'84年に東京・大手町の丸の内センタービルに本社を構えてから、18年ぶりの本社移転。今回の新本社移転で、本社機能と7カ所に分散していた営業機能はここに集約させ、プラットフォーム(ハードウェア)ビジネスの川崎工場、ソフト・サービスのビジネス拠点である蒲田システムラボラトリ(11月に新棟を竣工予定)を含めた3大拠点の1つとして最前線基地の役割を担う。
富士通の新本社ビルの様子をレポートする。
●セキュリティ体制を大幅に強化 富士通が入居した汐留シティセンターは、「汐留シオサイト」の北側に位置するB街区のなかにある。同じエリアには、松下電工東京本社ビル、旧新橋停車場を復元した復元駅舎などがあり、大江戸線の汐留駅や、JR、地下鉄の新橋駅とは地下で結ばれている。
高さ215mに達する同ビルは、地上43階、地下4階、塔屋1階。あわせて187,750平方mの延べ床面積を誇るシオサイトのシンボルタワーの1つ。地下から3階まではレストランやバー、各種店舗、金融機関などが入居。また、41階、42階にもレストランが入居し、北側の窓からは銀座の街が一望できる。オフィススペースとなる部分には、富士通のほかに、全日空などが入居している。
富士通が入居しているのは、6階、7階および23階から32階の合計12フロア。6階、7階は、他の企業との共同使用によるエレベータによってそのままビル内に入ることができるが、各オフィスに入る扉のところでセキュリティチェックが用意されている。社員は、PKI従業員カードを所持し、これをドアセキュリティに採用。部外者はオフィス内には入室できないようになっている。
一方、23階から32階のエリアについては、富士通向けの専用エレベータを利用。そのため、エレベータに乗る前に1階の受付を通らないと、入り口の警備員に止められ入館できない。また、富士通の他の拠点の社員や、グループ会社の社員も、新本社にオフィス内に立ち入るためのカードが現時点では配布されていないため、1階でグループカードで入館後、23階に立ち寄り、オフィス内に入るための申請をしないと自由にオフィス内を出入りすることができない仕組みだ。
いずれにしろ、今回の新本社は、セキュリティには万全の体制をとっている。旧本社時代には、行こうと思えば、1階から役員室フロアまでノーチェックで入れるという体制だったことに比べると、その差は歴然だ。 「オフィス内に自由に入れるということは、社内の情報にも自由にアクセスできるのと同義語だといえる。情報システムおよびそれに関わるセキュリティをビジネスとしている当社にとって、自らの情報セキュリティに対しても、しっかりと対処していく姿勢が重要。確かに一時的には利便性を損なうことにつながるだろうが、それでもやらなくてはならない最重要課題」と富士通総務部・松岡伸明担当課長は、セキュリティ強化の狙いを話す。同社自身、情報漏洩問題なども経験しているだけに、本腰を入れてセキュリティ体制を構築したという言葉にも実感がこもる。
富士通だけで10,400坪、4,000人が入居する大型本社のセキュリティ体制は、自らがセキュリティに関するショールーム機能を持ったものともいえるだろう。
●接客は独立したフロアに配置 フロア構成を見てみよう。 同ビルのちょうど中間階となる23階が一般執務エリアおよび健康管理室などを含む用途エリア。グループ会社の社員も23階で登録することで、一日だけ利用できるICカードを手に入れることができ、オフィス内にも入れるようになる。 24階は、応接エリア。24室の応接室および300人まで収容が可能な大会議室を用意している。応接室24室のうちソファタイプの応接室2室を除く22室に、42インチのPDPモニターが天井からつるす形で配置されており、パソコンと接続してパワーポイントの資料などを表示することができる。大会議室では、各種セミナーやイベントなどの開催が可能。記者発表もこの大会議室を利用して行なわれることになる。
各応接室は、社員が予約をすることができるが、社内会議としての予約はできないようにシステムを構築。来客データベースと合致したものだけが予約できる仕組みだ。さらに、応接室は社員のICカードがないと入室できない仕組みになっており、レセプションエリアで来客者を出迎えて、各応接に入室することになる。また、24階には総務部などの一部部門の執務エリアもある。
●振り向いてすぐに打ち合わせができる机の配置 25階から31階までは執務エリアとなっている。 汐留シティセンターは、建物自体が横から見て流線型のスタイルをしている。そのため、東西側のスペースが狭かったり、窓際がゆるやかな曲線の形状となっている。結果としては、正方形の机を入れにくい構造をしているともいえる。 しかし、富士通では、この形状をうまく利用している。机は、ハニカムレイアウトと呼ばれる円形状の机を配置。6つの机を組み合わせることで、ちょうど円形の机スペースができあがるという形状のものを採用している。これによって、社員同士が振り向いてすぐに打ち合わせを行ったり、円形という特徴から、職務編成表通りの配置が困難なことから、肩書きによるヒエラルキーが低減されるなどのメリットがあるとしている。
また、フロア移動なしに、迅速に会議が行なえるように、各フロアごとに大小様々な会議室を用意、会議室には透明ガラスを採用することで、外からも一目でわかるようにしている。さらに、窓際に沿って机を配置することで、オープンミーティングが可能なスペースや、簡単なミーティングや社員の目標面談なども行なうことを想定したコーチングエリアと呼ばれるスペースも用意。すぐに会議を開催したり、社員間のコミュニケーションが取りやすいようにしている。 執務フロアの中心部分には、インフィニティコモンズと呼ばれるスペースを配置。自動販売機、雑誌、新聞などを設置し、分別ゴミ箱、給茶器、メール棚などを用意した。「インフォーマルな会話から新たな発想を生み出すためのスペース」とも位置づけている。 松岡担当課長は、「動線が集中する中央に多目的スペースを配置することで、社員同士がコミュニケーションを取りやすくなる。ゴミ箱も個人の机の横には置かずに、中央スペースなどに配置するようにしたのも、コミュニケーション活性化を促す工夫の1つ」と話す。 このように執務スペースにおいては、社員間のコミュニケーションを重視した作りが特徴だ。 これは、新本社への移転に当たって同社が掲げた大きなコンセプトに合致したものだ。 同社では、新本社移転のコンセプトとして、「受注力強化を実現するワークプレイスであること」、「ワールドヘッドクォーター(本社)であること」を掲げた。 とくに、前者の受注力強化としては、ITを通じたコミュニケーションだけでなく、社員同士の直接のコミュニケーションをとることによる情報共有、さらにすぐに会議や打ち合わせを行なえるスペースを用意することで、会議そのものを短時間ですませ、その分、顧客先に出向くなどの機動力向上に結びつけようというわけだ。会議室を執務フロアに多数用意したことで、旧本社時代のような応接、会議室の集中フロアまで出向いて会議をしたりといった手間がなくなる一方、透明ガラスの採用や会議室の利用時間に応じた課金制度を採用することで、効率的な会議時間での運用を促している。ちなみに、応接フロアの各応接室も各部門ごとに使用時間に合わせた課金が行なわれる。会議室は30分400円相当、応接室は700円から1,000円相当の課金となる。 一方、もう1つのワールドヘッドクォーターとしての取り組みでは、出張者のための執務スペースや、会議室に同時通訳ブースを配置できるようにするなどの仕掛けがある。 執務エリアにおいては、金融営業本部が先行事例として「アダプティブオフィス」の実験を開始している。 机の数を社員数の約75%にし、個人の座席を固定しない代わりに、打ち合わせスペース、プレゼンテーションスペースなどの用途エリアを充実させ、より機動力を重視したオフィス構成としている。
ここで多くの会社が取り組んでいるアドレスフリーとは異なるのは、オフィスの省スペース化を狙ったものではないということだ。ハニカム方式の机を採用したことで、1人が使う机のスペースは自ずと明確になってくる。四角い机だと、そのスペースに人が入れるだけ入ったり、結果として1人が広く占有したりといったことが起きがちだ。しかし、富士通では、むしろ機動力を高めるために、この方式を採用しており、1人が利用するスペースは確実に確保するようにしている。 「オフィスは作戦会議の場である、ということを前提として、その日の主目的にあわせて自由に席を決められようにしている。自席を固定しない分、社員の75%の机しか用意していないが、ミーティングスペースなどを含めるとスペースは他の部門と同じ規模」という。
この試行で成果が出れば、他の5つの営業部門にもこの仕組みを導入する考えだ。
●全役員室は同じ面積 32階は、来賓エリアおよび役員エリア。 南側が来賓エリアで、受付には大きな富士通のロゴマークが描かれている。ここにも大小様々な応接室がある。24階の一般応接フロアとは異なり、落ち着いた雰囲気となっている。
北側の役員フロアは、会長、社長以下、役員の各部屋がある。ここにも中央部分にコミュニケーションができるようなオープンスペースが設けられており、役員同士が気軽にコミュニケーションを行なえるようになっている。 ちなみに、会長室、社長室はそれぞれ、旧本社に比べると、やや狭くなったという。だが、その一方、役員のなかには、やや広くなったという例もある。というのも、今回の新社屋では、基本的には、全役員が同じ部屋面積となっているからだ。 一方、低層の6階、7階は一般執務エリアとなっているが、6階の広報室などは、記者などが受付を通さずに直接、同部門を訪ねることができるなど、高層エリアとは異なった仕組みとなっている。旧本社時代も、広報室をブラッと訪ねる記者が多かったことから、その手法が継承されている。
また、同じく6階には、ユーザーコミュニティサロンと呼ばれるスペースがある。これは富士通のユーザー会などに対して公開されるスペースで、セミナーやミーティングなども開催される。旧本社20階大会議室にあった「夢をかたちに」の書は、このサロンのエントランスに飾られていた。
●社内ネットワークをDHCP化 社内のネットワーク環境は、支線までを100M化するとともに、DHCP化を実現。この有線LANを基本インフラとしている。無線LANも全社規模で導入しているが、これはあくまでもミーティング時などの補完的インフラと位置づけている。また、同社製品でもある「JoinMeeting」を導入。インターネットテレビ会議システムにより、1対1からn対nまでの会議が可能となっている。 また、ファイルサーバーの統合、フォルダの体系化のほか、携帯電話やPDAを活用したSFAの強化なども同時に行なわれている。PDAに関しては、約50人が試験的に導入を開始した段階だ。
こうした情報インフラの整備とともに、スキャナを各執務フロア内4カ所に設置するなど、資料のデータ化によるナレッジを共有。資料の机上放置、フリー複写の防止などを目的としたペーパーレス化、一定の基準ファイル量を定め、それ以上の収納什器を導入しないことなども同時に行なわれている。
●営業の最前線基地としての本社 新本社ビルでは、エンドユーザーが直接立ち寄れる場所がないのが残念だ。6階のユーザーコミュニティサロンは、企業ユーザーなどが参加するファミリ会向けのエリアで、コンシューマ系のエンドユーザーが自由に出入りすることはできない。 シオサイトという集客力の高い場所に本社が立地しているだけに、ショールーム機能をもち、富士通のパソコンを気軽に体験できる場所があってもよかったとは思うのだが。 しかし、その一方で、営業の最前線基地としての役割を明確に示し、それを前提にしたオフィスづくりをしている点には感心する。新本社移転というと、ともすれば、拠点統合によるオフィス賃料の低減など、コスト削減効果ばかりがクローズアップされがちだが、オフィスづくりのすべてを顧客対応力強化を基点とした発想となっている点が、各所で感じられる。
業績悪化に苦しむ富士通だが、新本社移転で目指した顧客対応力の強化、受注力強化がどこまで実現されるか、そして、それがどこまで業績にむすびつくのかに注目したい。
□富士通のホームページ
(2003年7月4日)
[Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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