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なぜAthlon 64は9月まで遅れたのか




●2種類のAthlon 64が1種類に戻る

 AMDのHammer戦略はめまぐるしく変わっている。AMDは昨年末頃にはOEMメーカーに対して2種類のAthlon 64を投入する計画を説明していた。これは、1MB L2キャッシュ版と256KB L2キャッシュ版の2種類だった。この戦略については先週のコラム「AMDがClawHammerとParisの2種類のAthlon 64を投入か」で説明した通りだ。だが、AMDは最近になってその路線を再び転換したようだ。

 現在、公式に明らかにされているのはサーバー&ワークステーション用のHammerファミリ「Opteron」が4月22日に登場し、デスクトップ&モバイル用の「Athlon 64」が9月に登場するということ。それに対して、これまでAMDはAthlon 64が3~4月に登場、それに続いてOpteronも登場すると公式に説明していた。つまり、Athlon 64が再び半年遅れたことになる。

 これをもう少し詳しく見ていこう。少し前までの計画では、最初に登場するAthlon 64は1MB L2キャッシュを搭載した「ClawHammer(クローハマー)」で、第3四半期に256KB L2キャッシュの「Paris(パリス)」が普及版として登場することになっていた。最初に登場するAthlon 64は、事実上Opteronと同じ容量のL2キャッシュを備える計画だったのだ。

 これが意味していたのは、AMDは1MB L2キャッシュを搭載したHammerコアを最初に完成させて3~4月に投入、その後256KB L2キャッシュ版を第3四半期までに完成させて投入するということだったと思われる。AMDとしては2種類のコアを同時にデバッグ&バリデートして出すのはエンジニアリングリソースの関係から難しいため、時間差を設定したと推定される。だが、そうすると1MB版HammerをOpteron、256KB版HammerをAthlon 64として投入するなら、Athlon 64の投入は第3四半期までずれ込んでしまう。そこで、AMDはデスクトップ向けにAthlon 64の出荷を急ぐために、1MB版コア版HammerをOpteronだけでなくAthlon 64にも投入する計画を立てたものと思われる。

●今回の戦略で何が変わったのか

 では、今回のロードマップでどうなったのか。現在はOpteronだけが第2四半期に登場し、Athlon 64は第3四半期に登場することになっている。これが意味するのは、AMDは1MBをOpteronとして、256KB版をAthlon 64として投入する路線に再び切り替えたことだと思われる。そう考えればAthlon 64が第3四半期にずれ込んだ理由がわかる。つまり、本来の計画に戻したわけだ。

 ではそうだとすれば何が変わるのか。じつは、CPUコア自体の戦略で見た場合にはほとんど変わらない。単純にラベルの問題に過ぎないと言ってもいい。つまり、AMDサイドから見れば1MB版HammerをOpteronとAthlon 64の両方のブランドで出すか、それともOpteronブランドだけで出すかという問題だと思われる。両CPUで同じチップセットを使うこともできる。また、Athlon 64の市場浸透のペースもそれほどは変わらないと思われる。というのは、そもそも昨年末までの計画でも第2四半期から第3四半期前半までのHammerの出荷予定量は非常に少なかったからだ。

 AMDはOEMベンダーに対して、昨年11月の段階では、本格的にHammerが浸透を始めるのは第3四半期の後半からと説明していた。その意味でも、今回のスケジュール変更で、大きな影響はない。つまり、1MB版Hammerは、Athlon 64というブランドをつけて出されたとしても、9月までは大した数量は出荷されなかったろう。それが全量Opteronブランドで出るというだけの話だ。

 ただし、1MB版Athlon 64をやめて、1MB版HammerコアをOpteronブランドだけで出すことでいくつかの問題も生じる。そもそもOpteronとAthlon 64はピンアウトとソケットが異なる。これは、マルチプロセッサ対応のOpteronがCPU間の相互接続のために、HyperTransportを3ポート備えているためで、同じマザーボードに挿すことはできない。したがって、最初に登場するマザーボードはOpteron用だけとなり、9月に登場するAthlon 64はそのマザーボードに挿すことはできない。

 それに、なによりも問題はイメージだ。これは、市場にAthlon 64が遅れたという印象を与えることになり、AMDに黒星をまたひとつつけてしまうことになる。Hammerはもともと昨年中に登場するはずだったわけで、そうするとデスクトップPCでは見かけ上は3四半期遅れるわけだ。

 そして、この“遅れ”は、AMDプラットフォームを支えてきたチップセット&マザーボードベンダーをいらだたせることは間違いない。すでに、AMDが昨秋に出荷数量を伝えた段階で、チップセット&マザーボードベンダーは怒っていたのだが、今回の決定はトドメを刺した可能性がある。AMDがこのあたりをどう解消するつもりなのかは、現在のところ、まだ皆目検討がつかない。しかし、Athlonの成功を支えたチップセット&マザーボードベンダーに見放されたら、AMDには大きな打撃になるのは間違いない。

●なぜAMDは戦略を変更したのか

 では、AMDはどうしてこんなリスキーな戦略変更を行なったのか。まず推測されるのは、AMDはそこまで無理してAthlon 64を早期投入しても仕方がないと判断したということだ。

 確かに、AMDの今年頭までの2種類のAthlon 64計画にはいくつか無理があった。数量はあまり出すことができず、クロックも2GHz以下でスタートすることになっていた。当時の計画では、Athlon 64のスタート時のモデルナンバーは3100+で、512KB版Athlon XP(Barton:バートン)の3000+と大差がなかった。そうすると、ユーザーにAthlon 64を買わせるモチベーションを起こすのは難しい。Athlon 64を無事に離陸させようと思ったら、じっくり秋まで(クロックが上がるのを)待った方がいいと考えたというのもわかる話だ。

 それから、Athlon 64の64bitアーキテクチャの強みを活かすために、サーバー&ワークステーションを優先しようという派がAMD内部で力を増したという可能性だ。確かに、Athlon 64のx86-64アーキテクチャは、デスクトップではまだ活きない。だが、サーバー&ワークステーション市場ではリニアにアクセスできる論理メモリ空間を4GB以上に採れるx86-64は魅力が大きい。だから、x86-64の特徴を活かして市場を開拓しようと思ったらサーバー&ワークステーションを優先するというのは理にかなった戦略ではある。そもそもAMDが、256KB版Hammerではなく1MB版Hammerの方を優先して開発したのも、そうした思惑があったからだろう。

 こうした背景を推測すると、AMDの戦略も理解できる。特に、x86-64というアーキテクチャ上の利点を活かそうと思うなら、これは正解の戦略だ。

 問題はただひとつ。その戦略が、はたして市場とAMDを支えるベンダーに受け入れられるのか、そこにかかっている。

□関連記事
【1月31日】AMD、Opteronを4月、Athlon XP 3000+を2月に投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0131/amd.htm
【1月24日】AMDがClawHammerとParisの2種類のAthlon 64を投入か
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0124/kaigai01.htm

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(2003年1月31日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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