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年間5万台の再生PC
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2001年4月に改正リサイクル法が施行され、PCメーカー各社は事業系ユーザーからのPC回収を義務付けられた。2003年10月からは、対象が個人ユーザーにも拡大される。PCのリサイクルは、地味ながらもPC業界にとって重要な問題になっている。ThinkPadもそんな流れに無縁ではない。
日本アイ・ビー・エム(IBM)でリユース・リサイクル事業を手がけるのは、第2回で訪れたThinkPadの組み立てラインがある藤沢事業所内の、「リユースセンター」だ。さっそくリユースセンターの塩ノ谷さんにThinkPadが再生される現場を案内していただこう……その前に、「リユース」と「リサイクル」の違いや、PCリユースセンターの概要についてお聞きしておこう。
「私どもが手がけているリユースには、“製品リユース”と“部品リユース”があります。製品リユースは、使用済のThinkPadをテストを経て品質保証をつけた製品として生まれ変わらせることで、必要に応じて部品を交換した後、クリーニングなどをして出荷しています。また、製品としてリユースできないThinkPadはそのまま資源リサイクルにまわすのではなく、使用可能な部品(メモリー、FDDなど)があれば、部品単位でもリユースします。“リサイクル”は、資源の再利用であり、製品を分解して、鉄やプラスチックなど、もとの素材に戻して再利用することです。」。
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日本アイ・ビー・エム 藤沢事業所 |
リユースセンター担当の塩ノ谷淳一氏 |
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塩ノ谷さんの部署は、以前は「コンピュータシステムリース株式会社」という日本IBMの出資会社として'83年から中古機械販売事業を手がけ、その一環でリユース部門を有しており、'93年にIBMと合併し、リユースセンターとなった。
リユースセンターではThinkPadだけでなく、サーバー、デスクトップ、モニタ、はてはメインフレームまで扱う。取扱量は年間約5万台。うち、ThinkPadは約2万台を占める。リース終了のものが多いことから、大半は3~5年落ちの機種という。まれにPS/55noteのような非常に古いものも入ってくるが、こうしたものは資源リサイクルせざるを得ないそうだ。
リユース・リサイクルの対象となるThinkPadの回収ルートは、IBMが手がけるリース事業でリース期間が終了したもの、IBM社内で使用していたPC、事業系ユーザーへのサービス「PCリサイクル支援サービス」から来るものの3つ。販路としては、再度リースされるものと、中古再生品として業者に行くものがあるそうだ。
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厳格な再生作業
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では、リユースの作業場から見ていこう。回収されたPCはまず倉庫に入り、ここで外観と所有者をチェックされる。外観が再生不能なものがはじかれるのはわかるが、所有者のチェックとはどういうことだろう。塩ノ谷さんによれば、企業に大量にリースされていたPCを回収すると、中にはリースしていないはずの機種が混じっていたりするのだそうだ。ここでシリアルナンバーなどから、IBMがリースしたものであることを確認しておかななければ、他社のリース物件をリサイクルしてしまうこともありえるというわけだ。
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再生作業を待つThinkPadたち |
やはり再生作業を待つリース期間を終了したX20 |
ThinkPad以外にもデスクトップPCやサーバ、モニタなどを再生する |
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外観と所有者がチェックされると、まず最新のBIOSをインストールし、それから機能テストになる。テストプログラムを24時間動作させ、CPU、メモリ、HDD、ディスプレイ、キーボード、FDDなどがチェックされる。ここで異常が発見されたらパーツを交換したり、資源リサイクルされたりする。また、内部をエアガンで吹き、ホコリなどを除去する。HDDのような消耗品に関しては、使用時間とエラー率が一定基準を超えてしまったものは資源リサイクルにまわされる。ちなみに交換されるパーツも中古。新品では割に合わないのだ。
また、ここではリース後にメモリやHDD交換などの改造をされた箇所を発見し、元に戻す作業も行なわれる。たとえ当初より高性能なパーツが付いていても、元に戻すことになる。再生後のリース先でも企業で大量導入されることが多く、そうしたリース先では、管理の問題から全てのPCに同じパーツが使われていることが要求されるからだ。中には交換されたHDDが違うPCで使用されているものだったりする。そんなときはもともと搭載されていたHDDを返却してもらうそうだ。リース物件の所有権はそこまで厳格なものなのだ。
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テスト中の再生ThinkPad
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中古のパーツも再生のためには重要。きちんと分類され、保管される |
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扱うモデルが多種にわたるため、ACアダプタなども各種が用意される |
こういうものも再生される。左はサーバー、右はメインフレーム
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次にHDDのデータが消去され、新しいOSがインストールされる。HDDに何が入っていようと、HDDはフォーマットされ、入っていたOSのライセンスも廃棄され、新しいものが入れられる。一見無駄なようだが、リースあがりのPCではHDDリカバリーキットが添付されているとは限らないし、セキュリティやライセンスを明確にするためにもこのような措置がとられているのだそうだ。
メカとソフトの整備が終わると、外観がクリーニングされる。中性洗剤を使い、手作業で丁寧に液晶を拭いたり、割り箸の先に布を巻きつけて、キーの間を掃除したりする。特別な薬や機材は使われておらず、一般ユーザーでもできそうなクリーニングに見えるが、出来上がりは立派に「商品」と呼べるクオリティになっている。こうして再生されると梱包され、出荷される。
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キーボードをクリーニング中 |
クリーニングが終わったThinkPad。仔細に見れば細かな傷などで中古であることがわかるものの、パっと見では新品同様
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クリーニングの道具。どれも普通にお店で買えるものばかりで、特別な器具や薬品は見当たらなかった |
再生作業が済み、梱包を待つ |
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専用の箱に梱包される。「IBM REFURBISHED」がリユースセンターで再生された証し
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再生不可能ならリサイクルへ |
さて、再生不可能とされたPCはリサイクルに回される。もっとも、IBM内で行われるのは解体・破砕してプラスチック、金属などの素材別に分別するところまでで、鉄やプラスチックの資源レベルまで戻すのはノウハウを持つ専門業者にまかせている。
解体作業は自動化されているわけではない。作業者が1台ずつ解体していく。一見非効率だが、ThinkPad1台につき5分程度で素材別に解体されてしまう。電動ドライバーでネジ類を数本はずせば、あとは手で引きちぎるように解体できる。ThinkPadが無造作に解体される様子は、ThinkPad好きには痛ましく感じられるものだが、同時に爽快さも覚えてしまう。リサイクルの現場では、タフなことで定評のあるThinkPadのもう1つの側面「リサイクルのしやすさ」を見ることができるのだ。
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解体エリア |
電動ドライバーで手際よく解体していく |
解体を待つThinkPadたち |
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マザーボードなどの破砕機。左のコンベアからマザーボードなどを入れると、右から破砕されて出てくる |
破砕されたマザーボード |
HDDもこんな姿に |
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(2002年10月25日)
[Text by tanak-sh@impress.co.jp]
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