前回は、無線LANのデータフレームをバースト転送することで、無線LANのスループットを引き上げるフレームバースティングについて解説した。すでに無線LAN機器ベンダは、フレームバースティングに対応したファームウェアなどの配布を始めており、実際にユーザーレベルでメリットが享受できる環境が整いつつある。 今回は、そうした製品の1つであるメルコのWHR-G54を利用してテストしていきたい。 ●高速無線LAN転送の転送効率を改善しスループットを引き上げる
フレームバースティングに関しては、前回のレポートで説明したとおり、高速になればなるほど増えるオーバーヘッドを減らすことで高速無線LANにおける転送効率を改善し、スループットを引き上げるというものだ。 フレームバースティングの特徴は、IEEE 802.11で規定されている手法の応用であり、決して独自の転送モードではないということだ。このため、フレームバースティングに対応しているアクセスポイントやクライアントは、フレームバースティングに対応していない11gクライアントや11bクライアントと共存することができる。 無線LAN機器ベンダなどはフレームバースティングについて2段階での導入を検討しているようだ。ある関係者によれば「第1段階として、チップベンダ独自の機能として相互運用性を無視して導入する。第2段階としてIEEE 802.11のTGe(IEEE 802.11e)での規格化などを経て相互運用性を実現していく」とのことで、第1段階として自社製品のチップ間でのみバースト転送を可能として普及を目指し、次にIEEE 802.11委員会などで相互運用性を実現した仕様を製品化し、本格的に普及させていくという方針であるようだ。 このため、現在、無線LAN機器のベンダは、フレームバースティングに独自のブランド名をつけてアピールしている。BroadcomはXpress Technology(エクスプレステクノロジー)、IntersilはPRISM Nitro(プリズムナイトロ)という名前を付けているが、原理的にはどちらも同じものだ。 相互に互換性はなく、あくまでアクセスポイントやクライアントがBroadcomかIntersilで統一されている場合にのみ効果が発揮されるという現状である。 ●メルコやコレガなどの無線LAN機器ベンダが対応
フレームバースティングの機能は、すでにメルコやコレガ、アイ・オー・データ機器といった国内の大手無線LAN機器ベンダが対応を明らかにしており、各社が公開した最新ファームウェアを適用すると、これらの機能を利用できる。 メルコはBroadcomのチップを利用しているのでXpress Technologyをサポートし、Intersilのチップを採用しているコレガやアイ・オー・データ機器はPRISM Nitroの技術をサポートする。 実際、メルコのWHR-G54のファームウェアを最新版のバージョン2.01βにバージョンアップすると、設定項目に「フレームバースト」という項目が追加され利用可能になる。同様にWLI-CB-G54でも、デバイスマネージャのプロパティでドライバの「詳細設定」の中に「Frame Bursting」という項目が追加される。
これ以外のベンダも今後続々と対応することになる可能性が高い。というのも、フレームバースティングの実現はソフトウェアのみで可能で、ハードウェア側は特に手を加える必要がないからだ。 また、このフレームバースティングの手法は11aにも適用が可能だ。このため、今後11aの製品にもフレームバースティングを適用してくるベンダがでてくる可能性が高い。 Atheros Communicationsでは、“Super A/G”と呼ばれる同社のTurbo Modeを改良する手法を導入することを明らかにしているが、Super A/Gでもフレームバースティングの手法を取り入れているという。これにより、11gと同じようにスループットの改善が期待できるだろう。 □メルコ フレームバースト機能の解説http://buffalo.melcoinc.co.jp/pronow/whr-g54/01.html#news03 □メルコ 最新ファームウェアのダウンロードページ http://buffalo.melcoinc.co.jp/download/driver/new.html □コレガ ジェットモードの解説 http://www.corega.co.jp/product/navi/jetmode.htm ●フレームバースティングにより最大20%のスループット向上を確認
それでは、実際の機器を利用してフレームバースティングの効果を確認していこう。利用したのはBroadcomのチップを搭載した、メルコのWHR-G54というアクセスポイントで、詳しくは僚誌BroadBand Watchのレビュー記事を参照して頂きたい。 クライアントとして利用したのは、同じくメルコのWLI-CB-G54でIEEE 802.11gに対応したPCカードだ。その他にもIEEE 802.11bに対応したカードとして3Comの3CRWE62092A、異なるベンダのコントローラを搭載したカードの例としてIntersilのPRISM GTを搭載しているアイ・オー・データ機器のWN-G54/CBを用意した。 なお、今回は、あくまでフレームバースティングの効果を確認するためのテストであるので、各機器ベンダの製品の優劣を比較するものではないことをお断りしておく。ベンダ間の比較を行なう場合には、アクセスポイント、クライアントとも同じベンダのチップでテストを行なう必要があるが、今回は省略している。 環境は、ファイルサーバーにデルのPowerEdge 1400SC、クライアントにはNECのLaVie Mを2台(LM550/5EとLE500/6D)、さらにバイオU1を利用した。テストは、Windows 2000 Serverが導入されているPowerEdge 1400SCをftpサーバーとして利用し、各クライアントからftpでアクセスし、そのスループットを計測した。結果はグラフ1~グラフ3の通りだ。 ■ベンチマーク結果
グラフ1は、シングルクライアント時のアクセスポイントに接続した場合のスループットだ。例えば、Broadcomの11gチップを搭載したメルコのWLI-CB-G54で見ると、アクセスポイントのフレームバースティングをオフにした場合には22.64Mbpsであるのに対して、オンにした場合には26.26Mbpsと約20%近い性能向上を見せていることがわかる。 これに対して、クライアント側のフレームバースティングの設定をオフにした場合でも25.11Mbpsというスループットを記録しており、アクセスポイント側でフレームバースティングをオンにした時の効果が最も大きいことが見て取れる。 これに対して、Broadcomのフレームバースティングとは互換性がない、Intersilの11gクライアントや11bクライアントでは、ほぼ誤差と言えるような差になっており、やはり現状ではアクセスポイントとクライアントの両方がフレームバースティングに対応していなければ意味がないことが見て取れる。 グラフ2は、11gと11bの2つのクライアントでアクセスした場合だが、やはりフレームバースティングに対応している場合には、約35%の性能向上を果たしていることがわかる。 これに対して、グラフ3のBroadcomの11g、Intersilの11g、11bという3種類のクライアントが混在している環境では、ほとんど意味がないことが見て取れる。また、Broadcomのクライアントはフレームバースティングをオフにした時の方が高いパフォーマンスを発揮している。 これは、フレームバースティングに対応したクライアントとそうでないクライアントが混在することで、何らかのよけいなオーバーヘッドが発生しているためと考えることができるだろう。結果的に3つのクライアントのスループットを合計すると、ほとんど違いはない。 ●今後はWi-Fi Allianceでのドラフトレベルの標準化を望みたい
こうした結果から、異なるチップベンダの11gクライアントなどが混在している環境では、あまり意味がないかもしれないことが読みとれる。ただ、シングルモードやシングルベンダの11g+11bのミックスモード時の結果からわかるように、フレームバースティングの効果は絶大で、スループットの向上という観点からはエンドユーザーにとって大きなメリットがあると言える。 そこで、今後はIEEE 802.11eの仕様がフィックスするのに先駆けて、Wi-Fi Allianceでフレームバースティングの標準化が行なわれることを期待したい。 例えば、Wi-Fi Allianceは、IEEE 802.11i(無線LANの新しいセキュリティの仕様)のサブセットであるWPA(Wi-Fi Protected Access)の仕様を策定しており、今年の後半に登場する各社のアクセスポイントなどでサポートされる予定になっている。 IEEE 802.11委員会での標準化には非常に時間がかかることが知られており、11iも正式仕様の策定は来年の5月以降になってしまう見込みだ。そこでWPAでは11iのドラフト規格から一部だけを抜き出し、仕様として策定しており、ドラフト仕様ながら標準化されたのと同じメリットをエンドユーザーにもたらしている。 ぜひ、フレームバースティングでもそうしたWPAと同様の扱いをして欲しいものだ。Broadcomの関係者によれば、現在そうした働きかけをWi-Fi Allianceに対して行なっているそうで、今後の動向に注目したい。 □関連記事
(2003年7月8日) [Reported by 笠原一輝]
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