●DirectX8を飛ばしてDirectX9へ行く統合チップセット
2004年のグラフィックス統合チップセットはDirectX9世代へと突入する。少なくとも、ATI Technologies、NVIDIA、Intel、VIA Technologiesの4社は、来年DirectX9コアの統合チップセットを計画している。そして、ATI以外の各社は、DirectX7世代からDirectX9世代へと一気にジャンプする。 統合チップセットがDirectX9へとなだれ込む理由は2つある。(1)2005年の次世代Windows「Longhorn(ロングホーン)」の新UI(User Interface)のフル機能を使うにはDirectX9世代のグラフィックス機能が必要となる、(2)デュアルチャネル(DDR/DDR2)メモリとメモリの高速化で性能の制約だったメモリ帯域がある程度緩和される。つまり、要求がDirectX9になると同時に性能を引き上げるヘッドルームが増えるというわけだ。 その結果、これまでとは統合チップセットの位置づけとチップセット市場の状況が変わる可能性がある。(1)統合グラフィックスとディスクリートGPUの機能&性能の差が縮まる。(2)PC全体での統合グラフィックスの割合が大きくなる? (3)GPUベンダーにチップセット市場でのチャンスが来る? LonghornではUIが3Dグラフィックスベースになり、フル機能の「Tier 2 Experience(仮称)」ではDirectX9相当のグラフィック機能がハードウェアで必要になる。「Longhornで受け入れられる(acceptable)グラフィックスのミニマムバーが上がることは、ローエンドの統合グラフィックスにとって非常に影響が大きい。現状では、ローエンドグラフィックスとハイエンドグラフィックスには大きな差があるが、今後は差が縮まり、ローエンドもハイエンドに近づいて行く」とATIのAndrew B. Thompson氏(Director, Advanced Technology Marketing, ATI Research)は言う。 これまで、ハイエンドGPUと統合グラフィックスでは、GPUコアの世代で3世代以上、性能で十数倍のギャップがあった。例えば、DirectXの世代では、ハイエンドがDirectX9になっても統合チップセットはDirectX7世代に留まっていた。CPUに例えると、ハイエンドはPentium 4/Athlon XPなのにローエンドはPentium II/K6-2的な状況だった。つまり、CPUはGPUよりトップとボトムのギャップが大きかったわけだ。 その最大の理由は、3Dグラフィックス機能を、普通のPCユーザーが必要としていなかったことにある。しかし、Longhornではその状況は一変し、2DグラフィックスでさえGPUの3Dパイプラインで描かれるようになる。そのため、ローエンドグラフィックスでも、DirectX9機能とそれなりの3Dグラフィックスパフォーマンスが必要となる。 性能面では、デュアルチャネルメモリ化が進み始めたことで、状況が変わりつつある。来年にはデュアルチャネルDDR2-533メモリで8.5GB/secのメモリ帯域となる。ディスクリートGPUは最低ラインが現在は6.4GB/sec(DDR 400MHz)で、来年には9GB/sec以上に。チップセットはCPUとGPUでメモリを共有するため、まだGPUとの開きは大きいが、ほとんどのチップセットがシングルチャネルだった時と比べると、ギャップは縮まる。 統合チップセットとハイエンドGPUで、機能の違いが小さくなり、性能もある程度ギャップが縮まるとすれば、統合チップセットがPC市場に占める割合は拡大して行くと推測される。例えば、ATIのReuven Soraya氏(Director of IGP, Marketing, Integrated and Mobile Business Unit)は「PC市場の60%のマシンはバリューPCで、この市場は統合グラフィックスへと向かっている。だからATIは統合チップセットにフォーカスしている」と説明する。 ●強力なフィーチャのATIのRS400
では、各社のDirectX9世代チップセット計画はどうなっているのだろう。 ATIは来年前半のチップセット「RS400」でDirectX9を統合すると見られている。おそらく、RADEON 9600(RV350)系統のコアのカットアウト版を統合に持ってくると推測される。また、この世代ではデュアルチャネルDDR2-400/533メモリとPCI Express(x16/x1)も実装し、Intelの次世代CPUパッケージ「LGA(Land Grid Array) 775」もサポートすると見られる。 ATIの戦略は非常に明快だ。階段状にラインナップの上から下へとアーキテクチャを降ろす「ウォータフォール」型の戦略を取る。DirectX8世代GPUコアで見ると、2001年にハイエンドで「RADEON 8500(R200)」が登場、2002年にメインストリームの「RADEON 9000(RV250)」に降り、今週に統合チップセットの「RADEON 9100 IGP(RS300)」に降りてきた。だから、2002年にハイエンドで登場した「RADEON 9700(R300)」が、今年にメインストリームのRADEON 9600に来たのだから、2003年には統合チップセットに来るのは自然な流れとなる。 ATIはこれまでチップセットではモバイルにフォーカスしてきた。しかし、RADEON 9100 IGPからはデスクトップにも本格的に参入する。RADEON 9100はIntelプラットフォーム向けだが、次のフェイズでは「Athlon 64」市場も計画している。「我々は、デスクトップAMD市場にもしばらくしたら参入する。我々のK8(Hammer系)向けPCI Expressチップセットは素晴らしい製品になるだろう」とATIのSoraya氏は言う。おそらく、ATIはRS400世代では、IntelとAMDの双方で、デスクトップとモバイルの両市場向けの製品を揃えることになると推測される。 ●NVIDIAはCrush K8G3でGeForce FXを統合
NVIDIAは来年第3四半期の「Crush K8G3」でGeForce FXコアとPCI Express(x16/x1)を統合すると見られる。Crush K8G3はHyperTransportブリッジチップで、2系列のHyperTransportを持ち、Opteron/Athlon 64と、サウスブリッジチップにあたる「Crush K8-04」に接続すると言われる。 じつは、3週間ほど前までこのCrush K8G3のグラフィックスコアはGeForce 4MX(NV17系)だと、業界には伝えられていた。あるGPUメーカー関係者は「NVIDIAのロードマップは知っているが、かれらはDirectX7世代だ。大きく遅れている」と言っていた。だが、6月にNVIDIAは計画変更を伝え、GeForce FXコアを持ってくることにした。コアは何になるかわからないが、GeForce FX 5600(NV31)系かGeForce FX 5200(NV34)系だと推測される。 NVIDIAはIntelからFSB(フロントサイドバス)のライセンスを受けられなかった。そのため、チップセットではAMDにフォーカスしている。Opteron/Athlon 64系で、デスクトップとモバイルの両方にDirectX9世代統合チップセットを投入して行くと見られる。ちなみに、Hammer系はCPU側にDRAMインターフェイスを持つため、NVIDIAはチップセット側にメモリインターフェイスを持たないと見られる。ただし、これは変わるかもしれない。 ●VIAはPM890でUniChrome 3コアを統合 VIA TechnologiesはDirectX9世代の統合チップセットとしてPentium 4系向けの「PM890」を用意する。PM890は2004年第3四半期に量産で、デュアルチャネルDDR2-400/533/667メモリ、PCI Express x16をサポートする。また、Opteron/Athlon 64向けにも同世代のチップセット(K8M890?)を用意すると見られる。 VIAが統合するのは「UniChrome 3」コア。同社のグラフィックスコアのうちUniChrome系は、S3 Graphicsではなく台湾 新竹の開発チームが担当している。新竹チームのこれまでのコアは性能を抑える代わりにダイサイズ(半導体本体の面積)を小さくしてコストを下げている。そのため、UniChrome 3も性能はそれほど高くはないが、DirectX9の機能をカバーし、枯れたプロセス技術で製造してもダイサイズはそこそこに抑えられたものになると推測される。ただし、VIAはS3 Graphicsの「DeltaChrome」系コアを使う権利も持っているため、よりハイパフォーマンスの統合チップセットも投入しようと思えば開発できる。また、VIAはモバイル向けにも同等機能の「PN890」を用意する。 Intelは、来年第2四半期の「Grantsdale(グランツデール)」で、DirectX9新世代の「Intel Extreme Graphics 3」コアと、デュアルチャネルDDR2-400/533メモリ、PCI Express(x16/x1)、LGA775ソケット(Socket-T)をサポートする。 SiS(Silicon Integrated Systems)は、現状ではDirectX9コアの統合チップセットの計画は、まだ明らかにしていない。これは、SiSのグラフィックス戦略が再編された影響だと見られる。もともとの計画では、SiSはDirectX9世代の「Xabre II」を今年前半に投入、そのコアを統合したチップセットも比較的早期に投入する予定だった。 ●統合チップセットとディスクリートGPUではどう違う では、これら各社のDirectX9コアはディスクリートGPUとどう異なるのだろう。おそらく、次のような違いがあると推測される。(1)Vertex ShaderはCPUエミュレーション、(2)ピクセルパイプは2本(将来は4本)。 DirectX9世代の統合チップセットについては、DirectX8世代のRADEON 9100 IGP(RS300)がある程度参考になる。RS300はRADEON 9000/9100系をベースにしているが、機能に違いがある。「パイプライン構成が違う。RS300は2パイプ(RADEON 9000系は4パイプ)になっている」とATIのSoraya氏は言う。また、Vertex Shaderは搭載していない。 ピクセルパイプが2本なのには2つの理由が考えられる。ひとつは、統合チップセットはGPUと比べるとメモリ帯域が限られるからだ。GPUのピクセルエンジンの性能はメモリ帯域に制約される。RADEON 9100 IPGでは、デュアルチャネルのDDR400で帯域は6.4GB/secでそれをGPUとCPUで共有する。そうすると実質的なメモリ帯域はローエンドのRADEON 9200(DDR 400MHz版)よりもさらに狭くなってしまう。 もうひとつの理由はダイサイズ(半導体本体の面積)を小さくするためだ。ローコストにしなければならない統合チップセットでは、これは重要だ。チップセットは通常、インターフェイス回りのパッド数でおおまかなダイサイズが決まり、そのパッドリミットのダイの枠内で、できるかぎり機能を詰め込むという設計方式を取る。あるベンダーによると70平方mmでもダイが大きいと、経営側からは言われるという。DirectX9世代の統合チップセットが、従来より単価の高いラインを狙うとしても、ダイはそれほど大きくできない。 Vertex Shaderを搭載しないと見られる理由のひとつも、同じコスト問題だ。また、比較的低速な統合グラフィックスコアでジオメトリ処理をやらせるより、CPUに処理させた方が高速になるという事情もある。DirectX9統合チップセットが登場する時点では、ローエンドのCeleronも3GHzが見えてくる。そうなると、3GHzのCPUのSSE2ユニットと300MHz台の統合チップセットのVertex Shaderのどちらが速いかという問題になる。ラスタライズ過程の前のジオメトリ処理のほとんどは、汎用ユニットでやっても高速に処理できるため、GPUの利点は活きない。 もっとも、モバイルでは話が違ってくる。「一般論として、GPUでできる処理をCPUに持って行くと、処理当たりの消費電力が上がる。そのため、消費電力の観点からは、ジオメトリをGPU側で処理することも考えられる」とS3 GraphicsのNadeem Mohammad氏(Marketing Product Manager)は指摘する。 各社がDirectX9世代で揃うとして、問題は性能だ。制約が少なくなったとはいえ、まだメモリ帯域は統合チップセットの制約となっている。そのため、統合グラフィックスコアで高い3D性能を引き出すためには、メモリ帯域を節約する各種圧縮技術が鍵となると推測される。このあたりでは、明らかに技術的な蓄積のあるGPUベンダーに利がある。 今のところ、Longhornの3D UIに必要となる性能ラインが見えない。しかし、Longhornが高い3D性能を要求する場合には、統合チップセットの競争でもGPUベンダーが有利になると推測される。GPUベンダーにとっては最大のチャンスというわけだ。 (2003年6月27日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
【PC Watchホームページ】
|
|