L2キャッシュを512KBに増やした新コア“Barton”(開発コードネーム)を搭載したAthlon XP 3000+、2800+の2製品が発表された。L2キャッシュを増やしたことで従来コアのThoroughbredに比べて高いパフォーマンスを発揮するBartonコアにより、Athlon XPはより高いパフォーマンスグレードを実現することができる。 今回は、そんなBartonコアを採用したAthlon XP 3000+のサンプルを入手したので、そのパフォーマンスに迫っていきたい。
今回、AMDが発表したのは、Bartonコアを採用したAthlon XP 3000+とAthlon XP 2800+で、実クロックは3000+が2.167GHz、2800+が2GHzとなる。Bartonコアの最も大きな特徴は、L2キャッシュが512KBに増加されたことだ。 L2キャッシュの容量増加は、メモリレイテンシの隠蔽につながり、PCの総合的な性能が向上する効果がある。実際、3000+の2.167GHzというのは、ThoroughbredコアのAthlon XP 2700+と同じ実クロックで、ThoroughbredとBartonの大きな違いはL2キャッシュの容量ということになるので、L2キャッシュが増えた分のパフォーマンスアップ分は300+分となることになる。 ThoroughbredとBartonは同じ、Fab30の0.13μmプロセス技術を利用して生産されているので、L2キャッシュの増加分だけトランジスタが増えるため、ダイサイズは増えることになる。実際、ダイサイズはThoroughbredが84平方mmであるのに対して、Bartonは101平方mmとなっている。ただ、それでもPentium 4(131.4平方mm)に比べて小さく、Thoroughbredに比べれば高コストとなるが、製造が難しいほど大きいというわけではない。 なお、Platform Conferenceの記事でも説明したように、当初AMDは3000+の実クロックは2.25GHz、つまりThoroughbredコアのAthlon XP 2800+と同等になるとOEMメーカーに説明していたのだが、直前に変更され2.167GHzに落ち着いた模様だ。これは、BartonのパフォーマンスがAMDが予想していたよりもよかったということの裏返しだと言える。 なお、OEMメーカーには、Athlon XP 2500+という、実クロック1.83GHzのグレードがあると説明されていたが、今回の正式発表には含まれていない。AMDからは、より高性能の製品に集中するためと説明されている。 なお、熱設計における仕様などは表1の通りだ。見て判るように、いずれもThoroughbredの熱設計とほぼ同じだが、最高グレードの3000+だけはTDP(熱設計電力)の値が74.3W、Icc MAX(最大電流量)が45Aと、他のグレードに比べて高くなっている。このため、3000+を利用する場合には、CPUクーラーを考えられる限り最高のものを利用し、電源供給ユニットも供給電流量に余裕があるものに交換した方が安定動作を得られるだろう。 それ以外のグレードに関しては、現在Thoroughbred Rev.Bコアが動作しているものであれば、ほぼ問題なく動作すると考えていいだろう。 【表1:Athlon XPの熱設計、および電力周りの仕様】
本連載では、昨年8月の記事から利用するベンチマークの入れ替えを行なった。それから半年以上が経過したこともあり、今回いくつかの見直しを行なうと同時に、ベンチマーク環境、具体的にはビデオカードの見直しを行なった。 これまで、筆者のベンチマークには、NVIDIAのGeForce3を搭載したビデオカードを利用してきた。GeForce4 TiファミリーがリリースされたあともGPUの更新を見送ったのは、どちらも同じDirectX 8世代であるため、特に更新する必要を感じなかったからだ。 だが、すでに今年の1月にDirectX 9がリリースされており、今後DirectX 9世代のベンチマークなども登場することが予想されるため、DirectX 9世代のGPUを搭載したビデオカードに入れ替えることにした。 現時点で入手可能なDirectX 9世代のGPUは、ATI TechnologiesのRADEON 9700 PRO/9700/9500の3製品しか選択肢が無く、NVIDIAのGeForce FXは発表はされたが、現時点では複数枚(同時にベンチマークを実行するなどのためには同じカードを複数枚確保する必要がある)確保するのは難しかったため、RADEON 9700 PRO(128MB)を選択することにした。今後、DirectX 10がリリースされるまでは、RADEON 9700 PROを本コーナーのCPU記事の標準GPUとして利用していきたい。 同時にベンチマークの見直しを行なった。見直ししたのは、半年たって新しいアプリケーションが登場してきたためだ。具体的には、アプリケーションベンチマークのZiff-Davis Media Business Winstone 2002とMultiMedia Contents Creation Winstone 2003、3DゲームのUnreal Tournament 2003とFinal Fantasy XI Offical Benchmark、写真編集ソフトのPhotoshopのフィルターテスト(HI-FI( http://www.hi-fi.jp/index@hi-fi.html )で配布されている“HI-FI-Ultimate-Bench-PS7”を利用させて頂いた)を追加した。 これに、従来より利用していたSYSmark2002、3DMark2001 Second Edition、Quake III Arena、TMPGEncによるエンコードテストをそのまま利用して、様々な角度から検討できるようにした。各ベンチマークのジャンルは表2の通りだ。 【表2:利用するベンチマーク】
本当であれば、DirectX 9ベースのベンチマークプログラムも入れたかったのだが、現時点では適当なものが無く、今回の変更では見送ることにした。ただ、すでにFutureMarkは、DirectX 9に対応したベンチマーク「3DMark03」を第1四半期中にリリースすることを明らかにしており、リリースされ次第3DMark2001 SEと入れ替えて利用していきたい。
それでは、ベンチマークの結果を見ていこう。環境だが、基本的にはマザーボード、メモリといったCPUに依存するパーツ以外は、共通のものを利用している。 Athlon XPは、マザーボードにnForce2-STを利用したASUSのA7N8Xを利用した。Athlon XP 3000+の方は、BIOSがAthlon XP 2700+、2600+のv.1002よりもやや古いバージョンのv1001.cになっているが、これは今回入手したAthlon XP 3000+のサンプルがシステム一式で提供されており、筆者側でBIOSアップデートなどができなかったためだ。 ただ、今回利用したのはAMD公認のシステムであるので、特にこれが原因で不利になるということはないと思われる。メモリモジュールはDDR333を搭載したPC2700を利用し、もちろんデュアルチャネルで利用している。 なお、メモリのスピード設定は2.5-3-3(CL、tRCD、tRP)に設定した。比較対象としては、Athlon XP 2700+、2600+を用意したほか、Pentium 4 3.06GHz(HTテクノロジ有効)+Intel 850E+PC1066-32を用意した。2700+は実クロックで3000+と同じなので、ThoroughbredコアとBartonコアのパフォーマンスの違いを見るのに役に立つだろう。 なお、環境は以下の通りで、結果はグラフ1~10、および表3だ。 【テスト環境】
■ベンチマーク結果(1)オフィスアプリケーションでの処理能力
オフィスアプリケーションを見るベンチマークとしては、SYSmark2002のOffice Productivity(グラフ1)とBusiness Winstone 2002 v1.0.1(グラフ2)を利用した。いずれもOffice XP、Netscapeなどの実在のビジネスアプリケーションを利用して行なうベンチマークプログラムだ。 SYSmark2002/Office ProductivityではPentium 4 3.06GHzが上回り、逆にBusiness Winstone 2002ではAthlon XP 3000+が上回った。いずれもあまり大きな差はなく、同等クラスの性能を持っていると位置づけていいのではないだろうか。 (2)コンテンツ作成アプリケーションでの処理能力
コンテンツ作成アプリケーションでは、SYSmark2002のInternet Contents Creation(グラフ3)、MultiMedia Contents Creation Winstone 2003(グラフ4)、TMPGEnc Version 2.51によるMPEG-1(17,989フレーム)エンコードのフレームレート(グラフ5)、Photoshop v7.0.1によるフィルター実行時間(グラフ6、表3)の各テストを行なった。 注意して欲しいのは、他のグラフが、バーが伸びれば伸びるほど高性能であることを示しているのに対して、グラフ6だけはバーが短ければ短いほど高性能であることを示していることだ。 これらのテストでは、いずれもHTテクノロジが有効になったPentium 4 3.06GHzが高い性能を示した。これは言うまでもなく、HTテクノロジの効果だ。例えば、SYSmark2002/Internet Contents CreationやMultimedia Contents Creation Winstone 2003には、PhotoshopやPremiere、Windows Media Encoder v7.1などのマルチスレッド処理に対応したアプリケーションが含まれており、それだけで性能向上が期待できる。 具体的なアプリケーションではTMPGEncやPhotoshop v7.0.1の結果を見れば、それが明らかだろう。ちなみに、今回はHTオフによる結果は掲載していないが、HTテクノロジの記事[http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1114/hotrev188.htm]を見て頂ければわかるように、Photoshop v7.0.1のHTテクノロジオフ時の総合タイムは1,475.3秒で、これは今回のAthlon XP 3000+や、Athlon XP 2700+にも劣る結果となっている。だが、HTテクノロジをオンにすることで、1,268.4秒となっており、その効果が圧倒的であることは以前に説明した通りだ。 (3)3Dゲームにおける処理能力
3Dゲームベンチマークにおける結果が、3DMark2001 Second Edition-Build330(グラフ7)、Quake III Arena(グラフ8)、Final Fantasy XI Official BenchMark(グラフ9)、Unreal Tournament 2003(グラフ10)の結果だ。 この項目では、Athlon XPの圧勝と言ってよい。3DMark、Quake IIIというやや古めなアプリケーションでこそPentium 4 3.06GHzに比べてやや劣っているが、Final Fantasy XI Official BenchMark、Unreal Tournament 2003では、大きく上回っている。 特に、Final Fantasy XIでは、7,000を超えるスコアを叩き出しており、特筆に値する。Intel、NVIDIAはPentium 4+GeForce4 TiをFinal Fantasy XIの最適環境と宣伝してきたが、皮肉にもAthlon XP+ATI RADEON 9700 PROという組み合わせが、Final Fantasy XIの最強環境となっていくかもしれない。
以上のような結果から、Athlon XP 3000+はマルチスレッドを多用するコンテンツ作成系のアプリケーションではHTテクノロジが有効のPentium 4 3.06GHzにやや遅れをとっているが、オフィス系アプリケーションではほぼ互角、3Dでは明らかにアドバンテージがあり、3000+の名前に十分値する性能を発揮していると思う。 特に、同クロックながらL2キャッシュが256KBのAthlon XP 2700+と比較すると、大きな性能向上が認められ、Bartonが非常によくできたコアであるということができるだろう。これに関してAMDは非常によい仕事をしたと、評価されてよいだろう。 ただ、課題はある。1つは価格が非常に高いことだ。Athlon XP 3000+は米国ドルで588ドル、日本での価格は73,500円となっており、Pentium 4 3.06GHzとほぼ同じような価格帯になっている。ここ最近、Intelと比べてやや勢いが鈍りがちなAMDだけに、ここはもっとアグレッシブな価格設定でもよかったのではないだろうか。 そして、もう1つ最近のAMDに言えることだが、いつ入手できるかだ。昨年の10月に発表されたAthlon XP 2800+は未だに市場には出回っていない状況である(AMDは限定されたOEMには出荷していると説明しているが、少なくとも日本市場ではそうした製品が販売されたニュースは聞いたことがない)。 すでに4カ月近くが経過しているにも関わらず、まだ製品が入手できるようにならないというのは、尋常ではない。ただ、Athlon XP 3000+は、すでに市場に出回っているAthlon XP 2700+と同クロックであり、Athlon XP 2800+よりは製造しやすい可能性が高いことは指摘しておきたい。 OEMメーカー筋の情報によれば、AMDはモデルナンバーこそ決定していないが、Athlon XP 3000+の上のグレードとして実クロックで2.33GHzの製品を計画しているという。 これは、おそらくAMDが今年の半ば頃に投入することを公式に説明しているAthlon XP 3200+になる可能性が高い。だとすると、2800+>3000+が0.08GHzしか上がっていないのに、3000+>3200+は0.16GHzと倍の上昇率を見せることになる。 これは、おそらく第2四半期にIntelがリリースする予定のシステムバス800MHz、そしてDDR400のデュアルチャネルのチップセットが揃うPentium 4 3.20GHzに備えたものだと言えるだろう。 今回の結果からもわかるとおり、2.167GHzでも十分高いパフォーマンスを発揮しているので、2.33GHzのBartonはさらに高性能を発揮する可能性が高い。 Athlon 64の延期でやや停滞気味かと思われたAMDだが、期待以上のBartonの完成度で、十分Intelに対抗していける可能性がでてきたと言えるだろう。AMDには、ぜひ早期のAthlon XP 3000+の市場投入を願いたい。 □関連記事 (2003年2月10日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
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