●“デスクトップ版Hammer遅れる”の報道で大混乱 AMDはHammer戦略を変更、来年前半はサーバー向けのSledgeHammerベースの「Opteron」を先行する。デスクトップPC向けのClawHammerベースの「Athlon xx」は来年後半にずれ込む。AMD周辺は、こんなニュースが駆けめぐって大騒ぎになっている。 この話の源は、AMDの「Financial Earnings for 3rd Quarter 2002」のカンファレンスコール。米国10月16日に開催されたこのカンファレンスコールのQ&Aセッションで、AMD幹部が次のように発言したからだ。 「市場に最初に登場する製品は、実際のところSledgeHammerダイベースのものになる」、「Bartonは来年第1四半期に登場し、我々は、これ(Barton)がパフォーマンスデスクトップとモバイル市場で非常に競争力があると考えている」、「Hammerでもっともフォーカスするのは、サーバー&ワークステーションスペースになる。(Hammerが)ボリュームデスクトップでプレーヤーとなるのは、来年後半のどこかの時点になる」 当然、蜂の巣をつついたような騒ぎになるわけだ。先週開かれたMicroprocessor Forum(MPF)のセミナーでも、これが大きな話題になった。それは、デスクトップ版Hammerの実質的な遅れを意味するからだ。 これまでAMDは、Hammerはデスクトップ向けのClawHammerコアの製品が先に出て、次にサーバー&ワークステーション向けのSledgeHammerというスケジュールになると説明していた(注:OpteronにはSledgeHammerとClawHammerの両方のコアがある)。そして、デスクトップ版はちょっと前に今年第4四半期から、来年第1四半期へとずれ込んだばかりだった。それが、いきなり来年後半のいつか、という話になったのだから騒ぎ出すのも当然だ。 ただし、米AMD社はこれに対してすぐに“訂正”を出している。米AMDの広報によると「HammerファミリCPUの導入スケジュールに変更はない。Hammerベースのデスクトップ版Athlonのシステムは、来年の第1四半期の遅くか第2四半期の早期に、登場すると考えている」、「また、Opteronも、サーバー&ワークステーション市場向けに来年前半に登場する。AMDはHammerファミリの戦略では、現在、サーバーにフォーカスしている」 つまり、簡単に言うと、AMDはHammerでは現在サーバーにフォーカスしており、それを強調するあまり、カンファレンスコールではああいう言い方になってしまった。だが、スケジュール自体には変更はないと、そういうわけだ。暗に、カンファレンスコールでは言い間違えたことを示唆しているようだ。
●台湾でもClawHammerは話題に なかなか苦しい説明だが、これはある意味では真実だろう。まず、AMDは、おそらくデスクトップ向けHammerも来年Q1に出さないわけにはいかない。もし、この状態で出さなかったら、チップセットやマザーボードベンダからHammerが総スカンを食らうのは確実だからだ。インフラベンダの支持が不可欠な今のAMDにとって、そういう選択肢はなかなか取りにくい。 デスクトップ版ClawHammerについては、10月8~9日に台北で開催されたVIA Technologiesの開発者向けカンファレンス「VIA Technology Forum(VTF)」でも話題になった。その時点では、台湾のマザーボードベンダ関係者は、AMDは来年第1四半期にClawHammerを出すと通知してきたと言っていた。 ただし、複数の関係者が、最初に出荷されるHammerの数量は非常に限られていると聞いたと語っていた。ある関係者はその数量はワールドワイドで4,000個程度(!)だと聞いたと言っており、別な関係者も似たような数字だと示唆した。もちろん、AMDはこの数字は否定しているし、1ソースだけからの数字が正確かどうかはわからない。第1四半期の終わりに登場するHammerの最初の出荷量がかなり限られているというのは、台湾ではすでに周知の事実となっていたようだ。つまり、今回の話が出る前から、じつはデスクトップ版ClawHammerが市場に本格的に浸透するのは、来年中盤と思われていたのだ。 もっとも、新アーキテクチャのCPUが、いきなりドンと登場して、一気に浸透することを期待する方が間違いだ。Intelが、最初から比較的多数のCPUを繰り出してこれるのは、それだけ助走期間を取って準備をしているからだ。それだけの余裕がないAMDに、そうした細工は難しい。AMDのMark Bode(マーク・ボーディ)氏(Dvision Marketing Manager, Desktop Product Marketing, Computation Products Group)も次のように説明している。 「Hammerへの移行は、ハイパフォーマンスシステムから始まり、徐々に下の価格ポイントへと移行する」、「今までの新CPUの場合と同じで、それが自然な流れだ。今回の場合では、まずBartonが浸透し、それからHammerが浸透する」、「CPUだけでなく、インフラもあり、全てが一夜で移行できるわけではない」 Hammerがデスクトップに登場しても、下のラインナップまで浸透するにはしばらくかかるだろう。 ●SledgeHammerが先かClawHammerが先か もちろん、カンファレンスコールでの回答の通りにClawHammerが遅れる可能性ももちろんある。しかし、その場合もHammerのシリコンに問題があって出せないというわけでもなさそうだ。少なくとも、MPFではAMDは2GHzで試作チップは動いていると言っていた。まだ市場に出せない問題を抱えている場合もありうるが、おそらく今回は違う。というのは、問題になっているのは、Hammer自体が遅れるというのではなく、デスクトップを優先するか、サーバーを優先するかという話だからだ。 ここへ来て明白になってきたのは、AMDはHammerではサーバーにフォーカスしていることだ。デスクトップ版を先に出す出さないは別として、これについては、AMDも明言している。だから、サーバーで余程の成功が見込めて、AMDとしてはなんとしてもサーバーに注力したいとなれば、カンファレンスコールの答えのように、ClawHammerコアを後回しにして、SledgeHammerコアを先に持ってくる可能性もある。2つのコアのバリデーションを同時に行なうのは負担だからだ(通常AMDは、1四半期に1CPUコア以上を出さない)。 難しいのは、ClawHammerコアならデスクトップとローエンドサーバーをカバーできるが、本格的なデュアルやマルチプロセッサのサーバーにはSledgeHammerが必要だということ。そして、ClawHammerよりSledgeHammerの方がコストが高く、売るときも高く売らなければならないこと。また、ClawHammerとSledgeHammerではピン配列が異なる。そのため、AMDがどこまでサーバーに注力するかで、今後の展開は変わってくる。 じつは、CPUメーカーにとって、CPUをサーバー&ワークステーションに売ろうとするのは、当然の話だ。同じ売るなら、どうやっても高い値段をつけられないPCより、高く売れるサーバー&ワークステーションの方がいいに決まっている。特に、新アーキテクチャのCPUの場合は、性能的にも高いラインを狙えるので、高付加価値で売りたい。また、新CPUを先にサーバー&ワークステーションへ持ってきて、そこからPC市場に降ろすならCPUのイメージも上がる。 Hammerのように、ライバルに対して明確なアドバンテージを持てるならなおさらだ。もし、Hammerが4way以上の市場に入れるなら、Xeon MPに対しては性能、価格、64bitソリューションと、あらゆる面で利点を持てる。デュアルプロセッサでも、かなり利点は多い。
●ここ数カ月で変わったAMDのHammer戦略 じゃあ、なぜ最初からHammerはサーバー重視にしなかったのか。そもそも、AMDは最初からHammerではサーバーと言っていたと指摘する人もいるかもしれない。しかし、よく点検してみると、数カ月前までと今では、AMDのスタンスは大きく違っている。 以前は、AMDはHammerではサーバー&ワークステーションだと言いながらも、でも立ち上げはデスクトップだよねと言っていた。つまり、サーバーはタテマエで、本音はデスクトップだった。理由は簡単で、デスクトップなら、必ずデマンド(需要)があるからで、サーバーだとデマンドが見えないからだ。AMDはPCではコーポレート市場へも浸透してきているが、まだサーバーではそれほど実績がない。AMDはあると主張するが、正直な話、まだ浸透し始めたばかりだ。 だから、まずデマンドが確実なデスクトップへClawHammerを入れて、Hammer自体を立ち上げ、それから次へ移ろうとしていた。おそらく、ClawHammerでローエンドのデュアルプロセッササーバーへも足がかりをつくり、それからSledgeHammerでより上のクラスのデュアルプロセッササーバーや4Way以上のサーバーへも浸透させようとしていたと思う。これは、AMDの立場を考えればロジカルな展開だった。 だが、今はAMDは力強く、Hammerはサーバーフォーカスだと言っている。勢い余ってか、SledgeHammerが先でClawHammerは来年後半だと言ってしまうほどに。何がAMDに起こったのだろう。サーバーにそんなに自信を持てるのはなぜだろう。それも、カンファレンスコールから推測すると、ClawHammerベースのエントリレベルシステムではなく、より高価格なSledgeHammerベースのサーバーに注力するほどに……。 唯一考えられる論理的な回答は、OEMが決まったということだ。つまり、大手OEMで、SledgeHammerベースで64bit Linuxで、64bit RDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)を載せるソリューションをやろうというところが、どこかにあるという可能性だ。ちなみに、現在Hammerのx86-64アーキテクチャに移植されている大手のRDBMSは、IBMのDB2だ。 もちろん、これは推測に過ぎないが、もしそうだとすれば、これはAMDという企業にとっては最良の展開になる。再び、CPUメーカーにとっての指標である高ASP(平均販売価格)を高め、競争力を維持することが容易になる。というのは、Intelの競争力の源は、XeonやPentiumの高価格帯など、高付加価値のチップだからだ。しかし、AMDがそれだけ確固とした見通しがなくサーバーに注力しているとしたら、それは大きな賭けに出たということになる。
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(2002年10月21日) [Reported by 後藤 弘茂]
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