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AMDのサーバー進出に対抗するIntelの対Opteron戦略




●低電圧版Itanium 2を低価格で投入するIntel

IntelのMichael J. Fister氏

 Opteronでサーバー&ワークステーション市場に本格進出する構えのAMD。それに対抗して、Intelも対Opteron戦略を次々に打ち出し始めた。

 もっとも顕著なのは、「IA-64」系CPUの低価格攻勢だ。Intelは、廉価な64bitソリューションを提供するAMDに対抗して、64bit CPUであるItanium 2ファミリを一気に低価格帯に持ってくる。4月に幕張で開催されたIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)-J」で、IntelのMichael J. Fister(マイケル・J・フィスター)氏(Senior Vice President, General Manager, Enterprise Platforms Group)は、こうしたItanium 2戦略の概要を明らかにした。

 Intelは今年第3四半期に、Low Voltage Itanium 2(Deerfield:ディアフィールド)を投入する。このCPUは、通常のItanium 2を単純に低電圧にしたバージョンではなく、L2キャッシュも1.5MBと半分になっており、デュアルプロセッサ(DP)向けだ。このDeerfieldを、Itanium系としては低い価格で投入することをFister氏は示唆した。

Intelのサーバー&ワークステーション系CPUコアとチップセット(推定)
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 「価格帯はまだアナウンスしていないが、必ずしもXeonのローエンドに行く必要はないと考えている。どちらかというと、中間ぐらいの価格帯か、もう少しアグレッシブな価格帯に行くかもしれない」

 Fister氏はサーバー&ワークステーションCPUの価格帯で答えている。つまり、ローエンドと言っているのはXeon DPクラス、中間と言っているのは、マルチプロセッサ版のXeon MPやItanium 2とXeon DPの間という意味だと取れる。Xeon DPは現在Pentium 4とほぼ価格が変わらない(最高クロック品が700ドル前後)。それに対して、Xeon MPは1,000ドル台前半から3,000ドル台後半、Itanium 2はプレミアが多少ついて1,000ドル台前半から4,000ドル台を占める。

 とすると、Deerfieldの価格はXeon MP/Itanium 2とXeon DP系の間、1,000ドル以下になると推測される。実際、業界関係者は、Deerfieldの価格は900ドルを切ると伝える。この価格は、Opteronのデュアルプロセッサ版「Opteron 244」(794ドル)とかなり競合することを意味している。

 Deerfieldが低コストにできるのは、搭載キャッシュが小容量のため、ダイサイズ(半導体本体の面積)が小さいからだ。低電圧化が可能になったのは、動作周波数を1GHzと低く抑えているためで、消費電力は62WとPentium 4並みに留まる。つまり、「McKinley(Itanium 2)の半分の消費電力で、Itaniumと同程度のパフォーマンスを達成する」(Fister氏)、IA-64系としては手軽なCPUなのだ。

 そのため、IntelはDeerfieldを低価格で提供できるし、搭載システム(orブレード)も(消費電力が少ない分は)ある程度までは低コスト&薄型にできる。もちろん、チップセットや電源回りなどはIA-32系と比べるとまだずっと複雑で高コストだ。

●HPC市場でOpteronにDeerfieldをぶつけるIntel

 では、IntelはこのDeerfieldでどの市場を狙うのか。Fister氏は次のように説明する

 「Deerfieldは、低電圧版Xeonのような高密度(Dense)ブレード向けの製品ではない。高密度ブレードももちろんカバーするが、Deerfieldでエキサイトしているのは2つの領域だ。1つ目は(Itanium系)ワークステーションの領域を拡大すること。2つ目はハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の領域。HPCは、クラスタで構成されている場合が多い。クラスタの最小のロジカルノードは2プロセッサノード。だから、(デュアルプロセッサ用の)Deerfieldが完璧(な組み合わせ)だ」

 HPC市場は、大学や研究所などの科学技術演算中心の市場で、スーパーコンピュータを導入するほど予算がないユーザーが中心。廉価なデュアルプロセッサクラスのサーバーを何台もクラスタ構成で結合して使っており、大容量の物理&論理メモリ空間を扱いやすい64bit CPUを求めている。確かにDeerfieldには向いた市場だが、IntelはHPCをターゲット市場として大きく掲げることはなかった。どちらかというとニッチ市場的な扱いだったのが、ここへ来て、一転してIA-64のターゲットに掲げ始めたのだ。

 その背景には、AMDがOpteronの市場としてHPCにフォーカスし、HPC系ベンダーとの提携を発表したことがある。これが、偶然ということはありえない。実際、あるAMD関係者は、Intelがここへ来て急にHPCユーザーにアプローチしてきたと証言する。つまり、OpteronがAMD64アーキテクチャを活かして浸透できそうな部分には、Deerfieldを当てるというわけだ。“Opteronが入り込みそうな隙間は、すべてふさぐ”的な意図が見て取れる。

●TejasコアのXeon DP「Jayhawk」も投入

 また、Opteronは32bit CPU市場ではデュアルプロセッサ(DP)版Xeonと対決する。Intelはここも強化する。特にOpteronを意識した動きは、1MB L3キャッシュ版(L2は512KBのまま)Xeon DPの投入だ。Xeon DPのコアは、Pentium 4(Northwood)と基本的には同じ512KB L2キャッシュのコア(Prestonia:プレストニア)を使っている。それに対して、1MB L3キャッシュ版はマルチプロセッサ(MP)版Xeon(Gallatin:ガラティン)を転用する。もちろん、これは、1MB L2キャッシュのOpteronに対抗するためだ。ちなみに、IntelはこのコアのPentium 4バージョンも用意、Athlon 64が4月に登場したら、場合によっては投入する計画でいた。

 さらに、Intelは、90nmプロセス版CPU「Prescott(プレスコット)」コアのXeon「Nocona(ノコーナ)」を年内に投入する。Noconaは3.46GHzで533MHz FSB(フロントサイドバス)で登場、来年には667MHz FSBへ移行する。つまり、シングルCPUでは800MHz FSB、DPでは667MHz FSB、MPでは400MHz FSBというのが、当面のFSB戦略だ。

 さらに、Intelは次々世代CPU「Tejas(テハス)」コアのXeonも準備している。Fister氏はTejas版Xeonの可能性について、次のように答えている。「有る(Yes we do)。名称はまだ発表していないが有る。通常のモードでは、クライアント用に検証された技術(CPU)をDP用にも使い、さらにMP用にも発展させる」と説明する。

 業界筋の情報によると、TejasコアのXeonは「Jayhawk(ジェイホーク)」と呼ばれており、Tejasとそれほどタイムラグがない来年後半に登場するらしい。Jayhawkは90nmプロセスで、1MBのL2キャッシュを搭載、667MHz FSBで登場する。面白いのは、デスクトップ版のTejasはLGA(Land Grid Array)775パッケージの予定なのに、Jayhawkは従来のXeonと同じmPGA4(604ピン)になっていること。これは、チップセットとの関係だと推測される。

 こうして見ると、Intelは、今後1年半の間に、3つのXeon DPコアを矢継ぎ早に投入することがわかる。Gallatin以外はOpteronを意識した展開ではないが、Opteronにとっては強敵だ。

●最大の課題はMP市場でのOpteron対策

 IntelはPrescottコアでは、DP版のNoconaの他に「MP版として4MBの大容量キャッシュ搭載のPotomac(ポトマック)がある」(Fister氏)。ちなみに、現在のGallatinは物理的には2MBのL3キャッシュを搭載(1MB版は半分がディセーブルされている)しているが、来年頭には4MB L3キャッシュのリフレッシュ版が登場する予定だ。つまり、少なくともPotomacまでは、IA-32ベースのMP版CPUも継続して強化する。

 しかし、IntelはTejas世代の大容量L3搭載版Xeonについては「まだ、提供することを約束していない」(Fister氏)という。Fister氏はその理由として「Itaniumプロセッサがどれだけ浸透するかが課題」と示唆する。どうやら、Itanium系がうまく浸透できた場合には、MP市場はItaniumへと移行させ、IA-32系CPUはDPまでに留めるというプランのようだ。もっとも、Fister氏の口ぶりでは、Intelは明確にその路線を定めたのではなく、まだ市場の手応えを見てから決めるという状況のようだ。

 これもよくわかる話だ。というのは、Intelは4wayサーバーでは現行の「PAE(Physical Address Extention)」による36bitのメモリアドレス拡張を超える量の物理メモリのサポートが、2004年以降は必要になるからだ。つまり、Intelは2004年以降のMPソリューションでは、(1)IA-64系CPUに移行する、(2)PAEを36bitから40bitなどに拡張する、(3)IA-32の64bit拡張(Yamhill:ヤムヒル)を導入する、の3つのプランのどれかを取るしかない。

 じつは、IntelにとってOpteronが一番脅威なのは、この点だろう。OpteronはIA-32の64bit拡張という道があることをユーザーやソフトウェアベンダーに意識させてしまう。そうすると、Intelが意図するIA-64系CPUへの移行が阻害され、Yamhillを早期に導入しなければならなくなるかもしれない。そうなったら、膨大な開発費をかけたIA-64系CPUが、死に体になってしまう可能性すらある。

 だから、IntelはOpteronを叩くのだ。

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【4月24日】AMDがOpteronでサーバー市場を狙う理由
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0424/kaigai01.htm

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(2003年5月2日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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