第190回
広がるホットスポットとローミングサービスへの期待



 前回実施したアンケートは3,140人に協力を得ることができた。集計までにはまだ時間がかかりそうだが、まずは質問の多いアンケートに答えて頂いた読者に感謝したい。アンケートでは、パフォーマンスへの不満の少なさ(その反面で3Dゲーム対応を望む声もあったが)、バッテリ持続時間への期待の高さ、ノートPCへの重さへの不満などが現れていた。中でも意外だったのは、ディスプレイ解像度への要求の高さ。12.1型クラスでSXGA以上を望む声が多かった(実際に製品化されると字が小さすぎるなどの不満が出てくるのが常なのだが)。バッテリ持続時間への要求では24時間以上という声も多く、使い勝手ではキーボードへの関心の高さが伺える。

 インターフェイス関係では、レガシーインターフェイス、赤外線インターフェイス、Bluetooth、モデムが不要と答えたユーザーが多かったのに対して、Type 2 CFとSDカードへのデマンドが高まっているようだ。

 そして無線LAN。多くのユーザーは、小型・軽量なノートPCの限られた空間にも無線LANを内蔵すべきと考えているが、IEEE 802.11aは不要でIEEE 802.11gに期待という傾向がハッキリと現れている。

●a+gへと向かうLinksys

 確かにPCでの利用だけを考えれば場合、11aが不要という意見が多くなるのも無理はない。5GHz帯の11aは改善が進んでいるとはいえ、遮蔽物や通信距離から受ける影響が強いという問題を回避するのが難しい。しかも電力消費が激しく、バッテリをあっという間に食いつぶす。

 シリコンバレーのベンチャー企業、Magis Networkが開発した11a向けのMAC(メディアアクセスコントロール)技術を使えば、電波状況の悪い環境でも通信レートが落ちにくくQoSも実現できる。しかし、Magisの技術はIEEEで標準化されていない。Magisは家電への採用は進みそうだが、PCの世界では普及しないだろう。

 個人的には、5GHz帯を使う11aは展示会の会場などで非常に役立っている。11bユーザーは非常に多く、人がたくさん集まる場所では接続できないこともしばしばあるからだ。今、この記事を書いているIntel Developers Forumの会場でも11aを利用しているところだ。加えてAV家電のネットワークに無線LANを活用しようと思えば、他のアプリケーションと帯域がかぶっていない5GHz帯の方が都合がいい場合が多い。電子レンジを動かし始めたとたんにビデオがコマ送りになったりしたら困るからだ。

 またPC業界を見るとメルコが5GHz帯を含めたデュアルバンド製品に慎重な姿勢を見せているのに対して、IntelはCentrinoでノートPC内蔵無線LANのデュアルバンド化を推し進める。日本で圧倒的なシェアを持ち、ワールドワイドでも18%以上のシェアを持つメルコの動向は無視できないとはいえ、デュアルバンド化は既定路線だ。というのも、デュアルバンドにしても短期的にはコストアップ要因にはなるものの、実際にはそれほど変わらないからだ。

 11gのみに対応する無線LANチップは、基本的に11b製品と変わらないコストで作れる。このため、ベイエリアのショップなどではアクセスポイント、PCカードともに急速に下がっており、アクセスポイントは110ドルちょっと、PCカードは69ドルほどで入手できる。これに比べれば、確かに11a製品は高価だし、デュアルバンド化に慎重な理由もわかる。

 しかし、コンシューマ市場でメルコとともに無線LAN市場のリーダーであるLinksysは、802.11a/b/g、3つの規格に対応した製品を3月末以降に強くプロモーションしていく。日本でも4月以降に、デュアルバンド・トリプルスタンダードに対応する一連の製品を出荷する見込みだ。

LinksysのIEEE 802.11g対応アクセスポイント「WAP54G」(写真は米国で販売されている製品) メルコのIEEE 802.11g対応アクセスポイント「WLA-G54」

 Linksys日本法人代表取締役の中林千晴氏は「大手のベンダーが11aをPCでもやっていくと言っている以上、我々はその市場に製品を積極的に投入していく。そもそも、コスト高といってもMACやベースバンドのコストはデュアルバンド・トリプルスタンダードでもシングルバンドでも変わらない。高いのはRFモジュールだけで、市場規模が拡大すれば価格差などなくなる。年末から来年初頭にかけては、デュアルバンド・トリプルスタンダードが当たり前になるだろう」と話す。

 11gはクリーンな環境で1人だけが利用する分には、確かに高速な通信が行なえる。しかし経験則からすると、11bユーザーが同じエリアに混じっていたり、同時アクセスユーザー数が増えたりすると、ガクガクっと実効速度が落ちてしまう。それでも11bよりは2倍以上の速度が出るのだが、今後数年を支えていくスタンダードとしては少々性能的に心許ないというのが正直な感想である。

 11aも、11gも、一長一短であり、どちらかが優れているといった比較は間違っているのかもしれない。用途や場所によって、(できればユーザーが意識せずに)使い分けるというのが理想だ。

●リゾートでの無線LAN

志賀高原のホテルに置かれたアクセスポイントとiMac

 ところで昨年12月、メルコが推進しているFREESPOTが志賀高原のホテル35軒に導入されたというニュースがあった。時間さえあればプライベートで行ってみたいと思っていたのだが、先日念願かなってFREESPOTが利用できるホテルに滞在しながらスキーを楽しむ機会に恵まれた。

 僕の宿泊したホテルでは、広めで広いテーブルもいくつか用意されたのエントランスホールにiMacが1台、それにメルコの無線ルータが置かれていた。実はこのアクセスポイントには、エントランスホール上の数部屋からもアクセスが可能で、たまたま割り当てられた僕の部屋からも利用できた。

 せっかくリゾートに行っているのだから、仕事のことは忘れたいところ。しかし、実際には僕らの商売の場合、インターネットで連絡の取りにくい場所に遊び行くには、いくつもの仕事を前倒しにして準備を進めてからでなければ行くことができない。それに、全く仕事がない状態で遊びに行くというのも、現実にはとても難しい。

 そんなわけで、仕事をこなしながら家族とスキーに出かけられる環境というのは、とてもありがたいのだ。同じような境遇の人は、僕らのような商売じゃなくとも意外に多いのではないだろうか?

 宿泊したホテル以外にも、担々麺が美味しいことで知られる四川料理のお店がある丸池観光ホテルも訪問してみたが、こちらはテーブルが並ぶ1階の談話室にアクセスポイントを用意。おそらく部屋からのアクセスは不可能だろうが、利用環境はなかなか良好だ。

 今度、志賀高原に行く時には、無線LAN付きのPDAを携えてFREESPOT巡りでもしようか? なんて言ったら、かみさんに呆れられたが、スキー/スノーボード好きなら1度足を運んでみてはいかがだろう。

●ホットスポットのローミングサービスを試す

 さて、志賀高原への取材(?)から帰ると、待っていたのはIDFへと向かう成田空港への出発準備。成田空港では以前もWIDEプロジェクトが無線LANアクセスの実験サービスを行なっていたが、現在はiPASSおよびGRICと協力してホットスポットのローミングサービス実験を実施している( http://www.naa.go.jp/press.ns4/6bc6b86dfb7e8379492567df0034dd37/ceb940506607a29f49256c610019d5ac?OpenDocument)。

 iPASSもしくはGRICの国際ローミングサービスが利用可能なISPのアカウントを持っている人は、成田のアクセスポイントでWebブラウザを開き、IDとパスワードを入力することでインターネットへのアクセスが可能になる。なお、ログインは必要だが、ローミング認証の実証試験が目的のため、利用料金そのものは無料だ。

 たとえば僕の場合はSo-netのアカウントを持っており、GRICのサービスを利用できる。ユーザー名に「gric/xxxx@xxx.so-net.ne.jp」、パスワードにログインパスワードを入力するとサービスの利用が可能になる。またGRICのMobileOffice4.0もしくはGRIC Dial3.3.2を使ってログインすることも可能だ。

 ただしGRIC Dial3.3.2はWindows XPの日本語版に正式対応していないため、Mobile Office 4.0を利用してみた。Mobile Officeを利用するメリットは、ログインIDの前に付けるサフィックス(gric/などの文字列で、アクセスポイントによっては変わる可能性がある)を意識する必要がない点と、無線LANのSSIDを自動的に設定してくれる点だろうか。世界中にあるアクセスポイントの場所リストも内蔵されており、使いたいアクセスポイントを選んで接続を指示すると、あとは自動的にログインを実行してくれる。

 Mobile Office 4.0のアドレス帳を見ると、すでに結構な数のアクセスポイントがあることに驚く。まだ米国でのローミング(GRICの場合、Wayportのアクセスポイントが利用できるため、空港ゲートなどでは使える確率が高い)には挑戦していないが、これならホットスポットを提供しているプロバイダの違いを意識せず、簡単にワイヤレスアクセスを利用できそうだ。

 日本ではまだ成田空港でしかローミングサービスは実施されていないが、米国ではかなり多くのアクセスポイントがすでにローミングサービス対応になっている。海外出張の折、接続に挑戦してみてはいかがだろう。

成田空港に設置されたアクセスポイント GRIC MobileOffice4.0のアドレス帳

□関連記事
【1月21日】久しぶりに登場したリンクシスの意欲作
~802.11g対応無線LANルータ Wireless-Gを試す(Broadband)
http://bb.watch.impress.co.jp/column/shimizu/2003/01/21/index.htm
【2002年12月12日】メルコ、IEEE 802.11g対応製品を2003年2月出荷開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1212/melco2.htm
【2002年7月2日】メルコ、無料のホットスポットサービス「FREESPOT」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0702/melco.htm

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(2003年2月19日)

[Text by 本田雅一]


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