大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

日本IBM、PC事業を社長直轄に
~組織改革の意味するところは



PC製品事業部
須崎吾一事業部長

 日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)のパソコン事業が今年4月1日から社長直轄部門となった。

 これまでは、橋本孝之常務執行役員の下で、BP&システム・PC製品事業という形で、メインフレームやUNIXサーバー、IAサーバー、そして旧AS/400と呼ばれるiSeriesまでを含んだeServer製品群とともに、PC事業が推進されていた。だが4月1日以降は、そこからPC製品事業部が独立するとともに、社長直轄部門となり、須崎吾一事業部長が陣頭指揮をとることになる。

 日本IBMでは今回の組織改革によって、迅速な経営判断が行なえるようになると説明。事業スピードが早いパソコン事業には適した体制だと説明する。

●ネガティブな組織改革なのか

 だが、今回のPC製品事業の社長直轄化の動きは、一見、ネガティブな組織改革だと受けとれなくなくもない。

 例えば、収益性が高いサーバー事業から分離することから、成長性の高いサーバー分野に対して、伸び率が低いパソコン事業を分離することで経営責任を明確化し、事業縮小に持っていきやすい体制をとったとも見える。

 事実、2002年のパソコン事業の売上高は前年比24%減と大幅なマイナス成長となっている。

 日本IBMの大歳卓麻社長は「パソコン事業そのものは黒字化は維持している」というものの、業界平均を上回る落ち込みぶりだけに、シェアは縮小傾向にあるのは間違いない。また、日本IBMの社内で見ても、パソコン、サーバー、ストレージを含むハードウェア事業全体が前年比14%減であることを考えると、パソコン事業がこの足を引っ張っているともいえなくはない。

 また須崎事業部長が、役員や執行役員でないことや、ましてや理事職でないことも勘案すると、社内における発言力という点でも、PC製品事業部の行方にネガティブな要素を感じざるを得ない。

 失礼ながら、このあたりの見方を須崎事業部長に直接ぶつけた。

●むしろ格上げ

 こちらの失礼な質問に対して、須崎事業部長は、笑いながら「そんな見方があるとは思ってもみなかった」と回答した。

 日本IBMでは、月1回の割合で、約20人の事業担当役員が一同に会する会議がある。4月からは、当然のことながら、須崎事業部長もこの会議に参加することになる。

 実際にこの会議に出席した須崎事業部長は、その場での役員との間に発言権で差がつくことはなかったと断言する。むしろ、全世界のパソコンの生産・技術拠点を担っている日本IBMのパソコン事業を全社的に重視する風潮すらあるという。

 須崎事業部長は、続けてこう話す。

 「これまではサーバー事業の中にあったものが、社長直轄となったことでサーバー事業、ソフト事業、サービス事業と同格で位置づけられるようになったと見ている。むしろ、格が上がったと考えてもらった方がいい」。

 それは、大歳社長の言葉からも明らかだという。

 「社長直轄になったことで、大歳社長からは、パソコン事業に元気がないと、会社全体に元気がなくなる。だからこそ、日本IBMのフロントランナーとしての役割を担ってほしい、と言われた」

 社長直轄の狙いは、パソコン事業をフロントランナーとして位置づけ、よりフォーカスを当てやすくしたという点にあるという。

●事業拡大路線を打ち出す

 パソコン事業の具体的な方針として、今年度は拡大路線を明確に打ち出す考えだという。

 サーバー事業に関しては、今年初めに橋本常務執行役員がトップシェアを目指すと高らかに宣言したが、パソコン事業でもシェア拡大戦略を明確にする考えだ。

 拡大路線に転じたことは、最近の戦略的ともいえる低価格パソコンの投入を見てもわかる。

 本誌でも既報の通り、日本IBMは従来からの付加価値戦略とともに、新たに低価格戦略を加えた2極化戦略を推進する姿勢を示している。

 今年に入ってから、109,800円からの低価格を実現したThinkPad R40eの追加や、77,800円からのデスクトップパソコンNetVista A30の投入などもその表れといえる。また、従来は、30万円台からだったThinkPad Tシリーズも、新たに投入したCentrino搭載モデルのT40では最低価格が219,000円からというように、価格の「敷居」を大きく引き下げた。

 これもシェア拡大戦略のひとつだといっていい。

 須崎事業部長は、「日本IBMが低価格路線を追求しているというのは誤解」と前置きしながらも、「購入しやすい価格帯を意識した製品を投入する努力を開始したことは間違いない」と話す。

 日本IBMが昨年秋に掲げたパソコン事業戦略「Thinkストラテジー」では、オートノミックコンピューティングのような付加価値戦略が前面に出ている。だが、須崎事業部長によると、このThinkストラテジーのなかには、顧客が日本IBMのパソコンを購入しやすい環境をいかに作り上げるか、ということも重要な要素のひとつとして含まれているという。

 具体的な取り組みとしては、顧客が製品を買いやすいようにネット直販体制を強化したり、アフターサポートを強化したりといった取り組みがあげられる。

 ネット直販を担当しているibm.comセンターでは、2002年度実績で、パソコンを購入した顧客の約7割が、これまでIBM製品を利用していなかった顧客だったという成果が早くも上がっている。

 そして、購入しやすい仕組みづくりのなかに、「購入しやすい価格設定」への取り組みも含まれるというわけだ。

●Thinkブランド戦略を開始

 今年、日本IBMはパソコン事業において、「Think」ブランドによるトータルイメージを徹底させる考えだ。

 昨年の発表で、日本IBMのパソコン関連製品は、ノートパソコンのThinkPad、ディスプレイのThinkVision、サービスのThinkServices、周辺機器およびアクセサリーのThinkAcccesaryがラインアップされた。そして、今年5月には、デスクトップパソコンNetVistaの後継製品として、いよいよThinkCentreブランドの製品が投入されることになる。

 これによって、Thinkブランドの全製品が揃うことになり、いよいよ日本IBMのThinkブランドトータル戦略がスタートすることになる。

 「日本IBMのパソコンおよび関連製品は、安定性があること、信頼性があることを訴え、これをThinkブランドの統一イメージとして浸透させたいと考えている」と須崎事業部長は語る。

 社長直轄部門となったことで拡大戦略を打ち出した日本IBM。低迷するパソコン市場のなかで、その勝算はどの程度あるのだろうか。

 そのひとつの鍵を握るのが、「Think」によるトータルブランド戦略ということになる。ThinkPadに頼りがちだったパソコン事業を、周辺機器を含めた面展開としてどこまで市場に浸透させることができるかが焦点だ。

 そして、日本IBMが「低価格戦略」とはしない、今の勢いの価格戦略の継続も、シェア拡大路線を推進する上では重要な鍵を握ることになりそうだ。

 実効性のある価格政策と、付加価値を前面に打ち出すことになりそうなThinkブランド戦略とを、どうリンクさせていくかに注目したい。

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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0319/ibm.htm
【2002年11月7日】日本IBM、新戦略“Thinkストラテジー”を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1107/ibm2.htm

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(2003年4月30日)

[Text by 大河原克行]


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