●「シンプルだから、使いやすい」がテーマ カノープスという会社は、なかなか歴史の古い会社だ。最初期はPC-9801シリーズ(Cバス)用のCP/M-80用Z80カードを、続いてCバス用のフレームグラバなどを手がける会社だった。 そんな同社がS3製のグラフィックスチップを搭載したPowerWindowシリーズの製品で、PC用グラフィックスカード市場に参入してきた時は、正直言って驚いたものだ。 現在、同社の主力となっているのはMTVシリーズのTVチューナー/キャプチャカードと、プロ向けのビデオ編集関連ハードウェアだが、今もカタログ巻末に掲載されているシステム製品の項に、同社のルーツを見ることができる。 カノープス製品の特徴を表す言葉の1つは、「安くない」ということだろう。グラフィックスカードにしても、TVチューナーカードにしても、同じジャンルの製品の中では高価な部類に属する。もちろん、高いだけだったら生き残れるハズがなく、同社が創立20周年を迎えることができたのは、製品に同社ならではのこだわりが盛り込まれており、共感するユーザーがそこに他社製品との価格差を認めてきたからだ。他社製品との差別化ということは、多くのベンダが言うことだが、それを実現した上で、ユーザーとの間に幸福な関係を築けたという点で、同社は希少な存在だろう。 だが、これは同時に、同社の製品はユーザーを選ぶ、ということでもある。こだわりの部分について理解や共感を持てないユーザーにとって、カノープス製品は高いだけの製品になってしまいかねない。こういう点から、カノープス製品についてマニア向け、というレッテルが貼られることがままある。MTVシリーズのヒット等を見ていると、筆者などそうしたイメージでも構わないのではないかという気がしていたが、カノープス自身はそう考えていなかったようだ。最近同社が立ち上げたQUOSYSブランドの製品群は、「シンプルだから、使いやすい」をテーマにしているが、これを裏返せば「機能を絞って安価に」ということでもある(もちろん、カノープスらしさを完全に捨て去ることはできないだろうが)。いずれにしても、これまでカノープス製品のユーザーではなかった層を取り込むことが狙いと考えて間違いない。
●内蔵型スキャンコンバータ「SSC100」
そのQUOSYSブランドの第一弾として発売されたのがスマートスキャンコンバーターの「SSC100」だ。13,800円で7月上旬に発売された。 スキャンコンバーターというのは、PCの画面出力をダウンコンバートすることで通常のTVに出力可能にしたり、逆にゲーム機の画面をアップコンバートすることでPC画面に出力可能にする装置のこと。SSC100は前者、PC画面をTV画面に出力可能にする製品だ。頭につけられた「スマート」という言葉は、SSC100がマウスの指定でPC画面の選択エリアのみをTV画面出力したり、マウスの動きに追随してTV画面出力エリアを切り替える機能を持っていることに由来する。 混同しやすいのは、ビデオ出力ボードである「VideoGate 1000」や「DigitalVideoPlayer」といった製品だ。これらは、基本的にはデコードされたビデオストリームを直接NTSC信号に変換して出力するもの(DigitalVideoPlayerはPCデスクトップのTV出力もサポートしているためややこしいが)。SSC100はグラフィックスカードが出力するアナログRGB信号を変換するものである。 SSC100の特徴のもう1つの特徴は、PC内蔵型のコンバータであるという点。スキャンコンバータは外付けが多いが、内蔵型はケースや電源(ACアダプタ)が不要で低価格を実現しやすい。その反面、PCの筐体を開けてのインストール作業が必要になるため、初心者には敷居が高くなる、というデメリットもある。それぞれ一長一短あるわけだが、あえて内蔵型を選んだということは、今回は低価格を優先したということなのだろう。 SSC100の基板で、ヒートシンクが取り付けられているのが、コンバータチップであるFocus Enhancements製のFS401で、下にフレームメモリ用のDRAMが見える。上に見えるのがCypress製のUSBコントローラ(AN2131SC)で、本製品のコントロールはすべてUSBポート経由で行なう。裏返せば、SSC100をインストールするPCIスロットから得ているのは電源だけということになる。 本製品の使い方は、付属の二股RGBケーブルを使ってPCのVGA出力をSSC100に入力、二股ケーブルの別の側にあるコネクタにディスプレイケーブル(PC用)を接続する。そして、ブラケット部に用意されたビデオ出力用コネクタ(S/コンポジット二股ケーブル添付)とTVを接続すれば良い。これでPCの出力がPCディスプレイとTVの両方に出力される。PCのディスプレイを接続しないことも可能だが、この場合カード上のジャンパスイッチでの設定変更が必要になる(内蔵のため、この設定変更は面倒)。なお、ビデオ入力コネクタは、単にビデオ信号を出力にパススルーするものだが、このおかげでビデオ入力端子が余っていないTVでも、いちいちケーブルをつなぎ変えずPCを接続することが可能だ。
さて使用感だが、何とも評価が難しい。というのは、ダウンコンバートしてTVに表示したPC画像の品質には自ずと限界があるからだ。たとえば、本製品を用いて1,024×768ドット解像度のデスクトップをTVに表示した場合、文字等をクリアに読み取ることができるかというと難しいが、それは必ずしも本製品の問題ではない(そもそもTVはPCのような高解像度表示用に作られていない)。 やはり、「DigitalVideoPlayer」の簡易版として、マウスで範囲を指定した、MPEG画像やDVDの再生画像を見ることが主な用途なのだろう。 逆に、本製品によるTV出力品質を、グラフィックスチップの内蔵TVエンコーダによるTV出力と比較してどうかというと、アナログRGB信号を外部に引き回すという不利があるにもかかわらず、大きな違いがあるとは感じられない。TVで高精細なPC画面(特にテキスト)を見るための特別な工夫があるわけではないものの、その点を考えれば良くできているとも言える。 だが同時に、ここに本製品の最大の弱点が隠れている。ATIにしてもNVIDIAにしても、最近リリースされるグラフィックスチップの多くがTVエンコーダ(TV出力)機能を内蔵しており、当然、それらを用いたグラフィックスカードはTV出力機能を搭載していることが多い。つまり、本製品がなくてもTV出力できてしまうのである。したがって、本製品のターゲットはIntelの845GVや845GLといった、バリューセグメント向けのグラフィックス統合チップセットを採用したシステムで、TV出力機能を持たないものがメインとなってくる。AGPスロットを持ったシステムなら、本製品を購入する価格で、内蔵グラフィックスより高性能でTV出力機能を備えたグラフィックスカードが、簡単に買えてしまうからだ。SSC100は、スキャンコンバートという単機能の製品であり、安価で買いやすいが、市場規模はさほど大きくないのではないかと思われる。
●ソフトウェアエンコードTVチューナーボード「QSTV10」
それに比べるとQUOSYSブランド第2弾となる「QSTV10」の方がアピール度は高いだろう。何せQSTV10は、カノープス得意のTVチューナーカードなのだ。こちらは、オープンプライスで店頭では1万円台前半の見込み。8月上旬の発売が予定されている。 カノープスのTVチューナーカードというと、冒頭でも触れたMTVシリーズが人気商品だが、MTVシリーズがハードウェアMPEGエンコーダチップを搭載した製品であるのに対し、QSTV10はソフトウェアエンコードに対応した製品。ハードウェアエンコーダを搭載しない同社製TVチューナーカードというと、過去にもWinDVR PCIが存在した。が、WinDVR PCIがカノープスらしさが希薄な製品だったのに対し、このQSTV10にはある程度カノープスらしさが感じられる。何よりそれを象徴しているのが基板裏のCOPYRIGHT表示かもしれない。 それはさておき、ハードウェア面での最大の特徴は、本機がゴーストリデューサー機能を搭載していることだろう。ゴーストリデューサーは、MTV1000を除く全MTVシリーズが備えるフィーチャーの1つ(MTV800HXはオプション)だが、ソフトウェアエンコードのTVチューナーカードでこの機能を搭載している例は少ない。 【お詫びと訂正】初出時にソフトウェアエンコードのカードでゴーストリデューサーを搭載したのは初と記載しておりましたが、ELSAのEX-Vision 700TVに搭載例がありました。ご教示いただいた読者にお礼申し上げるとともに、お詫びして訂正させていただきます。
というわけで、キャプチャに関してはソフトウェアの比重が極めて大きいわけだが、キャプチャソフトは基本的に最新のMTV FXシリーズに添付されるものと同じFEATHER-Xシリーズ。DivX Pro 5.0.5や、MPEG-2から他のコーデックへのトランスコード管理ツールであるX-TransCoderも含め、すべて添付されている。したがって、基本的な使い勝手についてはMTVシリーズもQSTV10も同じ。使い勝手の面で違うのは、QSTV10にはソフトウェアエンコーダによる制約がいくつかあることくらいだ。 たとえば、MTVシリーズならハードウェアエンコーダによるMPEG-2変換と、X-TransCoderによる追っかけ変換をパラレルに実行することで、MPEG-2によるキャプチャファイルとDivXによるキャプチャファイルをほぼ同時に生成することが可能(DivXによるキャプチャファイルがどれくらいの時間で可能かはCPUに依存する)なのに対し、基本的にQSTV10ではMPEG-2によるキャプチャが終了後、DivXへの変換が始まるため、所要時間が長くなる。 もう1つソフトウェアエンコードで忘れてはならないのは、音声の処理もソフトウェアで行なわれる、ということだ。つまり、ビデオのキャプチャ時に、Windowsのミキサーが適切に設定されていなければ、音のないビデオができてしまったり、録音レベルが高すぎて音が歪んだビデオができてしまう可能性がある。MTVシリーズでは、ビデオやオーディオの処理はハードウェアエンコーダというブラックボックスの中で完結するため、Windowsのミキサー設定がキャプチャファイルの音声に影響を及ぼすことはないが、QSTV10ではその辺も意識しておかねばならない。ソフトウェアエンコーダの方が調整可能なパラメータが多いことも含め、安価だからといって必ずしも初心者向けではないように思う。 筆者が(ひょっとすると多くのユーザーが)現時点でQUOSYSブランドのTVチューナーカードに望むのは、QSTV10のようなソフトウェアエンコーダによるものではなく、やはりハードウェアエンコーダを搭載したMTVシリーズの廉価版(あるいは簡素化版)とでも呼ぶべきものだ。 今のところ何の発表もないのだが、ひょっとするとカノープスはQSTV10ベースのハードウェアエンコーダカードを計画しているのかもしれない。QSTV10には、明らかに用途不明のコネクタが用意されている。ここにMTV800HX用に用意されたGME500のように、後付け可能なハードウェアエンコーダオプションが提供される可能性も否定できないのではないか(ただしコネクタが異なるため、GME500をそのままQSTV10に取り付けることはできない。加えてGME500ではゴーストリデューサー機能が重複してしまう)。実際、ハードウェアエンコーダを搭載したMTVシリーズが、バンドルソフトをFEATHER-Xに切り替えて継続販売される中、MTV800HXのみが8月号のカタログから消え、同社Web上で「在庫限り」となっている(ハードウェアエンコーダオプションであるGME500も同様)。これではまるで、QSTV10はMTV800HXの後継モデルのようだ。 また、ためしにQSTV10のドライバを組み込んだだけの状態で、他社製のTV録画ソフト(WDM対応TVチューナーサポートのもの)をインストールしてみたが、そのソフトからQSTV10は全く見えなかった。QSTV10のTVデコーダチップはフィリップスのSAA7130HLだが、どうやらドライバは汎用のものではないらしい。このあたりも、現在発表されていない何かがあるのではないかと勘ぐるゆえんである。そんな何かが現実になるよう、筆者は期待して待ちたいと思う。
□QUOSYSシリーズのホームページ (2003年7月24日)
[Text by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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