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富士通、黒川社長が就任後初の会見
~現場中心主義で「元気で活力のある富士通」を

黒川博昭社長

7月8日 開催



富士通のめざすもの

 富士通株式会社の黒川博昭社長が8日、社長会見を行なった。

 6月24日の社長就任後、初めての記者会見が7月になったことに対して黒川社長は、「もう少し早いタイミングで、会見を開きたいと思っていたが、一日の3分の2は、お客様のトップに会うことに時間を割き、私が考えている富士通をお話ししてきた。また、お客様から忌憚のない意見をいただいている」と、その理由と就任以降の近況を説明した。

 すでに、岩手、小山、あきる野、山形の4つの製造拠点をまわり、「これまでは未経験」(黒川社長)という製造現場の現状を目の当たりにしてきたという。

 質疑応答に入ると、「失礼して」と上着を脱ぎ、ワイシャツ姿で答えるシーンがあったものの、記者の質問に対してていねいに回答する様子は、まさに実直な性格をそのまま反映した会見となった。

 まず、黒川社長は、富士通が目指すものとして、「強いテクノロジーをベースに、ITをお使いになるお客様に、品質の高いプロダクト、サービスによるトータルソリューションを継続的に提供していく」と位置づけ、「顧客の経営パートナーになることが富士通の役割だ」とした。


経営のキーワード

 会見のなかで強く訴えていたのが、顧客起点の考え方の徹底。これは黒川社長が30年間に渡ってSEとして現場で仕事を続けてきた上で培ったDNAともいえる、黒川流の基本的な考え方だともいえそうだ。

 「SEは、常に顧客の事業が成長することを願っている。それが原点。富士通に託しているんだという顧客の気持ちに応えていくことが大切だ」とし、SE出身ならではの視点で方針を説明した。

 続けて、「マーケットのサイクルや顧客の要求にあわせないと、いくらいい製品を作っても通じない。しかし、これまでは、自分たちのなかでいいと思って、やっていた反省がある。私は経営会議をすでに2度ほど主催したが、経営陣に対して、本当にお客の状況が判っているのか、ということを繰り返している。いつソリューションが欲しいのか、プロダクトはどんなものが欲しいのか、納期はいつまでかという点を理解して、お客のリズムにあわせた商品企画、デリバリーをしなくてはならない」、「通信部門の主たる顧客はNTTだが、ここでは一緒に企画して、設計、製造し、製品の評価まで行なうというように顧客と密接な関係が築けている。だが、NTT以外のニューキャリア、エンタープライズ系の顧客に対しては、その形が十分かというと決してそうとはいえない。顧客が変化しているということを認識し、それにあわせた仕事のやり方、納期の設定をするべきだ」などとした。

 また、「信頼」と「創造」が富士通の原点だとした上で、「過去2年間に渡り、リストラを実施したり、フォーメーションを変えたりといったことで、ともすれば、富士通の原点が欠けていたともいえる。今後飛躍するためには、これを取り戻すことが重要」とした。


経営上の問題認識 収益力の強化 富士通の行動原則

 富士通の経営課題としては、「本業としての事業収益力の強化」を最大のポイントとしたほか、「財務体質の健全化」、「事業構造の継続的な見直し」を掲げた。

 事業収益力の向上では、ものづくりの強化、グローバル体制の再構築を打ち出したが、特筆できるのは、これまで、ソフト・サービス事業を前面に打ち出してきた同社が、「まずやらなくてはいけないこと」として、あえて、ものづくり強化というハード面の取り組みに強く言及した点だ。

 黒川社長は、「決して、ソフト・サービスに力を入れていかないというわけではない」としながらも、「これまではサービスを右から左へと納めている状況もあった。これが信頼と創造といえるのか。プラットフォームの上にサービスを組み上げてこそ、富士通の特徴が発揮でき、富士通らしい製品が提供できる。プラットフォームとソフト、サービスの組み合わせで富士通を強くする」と強く訴える。

 ここ数年、ソフト・サービスに傾倒しがちだったのは、富士通のみならず、主要ITベンダーに共通的にいえる点だ。黒川社長は、「基幹システムでもLinuxに取り組んでいくが、ここで生かされるのは、30年近くに渡って培ったきたメインフレームの技術。これらの技術の結晶を、Linuxとどう組み合わせるかが重要」と、基幹Linuxへの取り組みを具体的な例として、ソフト・サービス技術とともに、プラットフォーム事業の重要性を訴えた。

 また、グローバル戦略という点でもプラットフォーム事業の重要性に言及する。

 「ソフト・サービス事業は、ローカルなビジネスであり、海外では日本と違うやり方をしなくてはならない。それに対して、プラットフォームはグローバル展開が可能なビジネスである。現在、富士通の売り上げの7割が日本。今後、グローバル展開をしない限り、富士通の収益性は向上しない。プラットフォームをグローバルに広げ、その上にソリューションを組み合わせる」

 収益性拡大のドライビングフォースに海外展開を位置づけ、その先兵としてプラットフォーム事業を捉えたというわけだ。

 一方、財務体質の健全化としては、1兆8千億円近い有利子負債を、2003年度末には1兆5千億円に圧縮。収益性の向上と、棚卸資産の回転を引き上げることなどを目指す。

 事業構造の継続的な見直しでは、「2001年から2002年にかけて通信、ハードディスク、半導体でリストラをしてきたが、今後も継続的に構造改革をすすめていく。速いビジネス環境の変化のなかで、最適化した事業体制をやっていきたい」として、「これをリストラを捉えられると困るが、引き続き、最適な構造、フォーメーションづくりに向けた取り組みは常にやっていく」と続けた。

ミッションは事業計画の達成

 4月に発表した売上高4兆8千億円、営業利益1,500億円、純利益300億円の今年度の事業計画については、「この数字をぜひ守りたい」と達成に意欲を見せた。

 黒川社長は、富士通のキーワードは、「お客様起点」、「スピード」、「シンプル」の3つだと話す。

 スピードに関しては、「昨年あたりから、富士通がスピードを失っている点が見受けられた。納期は絶対に守るという点も対応できない例などもあり、これを取り戻す必要がある。社内の速度が3割あがっても意味がない。マーケットの変化のスピードに対応できるという点が重要だ」と話した。

 また、シンプルという点では、「大きな組織になっているため、仕事の連携がうまくとれるようにしなくてはならない。権限を与えて、シンプルな組織とする必要がある」とした。

 質疑応答では、お手本とする企業はあるのか、との質問が飛んだが、それに対して黒川社長は「率直に申し上げれば、IBM」と回答。「ネットワーク、サーバー、各プロダクトをコンバージェンスし、そこにソリューションを組み合わせることができる会社の形を目指す」とした。

 会見を通じて感じたのは、冒頭に黒川社長自らが「こういう場は慣れていないので、むしろ広報の方が心配しているはず」というように、不慣れな印象が否めなかったのは事実。だが、それが、SE30年という現場からの叩き上げとの印象や、実直な印象につながったともいえる。


会見後半の質疑応答のシーンではワイシャツ姿で対応。社長会見としては異例の姿だが、黒川社長の人柄がにじみ出ていた

 また、会見を通じて、現場の重要性を訴え続けたのも黒川社長ならではの特徴ともいえた。

 「あらゆる発想と行動の原点をお客様と現場に置き、営業現場、開発現場、製造現場ですべての利益が生まれ、利益を阻害する問題、課題もそこに発生する。自らがどんどん現場に足を運びそこで利益を見い出し、問題点はその場で解決する、徹底した現場主義で臨みたい」と黒川社長は抱負を語る。

 「お客やマーケットはどうなっているのか。この意識を社内に徹底させることを貫きたい。これをやらなければ、私の価値はない」という言葉に、現場中心主義によって「元気で活力のある富士通」を目指す意気込みが感じられた。


□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□社長就任にあたって
http://pr.fujitsu.com/jp/ir/materials/20030708/
□関連記事
【4月25日】富士通、新社長に黒川博昭副社長が就任
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0425/fujitsu.htm

(2003年7月8日)

[Reported by 大河原克行]


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