低価格業務向けブロードバンドルータ「XR-410/TX2」を試す



■個人向けブロードバンドルータの著しい高性能化

NEC「BR1500H」

 一般家庭にADSLやFTTHといったブロードバンド環境が爆発的に普及しているということは、筆者が言うまでもない状況だろう。個人向けブロードバンドルータについても、多くのメーカからいろいろと発売されており、ユーザーは自分の環境は目的に合わせて選択できるようになった。

 筆者もこれまでいろいろな製品を手に入れ使ってきたが、FTTHの環境では個人的にNECのBR1500HやNTT-MEのBA8000Proがお勧めのブロードバンドルータである。

 「家庭用ブロードバンドルータのお勧めは?」と聞かれれば、現状はPPPoEのマルチセッションが必要ならBA8000Pro、そうでなければBR1500Hを薦めている。最新ファームウェアであれば、どちらも安定して動作し、スループットも申し分ない良いルータである。

 最近は実売が5,000円程度の低価格帯の製品も発売されているが、FTTH環境でのスループットや動作の安定性を考慮すると、上記2製品なら安心して使えるだろう。

■個人向け、業務向けの違いとは

 どのようなジャンルの製品でも、大抵の場合、「個人向け」と「業務向け」の製品が存在する。筆者が考えるブロードバンドルータでの「個人向け」と「業務向け」の違いに関しては、どのくらいのユーザー数で安定した十分なスループットで通信ができるか、フィルタリングの設定がどれほど多くできるか、PPTPサーバ/IPsecサーバ/DHCPリレー/SYSLOG/ダイナミックルーティング(RIP/OSPF)/VRRPなどをサポートしているか、などを基準に判断している。

 SOHOなどでも、数人のユーザー環境で利用するのであれば、個人向けに発売されている一般的な製品で十分役に立つ状況になっているのが実状だ。

 筆者宅の環境で必要となる機能としては、UPnPに対応していること、マルチセッション対応であること、長時間通電したままでも安定して動作すること、十分なスループット性能があることである。

 その他にもIPsecサーバー/PPTPサーバー/DHCPリレー/SYSLOG/ダイナミックルーティング(RIP/OSPF)/VRRPといったような機能も有るに越したことはない。その他にも、設定に関してはシリアルポートではなく、ネットワーク経由でtelnetクライアントやWebブラウザからできるほうが都合がいいといった希望がある。

 実は、筆者宅にはCISCO2500シリーズのルータが存在する。2EtherでIPsecやFirewallをサポートしたIOS、メモリなども備えているので、筆者が希望することは大抵、実現できるのだが、古い製品のためスループットが遅く、たまに実験用として動かす程度である。

 予算に余裕があれば、FTTHの回線に見合った性能を持つCISCOルータを購入し、いろいろなプロトコルを試せるのだが、なかなかそこまでの予算を工面できないのが現状だ。

■センチュリーシステムズ「XR-410/TX2」

センチュリーシステムズ「XR-410/TX2」

 このような状況下で、低価格帯の業務用ルータが発表される度にチェックはしていたが、購入するまでに至ることはなかった。ところが、昨月にセンチュリーシステムズから新しい製品が発売された。発売になったのは「XR-410/TX2」という機種で、LinuxベースのOSを採用したルータである。

 筆者はこれまで、個人的にも同社の製品を購入し利用していた。購入したのはXR-300/TX2であるが、動作は極めて安定しており、購入当時は非常に満足していたものだ。

 同社にサポートを受けることもあったが、その対応やレスポンスもすこぶる良く、ユーザーとして安心して付き合っていけるメーカーだという印象が強い。個人的に同社の製品を利用しているだけでなく、ネットワーク関係の業務では同社のルータを採用することが多くなっている。このような経緯もあり、発表後すぐさまXR-410/TX2の仕様を検討してみた。

 最初にチェックしたのは、XR-300/TX2に対して後々物足りなさを感じた点が解消されているかどうかであった。

 手元にXR-300/TX2は所有しているものの、現在出番は少なくなっている。その大きな理由はUPnPに対応していないところだ。スループット性能に対しても物足りなさを感じていた。

 そこで、XR-410/TX2の製品仕様を同社のホームページで確認すると、UPnPに対応し、スループット性能に関しても、PPPoE接続で93.8Mbps(ダウンロード)と十分な性能を持っているのが確認できた。

 価格も5万円を切っており、現在市販されている個人向け製品とは比べ物にならないほど高価であるが、購入できない金額でもない。逆に業務向けルータとしての機能を数多く搭載していることを考慮すると、XR-410/TX2は非常にコストパフォーマンスが良いと表現するのが正しいだろう。

 簡単にXR-410/TX2を紹介すると、PPPoE時に同時4セッションを実現しているマルチセッション機能、インターネットVPNを実現するIPsecサーバー機能のほか、QoS機能、DNSサーバー機能、UPnP対応、OSPF/VRRP/GREといったプロトコルにも対応している。

 また、RS-232CポートにTAやモデムを接続し、ブロードバンド回線が切断されたときに自動的にバックアップラインを構築することもできる。これ以外にもいろいろな機能を搭載しているが、詳しい内容はセンチュリーシステムズのページを参照してほしい。設定方法や詳しい設定項目なども、公開されているユーザーマニュアルを参照すれば知ることができるはずだ。

左がXR-300/TX2、右がXR-410/TX2。大きさなどはほとんど同じだ 左がXR-300/TX2、右がXR-410/TX2。コネクタのレイアウトもまったく同じになっている 左がXR-300/TX2付属、右がXR-410/TX2付属のACアダプタ。同程度の大きさながら、XR-300/TX2付属が入力AC100-120V、出力DC5V 1.6Aで、XR-410/TX2付属が入力AC100-240V、出力DC5V 2Aとなっている

■「XR-410/TX2」その実力は?

 実際にXR-410/TX2を購入し、筆者宅の環境で使ってみた。接続した環境は、NTT東日本 Bフレッツ・ニューファミリータイプ。プロバイダは「ぷらら」を利用している。

 XR-410/TX2の外観はXR-300/TX2とほとんど同じで、手のひらサイズにまとめられている。細かく見ていくと、ケースのつくりや型番の印刷場所、ACアダプタなどが異なっていることに気づく。ACアダプタもほぼ同じ大きさではあるが、XR-410/TX2のほうが電源容量の大きなものが付属している。

 これまでXR-300シリーズでは、どの機種にも7セグメントLEDが表示部に使われており、起動するとそのLEDがアニメーション表示にするようになっていた。XR-410/TX2にも同様に7セグメントLEDが使われているが、より実用性の高い表示方法に変更され、ネットワークケーブルがLINK状態か、正常に起動しているかなどが分かるようになっている。

 XR-410/TX2を使い始めて間もないが、期待を裏切らない安定動作をしている。いろいろな設定や高負荷な状況で試してみたが、不安定な動作はまったく見られなかった。発熱についても、本体は熱いかなと感じる温度になってはいるが、動作には問題ないようだ。

 PPPoEでプロバイダへの接続、攻撃検出サービス、SYSLOGサービス、NTPサービス、UPnPサービスといった機能を実際に使ってみたが問題なく動作した。実装されている機能が動作するのは、あたりまえのように感じるかもしれないが、個人向けの製品では、動作しなかったり、動作が不安定なものが少なくない。XR-410/TX2が安定してきちんと動作するところは業務向け製品であることを実感できる。

 攻撃検出サービスとは、XR-410/TX2のポートへの不正アクセスや攻撃を検出し、ログに残す機能なのだが、さまざまな攻撃に関しての記録が残るようになっている。どのような攻撃をどのIPアドレスの機器から受けたか、といった内容のログが残るようになっており、ちょっとしたFirewallと同レベルのものだ。

 こまかなフィルタ設定が可能であること、SPI機能を搭載していることから、設定するユーザーのスキルさえあれば、十分使用に耐えるFirewallとしても利用できるだろう。

 ちなみにログは他のSYSLOGサーバーに送信することもできるし、指定したメールアドレスに送信することも可能になっている。

XR-410/TX2設定のトップ画面。多機能であるが、よく整理されたデザインだ PPPoEの接続先は5つまで設定できる。最高4箇所マルチセッション可能だ 各種機能をコントロールする画面。この画面から各機能の詳細設定画面に入る

■肝心のスループット性能は?

フレッツスクェアでの速度計測結果。50Mbps弱のスループットは実用上十分な結果だx

 XR-410/TX2の工場出荷状態に、LAN側のIPアドレスを筆者宅の環境に合わせて変更し、PPPoEで同時にぷららとフレッツスクェアに接続する設定を行なった。同時にポート番号445の通信を破棄するフィルタ設定を追加、UPnP機能を有効、NTPサーバー機能を有効にした。

 この状態で、フレッツスクェアやインターネットの通信速度計測サイトにアクセスしてみると、47~49Mbps程度のスループットが確認できた。同じ環境でNTT-ME BA8000Proに変更するとフレッツスクェアで60Mbps以上の数値が確認できることから、PCのパワーが不足しているとは考えにくく、47~49Mbpsが実環境でのXR-410/TX2のスループット値だと思われる。

 Smartbitでの計測と、実環境での計測はパケット長も異なってくるため、実環境での値はもっと低くなると予想していたが、センチュリーシステムズのページで公表されている数値の半分程度の速度で収まっていたのは意外だった。

 筆者宅の環境ではXR-410/TX2のスループット性能よりも高速な、最大100MbpsのBフレッツ回線を利用しているが、実際には40Mbpsを超えるようなWebサイトを利用する状況は少なく、XR-410/TX2のスループット性能が大きな問題になる状況は少ない。

 同じような機能を実装した同価格帯の他社のルータと比較しても、XR-410/TX2のスループット性能に関してもトップレベルにあることは間違いないだろう。

 また、以前購入したXR-300/TX2とXR-410/TX2を使ってIPsecサーバー機能を利用したInternetVPNの構築を試してみたが、マニュアルを参考に設定して、簡単に実現することができた。XRシリーズ同士であれば、VPNやIPsecの難しい知識がなくとも、比較的手軽にInternetVPNが構築できるのではないだろうか。

【Radish Network Speed Testing Ver.2.25 - Test Report】
測定サイト:
http://www.studio-radish.com/tea/netspeed/
使用回線NTT Bフレッツ ニューファミリー
プロバイダぷらら
測定条件精度:高 データタイプ:標準
下り回線速度:47.97Mbps (5.997MByte/sec) 測定品質:98.8
上り回線速度:35.55Mbps (4.443MByte/sec) 測定品質:97.9
測定者ホストm078194.ap.plala.or.jp
測定時刻2003/5/20(Tue) 20:07

■インターネットを活用したい上級ユーザーにお勧め

 まだ、すべての機能を使いこなしたわけではないが、XR-410/TX2は十分すぎるほどの機能、性能を持っているといえる。これまで数十万円もする業務用ルータを利用してきた環境の多くでは、このXR-410/TX2で十分代用できるのではないだろうか。

 もちろん、筆者も高いレベルで満足している。非常に多くの機能を搭載しているXR-410/TX2であるが、唯一残念なところがPPTPサーバー機能を搭載していない点だ。

 Windows XPを簡単にVPNクライアントとして利用できるPPTPサーバー機能があれば、SOHOユーザーにより受け入れられやすくなるのではないだろうか。個人的にはXR-410/TX2を使っていて、何よりも実現して欲しい機能だ。技術的にはすぐにでも実装できる機能だけに、今後のバージョンアップに期待したい。

 また、製品の仕様でUPnPサービスを動作させると、SPIが動作しなくなるという症状もみられた。実際の運用にはほとんど影響のない仕様ではあるが、若干気になったところだ。

 XR-410/TX2は、ブロードバンド環境を単にインターネットアクセスに利用するだけでなく、インターネットを使い倒してみたいというユーザーにお勧めしたい製品だ。

 もちろん、インターネットアクセスだけに使うのも悪くはないが、極めて安定動作することから、複数のブロードバンド回線でインターネットアクセスをリダンダント構成にし、高可用性を実現するとか、InternetVPNなどに利用すれば、そのコストパフォーマンスの高さを必ず実感できるはずだ。


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【4月23日】センチュリー・システムズ、PPPoE時のスループットが93.8Mbpsのルータ
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/1280.html

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(2003年5月28日)

[Text by 一ヶ谷兼乃]


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