第168回:メール限定の低価格PHSパケット通信サービス、U-mailを試す |
しかし意外にER-4Sのユーザーは多いようで、読者からのメールで何通も推薦メールが届いた。日本で輸入販売を行なっているAedio( http://www.aedio.co.jp/ )で試聴を行ない、購入してみたのでそのレポートを番外編として明日掲載することにした。興味のある方はご覧いただきたい。
U-mail(PCカードタイプ) |
その代わりにU-mailではメール送受信に必要となるPOP、SMTP、IMAPが利用するポートとテキストデータに対するHTTPアクセスしかサポートされず、またパケット通信の帯域は32kbpsまでとなっている。同社の厚意でU-mailを先行して試す機会を得られたので、短期間の試用ではあるが、その使用感と同種サービスの可能性などについて触れたい。
●意外に使える? それとも使えない? U-mailの価格/サービス比
メール専用サービスのU-mailは、メールプロトコル使い放題、Webブラウズはテキストのみで、それ以外のいっさいのプロトコルを利用できない(利用が保証されない)という製品である。Webブラウジングはプロキシサーバーを経由し、そこでアクセス可能な対象が選別されるようになっている。
たとえばJPEG画像などはクライアント側のWebブラウザが取得リクエストすると、プロキシサーバーがアクセスできない旨を返答する。このため、キャッシュに溜まっている画像以外はページ上に表示されない(キャッシュ上に残っているファイルでも、ページ内での貼り付けられ方によっては表示されないようだ)。いずれにしろ、保証されるのはテキストデータのみ。32kbpsという速度の遅さも、メール限定ならば(巨大な添付ファイル付きメールは別として)不便を感じることはない。またメールアクセラレータのVenusも利用可能だ。
テキストのみのWebブラウズをサポートしたのは、Webメールサービスに対応するためとのことだが、メールによるコミュニケーションとともにニュースのチェックなど、テキストベースの情報で済む用途をこなせるのは有り難い。なお、Webブラウジングで利用するプロキシサーバーは、圧縮転送機能をサポートしていない。テキスト限定ながらWebが使えるなら、あれもこれもと欲が出るところだが、日本通信側は「あくまでもメールだけに特化したサービスにこだわりたい」という。
このため、FTPなどはもちろん、インスタントメッセージクライアントなどトラフィックが少ないアプリケーションもサポートする予定はないという。発売前の現段階ではWindows Messengerでテキストメッセージを送受信することは可能だが、将来的にはポートが塞がれ、利用できなくなる可能性はある。
日本通信によると、許可するアプリケーションのポートを開けるのではなく、許可していないアプリケーションのポートを塞ぐことで対処しているとのことなので、ほかにも利用できるアプリケーションはあるかもしれない。しかし、利用状況に応じて塞ぐ必要があると判断されたポートは、後々塞がれる可能性があると考えたほうがいいだろう。U-mailで利用が保証されるのは、あくまでもメールプロトコルとテキストWebブラウズのみでしかないのだから。
実際に、数日間U-mailを利用してみたが、PDAなど小型携帯端末のための通信サービスとしては、コストパフォーマンスに優れた製品だと言える。用途の多くがメールで、外出時専用と割り切って使いたいユーザーには魅力的な製品だ。ノートPCで利用する場合も、仕事がらみのコミュニケーションと情報チェックが中心の人には向いている。
ただ、そうした比較的ライトなユーザーが、回線交換のPIAFS 64kbpsと比べて良いと考えるかどうかは疑問の残るところだろう。特にPDAの場合は消費電力の問題もあるため、長時間、繋ぎっぱなしでアクセスするとは考えにくい。
時間を気にせず、常時接続の感覚でメールの送受信を(外出先で)行なうことに魅力を感じるかどうかが、U-mailの価値判断を行なうときの重要なポイントと言えそうだ。
●ターゲットと商品性
個人的に非常に惜しいと思うのは、U-mailがサービスを限定する、すなわち“商品内容をよく理解して買わなければならない”製品にも関わらず、そのターゲットの中心をライトユーザーに置いている点だ。機能限定の商品は、どちらかといえばその分野に詳しい人に対しての方が売りやすい。顧客自身が割り切るポイントを見極めてくれるからだ。この点で、日本通信は多少の苦労を強いられるかもしれない。
また1年間の売り切りサービスであるため、一度購入するとメール限定サービスを1年間使い続けねばならないのもネックだ。購入後に、やはりフル機能が使いたいと思っても、アップグレードのパスは用意されていない。このあたりもライトユーザーが購入する際の懸念事項になるのではないだろうか。
技術的には認証サーバーに保管されている端末IDを移動させるだけで対処できるそうだが、アップグレードを受けるには、日本通信側でアップグレードサービスの直販を行なう体制など、インフラ面の整備を行なわなければならない。このあたりの仕組みをあらかじめ用意することができないというのが、その理由のようだ。
将来的には対処できる可能性もあるため、今後、アップグレードパスを用意する方向で検討して欲しい。このパスがあるか否かで、1年間買い切りへの不安がかなり解消されるはずだ。
32kbpsに限定されている点も、今ひとつ解せない。U-mailに使われている通信カードはCF版がNECインフォーティア製の32kbpsパケット対応カード、PCカード版が本田エレクトロンの128kbpsパケット対応カードである。つまりPCカード版はハードウェア的に128kbpsに対応できるわけだ。
U-mailの価格が安くなっているのは、メール専用にすることでトラフィック量を制限しているため。言い換えればリンク速度とコストは無関係ということだ。安価な32kbpsカードを使っているのなら話は別だが、128kbpsのハードウェアに対してリンク速度を制限する理由がわからない。コストが同じなら、通信にかかる時間が短くなる方が良いのは自明である。
この点について日本通信の担当者は「32kbpsサービスでは、メール送受信の速度に関して不満が出ることは無かった」と話しているが、特にコストや戦略上の理由からリンク速度を制限しているわけではないとのことだ。
さて、いろいろとU-mailに対する疑問を提示したが、最大の疑問はTelnetを利用できないことである(実際に試してみたがポートは塞がれていた)。日本通信がターゲットとしているライトユーザーにとって、Telnetは必要なアプリケーションではないだろう。しかし、ある程度割り切りながら外出先での接続手段が欲しいコンピュータ技術者の中には「Telnetだけでも使えれば」と思っている人がいるに違いない。これが使えればTelnet経由でアクセスできるパソコン通信ホスト(ニフティなど)も利用可能になる。
「あれもこれも許可していたのでは、メール専用サービスという特徴が薄れる」という理由は理解できるが、U-mailがコスト削減のためにトラフィック制御したb-mobileとするならば、Telnetぐらいは許可しても良いのではという気がする。
●MVNO専業の強みを生かした小回りの良さを期待
いろいろと文句を書いたが、提供するサービスに応じて製品のバリエーションを増やしていく日本通信の戦略については評価したい。今回の製品も、大企業からは生まれにくい製品だとは思う。価格をボリュームゾーンに押し下げるために、トラフィック制御の手段としてメール専用にしたのは正解だろう。U-mailの善し悪しについては、未だ判断できずにいるが、アップグレードさえ可能になればU100に二の足を踏んでいたユーザーも買いやすくなるはずだ。
日本通信に期待するのは、モバイル専業のバーチャルネットワークオペレータとして、専業ベンダーならではの小回りの良さだ。U-mailにしてもエンドユーザーとのやりとりを通じて、サービス内容が変化する可能性も期待しているが、それもコンパクトな事業者だからできること。同じことを大通信企業の系列が行なうのは難しい。
たとえば価格はU100と同じまま、企業向けにVPN以外のアクセスが行なえない製品などがあってもいい。社内ネットワークへのアクセス用に社員に配布するモバイル通信カードとしては最適なものになるだろう。U-mailはメール専用サービスだが、同様の手法は他の分野にも応用できることだろう。今後も同社の提案するサービスに注目していきたい。
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【8月22日】日本通信、1年間使い放題のメール専用通信サービス(ケータイ)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/0,,10660,00.html
(2002年8月27日)
[Text by 本田雅一]