2003年には、より多くの価格帯にHTテクノロジを導入していく
~Intel ウィリアム・スー副社長インタビュー




 Intelは14日、Hyper-Threading Technology(以下HTテクノロジ)をサポートしたPentium 4プロセッサ 3.06GHzを発表し、その後各PCベンダから搭載製品が続々とリリースされている。

 これまでのCPUの高性能化とは異なる新しいアプローチであり、非常に注目されているHTテクノロジだが、その発表にあわせて来日した、デスクトップ製品を担当する副社長兼デスクトッププラットフォームグループ共同ジェネラルマネージャであるウィリアム(ビル)・スー氏にお話を伺う機会を得たので、その模様をお伝えしていきたい。


●HTテクノロジを早期に導入したのは思ったより早くバリデーションが終了したため

Intel副社長兼デスクトッププラットフォームグループ共同ジェネラルマネージャ ウィリアム(ビル)・スー氏

Q:HTテクノロジはCPUの高性能化にとってどのような意味があるのでしょうか?

スー氏:過去数年間、CPUはいくつかの技術革新を遂げてきましたが、HTテクノロジはその中でも非常に大きなものです。マルチスレッドに対応していないアプリケーションでも、マルチタスクに利用することで、いますぐ恩恵を受けることができます。

 すでに多くの、いえほとんどすべてのユーザーは、アプリケーションをマルチタスクに利用しています。例えば、バックグランドでスペルチェック、ウィルスチェック、印刷などの作業は当たり前のように行なわれています。

 また、写真や動画の編集ソフトなど、マルチスレッドに対応したアプリケーションも増えてきており、それらのアプリケーションを利用することでより大きな恩恵を受けることが可能です。当社としては、今後ソフトウェアベンダの皆様が、より多くのスレッド化されたアプリケーションを開発して頂けると信じておりますので、今後時間を経るにしたがって、メリットは増えていくと考えています。

Q:もともとPentium 4のアーキテクト達はHTテクノロジを前提にPentium 4を設計していたのではないかと思うのですが、どうしてHTテクノロジが使えるようになるまでにこんなに時間がかかったのでしょうか?

スー氏:いくつかの理由があります。1つはOSの対応とライセンスの問題です。ライセンスでいうCPU数が、論理的な数なのか、物理的な数なのかを明らかにする必要がありました。

 また、スレッド化されたアプリケーションの問題もありました。ご存じのように、当社はサーバー向けのXeonプロセッサでHTテクノロジを先に導入しましたが、それはサーバー環境ではすでにスレッド化されたアプリケーションが多数存在しており、HTテクノロジにより恩恵を比較的容易に得ることができたからです。

 最後に、バリデーションの問題もありました。HTテクノロジでは、CPUだけでなく、BIOS、チップセットなどをすべて問題なく動作するようにバリデーション(互換性検証)を行なう必要があり、それに時間がかかっていたのです。

Q:元々Prescottで導入する予定だったHTテクノロジの導入が早まったのはどうしてですか?

スー氏:HTテクノロジの導入で最大の課題は、先ほどあげた3つの中でも一番最後にあげたバリデーションでした。我々の元の計画ではこれにもっと時間がかかる予定で、それがPrescottで導入するという計画だった理由です。ところが、実際に作業を進めていくと、我々が考えていた以上にうまく進み、HTテクノロジを早期に導入することが可能になり、今回導入することになったのです。

Q:1年近く導入が早まったことで、ソフトウェアベンダ側の準備が追いついていないのではないですか?

スー氏:すでにいくつかのベンダは準備が整っていますが、やはり多くのベンダという意味では来年の半ば頃になるのではないでしょうか。ただ、1つ言っておきたいことは、すでに対応しているソフトウェアベンダ様は性能面で大きなメリットを得ることになるということです。そうなれば、競合のソフトウェアベンダも対応する必要性に迫られることになるのではないでしょうか。当社としてはそうした競争原理により、思ったよりも早くスレッド化されたアプリケーションが出そろうものと考えています。

Q:MMXやSSEの導入時には、プロモーションやソフトウェアベンダのサポートにかなり投資しておられましたが、HTテクノロジに関してはどうでしょうか?

スー氏:当社では、100を超えるソフトウェアベンダ様と協力し、彼らのアプリケーションをHTテクノロジに対応してもらえるようにしています。そういう意味では同じような投資を行なっているといえるでしょう。ソフトウェアベンダ様にはHTテクノロジに対応することで、大きな性能向上を実現できることに対して非常に満足して頂いていると思いますよ。

●HTテクノロジによりバーチャルにメモリレイテンシ削減を実現

Q:CPUのパフォーマンスという意味では、帯域幅を上げていくことも大事ですが、メモリレイテンシの削減も重要な要素ではないかと考えます。特に一般的なアプリケーションでは、メモリレイテンシの削減が聞いてくると思いますが、いかがでしょうか?

スー氏:確かにメモリレイテンシの削減はいくつかのアプリケーションにとって重要です。ただ、こう考えてください。HTテクノロジはメモリレイテンシを隠します。というのも、HTテクノロジでは、複数のスレッドがメモリに代わる代わるアクセスすることになるので、結局のところメモリレイテンシはバーチャルに削減されます。

 当社としてもメモリレイテンシを削減していく努力は続けていくことになりますが、エンドユーザーにとって、HTテクノロジを利用することで、レイテンシの問題はさほど重要ではなくなるでしょう。

Q:AMDはDRAMコントローラを統合することでメモリレイテンシを削減する方向にいっており、アプローチは別れています。以前、COMPUTEXでお話を伺った時にも、非常に困難が伴うというお話をされていましたが。

スー氏:確かにメモリレイテンシの削減という意味では、DRAMコントローラをCPUに統合することは意味があると思います。しかし、DRAMコントローラの統合は、いくつかの困難を伴います。

 1つには、メモリの進化に対応することが難しいことです。現在のアーキテクチャではチップセットを変更すればよいわけですが、DRAMコントローラを統合していると、CPUそれ自体を変更しなければなりません。このことは、特に企業ユーザーに取り、不安定な環境を作り出す原因となります。

 2つ目は、ピン数の問題です。すでに述べましたが、広帯域幅、低レイテンシはいずれも重要です。ところが、DRAMコントローラを統合することにより、ピン数が非常に増えてしまいます。もし、DRAMインターフェイスを2チャネルにしたり、あるいは将来4チャネルにしたりすれば、ピン数が増え、非常に大きなパッケージになるでしょう。もちろん、マザーボードのデザインも非常に困難になります。我々としてもDRAMコントローラの統合は、特にメモリレイテンシの削減という意味でメリットがあると考えていますが、こうした技術的な理由から難しいのではと考えています。

Q:現在のIntelのメインストリームチップセット、例えばIntel 845GEやIntel 845PEなどですが、メモリはDDR333サポートとなっており、システムバスに比べて帯域幅が十分ではありません。Granite Bayのような広帯域幅メモリをサポートしたチップセットをより安価にPC向けとして提供する予定はないんでしょうか?

スー氏:我々は非常に広帯域のデュアルチャネルのDirect RDRAMをサポートするIntel 850Eをリリースしており、ハイエンドユーザーの方には、こちらをお奨めします。

 来年には、デュアルチャネルのDDR SDRAMをサポートするSpringdaleを投入しますので、こちらがよいソリューションになるのではないかと考えています。当社の2003年のロードマップは非常に強力なもので、より高クロックで、HTテクノロジをサポートしたCPU、そして2チャネルDDRをサポートしたチップセットを用意しております。非常にバランスのとれた高い性能を発揮することになると思いますので、期待してください。

Q:HTテクノロジをサポートしたチップセットですが、サードパーティチップセットではどうなるのでしょうか? ライセンス上は何も問題はないと考えていいのでしょうか?

スー氏:可能です。ただ、我々にとっても、彼らにとっても1つのチャレンジといえます。CPUとチップセットがHTテクノロジを有効にした場合でもきちんと動くかどうかをバリデーションする必要があります。Intelは当社のチップセットとHTテクノロジがすべて問題なく動作するように、バリデーションに多大な投資を行なっております。サードパーティにとっても、同じようなことをしなければいけないわけですから、大変な作業でしょう。問題は彼らがこの作業を完了するのにどの程度の投資を行なえるかどうかです。それを行なうかどうかは、彼らの選択次第です。

●2003年にはより多くの価格帯でHTテクノロジを導入していく

Q:HTテクノロジは3.06GHz以上だけでサポートされています。ユーザーの間では、それ以下のクロックでもサポートしてほしいという声がありますが?

スー氏:HTテクノロジは、性能を上げていくための新しい機能です。当社としては最初にHTテクノロジを必要とするユーザーは、ハイエンドシステムを必要とするユーザーではないかと考えました。これがハイエンド市場にHTテクノロジを最初に導入した理由です。ただ、2003年にはHTテクノロジを、より多くの価格帯でご提供できるようになると考えています。

Q:Celeronにおける可能性はどうでしょうか?

スー氏:現時点ではCeleronでHTテクノロジを有効にする予定はありません。Celeronを選択されているお客様は性能を最重要視されているお客様ではないですし、CeleronはL2キャッシュやシステムバスがHTテクノロジを効果的にするほどは十分ではありません。短期的には、HTテクノロジはCeleronには必要ないと考えています。

Q:今後HTテクノロジに対応したCPUにおいてパフォーマンスをあげて行くには2つの方向性が考えられると思います。1つはフロントエンドのキャッシュや分岐予測エンジンなどの強化であり、もう1つがALUやFPUなどの演算ユニットを増やしていく方向性です。将来はどちらの方向で開発が行なわれていくのでしょうか?

スー氏:ご存じのように、HTテクノロジでは2つの論理プロセッサがCPU内部のリソースを共有しています。このため、リソースの取り合いが性能限界を作り出してしまう可能性があります。そこで、将来のプロセッサでは、そのあたりを解決することをターゲットに置いています。将来の世代のプロセッサでは、そうしたクリティカルリソースを増やしていくことが予想できると思います。それにより、HTテクノロジに対応したCPUの性能はよりよくなるでしょう。

 今後数年間に関しては2つのことが考えられます。1つはハードウェアリソースのよりよいチューニングであり、HTテクノロジの性能は世代を経るごとに上がっていくことになるでしょう。2つめはソフトウェアベンダ様がスレッド化したアプリケーションをより増やしてくださることです。これらが相乗効果となり、より高い性能を実現してくれると考えています。

Q:次世代といえば、IntelはPrescottの導入を検討していますが、どのようなCPUになるのでしょうか?

スー氏:現段階では詳しくはお話できませんが、Prescottではいくつかの拡張を行なう予定です。先ほどもお話したとおり、プロセッサの世代が新しくなるにつれて、HTテクノロジに最適化するために、よりリソースの利用率を上げていきたいと考えています。

 Prescottではそうした拡張が行なわれることになるでしょう。と同時に、Prescottが導入される2003年の後半には、多くのスレッド化されたアプリケーションが投入されていることでしょう。このため、HTテクノロジの性能はPrescottでは改善されることになると思います。

 また、Prescottでは90nmのプロセスルールが採用されますので、より高速かつ低消費電力で、今日はまだ明らかにできませんが、いくつかの新しい機能が搭載されることになると思います。

●デスクトップでもプラットフォームの価値を高めていきたい

Q:ブランド戦略についてはどうでしょう? 今回は特に新しいブランドがつくことはないようですが?

スー氏:MMXを導入した時を思い出してください。我々は同じPentiumブランドを利用しました。そして、“with MMX Technology”(筆者注:日本では“MMXテクノロジ対応”)を後ろ(筆者注:日本では前だった)につけました。今回もそれと同じような状況で、ロゴに“HT”という文字列を追加しました。

 ブランド名をつけることは非常に難しい作業で、今回は“Pentium 4”というブランド名をより活用していこうという道をとったわけです。確かにPentium 5という名前を付けることもできましたが、それよりもPentium 4という名前を生かし、安定し、そしてさらに改善していくというイメージを顧客に提案していきたいと考えたのです。

Q:ブランド戦略についてお話をお伺いしたいんですが、我々の情報筋によればデスクトップPCでもBanias同様、プラットフォームレベルのブランドネームを導入すると説明されていますが、それはなぜですか?

スー氏:Baniasはその非常にいい例だと思いますが、HTテクノロジにも同じ話が当てはまると考えています。Intelは、全体的な価値というものは、CPUだけなくチップセットやプラットフォームデザインとの組み合わせにより生み出されると考えています。例えば、Baniasでは、モバイルに最適化されたCPU、チップセット、そしてコミュニケーション機能などが用意され、これらが相互に問題なく利用できるようにデザインされ、テストされ、バリデーションされています。これらがプラットフォームレベルでのブランド名がつけられる理由です。

 デスクトップでも同じようなことがいえると思います。先ほど、サードパーティチップセットのご質問をされましたが、HTテクノロジをサポートするには広帯域幅で低レイテンシなメモリをサポートする必要がありますし、I/Oに関しても同様です。高性能を実現するには、これらが高度に統合されている必要があるのです。我々としてはIntelのよさというものをプラットフォームレベルでも拡張していきたい、そう考えているのです。

●3GHz以下へのHTテクノロジ導入の可能性は?

 今回のスー氏の話で、最も注目したいのは、3GHz以下のPentium 4にHTテクノロジを導入するという話を否定しなかったことだ。スー氏は「多くの価格帯でHTテクノロジを導入していきたい」と述べているが、質問に対して否定的な発言はしていない。実は、これより以前に、Intelの関係者に話を聞くと、みな「3GHzより下のクロックではHTテクノロジは導入されない」と述べていたし、実際情報筋から聞こえてくるIntelのロードマップでも明確に否定されていた。

 ところが、同じ関係者に発表会の会場で同じ質問をぶつけてみると、みな一様に可能性を否定しなくなったし、前述のようにスー氏も3GHz以下の可能性を否定してはいない。これは何を意味しているのだろうか? 考えられるのは、Intelがロードマップを変更しているのではないかということだ。情報筋によれば、Intelが11月上旬にリリースする予定だった新しいロードマップの配布が、何らかの理由で突然延期になったという。だとすれば、"3GHz以下のPentium 4のもHTテクノロジ導入"という変更を行うためであったとしても何ら不思議ではない。

 現時点では確実な情報はなく、言ってみれば状況証拠だけなのだが、気になる動きであることは間違いない。今後の動きには要注目だ。

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(2002年11月18日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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