●Baniasの電圧関連のスペックが明らかに
Intelの次世代モバイルCPU「Banias(バニアス)」の省電力機能や駆動電圧(Vcc)などが見えてきた。
Baniasは「Geyserville-III(ガイザービルIII)」と呼ばれる新しい省電力機能を搭載する。業界関係者によると、Geyserville-IIIは、従来のSpeedStep(Geyserville-II)とは電圧&周波数の制御を大きく変え、多段階のCPU電圧&周波数のダイナミックな切り替えをサポートするらしい。また、Geyserville-IIIの制御は、SpeedStepとは異なりOSやアプレットのサポートを必要としないという。
また、Baniasのバッテリ駆動時の電圧は0.85Vと、従来のIntel CPUの駆動電圧を大きく下回る。しかも、0.85V時ですら600MHzの高クロックで動作できる。ただし、最高クロックの1.7GHz時の電圧は1.35Vと比較的高めになっている。そのため、0.13μm版のBaniasは、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)を抑えたままで動作周波数を上げるのは難しく、2GHz版は90nm(0.09μm)の「Banias II」になると見られる。
一方、Pentium 4-MはTDPをますます引き上げる。Intelは来年のPentium 4-MのTDPが35W程度になるとOEMメーカーに示唆していたが、秋には早くも35W TDPの2.1GHz版が登場する。つまり、24.5W TDPで登場するBaniasとは、10WのTDP差が開くことになる。
●Geyservilleは3世代目で大きく進化
Baniasに搭載するGeyserville-IIIで、Intelは初めて多段階のCPU電圧&周波数のダイナミックな切り替えをサポートする。「2段階でしか切り替えられないSpeedStepと異なり、Baniasでは多ステップで周波数と電圧を切り替えられるようになる。AMDのPowerNOW!やTransmetaのLongRunと同じだ」とある関係者は語る。
Intelは、これまで一般的なアプリケーションでは、2段階の切り替えで十分として、最高クロック&最高電圧と最低クロック&最低電圧の2ステップの切り替えだけをサポートしてきた。しかし、Geyserville-IIIでは、中程度のクロックと電圧のステップを数段階設け、CPUの負荷に応じて動的に切り替えられるようにする。これにより、最低クロックの600MHzではCPUパワーが足りないが、最高クロックの1.6GHzではCPUパワーが余ってしまうという時に、1GHzでCPUを駆動することで消費電力をより抑えることができるようになる。こうした制御は、特に中程度のCPUパフォーマンスが継続的に必要となる動画再生など、マルチメディアアプリケーションで威力を発揮する。
さらに、Geyserville-IIIではSpeedStepとは異なり、CPU自体が負荷状況をモニターして、自動的に周波数&電圧を切り替えるらしい。つまり、ソフトウェア側からは自動的に省電力制御が行なわれているように見えるため、どのOSでもGeyserville-IIIを利用できるようだ。
●電圧に対する動作周波数が高いBanias
IntelモバイルCPU電圧&周波数 |
興味深いのはBaniasの電源電圧のスペックだ。あるOEMによると、通常電圧版Baniasの通常電圧版は1.7GHz/1.35V~600MHz/0.85Vの間だという。高クロック時の1.35Vというスペックは、Pentium III-M(Tualatin:テュアラティン)の1.4Vより低いものの、Pentium 4-Mの1.3Vよりは高い。Pentium 4-Mの方が電圧が低いのは、Pentium 4-Mがデスクトップ版Pentium 4から低電圧駆動のダイ(半導体本体)を選別したチップであるためと見られる。つまり、Pentium 4-Mは実質的にPentium 4の低電圧(LV)版なのだ。
Baniasの電圧スペックを、他のIntel CPUと比較したのが右のチャートだ。いずれも0.13μmプロセス世代のCPUとなっている。矢印の右上が、最高クロック時、左下が最低クロック時を示す。横軸が電圧で右に行けば行くほど電圧が高くなる、縦軸が周波数で上に行けば行くほど高クロックになる。
このチャートを見ると明確にわかる通り、同じ電圧ならBaniasの方がPentium III-Mより動作周波数が高くなる。これは、BaniasがPentium III-Mより高クロック化が容易なアーキテクチャであることを示している。しかし、より電圧の低いPentium 4-Mにクロックでは負けることから、BaniasがPentium 4-Mのような高クロック化に偏った設計ではないことも明確にわかる。
電圧に対する周波数の利点は、LV(低電圧)版とULV(超低電圧)版でも同じだ。Pentium III-MとBaniasを比較すると、LV版とULV版ではクロックでのBaniasの利点はそれほど大きくないように見える。しかし、Banias LVは実際にはこれまでのULV版の電圧、Banias ULV版は従来のULV版のバッテリモード時の電圧に近い。つまり、一段低い電圧で、従来と同などかそれ以上のクロックを実現している。
また、このチャートを見ると、Baniasの低電圧化が際だっていることがわかる。Pentium III-Mでは1Vを切るのに苦労し、しかも0.95V時には400MHzしか出せなかった。ところが、Baniasは0.85Vで600MHzを達成する予定になっている。つまり、チャートの右上ではBaniasとPentium III-Mのクロック/電圧の差はそれほど大きくはないが、左下へ行くほどBaniasとPentium III-Mの差が開く形となっている。これは、Baniasでは低電圧時の高クロック駆動のために、かなりの工夫がこらされている可能性を示唆している。
この差はバッテリ駆動時のパフォーマンスに明確に反映される。Baniasは最低クロックに固定しておいたとしても600MHzで、しかも消費電力は小さい。しかも、クロック当たりのパフォーマンスはPentium III-Mより高い。つまり、Baniasは特にモバイル利用時に、パフォーマンス/消費電力が非常にいいプロセッサだということだ。
●Pentium 4-Mノートは35Wに
電圧はTDPに二乗で効いてくる。そのため、Intelとしてはできる限り電圧を引き下げたい。にもかかわらずBaniasを1.35Vに設定しているのは、その電圧でないと、1.6/1.7GHzといった高クロック品が十分な歩留まりで採れないためと見られる。電圧を上げると、より高クロックで駆動させやすくなるからだ。これは、Baniasを、比較的低いTDPにとどめようとする限り、Baniasの高クロック化がやや難しいことを意味する。
ただし、Intelは90nm版Baniasを来年後半に投入するようだ。ある業界関係者は、この第2世代Baniasを“Banias II”と呼んでいた。これが正式なIntelのコードネームかどうかはわからないが、いずれにせよ90nm版Baniasでさらにクロックの向上を図ると思われる。
IntelモバイルCPU TDPロードマップ |
次にTDPを見てみよう。BaniasのTDPは、右のTDPロードマップのようになっている。
通常電圧版が24.5W、LV版が12W、ULV版が7Wをターゲットとしている。Intelは、以前からLV版とULV版に関しては、12Wと7Wという熱設計枠(Thermal Envelop)を維持すると言っており、今回もその公約を守る姿勢を示している。通常電圧版については、Pentium 4-Mより10W程度低いTDPと言っており、これも約束通りの予定だ。
一方、Pentium 4-MはさらにTDPを35Wに上げる。Celeronが30Wラインで、A4オールインワンノートと30mm前後のT&L(薄型軽量)ノートは、30~35WのTDPが今年後半から当たり前となる。すでに、台湾ベンダーの中には、40W TDPのモデルを作り、デスクトップ版Pentium 4を搭載しているメーカーもある。ここだけを見ていると、TDPは依然として上昇し続けるように見える。しかし、Intelは2003年からはBaniasに注力し始めるため、上がり続きだったTDPも、ようやく沈静化する可能性がある。
(2002年5月30日)
[Reported by 後藤 弘茂]