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IntelがまたBaniasのベールを1枚はがした




●Baniasシステムはこうなる

次期モバイルCPU「Banias」がリーダーシップを担う
 10月15日(現地時間)から米サンノゼで開催されている「Microprocessor Forum(MPF) 2002」で、Intelは次期モバイルCPU「Banias(バニアス)」について、またいくつかの技術情報を明らかにした。ただし、期待されたようなユニットの構成やパイプラインといった、全体像が明らかになる発表はなかった。どうやら、Intelは、タマネギのように、Baniasのベールを1枚づつ、じらしながらはがしてゆくつもりらしい。

 今回のMPFでは、1カ月前のIntel Developer Forum(IDF)のときよりも詳細なBaniasプラットフォームのブロック図が公開された。これからわかるのは次のような点だ。

・Baniasの平均消費電力は1W以下
・BaniasのFSB(フロントサイドバス)は400MHz
・Banias用ボルテージレギュレータは新規格「IMVP IV」

 BaniasのFSBは、Pentium 4バスと基本プロトコルは共通だが、低電圧化され、さらに省電力のための新機能が加わっていると言われる。ただし、まだ詳細は明らかになっていない。

Baniasのブロック図


●Baniasは多段階で電圧&周波数を切り替え

IMVPと呼ばれるボルテージレギュレータの規格も策定
 今回のMPFでは、Baniasの省電力制御が従来のIntelの「SpeedStep」を拡張したものになることが公式に明らかにされた。SpeedStepは2段階でのCPU電圧&周波数の切り替えしかサポートしていなかったが、Baniasでは多段階のオンデマンドのCPU電圧&周波数切り替えがサポートされる。つまり、TransmetaやAMDと同じタイプの制御を行なうようになる。

 これは以前のコラム“Baniasは新省電力機能「Geyserville-III」を搭載”でレポートした通り。業界関係者によると「Geyserville-III(ガイザービル・スリー)」と呼ばれているという。多段階のオンデマンド電圧&周波数切り替えは、マルチメディア系アプリケーションの実行で多大な効果がある。ただし、オフィスアプリケーションなどでは、それほど影響がない。Intelは、こうしたBaniasの複雑な電圧制御のために「IMVP IV(Intel Mobile Voltage Positioning)」と呼ばれるボルテージレギュレータの規格も策定した。

IntelのMooly Eden氏
 また、BaniasではCPU内部で省電力制御を行なうだけでなく、専用に開発されたチップセット「Odem(オデム)」など他のコンポーネントも連携して省電力制御を行なうことも明らかにされた。IntelのMooly Eden氏(General Manager, Israel Design Center)によると、次の例のようなBaniasの制御をOdemが行なうという。

「Baniasがsleepモードに入っているときも、Odemは様々な状況を監視している。例えば、Odemがメインメモリにアクセスしていたとする。Odemは、メモリを監視していて、メモリからデータがロードされて来る直前になったら、Baniasのインプットバッファをオンにする。そうすると、Baniasはメモリアクセスの間、バッファをクローズしておくことができるわけだ」。

 Eden氏によると、Baniasの省電力制御は、このように他のデバイスと連携しているという。そのため、Eden氏は「Baniasは単一の製品ではなく、チップセットやボルテージレギュレータと密接に結びついたBaniasプラットフォームだ」と説明する。


●90nm版Baniasの存在も明言

90nmプロセス版のBaniasの存在も明らかに
 Baniasの動作電圧範囲も、公式に明らかにされた。Eden氏によると、BaniasはフルサイズやT&L(Thin & Light)ノートPC向けでは1.45V程度の電圧で動作。最小では0.85V程度で動作するという。おそらく、超低電圧(ULV)版Baniasのバッテリ駆動時の最低電圧が0.85V程度になると見られる。

 また、Eden氏はBaniasの90nmプロセス版が2003年後半に登場することを、公式にプレゼンテーションで明らかにした。これも、以前のコラム“Intel、Banias後継の第2世代モバイルCPU「Dothan」を来年後半に投入”でレポートした通りだ。業界筋の情報によると、この90nm版Baniasは「Dothan(ドーサン/ドタン)」と呼ばれており、来年の第4四半期に1.8GHzで登場するという。

 Baniasは大容量のL2キャッシュ(業界筋によると1MB)を備える。これは、メモリアクセスを最小限に押さえて、その結果消費電力を低減するためだ。しかし、キャッシュSRAMの消費電力も、論理回路より小さいとはいえばかにはできない。そこで、BaniasではL2キャッシュSRAMの電力消費を押さえる様々な工夫がされている。

8wayセットアソシアティブ構成のBaniasのL2キャッシュ
 例えば、BaniasのL2キャッシュは8wayセットアソシアティブ構成だが、SRAMアクセスの際に、それぞれのwayのうち1/4だけをアクティベイトしてアクセスすることができる。右の図のような構成になる。つまり、L2キャッシュSRAMアレイのうち、1/32だけをアクティブにすればいいわけで、駆動消費電力を抑えることができる。

 ただし、この方法ではL2キャッシュのリーク電流を抑えることはできない。そこで、リーク電流は回路設計などを工夫して、通常のL2キャッシュより大幅に減らしたという。Baniasの場合、L2キャッシュが巨大なのでこれだけで1W以上の節電ができたという。

 また、Eden氏によると、BaniasはL1キャッシュも従来のIntel CPUに比べて大きくなっているという。

キャッシュのデザイン図 従来のCPUと比べ、より大きなL2キャッシュが搭載されるという


●Baniasの高度な分岐予測機構

予測精度を20%向上させたという3段階の分岐予測アルゴリズム
 今のPC向けCPUは、性能を上げるために、条件分岐命令の条件確定を待たずに処理を行なう投機実行を行なう。分岐の方向を予測して実行するわけだが、予測が外れた場合にはムダが生じて、消費電力を押し上げてしまう。Baniasでは、この投機実行のムダを省くために、分岐予測をこれまで以上に強化する。

 分岐予測ではBaniasは3つのダイナミック分岐予測アルゴリズムを組み合わせる。

・バイモダルプレディクタ(Bimodal Predictor)
・ローカルプレディクタ(Local Predictor)
・グローバルプレディクタ(Global Predictor)

 バイモダルプレディクタは比較的シンプルな2ビットプレディクタ。標準的なStrongly Taken/Weakly Taken/Weakly Not Taken/Strongly Not Takenの4ステイトで予測をするようだ。これは、ほとんどのCPUで取り入れられている。

 それに対して、ローカルプレディクタは、より複雑な分岐を予測し、特にループの検知にフォーカスしているという。これは、ループの反復の回数を、専用のカウンタで数えることで実現する。例えば、あるループで条件分岐が9回までは成立してループを回すが、10回目には分岐が成立せずにループから抜けたとする。その場合、同じループが実行されたときは、カウンタを参照して前回の反復回数分を「taken」にし、10回目を「not taken」にする。通常の分岐予測では、この場合10回目も「taken」と予測するため、必ず予測ミスが生じてしまう。しかし、Baniasの場合には、1回実行したループなら、予測ミスが発生しない。

 これに、さらにより広域の予測をするグローバルプレディクタでの予測結果を加えて分岐を予測する。Baniasはこのように3段階の分岐予測アルゴリズムを備え、その結果、予測精度を20%向上させているという。

 ただし、最近のCPUはいずれも分岐予測を強化する方向にある。例えば、今回公開されたVIAのNehemiah(C5XL)も、シンプルな構成には不釣り合いなほど分岐予測を強化したCPUだ。また、AMDのHammerも分岐予測可能な範囲を大きく広げて、プログラムサイズの大きな場合の予測精度を上げている。こうして見ると、現在のCPUのトレンドは分岐予測の強化にあることがよくわかる。


●まだ謎のパイプライン段数

 今回、IntelはBaniasのパイプライン段数を明らかにしなかった。しかし、Eden氏は次のように示唆する。「Baniasは十分なパフォーマンスを得られるだけのパイプ段数を持っているが、電力を消費しすぎるほど多くはない」。

 パイプライン段数は、多ければCPUの動作周波数を上げやすくなる。しかし、その反面、分岐予測をミスしたときのペナルティが大きくなり、ムダな電力消費が増えてしまう。Baniasでは、予測精度を上げた分、Pentium III(10段)よりパイプを深くしてもロスは少ないと見られる。しかし、Pentium 4(20段)ほどパイプを深くしてしまうと、モバイルに適した消費電力は得られないだろう。そこから推測できるのは、BaniasはPentium IIIより多いが、Pentium 4よりは少ない。おそらく、ローティーン程度の段数ではないだろうかと推測される。

□関連記事
【7月29日】Intel、Banias後継の第2世代モバイルCPU「Dothan」を来年後半に投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0729/kaigai01.htm
【5月30日】Baniasは新省電力機能「Geyserville-III」を搭載
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0530/kaigai01.htm

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(2002年10月17日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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