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スクープ! Intelが新アーキテクチャのCPU「Nehalem」を2004年に投入


●Intelが自社のWebサイトでNehalemの存在を公開

 Intelは、新アーキテクチャのCPU「Nehalem(ネハレム)」を開発していることを明らかにした。Nehalemは、Pentium 4系の後継となるデスクトップPC向けCPUで、2004年投入見込み。Nehalemは、Pentium 4の拡張版である次世代CPU「Prescott(プレスコット)」や次々世代CPU「Tejas(テージャス/テハス)」とは異なり、完全に新しいアーキテクチャになる。しかし、リードアーキテクトはPentium 4(Willamette:ウイラメット)のアーキテクトの一人Doug Carmean氏であるため、Pentium 4系の基本的な方向性は継続されると見られる。

 Nehalemプロジェクトの存在は、IntelのWebサイトで公開している社内の開発者へのインタビュー「Oral History Interview With Doug Carmean」で明らかにされた。社内インタビューを受けたDoug Carmean氏は、Nehalemのアーキテクチャチームを率いており、昨年(2001年)をNehalemのアーキテクチャ定義に費やしたと説明している。Nehalemは“Pentium 8”に当たる世代で、2004年に予定されているという。また、設計は、ゼロから新規に始められている(from scratch approach)と語っている。

 ちなみに、Nehalemは、Carmean氏が所属するIntelのIA-32プロセッサ開発部隊があるオレゴン州ヒルズボロの近くの地名(Intelのコードネームは地名)。スペルからすると日本語では“ネハレム”と表記するのが一般的と思われるので、今回のコラムではそうした。ただし、英語を専門にするライターによると、最後のmは有声だが母音はなく最後に口を閉じてしまうため、日本人が聞くと「ネハレ」または「ネハレン」と聞こえるだろうという。


●予想されるNehalemの姿

 Intelが公開したCarmean氏のインタビュー記事では、具体的なNehalemの内容については明らかにされていない。しかし、これによりIntelの2004年までのデスクトップCPU戦略の全体像が見えてきた。これまでのパターンから、IntelのCPUのダイサイズやトランジスタ数、そして機能拡張の方向性が推測できるからだ。

 まず、Nehalemのアーキテクチャの拡張の焦点は、Hyper-Threadingにより同時並列で処理できるスレッド数の拡張になることは確実だ。もちろん、それに対応したCPUのリソースの拡張が必要になる。また、Intelのセキュリティアーキテクチャ「LaGrande(ラグランド)」のためのCPUアーキテクチャ拡張も、Nehalemの世代では確実に加わると見られる。

 このほか、Nehalemでは「Yamhill(ヤムヒル)」というコードネームでウワサされている、IA-32のアドレッシング機能の拡張も加わると想定される。ただし、Yamhillは、フラットな64bitアドレス空間を提供するものではない可能性が高い。推定されるNehalemのアーキテクチャについては、次回のコラムで説明したい。

 Nehalemのトランジスタ数は、ムーアの法則に従えば90nm版で約1億5,000万~2億程度と推定される。クロックは、Pentium 4のNetBurstアーキテクチャを継承拡張するとしたら、65nm版で7~8GHzのレンジに達すると見られる。

【図:CPUトランジスタ】


●PrescottからTejasを経てNehalemへ

 Nehalemまでの全体のロードマップは次のようになると推定される。まず、Intelは来年後半にPrescottを投入する。これは、0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)を、90nm(0.09μm)プロセスに移行させ、比較的小規模な拡張を行なったCPUになる。2004年にはさらにPentium 4の機能を拡張したTejasを投入するようだ。そして、2004年中に、さらにアーキテクチャを一新したNehalemを投入するという2段構えのパターンになると推測される。

 つまり、NehalemはWillametteから数えて4世代目(Northwood→Prescott→Tejas→Nehalem)のCPUになるわけで、“Pentium 8”に当たる計算になる。また、2005年後半から2006年にかけては、TejasとNehalemの65nm版も投入されると見られる。推定されるロードマップを整理すると下のようになる。

2003 2H(後半) 2004 1H(前半) 2004 2H(後半) 2005後半以降
Prescott Tejas Nehalem Tejas 65nm版
Nehalem 65nm版
Pentium 4の90nm移行
&機能拡張版
Pentium 4の大幅な
機能拡張版
新アーキテクチャ  

【図:CPU移行図】


●Pentium 4系の派生CPUと推定されるTejas

 このロードマップはあくまでも推定で、実際には大きく異なる可能性もある。しかし、根拠はある。

 まず、Prescottの機能拡張が比較的小規模なものであることは、Carmean氏のインタビューからも推測できる。PrescottもCarmean氏の担当だったようで、同氏はWillametteが終わったあと、Prescottに1~2四半期だけ関わったことを明らかにしている。Carmean氏の説明によると、Prescottに対して行なったのは、多少のパフォーマンス拡張(some performance enhancements)と、次世代プロセス技術(90nm)への移植だったという。

 アーキテクトが1~2四半期しか関わらなかったとすると、Prescottの拡張はそれほど大規模なものではありえない。おそらく、Prescottは、Northwoodを90nmに移行させ、L2キャッシュを倍増させ、Hyper-Threadingに対して多少の最適化を行なった程度のコアになるだろう。ちなみに、Carmean氏のインタビューから、Prescottのアーキテクチャ開発は2000年中だったと推定される。

 次の、Tejasについては、Pentium 4の拡張アーキテクチャで、90nmプロセスであることが、複数の業界筋から伝えられている。Nehalemも2004年をターゲットにしていることを考えると、90nmプロセスで登場すると見られる。同じ90nmプロセスで、複数の新アーキテクチャがあるとは考えられない。そのため、TejasはPentium 4の派生品(derivative)になると想定される。

 同じパターンは過去にもあった。例えば、Pentium系ではPentium(P5系)からMMX Pentium(P55C系)が派生した。同様に、Pentium Pro(P6)からはPentium II(Klamath)が、Pentium II(Deschutes)からはPentium III(Katmai)が派生した。つまり、各世代のコアアーキテクチャで、1~2回の派生CPU系列が誕生するのが、過去10年のパターンなのだ。


●4年サイクルで新アーキテクチャCPUコアが登場

 Pentium 4の派生と推定されるTejasに対して、Nehalemは完全に新アーキテクチャとなる。それは、Carmean氏のインタビューだけでなく、IntelのCPUサイクルからも容易に推測できる。

 Intelは、現在、メインストリームのIA-32 CPUのコアアーキテクチャを、4年に1回リフレッシュする戦略を採っていると見られる。これは、4年がIntelのCPU開発の通常のサイクルだからだ。つまり、Intelのオレゴンの開発チームは、1世代のCPU開発が終了すると、次の世代のCPUアーキテクチャ開発に入っていることを意味する。

 Carmean氏のインタビュー記事によると、Willametteのアーキテクチャに取りかかったのは6年前、そしてNehalemのアーキテクチャ定義を行なったのが去年だったという。このことからも、約4年のサイクルであることが裏付けられる。つまり、アーキテクチャチームはWillametteがテープアウト(設計終了)すると、派生品(Prescottなど)の開発をしばらく担当し、その後で次の世代のアーキテクチャに取りかかるというペースでいるようだ。

 Nehalemは2004年が予定されていることから90nmで製造されると推定される。Intelは、通常、新アーキテクチャのCPUをプロセス世代の後半で投入する。新しいプロセスには、古い世代のアーキテクチャのCPUを最初に載せる。例えば、Willametteは0.18μmの後半で投入され、0.13μmに先に載せられたのはPentium III系アーキテクチャの方だった。

 これには明快な理由がある。まず、新プロセスは立ち上がり時期は歩留まりが悪いため、ダイサイズ(半導体本体の面積)の大きなチップは採算性が悪い。また、問題が発生した場合、CPUの設計側に問題があるのかプロセス側に問題にあるのかを検証しにくい。それから、Intelの場合、新アーキテクチャCPUはかなり早めにサンプルを出し、長い場合には1年程度をかけて検証を行なう。そのためには、現行のプロセス技術を使わなければならない。逆を言えば、Nehalemのサンプルは、来年の後半にはもう完成することになる。

 また、このIntel CPUの移行は、最近のIntelのCPUコアの移行パターンを見ても予測できる。Intelは、Pentium以降、CPUコアにマイナーチェンジを加えて1~2世代延命する方式を採っているからだ。下の図がそれだ。この図についても、次回のコラムで説明したい。

【図:ダイサイズ移行図】

□Intelの社内インタビューのページ(英文)
http://www.intel.com/intel/intelis/museum/arc_collect/dougcarmean.htm


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(2002年9月30日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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