会場:ヒルトン東京ベイ Intelが3月に投入したノートPC向けプラットフォーム技術「Centrinoモバイル・テクノロジ」は、魅力的な対応製品が次々と投入されたことで大きな注目を集めている。 そうした中で唯一Centrinoのアキレス腱といえるのが、無線LANソリューションだ。Centrinoは、CPUのPentium Mプロセッサ、チップセットのIntel 855PM/GM、無線LANモジュールのIntel Pro/Wireless 2100ファミリー(Calexico)の3つの要素から構成されているが、IEEE 802.11a/bデュアルバンド対応モジュールの出荷が遅れて第2四半期になったり、コンシューマ市場で急速に立ち上がりつつある11gに非対応だったりと、ややトレンドからの遅れが目についていた。 Intelはこれを挽回すべく、無線LAN関連のロードマップを強化していく。Intel モバイルプラットフォームグループ ジェネラルマネージャのアナンド・チャンドラシーカ副社長は、筆者の取材に対して、2003年の終わりまでに11gに対応した「Calexico2」を投入することを明らかにした。 ●2004年の第1四半期から1四半期前倒しされるCalexico2
「2003年の終わりまでに、Centrinoも11gに対応する」というチャンドラシーカ副社長のコメントに関しては、米国におけるIDFのレポートやCentrinoの解説記事などで触れた通りだ。その中で筆者は「現状のCalexicoの物理層の部分を11g対応のものに変更した“改良版Calexico”という方法をとるのでは」と予想したが、どうもこれははずれていたようだ。 今回のIDF Japanにおいて、チャンドラシーカ副社長は「11gに対応したバージョンのCalexicoは、今年の末までに投入する」と、11gに対応したCalexicoを今年の末までにリリースすることを再び明言した。それは現在のIntel Pro/Wireless 2100シリーズ(Calexico)の改良版なのか、それとも次世代のCalexicoなのかと質問したところ、「次世代のCalexicoに基づいた製品になる」と、公式の場で初めてCalexico2を前倒しして、2003年中に投入することを明らかにした。 前述のレポートでも説明してきたように、Calexico2は現在のIntel Pro/Wireless 2100シリーズ(Calexico)から大幅な変更が加えられた、新しいバージョンとなる。というのも、第2四半期にリリースされる11a/bデュアルバンドのIntel Pro/Wireless 2100Aでは、MAC+11aベースバンドチップ、11bベースバンドチップ、5GHzのRF、2.4GHzのRFという4チップで構成されているのだが、Calexico2では2チップとなる(このあたりはCentrinoの解説記事を参照していただきたい)。 Calexico2は、これまでOEMメーカーに対して2004年の第1四半期と説明されてきたのだが、今回の変更で2003年末に前倒しされることが明らかになった。これにより、今年の年末商戦に出揃うCentrinoマシンは、11a/b/gに対応した無線LAN機能が搭載される可能性が高くなってきた。これは、ノートPC市場において、無線LAN技術の違いによる混乱を収束するという点で大きな意味があるといえるだろう。 ●IEEE 802.11iへの対応は将来バージョンへ持ち越しの可能性が
しかし、この前倒しになったCalexico2は、元々Calexico2が持っていた機能をすべてサポートする訳ではなさそうだ。チャンドラシーカ氏が「Calexico2に基づいた製品」という微妙な言い回しをしている通り、Calexico2の機能をすべて包含しているかどうかは明確ではない。 今年末という登場時期を考えると、IEEE 802.11委員会が策定している無線LANの新しいセキュリティ仕様であるIEEE 802.11iの機能を省いたものになる可能性が高そうだ。 Calexico2の計画では、現在のESSIDやWEPによるセキュリティ機能を置き換えるWPA(Wi-Fi Protected Access、Wi-Fi Allianceが策定する無線LANセキュリティの新規格)の第2世代バージョン「WPA v2」に対応する計画になっていた(WPA v2自体が11iそのものなので、11iへの対応と言い換えてもよい)。 しかし、11iの規格策定は、現在もIEEE 802.11委員会で行なわれている最中で、規格の策定は今年の終わり頃だと見られている。それを待ってから製品化するとなると、とても今年の終わりまでにCalexico2をリリースするというスケジュールには間に合わない可能性が高い。したがって、WPA v2(ないしは11i)相当の機能を持たずに投入される可能性が高いと言えるだろう。 ただ、おそらくCalexico2のハードウェア自体は、11iの仕様をサポートしていると思われる。仮に11i/WPA v2の機能が削られたとしても、動作検証期間が足りないために、11iの対応機能が無効にされるというだけの話だろう。おそらく11iの規格が最終決定されたあとでは、その機能を有効にした改良版がリリースされる可能性が高いだろう。 ●今後はシームレスな無線接続や課金の一元化などの機能を徐々に搭載していく
なおIntelは、Calexico2以後も無線LANの機能を拡張していく。例えば、2004年の後半には「Alviso-GM」の開発コードネームで知られるDDR2およびPCI Expressに対応したチップセットをリリースする予定だが、おそらくこのタイミングか、もう少し後のタイミングでPCI Expressのインターフェイスに対応した無線LANモジュールがリリースされることになるだろう。 またIntelは、GPRSやW-CDMAによるWAN(Wide Area Network)、無線LANによるLAN(Local Area Network)、BleutoothやUWB(Ultra Wide Band)などによるPAN(Personal Area Network)をシームレスに切り換える仕組みを検討している。 実際、米国で開催されたIDFでは、Ethernetが使えない環境では無線LANに切り換え、無線LANが使えない環境ではGPRSに切り換えるというデモを行なっており、Mobile IPの技術を利用することで、データがとぎれることなく切り換えることが可能になっていた。これが製品化されれば、ユーザーはどの無線技術を利用しているかを意識することなく、その時点で最適な無線接続を利用することができるようになる。 さらに、Intelは無線LANのユーザー認証に、GSMやW-CDMAの携帯電話などで利用されているSIMカードを利用することで、携帯電話とホットスポットの課金を1つにまとめる技術などにも取り組んでいる。「課金が1つに集約されることで、ユーザーの使い勝手は大きく向上する」(チャンドラシーカ氏)との通り、実現すれば複数のISPと契約する必要はなくなり、例えばドコモと契約するだけでFOMAとホットスポットのサービスが1つの請求書だけで利用できるようになる。また、キャリアにとっても新しいビジネスモデルの形が追求できるという経済効果も期待することができるという点でも要注目と言える。 ●遠い未来にはソフトウェアラジオを利用して複数の無線技術を1チップで実現
チャンドラシーカ氏は、ソフトウェアラジオの可能性に関しても言及した。「現在の無線技術は、PDC、PHS、GSM、W-CDMA、無線LANの11a、11b……など非常に多くの種類がある。将来に関しては、これらのすべてをサポートできるように、ソフトウェアラジオの可能性を追求していきたい」と述べ、最終的にはソフトウェアで様々な無線技術に対応できる無線チップを開発していきたい、というビジョンを示した。 ソフトウェアラジオは、米国のIDFで、CTOのパット・ゲルジンガー副社長が可能性を明らかにした技術で、シリコンやアンテナをソフトウェアにより様々に設定できるようにして、複数の無線技術に1つのシリコンとアンテナで対応できるようにする。 ただし、これは「かなり遠い未来」(チャンドラシーカ氏)との言葉の通り、数年先というレベルではなく、いつ実現できるのか、今のところめどは立っていないというのが正しい説明だろう。Intelはこの可能性をかなり真剣に研究しているようで、遠い未来には、CPU自体にアンテナのインターフェイスが付き、ソフトウェアで設定することで、様々な無線技術にダイナミックに対応できるようになる時代がくるかもしれない。 □IDFのホームページ (2003年4月11日) [Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
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