これまで都内の三田地区と千葉県の幕張に分散していた、本社機能と営業機能を集約、3,000人規模の社員がここに集結することになる。 今回は、キヤノン販売の新本社ビルの様子をレポートしよう。
●品川駅東の再開発地域に位置 キヤノン販売の新本社ビルは、品川グランドコモンズと呼ばれる再開発地区にある。 品川グランドコモンズは、JR品川駅東口の再開発地域で、品川インターシティとJR品川駅の間に位置するエリアで、5月にオープンしたばかりだ。キヤノン販売のほかにも三菱自動車、三菱商事などの三菱グループ企業の本社や、大東建託、太陽生命保険などが入居。レストランなどの商業エリアや、高層住居棟の住居エリアを含む、53,000平方mの職住近接型の都市空間を形成している。 昼間人口は17,000人におよび、品川インターシティの13,000人とあわせて、3万人規模の新たなビジネスエリアが誕生したことになる。 キヤノン販売の本社は、この中に位置し、ビジネス棟としては最も南寄りの場所。品川駅からは2階部分に結ばれた回廊「スカイウェイ」を通じてアクセスが可能で、雨の日も傘をささずに本社ビルまで入ることができる。
●29階建てのエコロジービル
“S”の文字には、「品川」の“S”と、「ソリューション」の“S”の2つの意味がある。同社では、「品川の新天地から発信する情報が付加価値の高いものであることを表現する」と、Sの意味を説明する。 高さ144メートルを誇り、これは近接するビルと高さをほぼ同じにしたもの。エコロジービルと位置づけられており、省エネ化の工夫などが随所に凝らされ、二酸化炭素の排出量は11%削減しているという。 建物は、地上29階、地下4階の高層棟と地上3階、地下4階の低層棟で構成される。高層部分は、主に事務棟として利用され、低層階はユーザー向けのコミュニケーションスペースとして利用する。前面ガラスとアルミのカーテンウォール、素材と光をテーマにしたメタリックな質感と透明性を表現したデザインが特徴だ。 また、キヤノン販売の村瀬治男社長から、「新本社ビルは、多くのお客様が利用できるスペースをなるべく広く確保したい」との希望が出され、それを具現化したとの言葉通り、1階から4階までの部分は、基本的にはユーザー向けに開放することを前提とした作りになっているのが大きい。 ●広くとられた一般公開スペース
第1弾として、5月8日から6月27日まで、カメラマン・立木義浩氏のデジタル写真展「桂林」が開催されている。 水墨画で有名な中国・桂林の地を、立木氏がキヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D」で撮影、これを大判プリンター「W7200」でプリントアウトした作品が展示されている。デジタルイメージングの可能性を実感することができる展示内容となっている。7月以降は、日比野克彦氏のデジタルアート展などが企画される予定だという。もちろん、デジタルだけでなく銀塩写真による展示会も行なわれる。
2階部分は、コンシューマプロダクツが展示されるショールームスペース「キヤノンプラザS」。 品川駅から直結する「スカイウェイ」から直接入れるということもあって、エンドユーザーが自由に入れて、キヤノン製品を一堂に見ることができるスペースとなっている。 コンセプトは、「さわる、あそぶ、知る」。 スカイウェイ側の入口から入ると、まずはトピックスコーナー。現在、キヤノン製品のなかで最も旬なトピックスや新製品が体験できるスペース。ここには、製品発表から店頭出荷されるまでの期間でも、実際に製品が展示され、自由に触れることができるようにしたいという。早めに商品をみたい人には打ってつけだ。現在は、IXY DIGITALと、PIXUS 50iによるカメラダイレクト印字のデモストレーションが行なえるようになっている。
トピックスコーナーの前には、ブレゼンテーションステージが用意されている。ここでは、新製品に関する製品プレゼンテーション、新たな使い提案などを映像や実演を交えて紹介する。 タッチアンドトライゾーンは、キヤノンの各種製品を、直接手にとって、試すことができるゾーンとなっている。展示されている製品は、コンパクトカメラ、デジタルビデオカメラ、一眼レフカメラ、EFレンズ、双眼鏡、プリンタ、スキャナ、プロジェクター、ファクシミリ、パーソナルコピア、ワードタンク、計算機など。展示された製品の横には、ボタンがあり、これを押すと、近くのディスプレイに同社ホームページに掲載されたそれぞれの製品説明が表示される。また、デジタルカメラなどの展示製品は、直接サーバーとつながっており、隣接するクリエイティブBOXでは、その場で撮影した画像を、同社のアプリケーションを利用するなどして自由に加工、プリントアウトするといったこともできる。
奥に入っていくと、1階受付からの吹き抜け部分に至るが、ここには、望遠レンズコーナーがある。現在5台の望遠レンズを設置してあり、300mmから600mmの望遠レンズを通じて吹き抜けの反対側を見ることができる。 また、その後ろ部分には、キヤノンが得意とする専門分野のひとつである医療機器、放送機器が展示される。キヤノンの光学技術をベースにした医療機器などが体験できる。 さらに奥に進んでいくと、渡り廊下部分の壁面にはアーティストのデジタルアート作品が展示されている。
廊下を渡り終わったところには、コマーシャル分野などでキヤノンが獲得したアワードのトロフィー、盾などが数多く並んだショーケース。さらに、その奥には、キヤノン創設初期のカメラが並んでいる。 一番奥のエリアは、「フォトライブラリー&カフェ」スペース。世界のイメージングに関する書籍を用意。さらに、5月末にはカフェスペースが新たにオープンされることになる。現時点では、椅子と机が置かれているだけだった。 このように、2階スペースは、キヤノンブランド製品を一堂に見ることが可能な、エンドユーザーに開放されたスペースとなっている。 なお、キヤノンプラザSの開館時間は、午前10時から午後5時30分まで。日曜、祝日は休館日となっている。
3階部分は、2階同様、キヤノンプラザSの名称を持つものの、ビジネスソリューション製品の展示となっており、2階部分とは一転して落ち着いた雰囲気となっている。ショールームとはいえ、オフィスのイメージを持った作りとなっているのが特徴だ。 入って左側の製品別コーナーには、同社のデジタルプリンティング機器が数多く展示されているほか、右側のソリューションコーナーには、同社が提供する各種ソフトウェアなどと連動したソリューション展示に力を注いでおり、同社の営業担当者が、企業のシステム導入担当者などをここに連れてきて、実際に商品を利用したデモンストレーションが可能になる。
3面の200インチスクリーンが前面に置かれた収容人数430人の大ホール。新製品の紹介セミナーや展示会、講演会なども開くことができる。同社広報部によれば、このホールを使って、製品記者発表会も随時行なっていきたいという。実際に、取材後に大判プリンターの発表会がこのホールで開催された。
12人定員の部屋が2部屋、10人定員の部屋が5部屋用意されており、それぞれの部屋では4階に置かれたサーバーからアプリケーションソフトなどを取り出して、デモストレーションが可能になる。また、AV機器の視聴などにも最適化した部屋や、テレビ会議が可能な部屋なども用意されており、それぞれの用途に応じて部屋を選ぶことができる。 もちろん、これらの部屋は、営業担当者が事前に予約して、ユーザーを連れてきてデモストレーションを行なうという使い方がほとんどになりそうだ。 このように、1階から4階はユーザーに向けたスペースとしている。とくに、1階のギャラリー、2階のショールーム部分は、ユーザーが自由に入れるようになっているため、品川まで足を伸ばした時には、フラっと寄ってみるのもいいだろう。
●セキュリティが強化されたオフィスフロア 5階から上がオフィスフロアになり、約3,000人の社員が勤務する。本社機能や営業部門が入り、単純計算では1フロア150人程度の社員が入ることになる。 入館に際しては、1階部分で非接触型のIDカードを利用し、1人1人がセキュリティチェックされている。電話はPHSを利用しており、固定電話は使用していない。 基本的には全館禁煙。喫煙者は各フロアに設置された喫煙コーナーで吸うことになる。 営業部門は、フリーアドレス方式を採用。社員ひとりひとりがロッカーを持ち、ノートパソコンやPHSを持ち出してきて、自由な席で仕事ができる。机の数は、営業担当者の約7割。月曜日の午前中などは集中することがあるため、机を確保できなかった社員は、6階に設置されたカフェテリアコーナーやリフレッシュコーナーなどで作業をする可能だ。 5階は社員食堂。300人の収容人数のため、昼時に全社員が利用することは不可能。11時45分から15分ずつ時間をずらして4グループに分けて形で昼の休憩時間が設定されているが、近隣のビルなどで食事をする社員も少なくない。グランドコモンズ側だけで、4件のコンビニエンスストアがオープンしていることもあって、これを利用する社員も多いようだ。
8階は応接フロア。ここには大小含めた応接室がある。商用でキヤノン販売を訪れる社外の人はこのフロアに通されることになりそうだ。 社長室をはじめとする役員フロアは27階。関係者の証言によると、「社長室は、幕張オフィスの時とそれほど広さは変わらない」とのこと。
28階は、社外の賓客などを招待して食事ができる「SHINAGAWA CLUB」。窓からは、東京の景色が一望できる。晴れた日には、富士山もきれいに見えるという。 最上階の29階部分は、制震水槽があり、社員などは立ち入れないスペース。地震の際に、この制震水槽によって、揺れを最小限に抑えることができる。幕張では、地震が起こると長時間に渡って揺れが続いていたという社員の証言もあることから、今回の新本社では、そうした社員の声も反映した設計としたようだ。
●キヤノン本社にも近く、連携も強化
これまで幕張にあった本社機能や、スタッフ部門、最前線の営業部門などは、すべて品川に移転してきたことになる。 最大のメリットとして期待されるのが、メーカーであるキヤノンとの連携が強化されること。 キヤノンの本社は、下丸子にあり、幕張からの物理的距離感は大きかった。 だが、品川からであれば、電車でも蒲田から乗り換えて、約30分で簡単に移動ができる。 すでに、コンシューマ製品部門などでは、「週に3回は下丸子にいくようになった」との幹部の証言もあり、製販連携がさらに強化されることになったという。
キヤノン販売の新本社ビル「CANON S TOWER」は、キヤノングループの連携強化という意味でも大きな役割を果たしそうだ。
□キヤノン販売会社紹介ページ (2003年6月6日)
[Text by 大河原克行]
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