだ、と思う。「多少高くてもいいから、とにかく静かなマシンを作りたい」という人に強くオススメする。 【お詫びと訂正】初出時に「RADEON 9600 PRO」搭載との記述がありましたが、誤りです。ご迷惑をおかけいたしました皆様にお詫び申し上げます。
□関連記事 (2003年8月25日) [Reported by 槻ノ木隆]
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